5 / 60
05.初恋は命の危機と共に
しおりを挟む
ドーラの甘えん坊なお姫様シアは、知識の女神メティスの寵愛を受けた賢者である。
女神が与えし『英知の塔』には、賢者の素質ある幼子達が集められる。
英知の塔は、過去を遡り、世界を巡り、空間を超え、あらゆる知識を本という形で見る事ができる不思議な塔 十二分にそこで学べば、人は直ぐに老人となり死を迎えてしまうからと、神は塔と外界との時間軸を歪ませていた。
塔の外1時間 = 塔の内1日
塔の外15日 = 塔の内1年
塔の外05年 = 塔の内121年
まぁ、およそこんな感じ。
幼く見えるシアだが、現在130年生きている。
シアと同じように集められた同期生たちが、魔法を覚える事で賢者として旅立つ中、延々と知識を吸収し続け、全く外に出ようとしないシアの存在があった。
「知識こそが、私にとっての魔法!! 私はまだまだ未熟です!!」
本当は勉強をしたかったのではなく、外の世界が怖かったのだ。
だが、そんなシアにも旅立ちのきっかけが訪れた。
英知の塔に、賢者たちを狙い魔喰が訪れた。
彼等が魔力持つ者を襲うのは、神から与えられた使命であり責める事は出来ないが、世界の牽引を託された賢者達にとっての天敵である事は確かである。
アレは、恐ろしい攻撃だった。
世界で何本も存在していた英知の塔のいくつかは、既に彼等に破壊されていると言う。
『塔を失った自分は、何を目的に生きればいいのだろう? 塔が破壊されれば死ぬのが運命。 どうせ人は何時かは死ぬ。 私は十分に生きたし……塔と共にいこう』
そう決めた。
だけど……。
魔喰によって破られた壁。
今まさにシアが喰われそうになった時。
そこから1人の少年が飛び込んできた。
黒い髪、深い森のような慈悲深い色を佇む瞳、おひさまの光を浴びて金色に輝く褐色の肌。 しなやかで固い筋肉も美しかった。 凛々しい顔立ち、愛らしく微笑む笑顔。
胸が撃ち抜かれた気がした。
「あれを倒すまで大人しくしているんだ」
シアを連れ出した少年が言う。
子供に言い聞かせるように言われ、121年ほどを生きたシアは困惑していた。 そんなシアに少年は優しく告げた。
「絶対勝つから大人しく待っていてくれ……、アレを倒したら世界は怖くないって教えてやるよ。 だからいい子にしているんだ」
皆が、塔から逃げる中。 中から出てこないシアを心配して、少年に「引きこもりがいる! 助けてやって欲しい」と、伝えたのかもしれない。
スッゴイ恥ずかしいんだけど!!
でも、それ以上に、少年の言葉が嬉しかった。
少年は、シアを塔から連れ出し、女神の使途に預け戦いに戻っていり、自分の3倍もありそうな複数の巨人型の魔喰たちを倒した。
「ほら、大丈夫だっただろう?」
戻ってきた少年は、雑踏の中から私を見つけ微笑んだ。
少年の声にほっとした私は……意識を失った。
目を覚ますと当然のように少年はいなかった。
『ごめんね、世界は怖くないって教える事が出来なくなった』
そう残された手紙を、賢者見習い仲間がこっそり渡してくれた。
「彼は誰?!」
真剣に聞く私に大人たちは良い顔をしなかった。
「彼等は魔喰を倒すためだけに存在意義を持つ『人獣』の一つ。 魔喰がいなければ、世界で最も厄介な蛮族となる存在。 シアの骨があちこち折れているのも彼の仕業……彼は、彼の一族は文明を破壊する。 世界に知恵をもたらす我々賢者の敵なんだ! 他の者の進化を妨げる世界の敵なんだ! 忘れてはいけない。 シアの骨を折ったのは、あの男だ!」
骨折と熱で虚ろな私に、大人たちは必至に訴え……そして私を監禁した。 監禁するような人など信用できるか!! と、私は彼等の言葉の意味を、世界の真実を見極めるために、ケガを早々に回復魔法で癒して旅に出た。
いや、それは言い訳でしかない。
ただ少年に恋をした。
それだけのことだった。
それがシアの初恋だった。
出会いを思い出せば、少しだけ悲しくなった……。
あの時は、こんな結末なんて考えていなかったなぁ……。
女神が与えし『英知の塔』には、賢者の素質ある幼子達が集められる。
英知の塔は、過去を遡り、世界を巡り、空間を超え、あらゆる知識を本という形で見る事ができる不思議な塔 十二分にそこで学べば、人は直ぐに老人となり死を迎えてしまうからと、神は塔と外界との時間軸を歪ませていた。
塔の外1時間 = 塔の内1日
塔の外15日 = 塔の内1年
塔の外05年 = 塔の内121年
まぁ、およそこんな感じ。
幼く見えるシアだが、現在130年生きている。
シアと同じように集められた同期生たちが、魔法を覚える事で賢者として旅立つ中、延々と知識を吸収し続け、全く外に出ようとしないシアの存在があった。
「知識こそが、私にとっての魔法!! 私はまだまだ未熟です!!」
本当は勉強をしたかったのではなく、外の世界が怖かったのだ。
だが、そんなシアにも旅立ちのきっかけが訪れた。
英知の塔に、賢者たちを狙い魔喰が訪れた。
彼等が魔力持つ者を襲うのは、神から与えられた使命であり責める事は出来ないが、世界の牽引を託された賢者達にとっての天敵である事は確かである。
アレは、恐ろしい攻撃だった。
世界で何本も存在していた英知の塔のいくつかは、既に彼等に破壊されていると言う。
『塔を失った自分は、何を目的に生きればいいのだろう? 塔が破壊されれば死ぬのが運命。 どうせ人は何時かは死ぬ。 私は十分に生きたし……塔と共にいこう』
そう決めた。
だけど……。
魔喰によって破られた壁。
今まさにシアが喰われそうになった時。
そこから1人の少年が飛び込んできた。
黒い髪、深い森のような慈悲深い色を佇む瞳、おひさまの光を浴びて金色に輝く褐色の肌。 しなやかで固い筋肉も美しかった。 凛々しい顔立ち、愛らしく微笑む笑顔。
胸が撃ち抜かれた気がした。
「あれを倒すまで大人しくしているんだ」
シアを連れ出した少年が言う。
子供に言い聞かせるように言われ、121年ほどを生きたシアは困惑していた。 そんなシアに少年は優しく告げた。
「絶対勝つから大人しく待っていてくれ……、アレを倒したら世界は怖くないって教えてやるよ。 だからいい子にしているんだ」
皆が、塔から逃げる中。 中から出てこないシアを心配して、少年に「引きこもりがいる! 助けてやって欲しい」と、伝えたのかもしれない。
スッゴイ恥ずかしいんだけど!!
でも、それ以上に、少年の言葉が嬉しかった。
少年は、シアを塔から連れ出し、女神の使途に預け戦いに戻っていり、自分の3倍もありそうな複数の巨人型の魔喰たちを倒した。
「ほら、大丈夫だっただろう?」
戻ってきた少年は、雑踏の中から私を見つけ微笑んだ。
少年の声にほっとした私は……意識を失った。
目を覚ますと当然のように少年はいなかった。
『ごめんね、世界は怖くないって教える事が出来なくなった』
そう残された手紙を、賢者見習い仲間がこっそり渡してくれた。
「彼は誰?!」
真剣に聞く私に大人たちは良い顔をしなかった。
「彼等は魔喰を倒すためだけに存在意義を持つ『人獣』の一つ。 魔喰がいなければ、世界で最も厄介な蛮族となる存在。 シアの骨があちこち折れているのも彼の仕業……彼は、彼の一族は文明を破壊する。 世界に知恵をもたらす我々賢者の敵なんだ! 他の者の進化を妨げる世界の敵なんだ! 忘れてはいけない。 シアの骨を折ったのは、あの男だ!」
骨折と熱で虚ろな私に、大人たちは必至に訴え……そして私を監禁した。 監禁するような人など信用できるか!! と、私は彼等の言葉の意味を、世界の真実を見極めるために、ケガを早々に回復魔法で癒して旅に出た。
いや、それは言い訳でしかない。
ただ少年に恋をした。
それだけのことだった。
それがシアの初恋だった。
出会いを思い出せば、少しだけ悲しくなった……。
あの時は、こんな結末なんて考えていなかったなぁ……。
16
お気に入りに追加
2,349
あなたにおすすめの小説
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
たとえ番でないとしても
豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」
「違います!」
私は叫ばずにはいられませんでした。
「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」
──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。
※1/4、短編→長編に変更しました。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
旦那様に離縁をつきつけたら
cyaru
恋愛
駆け落ち同然で結婚したシャロンとシリウス。
仲の良い夫婦でずっと一緒だと思っていた。
突然現れた子連れの女性、そして腕を組んで歩く2人。
我慢の限界を迎えたシャロンは神殿に離縁の申し込みをした。
※色々と異世界の他に現実に近いモノや妄想の世界をぶっこんでいます。
※設定はかなり他の方の作品とは異なる部分があります。
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。
【完結】お姉様の婚約者
七瀬菜々
恋愛
姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。
残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。
サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。
誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。
けれど私の心は晴れやかだった。
だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。
ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
家出した伯爵令嬢【完結済】
弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。
番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています
6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる