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13.熊との価値観の相違。 当たり前なようで……いや、余り違うとやっぱり困る
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目的地まで到着し3日。 最初の土砂崩れが、全ての始まりであったかのように今も酷い雨が続いている。 熊の名前は『ゲーアノート・アラヤ』現国王の弟で、学生時代彼とロトは学友であり、大人になってからはロトが側近として彼の側に務めていたらしい。
彼が辺境に訪れ、熊として生活し始め十年ほど経つと言う。
後々影響のない程度にケガを治した私は、後は熊と言う呪いが持つ強靭な回復力にすべてを任せる事にした。
『馬鹿なコイツのこと、村人の窮地を放っておくことができず、また同じことを繰り返すでしょう。 しばらく動けない程度に抑えておいて欲しい』
と言うロトの願いからだった。
なんとなくロトの辛辣さがどこから来たのか分かったような気がした。 熊のように自分の損やリスクを考えず、全てを投げ出してしまうような人を見続けたため。 そう思えば、恨みがましく思う気持ちは薄らいでいた。
熊がようやく目を覚ました。
「村人は?!」
むくりと起き抜けに言われれば、自分の苦労や精霊を無暗に使ってしまい後のお礼が大変だったことを思い出し、思わず手に持っていた本で熊の頭を殴ってしまう。
「ぇ?」
ポリポリと大きな肉球を持つ手が、頭をかくのを見て、私は言い訳を考える。
1、隙が多いぞ!
2、虫が止まっていたので
3、そんなんだから後ろから切りつけられるんですよ
とりあえず2を選ぶことにする。 ずっと寝たきりだった熊と私は初対面と変わらない訳ですから1や3は冗談にならず、険悪な状態になるかもしれない。 流石に熊と険悪になるのは避けたいと言うものです。
「そんな隙だらけだから、村人に殺されかけるんですよ」
ロトがワンランク上げて熊を責める。
私は会話を放棄しロトに任せることにして、部屋を後にしようとすれば、ロトに首根っこを掴まれた。
お嬢様と言って表面上はたててはくれてはいたが、熊の命を助ければ私に仕えると言ってからは扱いがズイブンとぞんざいになっているのが、どうにも気に入らない。
「さて、ゲーアノート、アナタの命を助けたのはお嬢様です。 そして、アナタの命を奪おうとしたのは村人です。 何か先に言うことはありませんか?」
逃げないように両肩を押さえられ、私は熊の前に差し出された。
ずもももも~~~という気配が熊を覆い、マジマジと私を見て、匂いを嗅ぐ。 これはかなり圧が強いです……、呪いと精霊は相性が悪く防御態勢に入っているのですが、大丈夫なのでしょうか? 大雨の中で屋根を失うのは遠慮したい。
チラリとロトを見上げれば、にっこりと作り笑いが返される。
「大丈夫です。 無暗に噛みついたりはしませんから。 いえ、もし噛みつくようなら切り捨ててさしあげましょう」
「せっかく苦労して助けたのに……」
「ふむ、これはこれは、若い魔女殿が命を助けてくれたのか、面倒をおかけした。 最後にあったときは、5つぐらいでしたかな? 私の事は覚えていられるだろうか?」
「熊に知り合いはいませんが……」
「それは、まぁ、そうでしょうね。 先代魔女殿とお会いする時は、強制的に人の姿にされていましたから。 王家に疑問を抱いた私に、手を差し伸べてくれたのが先代魔女殿でした。 まさか二代にわたって救われるとは、感謝いたします」
そう爽やかそうに熊が礼を述べた。
「いえ……お礼はロトに……私だけだったら、わざわざ熊の安全を確保し、治療しようなどと考えなかったでしょうし……」
「まぁ、それも、そうだ」
そう言って豪快に熊が笑った。
「おぉ、それで村人は?」
私はロトの顔をじっと見ていれば、ロトはニコニコ顔のまま熊に言う。
「知りません」
「なぜ、放っておく!!」
「あの雨の中でどうできると言うんですか!」
窓の外では雨と言うより水が落下していた。 まぁ、散々精霊達が危険だと唱えてきただけある。 流石にこの雨を見れば、道中訪れた村々に警告ぐらいしておくべきだったかと考えはしたけれど、私の警告を聞いてくれそうな人などいなかったし、後悔するほどの違いなどなかったでしょう。
「むしろ、こんな雨だからこそ助けを必要とするのだろう!!」
「あの~~~、お食事をお持ちしたんですけど、アソコにある大きな食器でよいんですよね?」
レピオスが恐る恐る顔を出す。
熊は怖いものだ。
そう、熊は人にとって怖い生き物だ。
熊は外見だけで、心が人間だと知っていてもやっぱり普通の人としては接触できない。 そう考えれば村人達を安易に責めることもできないと思ったが、もともと下にある村に熊は住んでおり、なんか色々あって流れてきた人に土地を明け渡したそうだ。
その発展を眺め続けたため、かなり情があるのだろうとロトが語っていた。
「だが、彼等は困ったからと言って何時も奪うだけだ」
「仕方がない、安定しないうちに子供が増えたからな。 いいぞ~~~子どもたちは偏見がなくてな」
嬉しそうに言えばロトが深い溜息をついていた。
善人……善人なのでしょうか? ふと私は聞いてみた。
「この雨は、ここで終わらず、風に流され国を横断していくことでしょう。 その場合、アナタの慈悲は何処から何処の範囲に向けられるのでしょう」
「……それは……」
シバラク考え込んだ熊は言う。
「平等に助力を行うべきではないだろうか?」
「アナタが?」
「生憎と俺が救えるのは両手の届く範囲だけだ。 この足で駆けつけることが出来る範囲だけだ。 国を守るのは……国王の役目だ」
一瞬、間が開いた。
国王一人で何が出来る。 国王が知恵者であり、ソレに良く従う周りがあれば国王の役目で済んだかもしれない。 だけど国王が特別でないならば、ソレは国を預かる王族、貴族の責任となる。 それぐらいのことは、政治とは関係のない妃教育を受けてきた私にでもわかる事だ。
なんだ……。
私は自分が普通の少女であるかのように、全てから逃げ出した。 まぁ、私に成り代わったアパテの存在がある以上、私は自分の役割を失ったのだから仕方がないし、アパテが私の責務を背負ってくれたと考えるべきでしょう。 私はそう自分に言い訳をした。
「そなたこそ魔女なら、なんとかでき……」
多分、私は冷ややかな目をしていた事でしょう。
「曾祖母に力を借りたなら、アナタは魔女の力に対価を必要とすることはご存知ですよね? だからこそ、曾祖母は王家との関係を懇意にしていたのでしょう」
私が日常的に付き合っている精霊は2人、精霊空間をつかわせてもらっているし、常に私の補佐をしてくれている精霊が1人。 それ以上となると日常範囲を超えるために、対価を算出しなければならない。
王都に精霊を集め、そこに精霊がいることが呪いへの威嚇となるのと訳が違う。
「アナタは、アナタを助けた私に過剰な力の行使を、私自身の終わりを望み、アナタを害した人間を救えと申されるのですか! 人を見ればカモだと思う者にも困りますが、偽善者と言うものは甚だ迷惑ですわ!! ロト、私はここに留まる事を了承することはできません」
私の肩を掴んでいるロトを見上げて私は言った。
「お嬢様の判断に同意いたします。 このような恩知らず、雨の中に放り出し、ココを乗っ取ってやるぐらいがちょうどよいでしょう」
ぇ、いや、そこまで言ったわけではないんですけど……。
キョトンとした私の顔に、とても上手な作り笑いでロトは言う。
「最初住んでいた場所を下の住人達に明け渡してやった度量の持ち主なのですから、恩人でありその曾祖母にまで面倒をかけた相手に、家の1つや2つ与えられない訳ないじゃないですかぁ~」
それはとても爽やかな笑顔だった。
彼が辺境に訪れ、熊として生活し始め十年ほど経つと言う。
後々影響のない程度にケガを治した私は、後は熊と言う呪いが持つ強靭な回復力にすべてを任せる事にした。
『馬鹿なコイツのこと、村人の窮地を放っておくことができず、また同じことを繰り返すでしょう。 しばらく動けない程度に抑えておいて欲しい』
と言うロトの願いからだった。
なんとなくロトの辛辣さがどこから来たのか分かったような気がした。 熊のように自分の損やリスクを考えず、全てを投げ出してしまうような人を見続けたため。 そう思えば、恨みがましく思う気持ちは薄らいでいた。
熊がようやく目を覚ました。
「村人は?!」
むくりと起き抜けに言われれば、自分の苦労や精霊を無暗に使ってしまい後のお礼が大変だったことを思い出し、思わず手に持っていた本で熊の頭を殴ってしまう。
「ぇ?」
ポリポリと大きな肉球を持つ手が、頭をかくのを見て、私は言い訳を考える。
1、隙が多いぞ!
2、虫が止まっていたので
3、そんなんだから後ろから切りつけられるんですよ
とりあえず2を選ぶことにする。 ずっと寝たきりだった熊と私は初対面と変わらない訳ですから1や3は冗談にならず、険悪な状態になるかもしれない。 流石に熊と険悪になるのは避けたいと言うものです。
「そんな隙だらけだから、村人に殺されかけるんですよ」
ロトがワンランク上げて熊を責める。
私は会話を放棄しロトに任せることにして、部屋を後にしようとすれば、ロトに首根っこを掴まれた。
お嬢様と言って表面上はたててはくれてはいたが、熊の命を助ければ私に仕えると言ってからは扱いがズイブンとぞんざいになっているのが、どうにも気に入らない。
「さて、ゲーアノート、アナタの命を助けたのはお嬢様です。 そして、アナタの命を奪おうとしたのは村人です。 何か先に言うことはありませんか?」
逃げないように両肩を押さえられ、私は熊の前に差し出された。
ずもももも~~~という気配が熊を覆い、マジマジと私を見て、匂いを嗅ぐ。 これはかなり圧が強いです……、呪いと精霊は相性が悪く防御態勢に入っているのですが、大丈夫なのでしょうか? 大雨の中で屋根を失うのは遠慮したい。
チラリとロトを見上げれば、にっこりと作り笑いが返される。
「大丈夫です。 無暗に噛みついたりはしませんから。 いえ、もし噛みつくようなら切り捨ててさしあげましょう」
「せっかく苦労して助けたのに……」
「ふむ、これはこれは、若い魔女殿が命を助けてくれたのか、面倒をおかけした。 最後にあったときは、5つぐらいでしたかな? 私の事は覚えていられるだろうか?」
「熊に知り合いはいませんが……」
「それは、まぁ、そうでしょうね。 先代魔女殿とお会いする時は、強制的に人の姿にされていましたから。 王家に疑問を抱いた私に、手を差し伸べてくれたのが先代魔女殿でした。 まさか二代にわたって救われるとは、感謝いたします」
そう爽やかそうに熊が礼を述べた。
「いえ……お礼はロトに……私だけだったら、わざわざ熊の安全を確保し、治療しようなどと考えなかったでしょうし……」
「まぁ、それも、そうだ」
そう言って豪快に熊が笑った。
「おぉ、それで村人は?」
私はロトの顔をじっと見ていれば、ロトはニコニコ顔のまま熊に言う。
「知りません」
「なぜ、放っておく!!」
「あの雨の中でどうできると言うんですか!」
窓の外では雨と言うより水が落下していた。 まぁ、散々精霊達が危険だと唱えてきただけある。 流石にこの雨を見れば、道中訪れた村々に警告ぐらいしておくべきだったかと考えはしたけれど、私の警告を聞いてくれそうな人などいなかったし、後悔するほどの違いなどなかったでしょう。
「むしろ、こんな雨だからこそ助けを必要とするのだろう!!」
「あの~~~、お食事をお持ちしたんですけど、アソコにある大きな食器でよいんですよね?」
レピオスが恐る恐る顔を出す。
熊は怖いものだ。
そう、熊は人にとって怖い生き物だ。
熊は外見だけで、心が人間だと知っていてもやっぱり普通の人としては接触できない。 そう考えれば村人達を安易に責めることもできないと思ったが、もともと下にある村に熊は住んでおり、なんか色々あって流れてきた人に土地を明け渡したそうだ。
その発展を眺め続けたため、かなり情があるのだろうとロトが語っていた。
「だが、彼等は困ったからと言って何時も奪うだけだ」
「仕方がない、安定しないうちに子供が増えたからな。 いいぞ~~~子どもたちは偏見がなくてな」
嬉しそうに言えばロトが深い溜息をついていた。
善人……善人なのでしょうか? ふと私は聞いてみた。
「この雨は、ここで終わらず、風に流され国を横断していくことでしょう。 その場合、アナタの慈悲は何処から何処の範囲に向けられるのでしょう」
「……それは……」
シバラク考え込んだ熊は言う。
「平等に助力を行うべきではないだろうか?」
「アナタが?」
「生憎と俺が救えるのは両手の届く範囲だけだ。 この足で駆けつけることが出来る範囲だけだ。 国を守るのは……国王の役目だ」
一瞬、間が開いた。
国王一人で何が出来る。 国王が知恵者であり、ソレに良く従う周りがあれば国王の役目で済んだかもしれない。 だけど国王が特別でないならば、ソレは国を預かる王族、貴族の責任となる。 それぐらいのことは、政治とは関係のない妃教育を受けてきた私にでもわかる事だ。
なんだ……。
私は自分が普通の少女であるかのように、全てから逃げ出した。 まぁ、私に成り代わったアパテの存在がある以上、私は自分の役割を失ったのだから仕方がないし、アパテが私の責務を背負ってくれたと考えるべきでしょう。 私はそう自分に言い訳をした。
「そなたこそ魔女なら、なんとかでき……」
多分、私は冷ややかな目をしていた事でしょう。
「曾祖母に力を借りたなら、アナタは魔女の力に対価を必要とすることはご存知ですよね? だからこそ、曾祖母は王家との関係を懇意にしていたのでしょう」
私が日常的に付き合っている精霊は2人、精霊空間をつかわせてもらっているし、常に私の補佐をしてくれている精霊が1人。 それ以上となると日常範囲を超えるために、対価を算出しなければならない。
王都に精霊を集め、そこに精霊がいることが呪いへの威嚇となるのと訳が違う。
「アナタは、アナタを助けた私に過剰な力の行使を、私自身の終わりを望み、アナタを害した人間を救えと申されるのですか! 人を見ればカモだと思う者にも困りますが、偽善者と言うものは甚だ迷惑ですわ!! ロト、私はここに留まる事を了承することはできません」
私の肩を掴んでいるロトを見上げて私は言った。
「お嬢様の判断に同意いたします。 このような恩知らず、雨の中に放り出し、ココを乗っ取ってやるぐらいがちょうどよいでしょう」
ぇ、いや、そこまで言ったわけではないんですけど……。
キョトンとした私の顔に、とても上手な作り笑いでロトは言う。
「最初住んでいた場所を下の住人達に明け渡してやった度量の持ち主なのですから、恩人でありその曾祖母にまで面倒をかけた相手に、家の1つや2つ与えられない訳ないじゃないですかぁ~」
それはとても爽やかな笑顔だった。
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