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4章

49.心が徐々に塗り替えられるように……

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 私は子供だ。
 手足は短いし、なにより魔術が仕えない現実。

 怖い……。

 私の恐怖に、2人の年配の侍女は寄り添ってはくれなかった。
 まるで人形のように、無表情に決められた行動しか行わない。

 感情を持って会話するのは国王陛下のみ。

「今朝もご飯を食べなかったようだね」

 夕食を共にすると言うルールでも定めているのかしら?

「食欲が無いの……」

「姫はまだ小さい。 大人になるためには、沢山ご飯を食べないと」

「私をハーレムに加えようと言う陛下なら、このまま小さい方が良いのではありませんか?」

 嫌味のように顔を顰めながら言っても笑われるだけ。

「まさか……私は、庶民の悪意によって小さなお姫様が洗脳され、不幸に気付かず自らを落としていくのを気の毒だと……そう、アナタを救いたいただそれだけです。 今は、まだ、私を信用できないかもしれません。 何時か真実に気付いてくれる事を信じていますよ」

 日中、時折お茶会にも陛下は訪れる。

 甘い菓子に、見慣れない果物。

「さぁ、お食べなさい。 うちの料理人が丹精込めて作ったものです。 味わって感想を聞かせて下さい。 小さなお姫様が喜んだと知れば料理人達も喜ぶ事でしょう」

 正直言って……私が(創造)で作ったものの方が美味しい。
 でも、頑張る料理人の人がいると思えば、残す事も出来なかった。

 陛下が来ない時は、侍女や見張りの親衛隊に、私の変わりに食事を済ませるように命じた。

 私が関わる人達は感情が無いのか? 排除しているのか? 感情を表す事を禁じられているのか? 雑談は無理。 それでも命令に従順で、私の行動が気に入らないからと言って強引に咎めるような事は無かった。

 それでも報告はされる。

「今日も食事をしなかったそうですね。 全く私のお姫様は寂しがり屋なんですから」

「食欲が無かっただけ」

「私がいないと食欲が出ないのでしょう?

 ニヤリと歪に陛下は笑い、私は黙って食事を勧めた。

 決して、陛下を信用したわけではないのに、陛下は何か誤解をしてしまったらしくて、それは私にとって幸運だったと言えるかもしれない。

 そう……考える事にした。

「陛下、ここは退屈だわ。 侍女の人達は遊んでくれないし。 本が欲しいわ」

「直ぐに準備させましょう。 どのような分野が好みですか?」

「綺麗な本がいい」

「そうですか……挿絵の多い可愛らしい物語を選ばせましょう」

 私に危害が無い事を3日で理解した。
 従順であれば出してもらえるだろうと演じる事にした。
 親しむふりをすればいいと割り切った。

 可愛い物が好きだと言えば、可愛い服が着せられ、綺麗に飾られた料理が出された。

 まるで物語の中のお茶会のように……。

「小さなお姫様。 君のために祝賀会のドレスを準備しようと思う。 パートナーとして参加してくれますよね?」

 Yesと言えば、外に出られる。
 人が大勢いる場なら、抜け出す方法も……。

「ぁっ……」

 反射的に声が漏れ……誤魔化すように喜んでいる表情を浮かべた。

 喜ぶ裏で考えるのは例え逃げ出す事が出来ても商会に所属する人達の家族が人質に取られるだけ。 陛下が本気で私が洗脳されていると考えているならダニエルとドナだって危険にあってしまう。

 身動きが取れない……。

「どうかしましたか?」

「そう言えば、そう言うのもあったなぁ~と。 でも、私、11歳で社交界デビューの年齢に足りないわ」

「特例として扱いますよ。 アナタは特別ですから」

 決して嬉しい言葉ではない。

 それでも……最初のような嫌悪感は失われた。
 手を握られて、背筋に走る嫌悪感は無くなっていた。

 それが大切だった人達に対する裏切りのように思えて、自分がどうすればいいのか分からなくなって混乱した。

「大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ」

「しゃ、社交会の事を考えると怖くて……」

「大丈夫です。 アナタに害をなす者はありません。 ファング商会を後ろ盾に私の婚約者となれば……ですが……」

「ダニエル達が、私を洗脳したと言っておいて彼等を利用しようって言うの?」

 ダメだ……。
 攻撃的になってはダメだ。

「彼等の改心を図るのですよ」

「彼等が私を利用しているだけなら、同意等するわけないわ」

 ダメだ折角の信頼を壊してはいけない。

「彼等が利用を恥じ得ているなら、アナタに懺悔をする事でしょう」

 我慢……我慢よ。

「そう……。 お茶のお代わりを貰っていいかしら?」

「まだ、私が信用できない? こんなに尽くしているのに」

 こんなところに閉じ込めて置いて……と言う言葉を飲み込んだ。

「疑問はその場で解決しておく方針だもの」

「そう、それは、理解できるよ。 なら、折角だ。 他にも疑問はありますか?」

「……なぜ、私を……」

 どう聞けばいいのか悩んだ。

 監禁しているの? と言えば、保護していると言うだろう。
 側に置きたいの? でも同じはず。

 どう、しよう??

「なに?」

 顔を寄せて問いかけて来る。

「大切にするの?」

「小さなお姫様の好意を勝ち取りたいからですよ。 一目惚れと言ったら信用してもらえますか?」

「私の事を何も知らずに?」

「色々と知っている。 君と信頼関係を放棄した事をマルコム・アビーは後悔していた」

「あぁ……なんだ」

 そう言えば、陛下は笑った。

「何よ」

「いえ、私の愛情を求めてくれているんだと実感出来たのが嬉しかったのですよ」

「そっ、れはないもの!!」

「照れなくても良いですよ」

 違うのに……でも、その誤解を利用できるように我慢しないと。

「凄い顔をしているけど、そんなに照れなくてもいいですよ。 あぁ、楽しくなってきた。 君のために最高のドレスを準備しましょう!!」



 そんな事を言っていた3日後、良く見知った人が現れた。

 ドレスデザイナーとしてホワイトサウス公爵、そして、その付き添いとしてドナが同行してきた。 コレはご褒美と言う奴だろうか?

「ぁっ!!」

 嬉々としてドナに飛びつこうとすれば、シーと人差し指がたてられた。

「さぁ、お嬢ちゃんの1日を見せてちょうだい」

 ホワイトサウス公爵は、騎士めいたガッシリとした体格だけどドレスを思わせる華やかな衣装を身にまとい、金色の髪を美しく流し、そして飾っている。 それに合わせてドナも可愛らしい侍女服を身に着けていた。

「アナタらしさを表現した特別なドレスを作りましょう」

「私らしさ?」

「そう。 どんな色が好き? どんな花が好き? どんな宝石が好き?」

「抱っこをしてもらうのが好き。 お姉さん、そこのソファで私を抱っこして?」

 そして私は久々に、ドナを側にお昼寝をした。



 翌日も、翌々日も、ホワイトサイス公爵が来て、部屋が可愛らしく飾られ甘いケーキのような部屋になった。

「あぁやって見張りの人が睨んでいては、折角のキラキラ、ふわふわを心から楽しめなくて、半分しか感謝できないわ」

 不貞腐れて文句を言った日から10日。 ようやく着替えや仮縫い侍女と親衛隊による見張りが排除された。
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