7 / 21
07.美貌の伯爵は、欲に溺れる
しおりを挟む
ミモザが嫁ぎ先から逃亡し、アシャール国王都に辿り着いたのは早朝の事。 彼女は直ぐに王城へと向かったが、ミモザの父である王は、ミモザを本城に入れる事を許可することはなく、警備室で待機させた。
ミモザは、夫である隣国の王太子の許しなく城から抜け出しており、嫁ぎ先であるマルベール国からアシャール国に戻っていないか? と、問い合わせがあった。
その内容はこうだ。
『そちらにお戻りになっておられるなら、迎えを寄越しますので、逃げださないように十分な管理を行ってください』
ミモザを、アシャール城に受け入れ保護してしまえば、その無事を隣国マルベール国に報告し、ミモザを送り返さなければならなくなる。
平和で芸術を好むアシャールで生まれた王女が、質素倹約を好む軍事大国マルベールで生活することはどれほどの苦労を強いられるだろうか? 王は娘を思って心が痛まぬ日などなかった。 娘が逃げるほどまで追い詰められているなら、なんとかして救い出したかった。
王はヒッソリと警備室に娘に会いに行き、こう伝える。
「王女としての立場、王太子妃としての立場、名を捨てて一人の女として幸せを求めると言うなら、私はマルベールの王太子にお前の所在を伏せておこうと考えている。 自らの道を決めるといい」
そして、王はマルベール国へと返事を出した。
『未だ、ミモザ王太子妃はアシャール国に戻ってきていません』
と。
ミモザの存在を隠すと決めた王だったが、元来の目立ちたがり屋、アイドル的な立場を思い出したミモザの来訪はかなり派手なものだった訳で、王城で彼女の到来が知れ渡るまで1時間もあれば十分だった。
だが、今のミモザは王の娘としての権限はない。
むしろマルベール国から逃亡してきたという汚名つきだ。
貴族男性はミモザを避ける。
美しい容姿にも拘らず、彼女の傲慢さは男性の嫌悪対象だった。
反して、彼女の美的センスは女性の羨望の的だった。
今の王城には彼女と関わりたい、彼女に価値を見出す者などいなかった。 政治的な厄介ごとは御免だ!! 彼女に振り回されるのは御免だ!! 彼女の無駄なカリスマ性に家族が影響を受けるのは嫌だ。
貴族男性の大半がそう考える。
それは当然、ミモザの幼馴染であったディディエも同様。 いや、幼馴染と言う過去の関係性があるからこそ、他の者達よりも関わりたく等と言う思いが強い。
ディディエは、幼い頃その外見の美しさから王女殿下の学友に選ばれた。 一般的には幼馴染と言うのかもしれないが、実際には愛玩人形と言うのがふさわしい。
ディディエがいくら伯爵令息であり、男性として体格も体力もすぐれていたとしても、王女との間には絶対的な権力的立場があり、逆らう事が出来ない。
例え、正しい注意を行ったとしても、彼女の嘘により
『私は辱められ、心が痛んだ』
と言って泣き濡れられ、ディディエが一族の無事を願えば監禁と折檻が待っていた。
早朝、シシリーの元に赴いたせいで、王城への出仕に送れたディディエは、何の情報を得ることもないまま、ミモザを溺愛する伯母ミストラル公爵夫人に捕まってしまう。
「お話がありますの」
神妙な様子に警戒はしたが、シッカリと腕を掴まれ、周囲は公爵夫人の護衛が囲んでいた。 逆らうこと許されず連れていかれた先にいたミモザを見て嫌悪に鳥肌がたった。 だが、それも瞬間的なこと。 最後にあった時よりもズイブンと痩せ、無邪気に輝いていた瞳からは、活気や傲慢さが消えうせ、うっすらと涙すら見せているのを見れば、哀れで笑ってしまいそうになった。
ミストラル公爵夫人は、いかに嫁いだ先でミモザが不幸であったかを語ったが、ディディエは内心『ざまぁ』と思っていた。
話も佳境、ミストラル公爵夫人はディディエにこう告げた。
「嫁ぎ先で子を亡くし、虐げられて過ごしただけでなく、自国でまでこのような扱いをうけるとは、なんて不憫な子なのでしょう。 とはいえ、私も既に公爵家に嫁いだ身です。 オラール伯爵にしかミモザをお任せすることができません。 頼みましたよ」
ディディエは『はい』と言う事は出来なかった。
ようやく自由を得た。
ずっと好きだった子を妻に迎える準備もできた。
なのに、なぜ誤解を受けるようなことを!!
「私は、近く妻を迎えます。 他の女性に心をさくことなどできる訳ありません」
美しい新緑の瞳に冷たい雨が降ったかのように、ミモザの瞳が悲しみに潤んだ。 今の彼女は頼る者もなく弱り切っている。
ディディエの心が騒めいた。
どん底まで落ちればいいという嗜虐的な思い。
背筋がザワリとした。
そんなディディエの、複雑に揺れ動く心も知らず、公爵夫人はディディエの妻となる女性シシリーをこけ落とした。
「あぁ、あの平民出身の娘ですね……。 アナタほどの男が、なぜあんな貧乏くさい職人女を選びますの」
アナタ達によって、貴族女が嫌いになったからですよ。 等と正直に言えるはずなどない。
「愛しているんです」
深い溜息が公爵夫人からこぼれおち、ミモザが酷く絶望的な顔を見せていた。
ゾクリとした。
自分を虐げていた女が、自分が相手にされないとショックを受ける様子が心地よかった。
「あの子はとても、純粋で、熱心で、素直で、笑顔の可愛らしい方です。 そして愛らしいだけでなく、才能を持ち努力家なんですよ。 あれほど魅力的な女性など何処にるでしょうか?」
「失意のミモザを前になんて酷いことを!! 庶民が大切だからミモザを拒絶すると? なんたる無礼、なんたる不届き者、己の立場をわきまえなさい!! いえ、庶民なのは丁度いいと考えるべきでしょう。 今すぐ別れなさい」
「いやです!!」
「伯母上、私はディディエが庶民の妻を迎え入れたとしても、そんな彼を受け入れて見せますわ」
「まぁ、なんて心が広い……成長したのですね」
ギョッとした。
だが、かつての健康で天真爛漫なミモザの面影はなく、押しの強さ、暴力的なものを彷彿とすることはない。 今の彼女はどこまでも繊細で伏せる瞳は妖艶にすら思える姿なのだ。
男が刺激されディディエは深く息を吐き、誤魔化す。
シシリーが今後が楽しみな未成熟な少女だと言うならば、ミモザは男性のために存在していると言っても過言ではないほどに完成された妖艶さを持ち合わせていた。
そんな彼女が、縋るような視線でディディエを見上げて、涙を流すのだ。
視線を合わせれば、過去の恐怖から身動きがとれなくなるのでは? 言うべき事を言えなくなるのでは? そんな恐怖からずっと視線をそらしてきたのだが……、
「ディ、お願い……私を捨てないで」
甘くネットリとした口調。
妖艶にも儚い涙が瞳から流れている。
明るく傲慢で、なんでも自分の思い通りになる自信は彼女から消えうせていた。 大人になったと言えば聞こえがいいが、頬の膨らみはおち、愛らしい目元は憂いを帯びて、妖艶さをかもしだしていた。
だきついてくる腕の、身体の細さに驚いた。
あの王女も苦労をすれば人柄も変わると言うことなのか? ディディエの心に動揺が走った。 走るとともに復讐心が芽生えた。
どうせ表ざたにできない人間だ。
ミモザを愛人としてかこうというのはどうだ?
歓喜に心がわきたった。
それは、浅はかな考えだったと知るまで時間は多く必要としない。 あが、この時の彼はとにかくミモザに仕返しをしよう。 惨めな思いを味わわせてやろう。 そんな言ばかりを考えていた。
ディディエとミモザと公爵夫人による話し合いの結果、ディディエは一時的と言う約束でミモザを屋敷に引き取る事となった。
「ありがとう」
ミモザの言葉から出る感謝の言葉に、ディディエは唖然とした。 今まで聞いた事の無いお礼の言葉に、これなら愛人として虐げることも可能なのでは? 欲深い思いが抑えられない。
「心が弱り、苦しんでいるミモザのために豪華な夜会を開く必要がありますわ。 華やかな場にでれば、きっと塞いだ心も明るく華やかになれるはずですよ」
「ですが、私、逃げる事に必死で、何も持ち合わせていませんの」
「そう? でも落ち込んでばかりでは病気になるわ」
「伯母上のお気持ちは嬉しいのですが、ドレスどころか普段使いのものを色々と揃える必要もありますし……。 そうだ、ねぇ、ディ、お買い物につきあってくださいませ」
「そうね……直ぐにドレスを準備してやって頂戴」
「今日は約束がありますので……」
「その約束は、日を改めてと言う訳にはいかないのですか? コレから大勢の人とかかわる都合上、恥をかかずに済むようドレスも欲しいの。 ドレスの準備にはとても多くの時間を必要とするのよ。 妻を求められるなら覚えておいた方が良いですわ」
「大切な人との大切な約束なんです。 邪魔、しないでいただけますか?」
「そう、そうですか……そんな大切な方なら余計にご挨拶をしませんとね。 これから私の生活が落ち着くまでディをお借りするわけですからね!!」
以前であれば攻撃的で暴力的であった彼女が、弱弱しく、拗ねたように言えば、うっかりと可愛らしいと思ってしまい。 ミモザを優先するのは、嫌な用事を先に済ませておくだけのことなんだ。 ディディエは自分にそう言い聞かせた。
その後移動の馬車の中。
ミモザは日頃の愚痴を吐いていたかと思うと、突然にミモザは、弱弱しい様子でディディエに縋りつき、甘えた視線を向ける。
「私不安なの……。 今の私は何ももっていない。 どうやって生きて行けばいいのかもわからない。 この身一つしかないの。 アナタに捨てられたら……不安で不安で」
流れる涙をミモザは自分で拭い、そして微笑んだ。
「安心して、私はアナタに迷惑をかけるつもりはありませんから」
ディディエは毅然とした様子で、ミモザを無視して見せた。 視線を背けた。 その声に耳を傾けなかった。 ディディエは甘えを許さないと言う態度をとったつもりでいたのだった。
「私が庶民の娘に教えてやるわ。 権力と地位と言うものを。 貴族に嫁ぐ夫人の立場、振る舞い、心のありようを、絶対的な格差を」
そんなミモザの呟きは、勢いよく回る車輪の音にかき消されていた。
ミモザは、夫である隣国の王太子の許しなく城から抜け出しており、嫁ぎ先であるマルベール国からアシャール国に戻っていないか? と、問い合わせがあった。
その内容はこうだ。
『そちらにお戻りになっておられるなら、迎えを寄越しますので、逃げださないように十分な管理を行ってください』
ミモザを、アシャール城に受け入れ保護してしまえば、その無事を隣国マルベール国に報告し、ミモザを送り返さなければならなくなる。
平和で芸術を好むアシャールで生まれた王女が、質素倹約を好む軍事大国マルベールで生活することはどれほどの苦労を強いられるだろうか? 王は娘を思って心が痛まぬ日などなかった。 娘が逃げるほどまで追い詰められているなら、なんとかして救い出したかった。
王はヒッソリと警備室に娘に会いに行き、こう伝える。
「王女としての立場、王太子妃としての立場、名を捨てて一人の女として幸せを求めると言うなら、私はマルベールの王太子にお前の所在を伏せておこうと考えている。 自らの道を決めるといい」
そして、王はマルベール国へと返事を出した。
『未だ、ミモザ王太子妃はアシャール国に戻ってきていません』
と。
ミモザの存在を隠すと決めた王だったが、元来の目立ちたがり屋、アイドル的な立場を思い出したミモザの来訪はかなり派手なものだった訳で、王城で彼女の到来が知れ渡るまで1時間もあれば十分だった。
だが、今のミモザは王の娘としての権限はない。
むしろマルベール国から逃亡してきたという汚名つきだ。
貴族男性はミモザを避ける。
美しい容姿にも拘らず、彼女の傲慢さは男性の嫌悪対象だった。
反して、彼女の美的センスは女性の羨望の的だった。
今の王城には彼女と関わりたい、彼女に価値を見出す者などいなかった。 政治的な厄介ごとは御免だ!! 彼女に振り回されるのは御免だ!! 彼女の無駄なカリスマ性に家族が影響を受けるのは嫌だ。
貴族男性の大半がそう考える。
それは当然、ミモザの幼馴染であったディディエも同様。 いや、幼馴染と言う過去の関係性があるからこそ、他の者達よりも関わりたく等と言う思いが強い。
ディディエは、幼い頃その外見の美しさから王女殿下の学友に選ばれた。 一般的には幼馴染と言うのかもしれないが、実際には愛玩人形と言うのがふさわしい。
ディディエがいくら伯爵令息であり、男性として体格も体力もすぐれていたとしても、王女との間には絶対的な権力的立場があり、逆らう事が出来ない。
例え、正しい注意を行ったとしても、彼女の嘘により
『私は辱められ、心が痛んだ』
と言って泣き濡れられ、ディディエが一族の無事を願えば監禁と折檻が待っていた。
早朝、シシリーの元に赴いたせいで、王城への出仕に送れたディディエは、何の情報を得ることもないまま、ミモザを溺愛する伯母ミストラル公爵夫人に捕まってしまう。
「お話がありますの」
神妙な様子に警戒はしたが、シッカリと腕を掴まれ、周囲は公爵夫人の護衛が囲んでいた。 逆らうこと許されず連れていかれた先にいたミモザを見て嫌悪に鳥肌がたった。 だが、それも瞬間的なこと。 最後にあった時よりもズイブンと痩せ、無邪気に輝いていた瞳からは、活気や傲慢さが消えうせ、うっすらと涙すら見せているのを見れば、哀れで笑ってしまいそうになった。
ミストラル公爵夫人は、いかに嫁いだ先でミモザが不幸であったかを語ったが、ディディエは内心『ざまぁ』と思っていた。
話も佳境、ミストラル公爵夫人はディディエにこう告げた。
「嫁ぎ先で子を亡くし、虐げられて過ごしただけでなく、自国でまでこのような扱いをうけるとは、なんて不憫な子なのでしょう。 とはいえ、私も既に公爵家に嫁いだ身です。 オラール伯爵にしかミモザをお任せすることができません。 頼みましたよ」
ディディエは『はい』と言う事は出来なかった。
ようやく自由を得た。
ずっと好きだった子を妻に迎える準備もできた。
なのに、なぜ誤解を受けるようなことを!!
「私は、近く妻を迎えます。 他の女性に心をさくことなどできる訳ありません」
美しい新緑の瞳に冷たい雨が降ったかのように、ミモザの瞳が悲しみに潤んだ。 今の彼女は頼る者もなく弱り切っている。
ディディエの心が騒めいた。
どん底まで落ちればいいという嗜虐的な思い。
背筋がザワリとした。
そんなディディエの、複雑に揺れ動く心も知らず、公爵夫人はディディエの妻となる女性シシリーをこけ落とした。
「あぁ、あの平民出身の娘ですね……。 アナタほどの男が、なぜあんな貧乏くさい職人女を選びますの」
アナタ達によって、貴族女が嫌いになったからですよ。 等と正直に言えるはずなどない。
「愛しているんです」
深い溜息が公爵夫人からこぼれおち、ミモザが酷く絶望的な顔を見せていた。
ゾクリとした。
自分を虐げていた女が、自分が相手にされないとショックを受ける様子が心地よかった。
「あの子はとても、純粋で、熱心で、素直で、笑顔の可愛らしい方です。 そして愛らしいだけでなく、才能を持ち努力家なんですよ。 あれほど魅力的な女性など何処にるでしょうか?」
「失意のミモザを前になんて酷いことを!! 庶民が大切だからミモザを拒絶すると? なんたる無礼、なんたる不届き者、己の立場をわきまえなさい!! いえ、庶民なのは丁度いいと考えるべきでしょう。 今すぐ別れなさい」
「いやです!!」
「伯母上、私はディディエが庶民の妻を迎え入れたとしても、そんな彼を受け入れて見せますわ」
「まぁ、なんて心が広い……成長したのですね」
ギョッとした。
だが、かつての健康で天真爛漫なミモザの面影はなく、押しの強さ、暴力的なものを彷彿とすることはない。 今の彼女はどこまでも繊細で伏せる瞳は妖艶にすら思える姿なのだ。
男が刺激されディディエは深く息を吐き、誤魔化す。
シシリーが今後が楽しみな未成熟な少女だと言うならば、ミモザは男性のために存在していると言っても過言ではないほどに完成された妖艶さを持ち合わせていた。
そんな彼女が、縋るような視線でディディエを見上げて、涙を流すのだ。
視線を合わせれば、過去の恐怖から身動きがとれなくなるのでは? 言うべき事を言えなくなるのでは? そんな恐怖からずっと視線をそらしてきたのだが……、
「ディ、お願い……私を捨てないで」
甘くネットリとした口調。
妖艶にも儚い涙が瞳から流れている。
明るく傲慢で、なんでも自分の思い通りになる自信は彼女から消えうせていた。 大人になったと言えば聞こえがいいが、頬の膨らみはおち、愛らしい目元は憂いを帯びて、妖艶さをかもしだしていた。
だきついてくる腕の、身体の細さに驚いた。
あの王女も苦労をすれば人柄も変わると言うことなのか? ディディエの心に動揺が走った。 走るとともに復讐心が芽生えた。
どうせ表ざたにできない人間だ。
ミモザを愛人としてかこうというのはどうだ?
歓喜に心がわきたった。
それは、浅はかな考えだったと知るまで時間は多く必要としない。 あが、この時の彼はとにかくミモザに仕返しをしよう。 惨めな思いを味わわせてやろう。 そんな言ばかりを考えていた。
ディディエとミモザと公爵夫人による話し合いの結果、ディディエは一時的と言う約束でミモザを屋敷に引き取る事となった。
「ありがとう」
ミモザの言葉から出る感謝の言葉に、ディディエは唖然とした。 今まで聞いた事の無いお礼の言葉に、これなら愛人として虐げることも可能なのでは? 欲深い思いが抑えられない。
「心が弱り、苦しんでいるミモザのために豪華な夜会を開く必要がありますわ。 華やかな場にでれば、きっと塞いだ心も明るく華やかになれるはずですよ」
「ですが、私、逃げる事に必死で、何も持ち合わせていませんの」
「そう? でも落ち込んでばかりでは病気になるわ」
「伯母上のお気持ちは嬉しいのですが、ドレスどころか普段使いのものを色々と揃える必要もありますし……。 そうだ、ねぇ、ディ、お買い物につきあってくださいませ」
「そうね……直ぐにドレスを準備してやって頂戴」
「今日は約束がありますので……」
「その約束は、日を改めてと言う訳にはいかないのですか? コレから大勢の人とかかわる都合上、恥をかかずに済むようドレスも欲しいの。 ドレスの準備にはとても多くの時間を必要とするのよ。 妻を求められるなら覚えておいた方が良いですわ」
「大切な人との大切な約束なんです。 邪魔、しないでいただけますか?」
「そう、そうですか……そんな大切な方なら余計にご挨拶をしませんとね。 これから私の生活が落ち着くまでディをお借りするわけですからね!!」
以前であれば攻撃的で暴力的であった彼女が、弱弱しく、拗ねたように言えば、うっかりと可愛らしいと思ってしまい。 ミモザを優先するのは、嫌な用事を先に済ませておくだけのことなんだ。 ディディエは自分にそう言い聞かせた。
その後移動の馬車の中。
ミモザは日頃の愚痴を吐いていたかと思うと、突然にミモザは、弱弱しい様子でディディエに縋りつき、甘えた視線を向ける。
「私不安なの……。 今の私は何ももっていない。 どうやって生きて行けばいいのかもわからない。 この身一つしかないの。 アナタに捨てられたら……不安で不安で」
流れる涙をミモザは自分で拭い、そして微笑んだ。
「安心して、私はアナタに迷惑をかけるつもりはありませんから」
ディディエは毅然とした様子で、ミモザを無視して見せた。 視線を背けた。 その声に耳を傾けなかった。 ディディエは甘えを許さないと言う態度をとったつもりでいたのだった。
「私が庶民の娘に教えてやるわ。 権力と地位と言うものを。 貴族に嫁ぐ夫人の立場、振る舞い、心のありようを、絶対的な格差を」
そんなミモザの呟きは、勢いよく回る車輪の音にかき消されていた。
2
お気に入りに追加
2,447
あなたにおすすめの小説
転生おばさんは有能な侍女
吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした
え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀?
転生おばさんは忙しい
そして、新しい恋の予感……
てへ
豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!
アイドルグループ脱退メンバーは人生をやり直す 〜もう芸能界とは関わらない〜
ちゃろ
BL
ひたすら自分に厳しく練習と経験を積んできた斎川莉音はアイドルグループResonance☆Seven(レゾナンスセブン)のメンバーの1人で、リオンとして活動中。
アイドルとして節目を迎える年に差し掛かる。
だがメンバーたちとの関係はあまり上手くいってなかった。
最初は同じ方向をみんな見ていたはずなのに、年々メンバーとの熱量の差が出てきて、莉音はついに限界を感じる。
メンバーたちに嫌われた自分が消えて上手く回るのなら自分はきっと潮時なのだろう。
莉音は引退を決意。
そして契約更新の年、莉音は契約の更新をしなかった。卒業ライブもせずにそのまま脱退、世間から姿を消した。
しばらくはゆっくりしながら自分のやりたいことを見つけていこうとしていたら色々あって死亡。
死ぬ瞬間、目標に向かって努力して突き進んでも結局何も手に入らなかったな……と莉音は大きな後悔をする。
そして目が覚めたら10歳の自分に戻っていた。
どうせやり直すなら恋愛とか青春とかアイドル時代にできなかった当たり前のことをしてみたい。
グループだって俺が居ない方がきっと順調にいくはず。だから今回は芸能界とは無縁のところで生きていこうと決意。
10歳の年は母親が事務所に履歴書を送る年だった。莉音は全力で阻止。見事に防いで、ごく普通の男子として生きていく。ダンスは好きだから趣味で続けようと思っていたら、同期で親友だった幼馴染みやグループのメンバーたちに次々遭遇し、やたら絡まれる。
あまり関わりたくないと思って無難に流して避けているのに、何故かメンバーたちはグイグイ迫って来るし、幼馴染みは時折キレて豹変するし、嫌われまくっていたやり直し前の時の対応と違いすぎて怖い。
何で距離詰めて来るんだよ……!
ほっといてくれ!!
そんな彼らから逃げる莉音のやり直しの日常。
※アイドル業界、習い事教室などの描写は創作込みのふんわりざっくり設定です。その辺は流して読んで頂けると有り難いです。
今世ではあなたと結婚なんてお断りです!
水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。
正確には、夫とその愛人である私の親友に。
夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。
もう二度とあんな目に遭いたくない。
今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。
あなたの人生なんて知ったことではないけれど、
破滅するまで見守ってさしあげますわ!
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
【完結】生き餌?ネズミ役?冷遇? かまいませんよ?
ユユ
恋愛
ムリムリムリムリ!
公爵令息の婚約者候補!?
ストレスで死んじゃうからムリ!
は?手遅れ?とにかく公爵家に行け?
渋々公爵家に行くと他にも令嬢が。
ちょっと!他にもいるんじゃないの!
え?帰っちゃ駄目?
じゃあ、自由に過ごすか。
強制送還を目指す令嬢は出発の朝に別人の魂が入っていた。
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら
風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」
伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。
男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。
それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。
何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。
そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。
学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに!
これで死なずにすむのでは!?
ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ――
あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる