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2章 青年期

42.依存という空虚は埋め難く 01

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 ケントからの手紙に書かれた内容に動揺した。

 何時もの流れで書かれている長い謝罪と求愛の文面に読むのを辞めようかとすら思ったけれど、神官騎士の視線がそれを許してはくれなかった。

 仕方がない。

 そう思って読み進めたさ先に書かれていたものは、まるで独り言のようにポツリと書かれたセシル殿下の事。 決して長くはない文章に私は強い動揺を覚えた。

「サーシャ様? どうかなさったのですか?」

「いえ……そう、そうね。 貴方達ケントの事知ってる?」

「はい、存じておりますよ。 とても綺麗な方です」

 微妙な口ぶりに首を傾げれば、

「あら、遠慮なく真実を教えてよ。 その方が親切というものだわ」

「あ~~、余り良い噂ではありませんよ。 ゼノン殿下の愛人カロリーネ様に忠誠を誓い、騎士として力が足りないにも関わらず、ゼノン殿下に取り立てられているのは、その……お二人が良い関係なのではと」

 思わず吹いた。

「あははははっは、ありがとう。 面白い話が聞けて楽しかったわ」

 涙を流すほど笑った私は、神殿騎士に礼を述べた。 どうやら、世間ではケントと私の婚約の話は、語られる事の無い程の過去なのだと分かった。 それだけで、十分だった。

 良し無視をしよう。
 最初の1通目はそう思えた。

 2通目、3通目、4通目、5通目。
 手紙は重なり、セシル様は会いには来てくれない。

 やがて、私の中で手紙の方が事実となりはじめ、手紙の内容に動揺を覚えるようになっていた。 手紙を届けた神殿騎士に恰好悪い姿を見せたくはなく、静かに手紙をたたんで仕舞いこむ日々は続き、箱庭内では私と神官騎士の中が噂されるようになり……仲良くしていたお姉様たちとの関係がぎくしゃくしはじめていた。



 憂鬱だ……。

「お嬢様、最近、神官騎士と仲が良いと聞いていますがどういう関係なのですか?」

「……そうね……忠犬かしら?」

「人間相手にソレはないわ~~」

 そう言いながらも、アルマは笑っていた。

「神官騎士ってそう言う感じでしょ? 友達にもなれないし」

「それは、まぁ……。 でも、他のお嬢様方に誤解を与えていますよね? 何とかなさった方が良いのではございませんか?」

「そうね……神官騎士を招いた合コンでも開けばいいのかしら?」

「合コン?」

「えっと……、お酒もOKのお茶会?」

「それは、お茶会ではありませんわ」

 手紙のせいで、私の立場が微妙だから騎士達に機嫌をとるように言って頂けないだろうか? と、ゼノン殿下への返事に混ぜ込めば、申し訳ないと言う謝罪の言葉と共に、任せておけと言う一文が記された。

 まぁ、ギクシャクは、神官騎士のホストもビックリな合コンテク1つで一転するわけで、私の人生は何かと綱渡りだけど、たぶんきっと上手くやれているよね。

 こんな手紙を交し合ううちに……、なんとなく、なんとなく、ゼノン殿下に対する警戒心は薄れていくのだった。



「久しぶりだね」

 およそ2カ月ぶりに顔を合わせた監察者であるセシル殿下は、静かに微笑みを向けた。

「ご健勝そうで何よりです」

 食事の手を止め、席を立ち静かに礼をして見せる。

「他人行儀ですね」

「最近、オリさんに礼儀作法を学んでますの」

「そうなんですか」

「お食事は?」

「頂ければ嬉しい」

 私はアルマに視線を向けようとすれば、既に食事は準備されていた。 私が知らないだけで、アルマは殿下の来訪を知っていたらしい。

「最近は、どのように過ごしていました?」

「お姉様たちに良くして頂いてますわ。 最近は、栄養食の研究をしていますの。 来月には報告が殿下の手元に届くと思いますわ」

「名前……名前を読んでは……」

 ドンドンと扉を叩く音が聞こえ、私達は扉を見た。

「セシル様、ルンダール公爵令嬢から緊急にご連絡したいお話があるとの事です」

「それは、久々の休暇を邪魔される程の用事なのですか?」

 ルンダール公爵令嬢と言う名を聞いた私は不思議な感情を覚え、それが身勝手なものだと自覚していて、私は感情を抑えることに必死で、セシル殿下の口調は表情に気づく事は無かった。

「サーシャ、悪いけど」

「大丈夫です」

「今は、色々と立て込んでいて忙しいのですが、これが終われば時間が取れるようになりますから」

 頬に伸ばそうとする手に気づかない振りをして、私はセシル殿下の上着に手を伸ばし背後に回った。

「怒って、いるのですか?」

「いいえ……お体に気を付けてくださいね」

 私は微笑んで見せた。

 私達の関係は仕事上の関係なのだから。

 言葉にするのが怖かった。
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