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16.お金も物もないけれど、これはこれで幸せの予感

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 雨雲で昼が自己主張を忘れた日中。 主従関係を約束すると言ったロトに、膝枕で本を読んでもらっていた。 人をこき使うと言う事がよくわからない私の精一杯……だけれど、何かがオカシイ気がするが、突っ込み不在なため少し前王都で流行った睡眠学習なる勉強方法を試している。

 雨はやまないし、外は薄暗いけれど平和。

 ちなみに熊は……水にぬれた崖を滑り降り、村人がいつ帰ってきていいように土砂の始末をしたいと、家を出て3日帰っていない。 

「そういえば、もう3日ほど熊を見ていないけど、帰れないのか? 帰らないのか? 迎えに行く方がいいのかな?」

「いえいえ、殺されない限りは死にはしませんから、放っておいて大丈夫ですよ」

 とても素敵な腹黒笑顔でロトが言う。 上下関係は熊の方が上ではあるけれど、王族が関与しない場所で言う必要もないでしょうと言うことらしい。

「それに、一度はお嬢様が命を助け、そして忠告も行いました。 後は、自業自得でしょう。 流石にあんなでかい熊を手取り足取り面倒見るつもりはありません」

 私は苦笑し睡眠学習の続きを要求する。 嫌味を言わせれば腹だたしいが、ロトの声は心地よい声で眠るには丁度よい。

 うん、なんか曾祖母様ごめんなさいと、時折言いたくなるけれど、身の振り方は雨がやんでから考えます。



 そんなマッタリした時間を送っていれば、レピオスが部屋に駆け込んできた。

『物資補充が出来ない以上、我々にできる事はありません。 お昼寝をしましょう!!』

「とか、何とか言っていたのに、何がどうしてこうなったんですか!!」

「なんですか、想像しいですね。 私の安眠を脅かすぐらいなら、何か代償をお持ちなさい。 私がいるのですから、命の危険はぎりぎり回避できるはずですよ」

「……いえ、出来ればぎりぎりは遠慮したいのですが」

「で、何があったのですか?」

 一応想像してみる。

 水浸し? No!
 がけ崩れ? 危険がないかはチェック済です。
 強い風で、厩舎などが飛ばされた? そんな音は聞いていませんね。
 落雷からの火災? 命じてはいませんが、仲良し精霊による危機管理は行われています。

「あぁ、そうでした。 余りに2人がマッタリしているので要件を忘れるかと思いましたよ。 コレ!! 見てください!!」

 雨音を遮るために閉ざしてあったカーテンを、レピオスが勢いよく開いた。

「あら、あらあらあら」

「コレは凄いですねぇ~」

 地面には雨をため込まないための排水路と、貯水用の大きな池が作られ、急激に生い茂った木々は強い根を張り枝葉を広げ、雨風を防いでくれており、どこから現れたのか分からない小鳥たちが雨を凌いでいた。

「こんなものに対価を払ったら、食料が尽きてしまいますよ」

「まったく、レピオスは臆病ですねぇ~」

「力には対価が必要だと散々脅したのは、アナタじゃないですか!」

 ぁ、お嬢様ではなく『アナタ』になっているあたり、かな~り混乱しているようですね。 そんな彼に優しい私は説明して差し上げましょう!

「精霊が退屈で行う行為は、無料!!」

 私はドヤ顔……いえいえ、決め顔で言ってみた。

「はぁ……」

 基本的に精霊が対価を要求するのは私で、レピオスが覚える必要などは無いと言うのに、記憶力が悪いのか、それとも人がいいのか?

「なるほど、そのような抜け道があったのですか……。 命じるのではなく、精霊のやる気を促してやれば対価の減額が可能と」

 ロトがふむふむと何かを考え出す。 少し嫌な予感?

「う~ん、そう、そうね」

「お嬢様はもう少し、駆け引きを勉強しましょうか?」

「ぇ?」

 多分、私はとても酷い顔をしたと思うわ。

「お嬢様、顔が崩れておりますよ」

「言葉は選びましょうよ……」

 そんな話をしているうちにも、次々に屋敷を覆うように木々が増えていた。

 これは先日の会議を危惧した結果でしょうね。

 この大雨が降るまで、熊は魚、卵、牛乳、時々肉等と穀物を下の村と交換し生活をしていたらしいのです。 村には数か月に1度商人が訪れ、必要な品を聞いて、次に来た時置いていく。 問題は、村が無くなった事です。

 こうなると雨だけの問題ではありません。

「お嬢様に魔法薬を作って頂き、現金収益とし、商人に注文依頼と言うのが妥当でしょうね。 とは言え、この雨もいつまで続くか分からないので、お嬢様、精霊を無暗に使うのは辞めて下さい」

 とロトに言われたのだ。

 まぁ、最もな話ですし異論はありません。 だけど精霊さん達は不満だったようで、食材がないなら作ればいいとかって考えたのでしょう。

 林檎、オレンジ、クルミ、それらが同じ土地に同居するって……。 まぁ、とにかく精霊の圧が強いので、実がなったら何か作らなければいけないようです。



 天変地異とも言えるような異常な状況ではありますが、必死に務めたお妃教育、社交界での愛想笑い、常にアパテに見下され、ソレは使用人達にまで影響し肩身の狭い思いをして生きてきた数年間。

 私は今、ようやく再スタートを……。

 優雅にお茶を口につければ、あわただしい怒声に茶をこぼしそうになってしまう。

「外が!! 外がぁあああ!!」

 現れたのは、3日ぶりに出現したずぶぬれ泥まみれの熊。

「ふぅ……」

 観賞的な心は台無しにされ、私は手持ちの本を投げつけるのでした。
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