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2章 7年後
17.毒に溺れる
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フェリクスは、無暗に人を殺さない。 王が決断すれば、また弟である皇子達が望めば、自分自身が王や皇子の剣であることを宣言し人を殺す。 断罪を実行する。 隠密を必要とされた場合であっても、命令者を明確に記した何かを残す。
結果として、その殺しは王のものとなり皇子達のものとなる。 そんな状況であれば、王も皇子もフェリクスに殺されるのでは? と不安になるものだろうが、彼等は不安を感じなかった。
なぜなら、フェリクスが従順であったから。
配下までフェリクスの従順に従う訳ではなかったが、フェリクスはどこまでも従順であった。 王と皇子は彼の従順がどこまでかを、楽しみ遊ぶことすらあった。
配下の者達を前にフェリクスを鞭打たせた事もあれば、熱した鋼を押し当てた事もある。 時に、人前で女を抱かせ、男に抱かれる事すら強制し、いつの間にか『この狂犬は王家に従順なる獣だ』と、披露することが楽しみとすらなってきていた。
命令を実行するごとに、惨めさが増していく。
フェリクスはその毒を楽しみ、浸かり、笑う。
人がソレをどう思うのか?
人の感情を、フェリクスは楽しんでいた。
それでもシェリルが好んだ顔だけは、傷つかぬよう守っていることを、誰も本人すら気付いていない。
1人の青年が呻いていた。
茶色のストレート髪に、グレーがかった緑の瞳。 顔立ちは美形に属するのだろうが、トレードマークであるかのように、何時もしかめ面をし、陰鬱な深い溜息をついている。
不幸を背負ったような呻きを零している彼の名は『ランメルト・フラート』と言う。
フラート伯爵の甥っ子。 それも5男。 子を残す役目を期待される事もなく、気を利かせた見合い話も無い。 陛下と王妃の機嫌をいっぺんに取ろうとしたフラート伯爵によって、フェリクスの学友として提供された不幸な青年である。
フェリクスと共に断罪騎士団に所属はしているが、ただフェリクスと共にあるだけで、力を極めようと言う思いも無く、人を殺したことも無い。
「お前のような陰気な男がいたら、不幸になる」
「不幸大好きな、アナタに言われたくない!!」
「丁度いい、護衛をな、要求してきた。 誰かだせと」
「はぁ?」
「先の内乱で、王国騎士団は無能と言われ、風よけにもならん。 出動すれば、襲われ、装備がはぎ取られ、馬が奪われる。 だが、俺の旗を余所者に預ける気にもならんからな。 旗を持って護衛につけ」
反乱から3年。 騎士達の無能が噂として広まると共に、税や労働を拒否されだした。 今はもう国とは言えない国になりかけている。 次の秋には他国との間に問題も生まれ、国は潰れるだろう。 フェリクスはそう考え、ランメルトを逃がそうとしたのであり、ランメルトもまたソレに気づいていた。
「ちょ、襲われたらどうしてくれるんですか!」
ランメルトはフザケタ様子で拒絶する。 良いか悪いか分からないが、今自分が唯一フェリクスの枷となっていることに気付いているから。 だけど、これ以上共にいれば……主を嫌悪しそうになるのも怖かった。
「安心しろ。 うちの旗は布切れとは言え騎士100人にも負けんからな」
まぁ、そんな感じでランメルト・フラートはバウスコール王国を追い出され、魔術研究者の護衛としてセーデルバリ国へと向かう事になった。
「胃が痛い……」
人1人殺したこともない自分に怯える魔術研究者の視線も痛いが、味方のいない王国内でフェリクスが1人孤独に酔いしれているかと思えば、戻った時にどう変わっているかが怖かった。 戻れるのか怖かった。
ランメルトが護衛をする魔術研究者達は、ただ、魔術研究が盛んなセーデルバリ国へと赴く訳ではなく1つの使命が与えられていた。
バウスコール王国国王には、王位継承者が5名いる。
2人は、国王の弟でフェリクスより5歳年上と2歳年上。
2人は、フェリクスより数か月後に、王妃から生まれた双子の男児。
1人は、フェリクスより2歳年下の、やはり王妃から生まれた男児。
年が近い5人だが、5人とも正妃、側妃合わせて5人ずつ迎えている。 女性好きだから……という理由ではなく、子が生まれなかったために、1人、また1人と側妃が増えていったのだ。
そういう偶然もあるかもしれないが、流石に王位継承者5名に加えフェリクス他、王族の血筋を持つ近縁者13名に子が出来ないとなれば、何か理由があるだろう。 生まれついての身体的な欠損と言うには、18名全員と言うのがあり得ない。 フェリクスの件があるから薬には十分に気をつけられていた。 大病の有無には左右されていない。
そして残る可能性として挙げられたのが、王家を滅ぼすための呪いだった。
結果として、その殺しは王のものとなり皇子達のものとなる。 そんな状況であれば、王も皇子もフェリクスに殺されるのでは? と不安になるものだろうが、彼等は不安を感じなかった。
なぜなら、フェリクスが従順であったから。
配下までフェリクスの従順に従う訳ではなかったが、フェリクスはどこまでも従順であった。 王と皇子は彼の従順がどこまでかを、楽しみ遊ぶことすらあった。
配下の者達を前にフェリクスを鞭打たせた事もあれば、熱した鋼を押し当てた事もある。 時に、人前で女を抱かせ、男に抱かれる事すら強制し、いつの間にか『この狂犬は王家に従順なる獣だ』と、披露することが楽しみとすらなってきていた。
命令を実行するごとに、惨めさが増していく。
フェリクスはその毒を楽しみ、浸かり、笑う。
人がソレをどう思うのか?
人の感情を、フェリクスは楽しんでいた。
それでもシェリルが好んだ顔だけは、傷つかぬよう守っていることを、誰も本人すら気付いていない。
1人の青年が呻いていた。
茶色のストレート髪に、グレーがかった緑の瞳。 顔立ちは美形に属するのだろうが、トレードマークであるかのように、何時もしかめ面をし、陰鬱な深い溜息をついている。
不幸を背負ったような呻きを零している彼の名は『ランメルト・フラート』と言う。
フラート伯爵の甥っ子。 それも5男。 子を残す役目を期待される事もなく、気を利かせた見合い話も無い。 陛下と王妃の機嫌をいっぺんに取ろうとしたフラート伯爵によって、フェリクスの学友として提供された不幸な青年である。
フェリクスと共に断罪騎士団に所属はしているが、ただフェリクスと共にあるだけで、力を極めようと言う思いも無く、人を殺したことも無い。
「お前のような陰気な男がいたら、不幸になる」
「不幸大好きな、アナタに言われたくない!!」
「丁度いい、護衛をな、要求してきた。 誰かだせと」
「はぁ?」
「先の内乱で、王国騎士団は無能と言われ、風よけにもならん。 出動すれば、襲われ、装備がはぎ取られ、馬が奪われる。 だが、俺の旗を余所者に預ける気にもならんからな。 旗を持って護衛につけ」
反乱から3年。 騎士達の無能が噂として広まると共に、税や労働を拒否されだした。 今はもう国とは言えない国になりかけている。 次の秋には他国との間に問題も生まれ、国は潰れるだろう。 フェリクスはそう考え、ランメルトを逃がそうとしたのであり、ランメルトもまたソレに気づいていた。
「ちょ、襲われたらどうしてくれるんですか!」
ランメルトはフザケタ様子で拒絶する。 良いか悪いか分からないが、今自分が唯一フェリクスの枷となっていることに気付いているから。 だけど、これ以上共にいれば……主を嫌悪しそうになるのも怖かった。
「安心しろ。 うちの旗は布切れとは言え騎士100人にも負けんからな」
まぁ、そんな感じでランメルト・フラートはバウスコール王国を追い出され、魔術研究者の護衛としてセーデルバリ国へと向かう事になった。
「胃が痛い……」
人1人殺したこともない自分に怯える魔術研究者の視線も痛いが、味方のいない王国内でフェリクスが1人孤独に酔いしれているかと思えば、戻った時にどう変わっているかが怖かった。 戻れるのか怖かった。
ランメルトが護衛をする魔術研究者達は、ただ、魔術研究が盛んなセーデルバリ国へと赴く訳ではなく1つの使命が与えられていた。
バウスコール王国国王には、王位継承者が5名いる。
2人は、国王の弟でフェリクスより5歳年上と2歳年上。
2人は、フェリクスより数か月後に、王妃から生まれた双子の男児。
1人は、フェリクスより2歳年下の、やはり王妃から生まれた男児。
年が近い5人だが、5人とも正妃、側妃合わせて5人ずつ迎えている。 女性好きだから……という理由ではなく、子が生まれなかったために、1人、また1人と側妃が増えていったのだ。
そういう偶然もあるかもしれないが、流石に王位継承者5名に加えフェリクス他、王族の血筋を持つ近縁者13名に子が出来ないとなれば、何か理由があるだろう。 生まれついての身体的な欠損と言うには、18名全員と言うのがあり得ない。 フェリクスの件があるから薬には十分に気をつけられていた。 大病の有無には左右されていない。
そして残る可能性として挙げられたのが、王家を滅ぼすための呪いだった。
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