上 下
80 / 80
3章 罪、罰、お仕置き、そして恩賞

80.完結

しおりを挟む
 ゼノンは選択する余地なく庶民に降下し、そうなれば彼に付き従うと言っていた者達の殆どがいなくなっていたそうだ。

 そんなゼノンは、私が箱庭に戻る少し前に私に会いに来ていた。

『国を出てセシルが何かを得たなら、俺だって……なぁ……帰って来た時、もしセシルに飽きてたら、俺と一緒に旅に出ないか? アンタがソレを望むなら、俺はアンタを連れて逃げるからさ』

 なんて私に言って国を出た。

 その後、何年も国に戻りもせず、便りもなく、行方も知れず……どこかで妻を持ち幸せに暮らしているか? どこかで野垂れ死んでいるか? はたまた、その武勇を持って英雄に返り咲いているかと、様々な憶測がされる事となる。

「セシルは噂とか知らないの?」

 なんて聞いた事があるのだけれど、

「きっと、苦労から解放されて幸福を享受しておりますよ」

 という返事だった。
 その時の笑顔が、ちょっと、アレで……。

 気にしたら負けだ。





 さて、話しは少し戻り。 ゼノンの話が割とノンキな感じで語られるようになったのは、セシルのせいだと私は思っていたりする。

 何しろ10年に渡ってセシルが築き上げたグループ企業、財産、母親がセシルに残した人材を除き、全てが王家の所有となされた。

 とは言え、ソレは決して罰ではない。
 むしろ、堕落した王族達への罰?

 最初の忠誠の誓いには苦労したものの、後は悠々自適とばかりに過ごしていたまだまだ働き盛りの王族が結構いたりするわけで、そんな人達が総動員され、元赤銅グループの運営にてんやわんや状態である。

 第三王子に至っては

「なぜ? どうして?! 忠誠の誓いを達成すれば、仕事をしていなくても許されると兄上は言っていませんでしたか!!」

「ごめんねぇ~。 うち、ただ飯食わせる程裕福じゃないからさぁ~」

 国王陛下としての言葉としてはどうなのだろうか?

 まぁ、とにかく王族は今まで暇を享受していた分、追い込まれていた。



 そして、ソレ等を押し付けたセシルと言えば、箱庭のルールを捻じ曲げ、

 ・監察者であれば出入り自由
 ・監察者と同伴であれば、模範虜囚は外出可能
 ・箱庭の機密を保持できるなら、婚姻を許す
 ・機密保持の契約が破られた場合、その情報を所有した者全てを殺害する

 等のルールを箱庭に付け加え、サーシャと共に引きこもり生活を享受していた。 彼が赤銅の一族と定めた者達には、十分な恩賞金を与え自由を満喫するように伝えてある。

 実際には、セシルが帰るべき屋敷を守り、彼の生活を守るために常に情報収集に駆け回っている。 そんな風にするから外に出る時、セシルはサーシャを伴い、自分を待っている彼等の元に帰ってしまう。 それは、セシルとサーシャが出会った頃より、より穏やかで優しい日々と言えるだろう。



 ルール変更のおかげで、神官騎士の何名かが虜囚である者と婚姻を交わし、合同結婚式が行われた。

 ご馳走は、外では味わう事が許されない贅沢料理の数々が並び、国王陛下とその妃が積極的に給仕を務めている……。

 そしてぞろぞろと現れる老人方。

「長老達が全員そろって祝福に来られるとは思ってもいませんでしたよ。 まさか……ソロソロあの世からのお迎えが……。 お体大事にしてくださいね」

 ニッコリと出迎えるセシルに長老達はブイブイと文句を言う。 王族の大仕事は彼等の日常にも影響を与えたのだから文句を言われても仕方がない。

「オマエは、もう少し遠慮と言うものを思い出せ」
「そうじゃ、流石にコツコツ積み上げてきたものを全て放り出すばかりか、各国に離縁状を送る等と脅すとは、無責任にもほどがあるわ」

 矢継ぎ早に文句を言われセシルは言う。

「私が仕切っていては、世界の進化が早くなりすぎてしまうでしょう?」

「オマエは、自己の過大評価もほどほどにせい!!」
「可愛げのない奴め、サーちゃんに怒られちまえ」
「分かっていれば、王位交代等に協力しなかったものを」
「とっとと現場に戻ってこい」

 巻き込まれたついでに私は長老達とセシルの間に割って入った。

「でも、お爺様? 流石に先王の密輸は無視できませんよ? コッチが一生懸命燃料問題を考えているのに、湯水のごとく運ばれていたんですから」

「まぁ、それもそうじゃが……して、燃料問題の方はどうじゃ?」

「燃料を入れる窯、暖炉自体に、燃焼持続の術式を組み込む方法ですが……」

火を燃やす際に自然消費される魔力量と、術式の魔力消費量の差異を計測中。 同時に調整を行った術式を複数開発しており、ソレの継続実験も行っている事を伝えた。 当然、1人では無理なので各専門家の協力を得た共同開発である。

「ほらほら、仕事の話はそこまでにしましょう。 折角の祝いの席だもの」

 花嫁衣裳を作ったオリィさんが、私を急かした。

「ねぇねぇ、サーちゃんは外に出れるのよね? 私の好みの男性がいたら、ツバつけておいてくれないかしら? ぁ、あはははっはあはっはは、冗談、冗談だってばぁ~~」

 気づけば背後にセシルが立っていた。

「まったく油断も隙もありませんね。 アナタはお仕置きが大好きなんだから」

 耳元に囁かれて、私は無言で怒る訳だ。



 色々未熟な世界だけど。
 私は、それなりに快適な日々を送っています。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【R18】悪役令嬢を犯して罪を償わせ性奴隷にしたが、それは冤罪でヒロインが黒幕なので犯して改心させることにした。

白濁壺
恋愛
悪役令嬢であるベラロルカの数々の悪行の罪を償わせようとロミリオは単身公爵家にむかう。警備の目を潜り抜け、寝室に入ったロミリオはベラロルカを犯すが……。

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

国王陛下は悪役令嬢の子宮で溺れる

一ノ瀬 彩音
恋愛
「俺様」なイケメン国王陛下。彼は自分の婚約者である悪役令嬢・エリザベッタを愛していた。 そんな時、謎の男から『エリザベッタを妊娠させる薬』を受け取る。 それを使って彼女を孕ませる事に成功したのだが──まさかの展開!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

悪役令嬢の許嫁は絶倫国王陛下だった!? ~婚約破棄から始まる溺愛生活~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢の許嫁は絶倫国王陛下だった!? 婚約者として毎晩求められているも、ある日 突然婚約破棄されてしまう。そんな時に現れたのが絶倫な国王陛下で……。 そんな中、ヒロインの私は国王陛下に溺愛されて求婚されてしまい。 ※この作品はフィクションであり実在の人物団体事件等とは無関係でして R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年はご遠慮下さい。

未亡人メイド、ショタ公爵令息の筆下ろしに選ばれる。ただの性処理係かと思ったら、彼から結婚しようと告白されました。【完結】

高橋冬夏
恋愛
騎士だった夫を魔物討伐の傷が元で失ったエレン。そんな悲しみの中にある彼女に夫との思い出の詰まった家を火事で無くすという更なる悲劇が襲う。 全てを失ったエレンは娼婦になる覚悟で娼館を訪れようとしたときに夫の雇い主と出会い、だたのメイドとしてではなく、幼い子息の筆下ろしを頼まれてしまう。 断ることも出来たが覚悟を決め、子息の性処理を兼ねたメイドとして働き始めるのだった。

処理中です...