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20.完結
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手紙の交換という命の駆け引きは長く続くことは無かった。
王家の呪いを解呪する条件というのが、獣の王を憑依させたまま人として生活することである。 拒絶されてもいけない。 恐れられてもダメだ。 その生を価値あるものとして生きる事が条件。
長く熊とお隣さんを続けていた村人は、あくまで彼を人語の分かる熊、例えるなら財宝をため込んだドラゴンが、人間を保護するかのような異物の気まぐれとして熊を受け入れていたに過ぎず、その生活は全く解呪の助力となることはなかった。
だが、シルフィたちと共に暮らしてからは、彼は熊の姿でありながら人として生きてきた。
レピオスが漁に出る時は、海の歌をよく歌っていた。 それが何気に上手く、精霊も耳を傾けその歌声に船を動かすことに積極的になるほどである。
ロトは、毎夜毎夜シルフィに本を読み聞かせる。
商人に売る装飾品のデザインは、4人で競い合ってすることもあった。 誰が描いたデザインが最もよく売れるか、競い、喧嘩し、笑い合い、賛美する。
そして、最年少のシルフィはこれがなかなか口うるさい。 1人でいたときは自由だったのに、身体はこまめに洗え、食事は味わって食べろ、天気が悪い日や夜に出かける時は、心配だから一声かけていけ。 暑い日は寄るな。 寒い日は側にいろ。 とにかく口うるさいのだ。
だが、あぁ、人間だなぁ……そんな気がした。
そう思ったのは、ゲーアノートと言う人間なのか、獣王と呼ばれていた存在なのかは分からない。 ただ……ゲーアノートはソロソロ呪いが解けるのだろうと実感していた。
それは少し寂しくはあったが、感傷にひたり別れを惜しんでしまっては、縦横が成仏する機会は2度と訪れることはないように思えた。 だから、快く見送ろうと思った。
「あ~~~、服を用意しないとなぁ……」
そしてある日。
呪いの主であった、獣王は何の挨拶もなくある日突然に去っていき、ゲーアノートにとっては服を着ろと怒られる日々が始まった。
同時にアラヤ国王都では、獣になった王族たちが次々に人へと戻っていった。 それは本物のエルメル(+3歳)の復活でもある。
「オマエのせいで!! オマエが、オマエが俺を唆さなければ!! こんな屈辱な日々を送ることは無かっただろうに!!」
裸の彼は、小さくなった服で無理やり体を覆いつくし、自分のマネをしていたアパテを探し出し不満のままに叫びだした。 誤魔化してはいるが華奢な女性の身体を楽々と持ち上げ、睨みを聞かせた。 だが、アパテは怯むことなくこういった。
「ソレを選んだのは他の誰でもない、オマエなんだよ」
アパテの声は落ち着いており、エルメルだけが声を荒げ、それこそ獣のようにいくどもの身体変化により小柄に収まってしまったアパテの身体を、獣のように投げ飛ばした。
「殿下!!」
護衛の兵士は戸惑うことなく、アパテを受け止め、そして本物との間に立ちふさがる。
「私が、私がエルメルだぁああああ!!」
誰が、そんなエルメルの叫びを信じるだろうか?
王族の全てのものが獣化によって職務を放棄していた訳ではない。 国王や国の要人達は自室にこもりながらも、自分に出来る仕事をしていた。 ただ、どうしても人前に姿を現す事ができるエルメルの仕事量は、特別負担が多かった事は仕方がなく、そして3年の間人前に顔をだす王族はアパテ一人だったのだ。
王族の獣化は、全ての者が知る事実ではない。 王族に近しい者だけが知らされた事実であり……、今自分がエルメルだと叫んでいる男を、この国の兵士は王太子殿下エルメルだと認識することは無かった。
「私を語る偽物を捉えろ」
彼以外の王族が死んでいるなら、その場で兵士に命じる事無く殺してしまっただろう。 だが、そうではないのだからエルメルは生かしておかなければいけない。 だが……例えエルメルの父である王であっても、無能な息子よりも3年間国を支えた自分を選ぶに違いないと、安易に考えていたのだ。
だが結果は違った。
王は王で、こうなる日を見込み、全てを準備していたのだ。 そして、アパテは王族を呪い、王族を語った悪人なのだと全ての責務を押し付け、アパテの処刑を決定させた。
だが、人々は、ここ数年の困難な時を誰が陣頭指揮を執り、乗り越えたかを知っており、本物として現れた王族たちにアパテと同様に民を導けたかと言われれば、無理だろうと考える者は多く、そして、そんな多くの意志によってアパテは逃亡を助けられた。
「もう、どうでもいい……。
シルフィ以外どうでもいい」
アパテは目につくもの全てを、虚無のまま殺し……
そして、そんなアパテは私の困難となっていた。
「全てが終わりだ。 あぁ、アンタさえ私の前に現れなければ……なぁ、一緒に死んでくれるよな?」
ロトもゲーアノートも、アパテは王族にとって都合が悪い存在だから、殺されるだろうと考えていたのだ。 まさか……、逃げ出した挙句、シルフィを伴い自死を考えようなどと思いもしていなかった。
「おやめなさい。 死での旅路が寂しいなら、私が付き合いましょう」
ロトの言葉に、シルフィもアパテも驚いた。 そして2人はそろってこう思っていた。
「「そこまでアパテのことを!!」」
「違いますから!!」
「まぁ、冗談だよ」
そうアパテが渇いた笑いをこぼした。
「オマエでいいなら、道連れは大勢いたさ……」
もう、どうでも良かった……それでも、シルフィにだけは執着しており、海沿いの屋敷までたどり着いたのだ。
「よく話し合おう。 ほら、ここで皆で生活をするのも、ありじゃないかな?」
そう元熊、呪いを解いた本人は訴える。 流石に、呪いを解いたせいでシルフィが殺されたとあっては目覚めが悪い。
「それも悪くないかぁ」
「なら!」
「お前達は死んでくれ。 私は誰かとシルフィを共有する気はな……ぁ」
グシャリとイヤな音がした。
海から放たれた1本の矢が、アパテの額を打ち抜いたのだ。
レピオスである。
精霊の力をかり、いや……精霊がここにあるシルフィの穏やかな生活を守るため、被害を最小限にしようとレピオスの力を借りたと言う方が正しいだろう。 その矢は精霊の加護をえた必中の矢となりアパテを殺したのだ。
そしてアパテは、寂しく一人旅立った。
「終わった……あっははははは、ようやく、終わった……。 さんざんだったわ。 アナタのせいで……」
そう叫びながら、シルフィはアパテを投げ出すことなく力なく重くなった身体を抱きしめた。
「でも、そこまで愛してくれていたのは、アナタだけなのかもしれない……」
シルフィは、知人であったもの、声をかけただけのもの、自分のせいで人が死ぬ恐怖を回避するため、神経をすり減らす日々を送っていた。 ソレが愛情だと勘違いするほどに。
「正気になれ!!」
慌ててシルフィを抱き上げるゲーアノート。 そして、アパテは地面に転がる。
「いやぁ」
「嫌じゃない。 オマエはこの3年間幸せだったのだろう? この女のいない3年間を否定するのか! ソレの行動は執着であり、愛じゃない。 オマエを日々助けている俺達の方が、余程オマエを愛しているとは考えないのか?」
「助け?」
「……いや、うん、お世話になっております」
ゲーアノートの言葉にシルフィは笑う。
「まぁ、そうね……そうかも……」
シルフィは深呼吸を繰り返し、そして下ろしてくれとゲーアノートに願うが、シルフィは下ろされることなくロトに渡され抱きしめられた。
「お嬢様、それほどまで愛されたいなら、私がお嬢様に愛を捧げましょう」
ロトがどさくさに紛れて告白する。
そして視線はレピオスに向けられた。
「ぁ、俺、結婚決まったんで、嫁さんと一緒に暮らす家が欲しいんですけど」
「うん、空気を読もうか?」
「いや、ノートさんに言われたくはないっすよ」
人嫌いで、人を恐れる魔女が恋をするかは分からない。
だが、これから先の人生、多少の波乱はあろうとも、幸せに暮らす事だけは確かだろう。
幸せに
幸せに
幸福をその手に、
そうでなければならない。
きっと、そうなるはずだよ。
精霊達はそう語り、シルフィの幸せを願いながら、彼等はともに生きていく。
王家の呪いを解呪する条件というのが、獣の王を憑依させたまま人として生活することである。 拒絶されてもいけない。 恐れられてもダメだ。 その生を価値あるものとして生きる事が条件。
長く熊とお隣さんを続けていた村人は、あくまで彼を人語の分かる熊、例えるなら財宝をため込んだドラゴンが、人間を保護するかのような異物の気まぐれとして熊を受け入れていたに過ぎず、その生活は全く解呪の助力となることはなかった。
だが、シルフィたちと共に暮らしてからは、彼は熊の姿でありながら人として生きてきた。
レピオスが漁に出る時は、海の歌をよく歌っていた。 それが何気に上手く、精霊も耳を傾けその歌声に船を動かすことに積極的になるほどである。
ロトは、毎夜毎夜シルフィに本を読み聞かせる。
商人に売る装飾品のデザインは、4人で競い合ってすることもあった。 誰が描いたデザインが最もよく売れるか、競い、喧嘩し、笑い合い、賛美する。
そして、最年少のシルフィはこれがなかなか口うるさい。 1人でいたときは自由だったのに、身体はこまめに洗え、食事は味わって食べろ、天気が悪い日や夜に出かける時は、心配だから一声かけていけ。 暑い日は寄るな。 寒い日は側にいろ。 とにかく口うるさいのだ。
だが、あぁ、人間だなぁ……そんな気がした。
そう思ったのは、ゲーアノートと言う人間なのか、獣王と呼ばれていた存在なのかは分からない。 ただ……ゲーアノートはソロソロ呪いが解けるのだろうと実感していた。
それは少し寂しくはあったが、感傷にひたり別れを惜しんでしまっては、縦横が成仏する機会は2度と訪れることはないように思えた。 だから、快く見送ろうと思った。
「あ~~~、服を用意しないとなぁ……」
そしてある日。
呪いの主であった、獣王は何の挨拶もなくある日突然に去っていき、ゲーアノートにとっては服を着ろと怒られる日々が始まった。
同時にアラヤ国王都では、獣になった王族たちが次々に人へと戻っていった。 それは本物のエルメル(+3歳)の復活でもある。
「オマエのせいで!! オマエが、オマエが俺を唆さなければ!! こんな屈辱な日々を送ることは無かっただろうに!!」
裸の彼は、小さくなった服で無理やり体を覆いつくし、自分のマネをしていたアパテを探し出し不満のままに叫びだした。 誤魔化してはいるが華奢な女性の身体を楽々と持ち上げ、睨みを聞かせた。 だが、アパテは怯むことなくこういった。
「ソレを選んだのは他の誰でもない、オマエなんだよ」
アパテの声は落ち着いており、エルメルだけが声を荒げ、それこそ獣のようにいくどもの身体変化により小柄に収まってしまったアパテの身体を、獣のように投げ飛ばした。
「殿下!!」
護衛の兵士は戸惑うことなく、アパテを受け止め、そして本物との間に立ちふさがる。
「私が、私がエルメルだぁああああ!!」
誰が、そんなエルメルの叫びを信じるだろうか?
王族の全てのものが獣化によって職務を放棄していた訳ではない。 国王や国の要人達は自室にこもりながらも、自分に出来る仕事をしていた。 ただ、どうしても人前に姿を現す事ができるエルメルの仕事量は、特別負担が多かった事は仕方がなく、そして3年の間人前に顔をだす王族はアパテ一人だったのだ。
王族の獣化は、全ての者が知る事実ではない。 王族に近しい者だけが知らされた事実であり……、今自分がエルメルだと叫んでいる男を、この国の兵士は王太子殿下エルメルだと認識することは無かった。
「私を語る偽物を捉えろ」
彼以外の王族が死んでいるなら、その場で兵士に命じる事無く殺してしまっただろう。 だが、そうではないのだからエルメルは生かしておかなければいけない。 だが……例えエルメルの父である王であっても、無能な息子よりも3年間国を支えた自分を選ぶに違いないと、安易に考えていたのだ。
だが結果は違った。
王は王で、こうなる日を見込み、全てを準備していたのだ。 そして、アパテは王族を呪い、王族を語った悪人なのだと全ての責務を押し付け、アパテの処刑を決定させた。
だが、人々は、ここ数年の困難な時を誰が陣頭指揮を執り、乗り越えたかを知っており、本物として現れた王族たちにアパテと同様に民を導けたかと言われれば、無理だろうと考える者は多く、そして、そんな多くの意志によってアパテは逃亡を助けられた。
「もう、どうでもいい……。
シルフィ以外どうでもいい」
アパテは目につくもの全てを、虚無のまま殺し……
そして、そんなアパテは私の困難となっていた。
「全てが終わりだ。 あぁ、アンタさえ私の前に現れなければ……なぁ、一緒に死んでくれるよな?」
ロトもゲーアノートも、アパテは王族にとって都合が悪い存在だから、殺されるだろうと考えていたのだ。 まさか……、逃げ出した挙句、シルフィを伴い自死を考えようなどと思いもしていなかった。
「おやめなさい。 死での旅路が寂しいなら、私が付き合いましょう」
ロトの言葉に、シルフィもアパテも驚いた。 そして2人はそろってこう思っていた。
「「そこまでアパテのことを!!」」
「違いますから!!」
「まぁ、冗談だよ」
そうアパテが渇いた笑いをこぼした。
「オマエでいいなら、道連れは大勢いたさ……」
もう、どうでも良かった……それでも、シルフィにだけは執着しており、海沿いの屋敷までたどり着いたのだ。
「よく話し合おう。 ほら、ここで皆で生活をするのも、ありじゃないかな?」
そう元熊、呪いを解いた本人は訴える。 流石に、呪いを解いたせいでシルフィが殺されたとあっては目覚めが悪い。
「それも悪くないかぁ」
「なら!」
「お前達は死んでくれ。 私は誰かとシルフィを共有する気はな……ぁ」
グシャリとイヤな音がした。
海から放たれた1本の矢が、アパテの額を打ち抜いたのだ。
レピオスである。
精霊の力をかり、いや……精霊がここにあるシルフィの穏やかな生活を守るため、被害を最小限にしようとレピオスの力を借りたと言う方が正しいだろう。 その矢は精霊の加護をえた必中の矢となりアパテを殺したのだ。
そしてアパテは、寂しく一人旅立った。
「終わった……あっははははは、ようやく、終わった……。 さんざんだったわ。 アナタのせいで……」
そう叫びながら、シルフィはアパテを投げ出すことなく力なく重くなった身体を抱きしめた。
「でも、そこまで愛してくれていたのは、アナタだけなのかもしれない……」
シルフィは、知人であったもの、声をかけただけのもの、自分のせいで人が死ぬ恐怖を回避するため、神経をすり減らす日々を送っていた。 ソレが愛情だと勘違いするほどに。
「正気になれ!!」
慌ててシルフィを抱き上げるゲーアノート。 そして、アパテは地面に転がる。
「いやぁ」
「嫌じゃない。 オマエはこの3年間幸せだったのだろう? この女のいない3年間を否定するのか! ソレの行動は執着であり、愛じゃない。 オマエを日々助けている俺達の方が、余程オマエを愛しているとは考えないのか?」
「助け?」
「……いや、うん、お世話になっております」
ゲーアノートの言葉にシルフィは笑う。
「まぁ、そうね……そうかも……」
シルフィは深呼吸を繰り返し、そして下ろしてくれとゲーアノートに願うが、シルフィは下ろされることなくロトに渡され抱きしめられた。
「お嬢様、それほどまで愛されたいなら、私がお嬢様に愛を捧げましょう」
ロトがどさくさに紛れて告白する。
そして視線はレピオスに向けられた。
「ぁ、俺、結婚決まったんで、嫁さんと一緒に暮らす家が欲しいんですけど」
「うん、空気を読もうか?」
「いや、ノートさんに言われたくはないっすよ」
人嫌いで、人を恐れる魔女が恋をするかは分からない。
だが、これから先の人生、多少の波乱はあろうとも、幸せに暮らす事だけは確かだろう。
幸せに
幸せに
幸福をその手に、
そうでなければならない。
きっと、そうなるはずだよ。
精霊達はそう語り、シルフィの幸せを願いながら、彼等はともに生きていく。
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