私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人

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05.ソレは諦めではなく、決意

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 下着とナイトドレスの入った袋を手渡され、私はギョッとした。 ナイトドレスはともかく、下着は私のサイズにぴったり合わせたものなのだから、人様にお渡しすべきものではない。

「何を考えているのですかバラデュール伯爵……」

 戸惑いの視線を返せば、

「余りにも美しい出来ですので、アナタのような子供よりもミモザ様のような大人の女性にこそふさわしいと思ったのですよ」

 私に対する嫌味は、ミモザ様の賛美として最上のものとされた。 そして、バラデュール伯爵は周囲に聞こえないよう小さな声で口の中で呟いて見せる。

「子供がそんな下着などまだ早い」

 子供って!! ムッとしてバラデュール伯爵へと視線を向ければ、ミモザ様に私の作り上げる刺繍とレースの美しさを説き、その集大成が袋にあると伝えた。

「へぇ……それは?」

 ミモザ様は子供のような、好奇心に満ちた視線を袋へと向ければ、そのまま幼い子のように乱暴に私から袋を奪いとっていく。 そして、中を開きおもむろに下着を掴みだし眺めた。

 唖然とした表情。
 そして笑いだす。

「コレは、確かに美しくもエロティックだわ。 確かにとても素晴らしい出来だわ!! ふぅん、貞節なツマラナイ女かと思えば、そう言う一面もあったと言う訳ね。 ふっふふふふ、とても素敵な妻を迎えるようね、周囲には貞淑と見せかけて、夜は淫靡な妻……最高じゃないディディエ」
 
 馬鹿にしているかのような印象だけど、彼女を見ればその表情は歓喜に震えていた。 そして改めて彼女はドレスをながめていた。

 それはいい……。

 ミモザ様の言葉は、もうどうでもいいのだ。
 私の背筋は、ゾワゾワと嫌悪で逆立っていた。

 私の張り切り下着を手に取ったディディエ様は、その下着を撫でながら私をチラチラと眺め、微笑んで見せる……。

 キモチワルイ

 愛したはずなのに、愛情は培われていたはずなのに、今日……彼に抱かれるのだと、恥ずかしくも喜んでいたはずなのに、そんなことは無かったかのように私はディディエ様に嫌悪を感じている。

 ディディエ様が、うっとりとしながら優しい手つきで下着に撫で触れ、指先でくすぐるように触る様子がどこまでも不快で気持ち悪く思えて仕方がなく、凍えたように凍り付いたように私は動けなくなった。

 そんな私を正気に戻したのはミモザ様の声。

「そう、そういう事……アナタのドレスは他に見せたいものがあるからこそ。 ドレスだけで感性するわけではないのね」

 そう言って、流行の最先端である型をしたドレスを着たままでいるミモザ様は、鏡の前に立ち新たなに自分の姿を眺めていた。

「流行の型なのに、なぜか野暮ったくすら感じるスタイルは、幼い印象を他者に与える。 確かに華やかなだけのドレスよりも、周囲に貞淑な新妻の印象を与えるかもしれないわ」

 そんなミモザ様の言葉に、ディディエ様は感心したようにうなずく。

「ミモザ、君のドレスに対する知識の深さには感服するよ」

 そして、私に向って微笑んだ。

「シシリーが着たなら、さぞ愛らしかっただろうね」

 それが、誉め言葉になるとでも思っているのでしょうか? 私は死んだような視線と共に微笑んでいただろう。

 優しかった彼の優しさは、こんなにも的外れだったのでしょうか?
 美しく見えた彼は、こんなにも頼りなかったのでしょうか?

 私は結婚を申し込まれた時、その気はないと思いながらも幸せな花嫁と言う魔法にかかっていたのかもしれません。

 恋愛感情など皆無で、ただ綺麗な人だなくらいに考えていた。 それでも、ディディエ様との関係は、重ねられた日々と共に愛情が生まれ重なり大きくなったと……ほんの少し前まで信じていたのだ。

 愛情とは、カスミのように不確かで儚いものなのですね。

 張り付いた微笑みを浮かべた私にミモザ様が語り掛ける。

「ねぇ、コレには装飾品もあるはずよね? こんなツマラナイドレスで人前に出るなんてフラワーズの称号を得るような人間にはあり得ませんわ」

「さすがミモザ様です」

 私は、刺繍を施された柔らかく大きな布地を1枚取り出した。

「これを、ドレスに飾りつけるように重ね、後はヘアデザイナーの仕事になります」

「へぇ……、なるほど……。 確かにソレでずいぶんと印象は変わるわ。 えぇ、悪くはない」

「いいわ。 アナタのドレス。 全部私がもらってあげる」

 勝手にしろ。

 そんな思いと共に私は微笑んだ。

 どうにでもなれ。

「ところで、シシリー」

「なんでございましょう? ディディエ様?」

「その……彼女は、着の身着のまま逃げてきて、普段着も持ち合わせていないんだが? もう少し気遣いをしてもらえはしないだろうか?」

「では、私が花嫁道具として準備していたものを、まとめておきますから後ほど人をつかわせてくださいませ」

「助かるよ!! 本当に私は君のような献身的な妻を迎える事が出来て幸せだよ。 さぁ、ミモザ、公爵夫人との約束まで時間がない。 急いで向かおうではないか!」

 彼は馬鹿なのだと……私は確信した。

「えぇ……、でも、このドレスは公爵夫人の所に訪れるにはヒラヒラとしていて相応しくありませんわ。 先のドレスに着替えるから、手伝ってもらえるかしら?」

 当たり前のように……彼女は私のとっておきのドレスを普段使いとして求めたが、もうディディエ様との結婚をどう回避するか考え始めていた私には、ドレスに執着するつもりは皆無だった。

 先の身体にフィットしたチューリップタイプのドレスに着替えたミモザ様とディディエ様は、急ぎ店を出ていこうとする。 そんなミモザ様の腰に手を添えた寄り添い歩いているディディエ様は振り返り微笑み一言告げる。

「シシリー、アナタは私の自慢の妻ですよ」

「ありがとうございました」

 私は、上客に向けるお辞儀と共に2人を見送った。
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