12 / 35
12.少女に依存しなければならないほど、困っているのでしょうか?
しおりを挟む
私達は沢山話をした。
好きな食べ物や音楽。 ネズミではなく、ルークは王都の流行を色々教えてくれた。
「興味があるなら仕事の合間に行こう」
そう誘ってくれる。 そんな仕事とは関係のない良く分からない適当な会話を沢山して夜になり、伯爵家から迎えが訪れた。 挨拶もなく、早く馬車に乗るようにと促され……何の期待もしていないのに傷ついたような気になってしまった。
私のストレートの黒髪と首の間に隠れているネズミが、小さな手で首筋に触れてきた。 濡れた鼻先が首筋に当たれば冷たかった。
「何も緊張しなくていい、俺がいる」
耳元で語られる小さな声に耳がくすぐったく、私は文句の1つでも言おうとしたけれど、上手く声が出せず、何を言っていいのか分からず、結局頷くだけで終わってしまう。
そうしているうちに私は、裏の業者用の出入り口から、急かされるように屋敷へと促されました。
「お帰りなさいませ」
私と余り年の変わらない少女が言った。 美しいドレスを着ているところを見れば、使用人と言う訳ではないでしょう。
「コチラでお婆様がお待ちです」
廊下を歩けば、昔と比べてズイブンと天井が低く、薄暗く見えますが、私がそれだけ大人になったから……と、言うだけというには静かすぎます。 人の……魔力の気配はするので、人がいない訳ではなく、距離を置かれているだけでしょう。
応接室に入ると同時にイライラとした声がかけられました。 ですが、それは私が記憶している声と比べとても力のないものです。
「姉のフリーダが大変な目にあっているのに、アナタは顔を出そうともしない。 なんて、薄情な子でしょう」
顔を見るなりそう、ブツブツと言ってきたのは父……の母。 私から見れば祖母にあたる女性。 彼女は昔から私に対してだけでなく、全てのものに文句ばかりで、心の色は常に寂しいと叫んでいるような人で、口は悪いが私に特別悪意がある訳ではありません。
今も祖母の心は、強く不安の音色を奏でていました。
「お姉様、ソファにお座りくださいませ。 お茶をお入れしますわ」
知らない女の子が、あどけない様で声をかけてきます。
お姉様と私を呼ぶのは、単純に私の方が年上だからなのか? それとも、彼女が私の血の繋がった妹だからなのか? 魔力の色と言うものは、魔力の血統や属性を意味し、詳しく調べれば親子関係すら明確にすることができます。
魔力適正の高い……魔力的な視力が高い私ではありますが、彼女の魔力は余りにも細く判別できませんでした。 そして、感情の音色もまた一切読むことはできません。
この力を疎ましく感じた事はありますが、不安になった事は初めてでした。
ですが、魔力がほぼないからこそ、彼女の顔立ちは良く認識できます。 とても愛らしい方です。 年は16.7で、私より1つか2つ年下ぐらい。 金色の美しい巻き髪、白い肌、ピンクの頬、薄い空色の瞳ははかなげな印象を周囲に与える事でしょう。 道でスリ違えば大抵の者は彼女の姿をもう一度みようと振り返るのではないでしょうか?
「エミリーさん、お茶は結構です」
「ですが、お婆様、お姉様がわざわざ来てくださっておりますのよ?」
記憶にない少女ですが、これまでも会話から察するに父の愛人の子供であることは確かでしょう。
「御無沙汰(しております)」
「アナタは、喋らないで!!」
祖母は、やせ細り、実際の年齢以上に老いた姿で、甲高く叫んだ。
私は小さく息をつき、フードを深くかぶりなおし視線を伏せました。 私を出迎えたのが、妹と祖母のみというのは、この家の窮状を現していると言えるでしょう。
「エミリーさん、彼女をフリーダさんの所まで案内して頂戴」
「はい、お婆様」
私にとって、魔力はあって当然のもの。 それが、集中しなければ認識できないと言うのは、突然に目や耳を塞がれたような気がして気持ちが悪い。 ですが、これはとても良い経験のように思えました。 世間が私を見る時の気持ちがこんな感じなのでしょう。 そう思えば、許容しやすくもあるというものです。
妹だと言う彼女エミリーは、一人で賑やかに話をしています。
「ずっと、お姉様とはお会いしたいと思っておりましたのよ」
こう言う言葉は大抵、嘘なのだけど、心の音が聞こえない分、ただ高音で嬉しそうにはしゃいでいる声だけが耳に聞こえれば……単純ではありますが、言葉通りに意味を受け取りそうになるものです。
『この娘には、いや……この屋敷では気を許してはいけない』
そう、髪の間に隠れ、フードで隠されたネズミが緊張した様子で言ってきました。
『分かっていますわ』
もともと、自分を売り払った家なのですから……。
因みに、私とルークの間には魔術的な処置を行い、お互いに伝えたいことは言葉にせずとも伝わるようにしてあるのです。 少しばかり奇妙な魔力でしたが、訓練をすれば彼は……彼は良い魔術師になるでしょう。
姉の部屋は、今も記憶していた場所と同じでした。
扉の前には少しばかり疲れ切った侍女が2人、番人のように立っています。
「お姉様の様子はいかがですか?」
そう告げるエミリーに、向ける侍女達の思いは依存……でしょうか? それは教えられた状況を考えれば不思議だなと思った訳です。
好きな食べ物や音楽。 ネズミではなく、ルークは王都の流行を色々教えてくれた。
「興味があるなら仕事の合間に行こう」
そう誘ってくれる。 そんな仕事とは関係のない良く分からない適当な会話を沢山して夜になり、伯爵家から迎えが訪れた。 挨拶もなく、早く馬車に乗るようにと促され……何の期待もしていないのに傷ついたような気になってしまった。
私のストレートの黒髪と首の間に隠れているネズミが、小さな手で首筋に触れてきた。 濡れた鼻先が首筋に当たれば冷たかった。
「何も緊張しなくていい、俺がいる」
耳元で語られる小さな声に耳がくすぐったく、私は文句の1つでも言おうとしたけれど、上手く声が出せず、何を言っていいのか分からず、結局頷くだけで終わってしまう。
そうしているうちに私は、裏の業者用の出入り口から、急かされるように屋敷へと促されました。
「お帰りなさいませ」
私と余り年の変わらない少女が言った。 美しいドレスを着ているところを見れば、使用人と言う訳ではないでしょう。
「コチラでお婆様がお待ちです」
廊下を歩けば、昔と比べてズイブンと天井が低く、薄暗く見えますが、私がそれだけ大人になったから……と、言うだけというには静かすぎます。 人の……魔力の気配はするので、人がいない訳ではなく、距離を置かれているだけでしょう。
応接室に入ると同時にイライラとした声がかけられました。 ですが、それは私が記憶している声と比べとても力のないものです。
「姉のフリーダが大変な目にあっているのに、アナタは顔を出そうともしない。 なんて、薄情な子でしょう」
顔を見るなりそう、ブツブツと言ってきたのは父……の母。 私から見れば祖母にあたる女性。 彼女は昔から私に対してだけでなく、全てのものに文句ばかりで、心の色は常に寂しいと叫んでいるような人で、口は悪いが私に特別悪意がある訳ではありません。
今も祖母の心は、強く不安の音色を奏でていました。
「お姉様、ソファにお座りくださいませ。 お茶をお入れしますわ」
知らない女の子が、あどけない様で声をかけてきます。
お姉様と私を呼ぶのは、単純に私の方が年上だからなのか? それとも、彼女が私の血の繋がった妹だからなのか? 魔力の色と言うものは、魔力の血統や属性を意味し、詳しく調べれば親子関係すら明確にすることができます。
魔力適正の高い……魔力的な視力が高い私ではありますが、彼女の魔力は余りにも細く判別できませんでした。 そして、感情の音色もまた一切読むことはできません。
この力を疎ましく感じた事はありますが、不安になった事は初めてでした。
ですが、魔力がほぼないからこそ、彼女の顔立ちは良く認識できます。 とても愛らしい方です。 年は16.7で、私より1つか2つ年下ぐらい。 金色の美しい巻き髪、白い肌、ピンクの頬、薄い空色の瞳ははかなげな印象を周囲に与える事でしょう。 道でスリ違えば大抵の者は彼女の姿をもう一度みようと振り返るのではないでしょうか?
「エミリーさん、お茶は結構です」
「ですが、お婆様、お姉様がわざわざ来てくださっておりますのよ?」
記憶にない少女ですが、これまでも会話から察するに父の愛人の子供であることは確かでしょう。
「御無沙汰(しております)」
「アナタは、喋らないで!!」
祖母は、やせ細り、実際の年齢以上に老いた姿で、甲高く叫んだ。
私は小さく息をつき、フードを深くかぶりなおし視線を伏せました。 私を出迎えたのが、妹と祖母のみというのは、この家の窮状を現していると言えるでしょう。
「エミリーさん、彼女をフリーダさんの所まで案内して頂戴」
「はい、お婆様」
私にとって、魔力はあって当然のもの。 それが、集中しなければ認識できないと言うのは、突然に目や耳を塞がれたような気がして気持ちが悪い。 ですが、これはとても良い経験のように思えました。 世間が私を見る時の気持ちがこんな感じなのでしょう。 そう思えば、許容しやすくもあるというものです。
妹だと言う彼女エミリーは、一人で賑やかに話をしています。
「ずっと、お姉様とはお会いしたいと思っておりましたのよ」
こう言う言葉は大抵、嘘なのだけど、心の音が聞こえない分、ただ高音で嬉しそうにはしゃいでいる声だけが耳に聞こえれば……単純ではありますが、言葉通りに意味を受け取りそうになるものです。
『この娘には、いや……この屋敷では気を許してはいけない』
そう、髪の間に隠れ、フードで隠されたネズミが緊張した様子で言ってきました。
『分かっていますわ』
もともと、自分を売り払った家なのですから……。
因みに、私とルークの間には魔術的な処置を行い、お互いに伝えたいことは言葉にせずとも伝わるようにしてあるのです。 少しばかり奇妙な魔力でしたが、訓練をすれば彼は……彼は良い魔術師になるでしょう。
姉の部屋は、今も記憶していた場所と同じでした。
扉の前には少しばかり疲れ切った侍女が2人、番人のように立っています。
「お姉様の様子はいかがですか?」
そう告げるエミリーに、向ける侍女達の思いは依存……でしょうか? それは教えられた状況を考えれば不思議だなと思った訳です。
0
お気に入りに追加
375
あなたにおすすめの小説
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
冒険者をやめて田舎で隠居します
チャチャ
ファンタジー
世界には4つの大陸に国がある。
東の大陸に魔神族、西の大陸に人族、北の大陸に獣人族やドワーフ、南の大陸にエルフ、妖精族が住んでいる。
唯一のSSランクで英雄と言われているジークは、ある日を境に冒険者を引退して田舎で隠居するといい姿を消した。
ジークは、田舎でのんびりするはずが、知らず知らずに最強の村が出来上がっていた。
えっ?この街は何なんだ?
ドラゴン、リザードマン、フェンリル、魔神族、エルフ、獣人族、ドワーフ、妖精?
ただの村ですよ?
ジークの周りには、たくさんの種族が集まり最強の村?へとなっていく。
頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。
音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。
その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。
16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。
後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる