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1章 幼少期

11.婚約破棄への決意

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 今も自分の方が大人だから……そんな思いが無い訳ではない。

 幼い体に入っている知識と記憶は、やっぱり大人だから。 今の年齢も加えれば、ケントの倍以上は生きているのだから……。

 子供を利用している。
 そんな、負い目があった。

 それでも……

 いえ、だからこそ愛してくれるなら、全身全霊をもって愛し返そうと思った。 他に愛する人ができたなら、婚約破棄でもいいし、愛人を持ってもいいと思っていた。

 だけど、目の前で堂々と行為が繰り広げられるなんて思わなかった。 肉を打つ音が気持ち悪かった。 ヌメリのある水音も、愛欲に零れる声も、何もかもが不愉快で気持ち悪かった。

 好きではない。
 愛情はない。
 政略的な婚約。

 だけど、

 目の前の行為だけは許せなかった。
 勝ち誇った姫君の視線が不快だった。
 愛欲に溺れる音が気持ち悪かった。
 サーシャを侮辱する発言に腹が立った。

 キモチワルイ。

 池の側で、顔色悪く嗚咽と共に胃液を吐く。

「大丈夫ですか?」

 突然に声をかけられ、驚き振り返ればそのまま池に落ちそうになり、声をかけた人物が慌てた様子でサーシャを抱き寄せて落下を防いでくれた。

「ぁ、ありがとう、ございます」

「いえ、驚かせてしまいましたね。 すみません」

 そう言ったセシル殿下は、ひしっと抱きしめていた手の力を緩め、私の顔を覗き込んだ。

「大丈夫……には、見えませんね」

 苦笑交じりにセシル殿下が言えば、そのまま彼は私を姫抱っこして歩きだす。

「えっ、あ、その、歩けます」

 部屋に戻りますとは流石に言えなかった。 そして、あそこまでされてしまえば、あそこまで言われてしまえば、今日の出来事を隠す気に等なれなかった。

「いえ、お願いします。 心配なので運ばせてください。 それで、余裕があれば、何があったか教えてください」

「でも……」

「酷い顔色です。 そんな貴方を放っておけるとお思いですか?」

「……」

「放っておけるはずありません。 貴方は私にとって大切な人なのですから」

 ポツリポツリと話せば、セシル殿下は黙り込んだ。

「なんと言っていいのか……」

 そう言いながらも、部屋に戻れば、少年……第四王子セシル・ルンドの護衛騎士達は捜索のための地区を定めている最中であり、セシルは自身が最も信頼できる騎士に、サーシャの部屋で起こっている事、その発言を漏らさず報告するようにと告げ、セシル王子自身はサーシャの口をゆすがせ、甘い果実で喉を潤わせるようにと果実を勧めた。

「もうケインとは、婚約を続ける必要はありませんよね?」

 サーシャは頷き、言葉を絞り出すように続けた。

「はい、元々は……王族の方との繋ぎを作るために、求めた爵位に過ぎません……」

「婚約破棄をしてはどうだい?」

 セシル殿下は、目元も声も甘く優しくサーシャを促す。

「……そのつもりです……。 きっとその方が2人も幸福なのでしょう。 ですが……」

 婚約破棄は一度断られていた。

 与えたものを返して貰おうと言う気はない。
 目的は十分に達成させてもらえたから。
ケントの兄弟の出世に関しては、実力次第。
次期当主の結婚も本人次第だろう。

 金銭に関しては対価として渡したとすればいい。

 だけど、この状況で、今後も引き続き恩恵を享受させようと言う気にはならない。 利用されると言うのは迷惑でしかない。 周囲が何と言おうと婚約破棄をしなければ……。

 そう考えている私の目の前でセシル殿下は笑っていた。

「やっぱり、サーシャはまだ貴族や王族を理解していないようだね」

 何を言われているのか分からず、私は拗ねた振りをして見せる。

「言いたい事があるならば、ハッキリと言ってくださいませ」

「いいえ……私は、貴方に必要とされたいのですよ」

 そうニコニコと微笑みだせば、サーシャは肩を竦めて会話自体を諦めた。 セシルは大抵の事をサーシャに譲ってくれるが、こういう割とどうでも良く思えるような事に対しては、頑として譲ってくれないのだ。

 婚約を破棄しよう。
 交渉の席に各国王族を引っ張りだせた。
 これで十分だ……。

 婚約を破棄しよう。
 国に戻ったら、そのように話し合おう。

 これは決めた事。
 だから、もう今は仕事に集中しよう。
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