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19.無邪気を偽る三男の婚約者は憂鬱
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セグは兄弟と婚約者+αを背に王城を歩いていた。
セグ以外の5人は、無言で先頭を行くセグの後を歩いていた。
気まずい……。
セリアはそう思った。
セグは、兄2人の部屋を強引にこじ開けている。
結果として、長兄であるヴィズとアズがベッドで半裸になっている所に出くわしながらも、2人を笑顔で誘ったのだ。
『街の見学に行きましょう!!』
気まずい……。
気まずさから最後尾のそのまた2m後ろを歩いていたのだけど、いつの間にかアズ義姉様が横を歩いていた。 いつもヴィズ様の横にいらっしゃる方が私の横を歩いているのだ。
気まずくないはずがない……。
それでも、チラリと伺うようにアズ義姉様を見れば、にっこりと笑みを向けられ声に出さずに義姉様は言ったのだ。
ありがとう。
それは、合意の無い行為だったと……何となく気づいていたけど、知りたくなかった事実を突きつけられた訳で……。
気まずい……。
本当、後でセグを叱っておかないと……。
ギルモア一族の王族、貴族に女児が生まれた場合、一族に代々受け継がれる占い師の家系の長が、妃への適正をはかり、王子妃教育を受けさせる。
アズ義姉様を見る限りソレは戦闘力が判断材料ではないですよね……。
王子が3歳になる頃。 一定の教育を受けた女児達は、王子の友達兼世話係の役割を負う。 そして、日々の様子から婚約者候補を絞り、最終選考の時点で3名が残され、最も相性の良い者を、愛し合う者を、補いあう者を、婚約者として迎えるのだ。
だから、私はセグを叱る権利を持っている。
チラリとセリアはアズの表情を覗き見た……義姉様は……逆らわなかったのでしょうか?
「どうか、なさいました?」
「ぇ、あ……その先日頂いたお茶が美味しくて、また欲しいなぁ~って」
「……そうですか、お口にあったようで良かったですわ。 後で私の部屋に寄って下さいます? お茶をお分けしますわ」
私は墓穴を掘った事を後悔しながら、見えない涙を流しながら返事をするのだ。
「はいぃい」
返事の際にアズ義姉様から視線をそらした結果、ドロテアと視線があったセリアは苦笑いと共に頭を下げた。
苦手だ……。 いっそ、嫌いと言ってしまってもいい。
戦場でのセリアの立場は、セグの婚約者ではなく、セグ王子の付き人であり、そういう意味ではドロテアは先輩にあたる。 それも戦場でのドロテアは人気で姫将軍とまで呼ばれているから……戦場においては、誰もがドロテアを上として扱ってくる。
強くないのに……。
背中を守ると言いながらランディ様に守られているのに。
『なぜ、あんなに弱いのに誰も指摘しないんですか?』
セリアはセグにそう聞けば、クスクスと意地悪い笑いと共にこう言われた。
『知らないの? そう、なら、教えてあげるよ』
その日の晩セリアが連れていかれた先は、戦場で発言権を持つ男性複数名を相手に夜を共にしているドロテアの姿だった。
汗に濡れる褐色の肌。
妖美に蠢く身体は、舞を舞っているかのように艶やか。
ハスキーな声が淫猥を纏い、男を煽り誘うように喘ぐ。
思わず見惚れてしまった。
その瞬間、ドロテアは私を見てニタリと笑い……その日から私達の関係は変わった。
王子の婚約者と、王子の付き人。 その立場の違いは本来は明らかなのだが、セリアの方が若くとも公私共にドロテアは自分を上として対応し始めた。
ジリジリと忍び寄り、意識に浸透してくるかのような……視線、声、そして……触れる手。 いつの間にか、セリアにとってドロテアは恐怖の対象となっていた。
嫌い……だなぁ……。
一時はドロテアが向けてくる視線に恐慌状態に陥り、セグに八つ当たりした事もあった。
『私になんてものを見せたのよ!!』
『なんで、セグは平気なのよ!!』
以下、殴る蹴る……セグの方が強くてケガがしないのは幸いだった。
そしてソレに対するセグの答えは、
『セリア、君が彼女よりも自分が下だって認めたから問題なんだよ。 放っておけば基本的に何もしない、何もできないんだから。 だって……彼女はとても弱いんだからさ。 そして君は僕の婚約者と言う立場がある。 なら第三者が君を害する事はない。 余程狂った相手なら別だけど……基本的には放っておけばいいんだよ。 怯えるから調子に乗るんだ』
ドロテアのアレは狂っていると言わないのだろうか?
そう問えば、セグは困った風に笑いながら誤魔化していた。
今も、先を歩くドロテアは、時々気遣うようにアズ義姉様に声をかけながら、怯える私を楽しむように見下したように視線を向けてくる。 特に今日は酷い……。
あぁ~、本当に、嫌っ!!
いたたまれない気分でいる私を無視してセグは、にこやかに笑いながらこんな事を言いだしたのだから、本当に勘弁して欲しい。
後で絶対殴る!!
自分に甘い婚約者セグには強気のセリアだった。
場を先導するかのように歩くセグは、自分より頭一つ以上背の高い兄達がついて来ているのを気配で察知しながら、歩き……そして兄達を背にしたまま話し出した。
「ヴィズ兄さん、幾らアズ義姉さんが好きだからって昼間から感心しませんね。 僕たちは一応王子と言う立場なんですから」
「王位継承権もない者など、王子と呼べるか!」
「王の子だから、王子は王子でしょう。 それと、僕が言いたいのは、ソコではなく……女性に乱暴を働くのは良く無いと言う事ですよ。 折角曖昧に言ったのですから、察してくれないと」
「察してやらないとどうなると言うんだ。 今の俺には何もないと言うのに」
「父上に言いつけますよ」
ニッコリと微笑むセグだった。
「セグ殿下、他力本願でそこまで偉ぶるのはどうなのでしょうか? ヴィズ様は先日の王の決断で深く傷ついていらっしゃると言うのに……王に何もかも奪われ、尊厳を傷つけられ……お可哀そうに……」
そう告げるのはドロテアでヴィズ様を振り返るでもないのに上手に涙を浮かべていた。 それを見たセリアの心臓はバクバクと早まって行く。
「傷ついているからって、人を傷つけて良いものではないと思いますよ? 何より、その言動で大切な人に嫌われる可能性だってあるのですから、むしろ僕はヴィズ兄さんにとっての救世主だと言っても良いと思うんですよ? 今後食事を1品僕に譲り続けるぐらいしてもいいぐらいの価値はあると思いますよ?」
「人生の先輩として、身分を超えて言わせて頂くなら。 セグ様……痛みを無視した発言は、嫌われますよ」
「ランディ兄さん」
「ぇ、あっ、な、んだ?」
「ヴィズ兄さんがアズ義姉様を傷つける傷と、僕がヴィズ兄さんの傷を抉るのと違いはあるのでしょうか?」
「……」
ランディの視線はドロテアに一瞬向けた。
「あら、ランディに聞くなんてセグ様は意外と……。 彼は私の意見に同意だと言うはずよ。 だって、私は彼が3歳になる頃から一緒にいたんだから、私達はあらゆる価値観を共有しているのですから。 意見を聞くだけ無駄ですわ」
「へぇ……」
初めて後ろを振り返ったセグは、にっこりと微笑みながら僅かに唇を動かしていた。
婚約者候補にもなれなかった癖に
セグ以外の5人は、無言で先頭を行くセグの後を歩いていた。
気まずい……。
セリアはそう思った。
セグは、兄2人の部屋を強引にこじ開けている。
結果として、長兄であるヴィズとアズがベッドで半裸になっている所に出くわしながらも、2人を笑顔で誘ったのだ。
『街の見学に行きましょう!!』
気まずい……。
気まずさから最後尾のそのまた2m後ろを歩いていたのだけど、いつの間にかアズ義姉様が横を歩いていた。 いつもヴィズ様の横にいらっしゃる方が私の横を歩いているのだ。
気まずくないはずがない……。
それでも、チラリと伺うようにアズ義姉様を見れば、にっこりと笑みを向けられ声に出さずに義姉様は言ったのだ。
ありがとう。
それは、合意の無い行為だったと……何となく気づいていたけど、知りたくなかった事実を突きつけられた訳で……。
気まずい……。
本当、後でセグを叱っておかないと……。
ギルモア一族の王族、貴族に女児が生まれた場合、一族に代々受け継がれる占い師の家系の長が、妃への適正をはかり、王子妃教育を受けさせる。
アズ義姉様を見る限りソレは戦闘力が判断材料ではないですよね……。
王子が3歳になる頃。 一定の教育を受けた女児達は、王子の友達兼世話係の役割を負う。 そして、日々の様子から婚約者候補を絞り、最終選考の時点で3名が残され、最も相性の良い者を、愛し合う者を、補いあう者を、婚約者として迎えるのだ。
だから、私はセグを叱る権利を持っている。
チラリとセリアはアズの表情を覗き見た……義姉様は……逆らわなかったのでしょうか?
「どうか、なさいました?」
「ぇ、あ……その先日頂いたお茶が美味しくて、また欲しいなぁ~って」
「……そうですか、お口にあったようで良かったですわ。 後で私の部屋に寄って下さいます? お茶をお分けしますわ」
私は墓穴を掘った事を後悔しながら、見えない涙を流しながら返事をするのだ。
「はいぃい」
返事の際にアズ義姉様から視線をそらした結果、ドロテアと視線があったセリアは苦笑いと共に頭を下げた。
苦手だ……。 いっそ、嫌いと言ってしまってもいい。
戦場でのセリアの立場は、セグの婚約者ではなく、セグ王子の付き人であり、そういう意味ではドロテアは先輩にあたる。 それも戦場でのドロテアは人気で姫将軍とまで呼ばれているから……戦場においては、誰もがドロテアを上として扱ってくる。
強くないのに……。
背中を守ると言いながらランディ様に守られているのに。
『なぜ、あんなに弱いのに誰も指摘しないんですか?』
セリアはセグにそう聞けば、クスクスと意地悪い笑いと共にこう言われた。
『知らないの? そう、なら、教えてあげるよ』
その日の晩セリアが連れていかれた先は、戦場で発言権を持つ男性複数名を相手に夜を共にしているドロテアの姿だった。
汗に濡れる褐色の肌。
妖美に蠢く身体は、舞を舞っているかのように艶やか。
ハスキーな声が淫猥を纏い、男を煽り誘うように喘ぐ。
思わず見惚れてしまった。
その瞬間、ドロテアは私を見てニタリと笑い……その日から私達の関係は変わった。
王子の婚約者と、王子の付き人。 その立場の違いは本来は明らかなのだが、セリアの方が若くとも公私共にドロテアは自分を上として対応し始めた。
ジリジリと忍び寄り、意識に浸透してくるかのような……視線、声、そして……触れる手。 いつの間にか、セリアにとってドロテアは恐怖の対象となっていた。
嫌い……だなぁ……。
一時はドロテアが向けてくる視線に恐慌状態に陥り、セグに八つ当たりした事もあった。
『私になんてものを見せたのよ!!』
『なんで、セグは平気なのよ!!』
以下、殴る蹴る……セグの方が強くてケガがしないのは幸いだった。
そしてソレに対するセグの答えは、
『セリア、君が彼女よりも自分が下だって認めたから問題なんだよ。 放っておけば基本的に何もしない、何もできないんだから。 だって……彼女はとても弱いんだからさ。 そして君は僕の婚約者と言う立場がある。 なら第三者が君を害する事はない。 余程狂った相手なら別だけど……基本的には放っておけばいいんだよ。 怯えるから調子に乗るんだ』
ドロテアのアレは狂っていると言わないのだろうか?
そう問えば、セグは困った風に笑いながら誤魔化していた。
今も、先を歩くドロテアは、時々気遣うようにアズ義姉様に声をかけながら、怯える私を楽しむように見下したように視線を向けてくる。 特に今日は酷い……。
あぁ~、本当に、嫌っ!!
いたたまれない気分でいる私を無視してセグは、にこやかに笑いながらこんな事を言いだしたのだから、本当に勘弁して欲しい。
後で絶対殴る!!
自分に甘い婚約者セグには強気のセリアだった。
場を先導するかのように歩くセグは、自分より頭一つ以上背の高い兄達がついて来ているのを気配で察知しながら、歩き……そして兄達を背にしたまま話し出した。
「ヴィズ兄さん、幾らアズ義姉さんが好きだからって昼間から感心しませんね。 僕たちは一応王子と言う立場なんですから」
「王位継承権もない者など、王子と呼べるか!」
「王の子だから、王子は王子でしょう。 それと、僕が言いたいのは、ソコではなく……女性に乱暴を働くのは良く無いと言う事ですよ。 折角曖昧に言ったのですから、察してくれないと」
「察してやらないとどうなると言うんだ。 今の俺には何もないと言うのに」
「父上に言いつけますよ」
ニッコリと微笑むセグだった。
「セグ殿下、他力本願でそこまで偉ぶるのはどうなのでしょうか? ヴィズ様は先日の王の決断で深く傷ついていらっしゃると言うのに……王に何もかも奪われ、尊厳を傷つけられ……お可哀そうに……」
そう告げるのはドロテアでヴィズ様を振り返るでもないのに上手に涙を浮かべていた。 それを見たセリアの心臓はバクバクと早まって行く。
「傷ついているからって、人を傷つけて良いものではないと思いますよ? 何より、その言動で大切な人に嫌われる可能性だってあるのですから、むしろ僕はヴィズ兄さんにとっての救世主だと言っても良いと思うんですよ? 今後食事を1品僕に譲り続けるぐらいしてもいいぐらいの価値はあると思いますよ?」
「人生の先輩として、身分を超えて言わせて頂くなら。 セグ様……痛みを無視した発言は、嫌われますよ」
「ランディ兄さん」
「ぇ、あっ、な、んだ?」
「ヴィズ兄さんがアズ義姉様を傷つける傷と、僕がヴィズ兄さんの傷を抉るのと違いはあるのでしょうか?」
「……」
ランディの視線はドロテアに一瞬向けた。
「あら、ランディに聞くなんてセグ様は意外と……。 彼は私の意見に同意だと言うはずよ。 だって、私は彼が3歳になる頃から一緒にいたんだから、私達はあらゆる価値観を共有しているのですから。 意見を聞くだけ無駄ですわ」
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