【R18】野獣な将軍の婚活を応援していた私が、ずっと愛されていたなんてそんなの知らない

迷い人

文字の大きさ
上 下
3 / 18

03.私の知らない元上司 01(*)

しおりを挟む
 何時の間にか元上司の屋敷に来ていた。

 そう思う程度には、私に何の選択権も与えられなかった。

 私を誘った元上司が、私を軽々と抱き上げて広間を後にしようとすれば、周囲からザワリと声が上がるものの、どこか好意的? いえ、安堵の視線で見送られた。

 元上司の戦闘力を他国に渡すわけにはいかない。

 そう思っていた国からは、元上司が欲しがっているものはないか? 幾度となく打診があった。 それで使用人や合コン相手など、美女をそろえてもらったのだが……いずれも不発。 途方に暮れていたところに元上司の人目をはばからぬアプローチだ。

「アレはどこの娘だ!!」
「両親はきておるのか?!」
「銀色の髪を持つ家系は?」

 薄い髪色の多い国、大抵が銀か金の髪である。

「あのドレスの製作者から、娘をたどってはどうでしょうか?」

 人身御供とするため国が必死になっているのを聞けば、なんだかとても切なかった。

「あのように言われては不満ではありませんか?」

 別に暴れさせようなどと言う気はない。 ただ、この突発的行動は恋愛ではないし、女性を盾にし国が利用しようと考えては面白くない。 なんて思ってもらえればと考えたのだ。

「アナタを手に入れるためなら、アノ程度の言葉気になるはずもありません」

 元上司らしからぬ言葉にゾワリと鳥肌が立った。 自分がいない場所で、女性と対応するときはこんな感じなのか? と思えば、なんとなく切ないものも感じた。

「お伺いしてもよろしいでしょうか?」

「なんですか?」

「そんな、演技がかかった素振りで、女性を誘うのは虚しくありませんか?」

 元上司が、あんな空々しい言葉で、一晩限りの女性に対しているのかと思えば、情けないやら切ないやら……。 せめてもっと、元上司を理解してくれる女性と関係を持ってくれればいいものを、なぜ私がこれほど情けないと思わなければいけないんだ。

「変わった人だ。 強引に連れ去ろうとしているオレを思いやるなんて」

「なっ、別に思いやってなどいません!! ただ、国の英雄と言われる人が、そこまで気遣う必要があるのかと思っただけです」

「そりゃぁ、気遣うさ。
 これから、沢山仲良くなろうと言うんだから。 なっ?」

「……お話、するんですよね?」

「お互い、分かり合おう」

 会話が噛み合わず、眉間を寄せれば。
 くっくくくと楽しそうに笑いだす。

「大丈夫、何の心配もいらない」

 王宮を出る大きな扉をくぐれば、そこには美しい白馬が引く馬車が待っていた。

「走って戻る方が早いんだけど、女性はこういうのが好きなんだっけ?」

「世間一般ではそうですが、この手を離していただけるのが、一番好きかもしれません」

「オレはね、掴んだ獲物を逃がすのは嫌いなんだ」

 思い出すのは戦場での姿だが、自分を見つめる視線はどこまでも優しく見えた。


 屋敷までは、そこらの騎士でも馬車より早くつくのでは? と、思われるほど王宮から近くに存在しており、馬車に乗ったかと思えばすぐに降りることになる。

 元上司は、私を逃がさないとばかりに姫抱っこを辞める気がない。

「さぁ、つきました。
 今晩はユックリ語り合いましょう」

 そう言って私を連れてきた先は……応接室ではなく寝室っていうのはどうなんだ!! という突っ込みを飲み込んだ。

「閣下……私、緊張しているのでしょうか? 喉が渇いて……」

 よし、酔わせて逃げよう。

 そう思ったが、2つばかり問題があった。
 1つ目、元上司が酔っているのを見たことがない。
 2つ目、私は酒が飲めない。

 ダメじゃん!!

「落ち着かないようだね」

 そういったかと思えば、私をそっと抱きしめる。

「大丈夫、乱暴はしないから」

 いや、元上司、アンタの乱暴じゃないでも、何人の人間があの世に旅立ったことか……。 5年も元上司と一緒にいるが、こんなに途方に暮れたのは初めてで、余計なことばかりが脳裏を巡る。

「よしよし……」

 なだめるように背中を撫でたかと思えば、ソファの上に降ろされる。 幾つもの酒が並ぶ棚の中から、元上司が酒を選ぶ。 明らかに本人の好みではないだろう甘めの果実酒が選ばれた。

 元上司は私の横に座り、テーブルの上にグラスを置く。 1つだけというのは、元上司は飲まないのだろうか? それとも瓶ごと飲むのだろうか?

 あぁ、ダメだ。
 そうじゃない……今は、どうやって逃げるかを……。

 グラスの中にカランカランと音をたて氷が落ちる。 元上司は戦闘狂ではあるが、筋肉バカなわけではなく、戦闘を優位にするための魔法は使いこなすことができるのだ。

 グラスに透明な果実酒が注がれる。

「どうぞ」

 グラスを差し出され、受け取ろうとすれば。 その手が引っ込められた。

「どうか、しましたか?」

「これは甘くて女性向けの味だけれどアルコールが強いんですよ。 少しだけ味見を先にしませんか? 酔い過ぎては会話を楽しむこともできませんから」

「え、えぇ……」

 元上司は果実酒を口に含んだかと思えば、抱きしめ唇を塞いできた。

「(だめっ)」

 声を出そうとすれば、その隙を狙い口の中にぬるりと柔らかな舌が差し込まれる。

 独特な甘みのあるアルコールの香りが口内に広がる。
 舌先をユックリと舐められれば、苦みを伴う味が、口の中に少しずつ流し込まれていく。

「んっ、ふぅっ」

 味も香りも十分に分かったが、そこで止められることはなく、むしろ頭が抑えられ口づけが深くなっていく。

「ぁあっ」

 喉の奥で私は泣くように声を漏らす。

 口腔内を蹂躙するように丁寧に舐められれば、上手く息が出来なくてツライ。 息苦しくて肩が動き「んっ、んっ」と、声にならない音を漏らすが、舌の根本、裏側を舐め、絡めとられ。 辞めてくれる様子はない。

 どちらのものとも言えない唾液が混ざり合い、飲み込み切れなかった唾液が唇の端からこぼれれば、ぼんやりとすれば……ようやく唇が離れた。 ペロリとこぼれた唾液をなめとりながら、頭の中がジンジンとしボーとしている状態の私の顔を元上司が覗き込んでくる。

「どうだ? 飲めそうか?」

 それどころではないと文句を言いそうになるが、元上司の顔を見上げればチュと唇に軽く触れるキスがされる。 私は荒い呼吸のまま、上司を睨むように返事を返す。

「どうやら私にはキツイお酒なようですので……申し訳ありませんが、一人で飲んでいただけますか?」

「それは残念だ。 ところで……オレは常々思っていたんだが」

「なんでございましょう」

「女性のドレスとは、なかなか大変そうだなと……いっそ着替えて楽な恰好をしてはどうだろうか?」

「ズイブンと強引ですね?」

「オレはただ……そのような窮屈な恰好では、リラックスして話も出来ないだろうと言っているだけですよ」

「リオネル様はご自身が国の英雄だと言う事、ご理解していらっしゃるのですか?」

「そんな立派なもんじゃないさ。 生き抜くために戦った結果が、英雄ともてはやされているだけ。 誰もが英雄であるオレを求めてばかり、本当のオレを見てくれるものなんて……」

 そういいながらも、肩を抱き抱き寄せた手が髪を撫で、結い上げた銀色の髪を解く。 パラリと落ちる髪を手櫛でユックリと梳き、首筋を耳の付け根を撫でてくる。

「くすぐったいので、辞めてください」

「英雄の誘いは断れないのでは?」

 意地悪そうに笑って見せる。 そこまで言ってしまえば脅しではないだろうか?

 元上司!! 見損ないましたよ!! 声に出して言いたいが……なぜ私は、全力で魔法をぶつけて元上司を罵り、退ける事が出来ないのか? 私が彼の専属魔導師であったクリスだと知れば、彼だってその手を止めるはずなのに。

 さわさわと首筋を撫で、ドレスを器用に脱がせていく。 ダンスの1つも踊れないのに、どこでこんなことを覚えたんですか!

「あぁ、その反抗的な瞳も悪くないが、できるならもっと可愛らしい姿を見ていたいものだ」

 チュッと唇が軽く触れ、唇に塗った紅を舐めれば、元上司は顔をしかめる。

「……変な味」

「なら、もうお辞めください」

「んっ? あぁ違う違う、紅の味がね。 君本来の味はきっと甘くてとても美味しいだろうに、こんなもので不味くなってしまうのはどうなんだろうかねぇ? って、思っただけさ。 さて……」

 抱き上げられれば、果物の皮がツルンとむけるように、ドレスの中から私の身体が持ち上げられた。 いつの間にかドレスも、身体のラインを作るコルセットまで外され……生まれたままの姿にまで剥かれていた。

「きゃぁ」

 叫びそうになれば、唇が塞がれ、まるで喰らうかのように深く深く唇を重ね合っていた。 歯列を舐め、口腔のあらゆる場所をキツク舐められ、舌を絡めキツク吸われれば、微かな痛みと甘い感覚に、元上司にすがりつく。

 ユックリと唇が話されれば、

「落ち着いたか?」

 顔を覗き込んでくる。

「今日出会えたのは運命だ。 諦める気なんてない……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

騎士団長の幼なじみ

入海月子
恋愛
マールは伯爵令嬢。幼なじみの騎士団長のラディアンのことが好き。10歳上の彼はマールのことをかわいがってはくれるけど、異性とは考えてないようで、マールはいつまでも子ども扱い。 あれこれ誘惑してみるものの、笑ってかわされる。 ある日、マールに縁談が来て……。 歳の差、体格差、身分差を書いてみたかったのです。王道のつもりです。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

処理中です...