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33.二面性
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ラースは、危険を伝える意図を持って叫んだ。
「シアに近づくな!!」
殺気を孕んだ声に、一般市民は驚いたようにラースへと視線を向け、アズとセリアはシアを守るように、シアを間に入れて背中合わせに周囲に警戒を向けた。
敵である存在は、分かりやすかった。 大勢の者がラースへと視線を向けている中、獲物であるシアだけを見ていたから。 そして、膝を曲げ肩幅を隠すような恰好に、ストールを被っているとは言え……視線さえ合ってしまえば、意識さえ向けてしまえば、外見も匂いも男のものだった。
1秒もあれば、ラースはシアに最も近い男に手が届いた。 そして掴みかかり……手に取り人混みの外へと放り投げ、もう一度叫ぶ。
「散ってくれ!! 邪魔だ!!」
ラースの大声に、女性達はシアの側から走り去ろうとした。 ソレに紛れ込むように戦士達は逃げはじめる。 膝を曲げた不格好な走りであっても、興奮し混乱した女達に遅れたりしない……そう思っていた。
が……女達のとった行動は誰もが予想していたものと違った。 獣の因子が少ないとはいえ、ギルモアの民は獣だ。 獣の勇敢さと団結力を持っている。
「武器よ!!」
「武器になるものを寄越しなさい!!」
木の棒が投げられる。
包丁が投げられる。
箒が投げられる。
椅子が投げ込まれた。
武器を取った女性達は戦おうとした。
「姫様を守れ!!」
「私達の町を守るのよ!!」
怒りに満ちた女達に追われ戦士達は、驚き、走り逃げだし始めた。 なんとなく……母親を彷彿としたから余計に。 そして、逃げる戦士達のその背に向かって石が投げられる。
ラースは叫ぶ。
「ヴィズ、セグ、2人はシアとアズを守れ。 セリアは馬車から馬を外して王城に救援を求めろ!!」
バラバラで逃げ出す年若い戦士達の中で、最も強い匂いをする者を狙ってラースは追う。見逃さないギリギリの距離を取りながら、やがてラースが狙っていた男を中心に幾人もの戦士が集まってくる。
丁度いいとラースはほくそ笑む。
隠れ家を探すのにちょうどいい……そう思っては居たが、辿り着いた先は国が出来る以前、定期的に彼等が居住していた場所だった。 懐かしいと言うには……家と呼ぶにもお粗末な残骸は青々と伸びる木々に壊され、草がシアを隠すほどの背丈まで伸びている。
5歳から13歳の間……点々と移動していた拠点の1つでしかない……それでも郷愁がわいた……。 彼等の気持ちは、理解できない訳じゃない……。
「だが、俺のシアを狙った事は許されん」
ラースは無意識で笑っていた。
久々の人型での戦いだと。
セグ(13)と、セリア(17)が所属している諜報部隊は、身体的に未完成とされる幼い子が多い。 人獣族は幼少期の成長は極端に早く、5歳から成長が遅くなる……気持ちに追いつかない成長に、結果に、気が逸る子は多い……。
戦争逃亡者。
栄誉の機会を捨てた者達。
王家に対する反逆。
保守的なかび臭い連中。
身の程知らずの化石達。
俺が、俺達が制裁を加えてやる。
ここで、力を見せつけるんだ!!
成果を!!
セグやセリアと違い、未だ戦場に出た事もない者達。 そんな者達を連れて行くことにセリアは不安を感じたが、途中で出会った王様が彼等で十分だと笑いながら言った。
鼻の利く諜報の男にだけ分かる匂いを彼等は辿っていく。
やがて男は、ヘラリと笑った。
血の匂いに興奮を覚えた。
獣の本能が高まっていく。
早く、早く、早く、早く……。
男の走りはどんどん速度を増していた。
だが……彼等が見たのは、ラースの笑みだった。
「あぁ、遅かったな……」
ラースの眼下には、十数体の死体が倒れていた。
だが、ラースは返り血一滴浴びる事なくたたずみ微笑む。
「一応3人生かしてある。 生きている奴は城に運んでくれ。 死んでいるのは、そうだなぁ樽を準備するといい。 首が入る大きさの奴。 落とした首を樽にしまい腐らないように塩漬けにし奴等の実家に贈ってくれ。 出来るか? 無理なら……無理でいい、俺がやろう」
冷ややかな見下しがそこにあった。
むせるような血の匂いに、若い戦士候補は酔っていた。
強さに対する畏怖と憧れに薄く笑っていた。
「か、身体はどうします?」
一人の少年が聞けば、ラースは少し考え愛おしい人を思い浮かべながら微笑み伝える。
「シアの目に届かないような場所に捨ててこい。 悲しむのは見たくない……できるか?」
「で、きます」
「助かる」
ラースは短くいい、大切な人の元へと戻るために走り出す。 そしてラースが戻った先ではドロテアが見ていた事が伝えられた。
ただ、向こうの戦力が分からない以上は、シアを放置し追う事が出来なかったと。
その会話は、シアには聞こえない馬車の外で行われた。
「勘違いしているならソレでいい。 ドロテアはランディが居なければ無力に近い。 彼女はランディを手に入れるために訪れる」
顔をしかめるヴィズ。
そして、ウットリ微笑むセグ。
「……兄さん……血の匂いがプンプンするよ」
セグはラースの服を掴み引き寄せ、背の高いラースを見上げ高揚した様を隠す事無く微笑んでいた。
「落ち着け、そんな顔をしていては何があったかと心配させる」
「良く言うよ」
ヴィズはそんな弟2人に顔をしかめて命じた。
「2人とも馬車に乗れ、帰るぞ!!」
「シアに近づくな!!」
殺気を孕んだ声に、一般市民は驚いたようにラースへと視線を向け、アズとセリアはシアを守るように、シアを間に入れて背中合わせに周囲に警戒を向けた。
敵である存在は、分かりやすかった。 大勢の者がラースへと視線を向けている中、獲物であるシアだけを見ていたから。 そして、膝を曲げ肩幅を隠すような恰好に、ストールを被っているとは言え……視線さえ合ってしまえば、意識さえ向けてしまえば、外見も匂いも男のものだった。
1秒もあれば、ラースはシアに最も近い男に手が届いた。 そして掴みかかり……手に取り人混みの外へと放り投げ、もう一度叫ぶ。
「散ってくれ!! 邪魔だ!!」
ラースの大声に、女性達はシアの側から走り去ろうとした。 ソレに紛れ込むように戦士達は逃げはじめる。 膝を曲げた不格好な走りであっても、興奮し混乱した女達に遅れたりしない……そう思っていた。
が……女達のとった行動は誰もが予想していたものと違った。 獣の因子が少ないとはいえ、ギルモアの民は獣だ。 獣の勇敢さと団結力を持っている。
「武器よ!!」
「武器になるものを寄越しなさい!!」
木の棒が投げられる。
包丁が投げられる。
箒が投げられる。
椅子が投げ込まれた。
武器を取った女性達は戦おうとした。
「姫様を守れ!!」
「私達の町を守るのよ!!」
怒りに満ちた女達に追われ戦士達は、驚き、走り逃げだし始めた。 なんとなく……母親を彷彿としたから余計に。 そして、逃げる戦士達のその背に向かって石が投げられる。
ラースは叫ぶ。
「ヴィズ、セグ、2人はシアとアズを守れ。 セリアは馬車から馬を外して王城に救援を求めろ!!」
バラバラで逃げ出す年若い戦士達の中で、最も強い匂いをする者を狙ってラースは追う。見逃さないギリギリの距離を取りながら、やがてラースが狙っていた男を中心に幾人もの戦士が集まってくる。
丁度いいとラースはほくそ笑む。
隠れ家を探すのにちょうどいい……そう思っては居たが、辿り着いた先は国が出来る以前、定期的に彼等が居住していた場所だった。 懐かしいと言うには……家と呼ぶにもお粗末な残骸は青々と伸びる木々に壊され、草がシアを隠すほどの背丈まで伸びている。
5歳から13歳の間……点々と移動していた拠点の1つでしかない……それでも郷愁がわいた……。 彼等の気持ちは、理解できない訳じゃない……。
「だが、俺のシアを狙った事は許されん」
ラースは無意識で笑っていた。
久々の人型での戦いだと。
セグ(13)と、セリア(17)が所属している諜報部隊は、身体的に未完成とされる幼い子が多い。 人獣族は幼少期の成長は極端に早く、5歳から成長が遅くなる……気持ちに追いつかない成長に、結果に、気が逸る子は多い……。
戦争逃亡者。
栄誉の機会を捨てた者達。
王家に対する反逆。
保守的なかび臭い連中。
身の程知らずの化石達。
俺が、俺達が制裁を加えてやる。
ここで、力を見せつけるんだ!!
成果を!!
セグやセリアと違い、未だ戦場に出た事もない者達。 そんな者達を連れて行くことにセリアは不安を感じたが、途中で出会った王様が彼等で十分だと笑いながら言った。
鼻の利く諜報の男にだけ分かる匂いを彼等は辿っていく。
やがて男は、ヘラリと笑った。
血の匂いに興奮を覚えた。
獣の本能が高まっていく。
早く、早く、早く、早く……。
男の走りはどんどん速度を増していた。
だが……彼等が見たのは、ラースの笑みだった。
「あぁ、遅かったな……」
ラースの眼下には、十数体の死体が倒れていた。
だが、ラースは返り血一滴浴びる事なくたたずみ微笑む。
「一応3人生かしてある。 生きている奴は城に運んでくれ。 死んでいるのは、そうだなぁ樽を準備するといい。 首が入る大きさの奴。 落とした首を樽にしまい腐らないように塩漬けにし奴等の実家に贈ってくれ。 出来るか? 無理なら……無理でいい、俺がやろう」
冷ややかな見下しがそこにあった。
むせるような血の匂いに、若い戦士候補は酔っていた。
強さに対する畏怖と憧れに薄く笑っていた。
「か、身体はどうします?」
一人の少年が聞けば、ラースは少し考え愛おしい人を思い浮かべながら微笑み伝える。
「シアの目に届かないような場所に捨ててこい。 悲しむのは見たくない……できるか?」
「で、きます」
「助かる」
ラースは短くいい、大切な人の元へと戻るために走り出す。 そしてラースが戻った先ではドロテアが見ていた事が伝えられた。
ただ、向こうの戦力が分からない以上は、シアを放置し追う事が出来なかったと。
その会話は、シアには聞こえない馬車の外で行われた。
「勘違いしているならソレでいい。 ドロテアはランディが居なければ無力に近い。 彼女はランディを手に入れるために訪れる」
顔をしかめるヴィズ。
そして、ウットリ微笑むセグ。
「……兄さん……血の匂いがプンプンするよ」
セグはラースの服を掴み引き寄せ、背の高いラースを見上げ高揚した様を隠す事無く微笑んでいた。
「落ち着け、そんな顔をしていては何があったかと心配させる」
「良く言うよ」
ヴィズはそんな弟2人に顔をしかめて命じた。
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