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24.獣性 01

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「哀れな子だと思っていたが……。 私が思っていた以上に……オマエは可哀そうな子だったようだね」

 王は静かにランディに向かっていい、深い溜息をついた。

 廊下からは床を踏む足音が数人分。
 ラースが前足で扉を開き、シアとアズそしてヴィズを出迎えた。

「お夜食持ってきました~」

 英知の塔で学んだ料理は多い。
 シンプルな親子丼に漬物と汁物付き。
 醤油と言うものは存在していないから、全て塩で代用している。

 視線が自分に集まるのを見て、シアは首を傾げる。

 思った以上に静かだし?

「どうか、されたのですか?」

「天使殿。 食事の後でいいので、少し手伝って頂きたい事があるのですがよろしいでしょうか?」

「どんな事ですか?」

 そう言いながらシアは、チラリと僅かな間だけランディへと視線を向けた。

 ランディがシアの言う事を優先して聞くと言う事で、ドロテアが消えたあの時から王様が訪れるまでの時間シアに預けられていたのだ。

 ドロテアの言う事は絶対で一番大切だと言う人が安全と言い切れるはずもなく、私の安全を守るためにラースが側にいたのだけど……数時間の間に2人が取っ組み合い、殺し合うのかと私を心配させたのは片手では済まない。

 用心深く問えば、王様はクスッと笑う。

「本当に大変だったんですからね!!」

「申し訳なかった。 信用できる人員が足りなかったんですよ」

 おいでと私に両手を向ける。

「子供じゃないのよ」

「私にすれば、まだまだ子供ですよ」

 そう言って膝の上に私を乗せるのだ。

 親と言うものを知らない私には……少しだけ……捨てがたい関係で……私は結局お願いを聞いてしまう。 そんな自分を思えばドロテアのお願いを聞いてしまうランディに同情を覚えるかと思えば、彼の父親は王様だし、母親は亡くなっているが、お爺様、お婆様、兄弟に、叔父、叔母もいるし……何より力もあってその力に周囲が膝をつくような環境に居たのだと思えば、同情する気にはなれない。

 だからと言って、ドロテアに返せば王位を奪うための旗頭と使われてしまう。 いっそ、他国に預けるのはどうだろうか? そんな事を考えながら私は王様に聞いた。

「それで」

「本来ならば、数十年の時をかけ魔力を集めて使う人獣だけの魔法があるんです」

「珍しいですね。 人獣の魔法だなんて」

「獣性に関わる魔法は、幾つか存在していますよ」

 ランディの表情が凍り付き逃げだそうとした。

 今まで、逃げる機会はいくらでもあったのに、なぜ、今?

 素早くラースが道を塞ぎジルが取り押さえ……そして王様は言うのだ。

「ヴィズ、儀式の準備をしておいてください」

「わかり……ました……」

 そう答えるヴィズもまた、顔色が悪かった。

 王族の中で力が劣ると言われるヴィズにとって、ドロテアと言う人間さえ抜きにすればランディは都合の良い人間だった。 ギルモアの戦士達には戦略等と言う言葉は存在しない。 いや時に人権すら与えられずヴィズは幾度となく惨めな思いをしてきた。

 ランディはそんなヴィズを良く助けてくれた。 本人に助けようと言う意識は無かったかもしれないが、だからこそ押しつけがましくも無く、助けられていた。

 ランディが居なくなれば……俺はどうなる。

 トンッと立ち止まる背中が押され、ヴィズは振り返る。
 ヴィズが見たのは満面の笑みをしたアズだった。

 彼女は優しい微笑みを湛えて言うのだ。

「また、余計な事を考えていらっしゃるのでしょう? 先ほども調理場で申しましたが、いざとなれば私が養って差し上げますよ。 ですからシア様から美味しいご飯の作り方を沢山覚えて下さいね」

 ははははは……ヴィズは情けなく笑う。





 人獣の関係性を決めるのはその身の内に潜む獣性にある。

 獣性が強いほど力が強くなるが、理性が欠けると言われている。 その獣性の操作が最も強いとされるが、現王の一族らしい。

 逆に庶民とされる者達の獣性は弱く、それはただ人と変わらない。

 人と変わらないが獣性の器は存在しており、そこに限界の獣性を注いでやれば、人は理性を失った獣へと変質し、死ぬまで暴れ続けるため、時折不死の戦士として戦争で使われる。

 ちなみに獣性の器は物理的に存在しており、死者から奪い。 麻薬代わりに使われる事もあるそうだ。

 そんな獣性を自らの力で操作し、理性で押さえる事ができるから、王は王なのだと言う。 そして耳と尻尾が露わになっているジルは王ではないのだそうだ。



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