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15.偽物が考える最高の未来
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アラヤ国と言う国は、長い間呪いを受けてきた。
いや、呪いと付き合ってきた国である。
問題はあるが、近隣諸国と比較すれば長く安定した国と言えるだろう。
ソレが、隙があれば他者の利益を奪おうと考えるが故の観察眼と、他者から身を守るための用心深さが原因であると言うのは、皮肉な話だろう。
シルフィの旅が、ロト以外の追っ手がなかったことには理由がある。
王宮にいるアパテに気軽に報告が出来なかったことも理由の1つだが、それはあくまでタイミングの問題でしかない。 祭りに賑わう王都で大量の犯罪が発生したためだ。
本来であれば、王太子殿下エルメルと、魔女シルフィの盛大な結婚式の祝いは1週間続けられ、その間、エルメルとシルフィは、王家の所有地で新婚休暇を楽しむ予定だった。
だが、シルフィを演じているアパテは、今エルメルに代わって騎士団の陣頭指揮をとる事となった。 ソレは既におかしな状況だが、混乱を前にして誰も指摘など行うことは無かったらしい。
流石に武器を持って、戦うことは無い。
情報を見て、分析して、指示を出す。
それだけで現場は変化する。
決して新妻の仕事ではない。
だが、動いていなければ、思考を続けていなければ、アパテは不安で不安で不安で……王宮にいるにも関わらず、侍女をめった刺しにしたい気分に捕らわれてしまう。 最悪侍女ならいい……尻尾を生やし、身体を不格好な体毛でおおい、めそめそと泣き続けるばかりのエルメルを見れば、イライラに痛めつけてしまいそうだったのだ。
尻尾が生えたから、外に出られないメソメソメソ。
そう言ってはいるが、感情のままに殴りつければ、暴力を受けたと部屋を飛び出してくだろう。 いや……あの男に性的な慰めを求められるぐらいなら、殴りつけた方がいいか? なぜ、シルフィはあんな男が好きだったんだ? まったく迷惑な……。
そんな男をわざわざ奪っておいて不遜な態度で、シルフィに不満を向けた……。 あぁ、そうだ……落ち着いたところで、正しい妻であるシルフィにこの地位を返してやればいい。
すぐにでも、入れ替わりたいと思ったが、自分とシルフィが同じ顔ではない。 身近な者達は直ぐに気づくだろうし、エルメルは……優しいシルフィで良いと言うだろう。
だが、それはそれでどうなのだろう?
アパテは学習したのだ。
シルフィの全てを奪うと言う行為は、自分の幸福につながらないと言う事を。 アパテの幸福はあくまでシルフィが存在してこそなのだと。 なら、どうする?
「くっくくっく」
「し、シルフィ様? どうかなさいましたか?」
側に置かれた書記官が恐る恐るたずねた。
「くだらない想像をしてしまっただけです」
アパテはエルメルの席につき、そして……無意識のうちにエルメルの役割をエルメルの動作と口調で行っていた。
アパテが考えたのは、こうだ。
どうせエルメルは表に出てくる事はできないだろう。 ならばいっそエルメルになりきり、本物のシルフィを妻にめとればいい。 そうすれば、きっと私は幸せになれるはずだ。
と。
いや、呪いと付き合ってきた国である。
問題はあるが、近隣諸国と比較すれば長く安定した国と言えるだろう。
ソレが、隙があれば他者の利益を奪おうと考えるが故の観察眼と、他者から身を守るための用心深さが原因であると言うのは、皮肉な話だろう。
シルフィの旅が、ロト以外の追っ手がなかったことには理由がある。
王宮にいるアパテに気軽に報告が出来なかったことも理由の1つだが、それはあくまでタイミングの問題でしかない。 祭りに賑わう王都で大量の犯罪が発生したためだ。
本来であれば、王太子殿下エルメルと、魔女シルフィの盛大な結婚式の祝いは1週間続けられ、その間、エルメルとシルフィは、王家の所有地で新婚休暇を楽しむ予定だった。
だが、シルフィを演じているアパテは、今エルメルに代わって騎士団の陣頭指揮をとる事となった。 ソレは既におかしな状況だが、混乱を前にして誰も指摘など行うことは無かったらしい。
流石に武器を持って、戦うことは無い。
情報を見て、分析して、指示を出す。
それだけで現場は変化する。
決して新妻の仕事ではない。
だが、動いていなければ、思考を続けていなければ、アパテは不安で不安で不安で……王宮にいるにも関わらず、侍女をめった刺しにしたい気分に捕らわれてしまう。 最悪侍女ならいい……尻尾を生やし、身体を不格好な体毛でおおい、めそめそと泣き続けるばかりのエルメルを見れば、イライラに痛めつけてしまいそうだったのだ。
尻尾が生えたから、外に出られないメソメソメソ。
そう言ってはいるが、感情のままに殴りつければ、暴力を受けたと部屋を飛び出してくだろう。 いや……あの男に性的な慰めを求められるぐらいなら、殴りつけた方がいいか? なぜ、シルフィはあんな男が好きだったんだ? まったく迷惑な……。
そんな男をわざわざ奪っておいて不遜な態度で、シルフィに不満を向けた……。 あぁ、そうだ……落ち着いたところで、正しい妻であるシルフィにこの地位を返してやればいい。
すぐにでも、入れ替わりたいと思ったが、自分とシルフィが同じ顔ではない。 身近な者達は直ぐに気づくだろうし、エルメルは……優しいシルフィで良いと言うだろう。
だが、それはそれでどうなのだろう?
アパテは学習したのだ。
シルフィの全てを奪うと言う行為は、自分の幸福につながらないと言う事を。 アパテの幸福はあくまでシルフィが存在してこそなのだと。 なら、どうする?
「くっくくっく」
「し、シルフィ様? どうかなさいましたか?」
側に置かれた書記官が恐る恐るたずねた。
「くだらない想像をしてしまっただけです」
アパテはエルメルの席につき、そして……無意識のうちにエルメルの役割をエルメルの動作と口調で行っていた。
アパテが考えたのは、こうだ。
どうせエルメルは表に出てくる事はできないだろう。 ならばいっそエルメルになりきり、本物のシルフィを妻にめとればいい。 そうすれば、きっと私は幸せになれるはずだ。
と。
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