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05.初恋は命の危機と共に

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 ドーラの甘えん坊なお姫様シアは、知識の女神メティスの寵愛を受けた賢者である。



 女神が与えし『英知の塔』には、賢者の素質ある幼子達が集められる。

 英知の塔は、過去を遡り、世界を巡り、空間を超え、あらゆる知識を本という形で見る事ができる不思議な塔 十二分にそこで学べば、人は直ぐに老人となり死を迎えてしまうからと、神は塔と外界との時間軸を歪ませていた。

 塔の外1時間 = 塔の内1日
 塔の外15日  = 塔の内1年
 塔の外05年  = 塔の内121年 

 まぁ、およそこんな感じ。
 幼く見えるシアだが、現在130年生きている。


 シアと同じように集められた同期生たちが、魔法を覚える事で賢者として旅立つ中、延々と知識を吸収し続け、全く外に出ようとしないシアの存在があった。

「知識こそが、私にとっての魔法!! 私はまだまだ未熟です!!」

 本当は勉強をしたかったのではなく、外の世界が怖かったのだ。



 だが、そんなシアにも旅立ちのきっかけが訪れた。



 英知の塔に、賢者たちを狙い魔喰ましょくが訪れた。

 彼等が魔力持つ者を襲うのは、神から与えられた使命であり責める事は出来ないが、世界の牽引を託された賢者達にとっての天敵である事は確かである。



 アレは、恐ろしい攻撃だった。

 世界で何本も存在していた英知の塔のいくつかは、既に彼等に破壊されていると言う。

『塔を失った自分は、何を目的に生きればいいのだろう? 塔が破壊されれば死ぬのが運命。 どうせ人は何時かは死ぬ。 私は十分に生きたし……塔と共にいこう』

 そう決めた。

 だけど……。

 魔喰によって破られた壁。
 今まさにシアが喰われそうになった時。
 そこから1人の少年が飛び込んできた。

 黒い髪、深い森のような慈悲深い色を佇む瞳、おひさまの光を浴びて金色に輝く褐色の肌。 しなやかで固い筋肉も美しかった。 凛々しい顔立ち、愛らしく微笑む笑顔。

 胸が撃ち抜かれた気がした。

「あれを倒すまで大人しくしているんだ」

 シアを連れ出した少年が言う。

 子供に言い聞かせるように言われ、121年ほどを生きたシアは困惑していた。 そんなシアに少年は優しく告げた。

「絶対勝つから大人しく待っていてくれ……、アレを倒したら世界は怖くないって教えてやるよ。 だからいい子にしているんだ」

 皆が、塔から逃げる中。 中から出てこないシアを心配して、少年に「引きこもりがいる! 助けてやって欲しい」と、伝えたのかもしれない。



 スッゴイ恥ずかしいんだけど!!
 でも、それ以上に、少年の言葉が嬉しかった。



 少年は、シアを塔から連れ出し、女神の使途に預け戦いに戻っていり、自分の3倍もありそうな複数の巨人型の魔喰たちを倒した。

「ほら、大丈夫だっただろう?」

 戻ってきた少年は、雑踏の中から私を見つけ微笑んだ。

 少年の声にほっとした私は……意識を失った。
 目を覚ますと当然のように少年はいなかった。

『ごめんね、世界は怖くないって教える事が出来なくなった』

 そう残された手紙を、賢者見習い仲間がこっそり渡してくれた。

「彼は誰?!」

 真剣に聞く私に大人たちは良い顔をしなかった。

「彼等は魔喰を倒すためだけに存在意義を持つ『人獣』の一つ。 魔喰がいなければ、世界で最も厄介な蛮族となる存在。 シアの骨があちこち折れているのも彼の仕業……彼は、彼の一族は文明を破壊する。 世界に知恵をもたらす我々賢者の敵なんだ! 他の者の進化を妨げる世界の敵なんだ! 忘れてはいけない。 シアの骨を折ったのは、あの男だ!」

 骨折と熱で虚ろな私に、大人たちは必至に訴え……そして私を監禁した。 監禁するような人など信用できるか!! と、私は彼等の言葉の意味を、世界の真実を見極めるために、ケガを早々に回復魔法で癒して旅に出た。

 いや、それは言い訳でしかない。

 ただ少年に恋をした。
 それだけのことだった。

 それがシアの初恋だった。

 出会いを思い出せば、少しだけ悲しくなった……。
 あの時は、こんな結末なんて考えていなかったなぁ……。
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