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3章

24.変化 02

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 侵略者の強襲。

 初代王の血を強く受け継ぐ王族は戦い敵と共に死亡した。

 初代王の因子が薄い息子の4人が公爵と言う地位を与えられ、長く続く歴史の中で王族の血を補給しながら今に至っている。

 4公爵家には広大な領地は与えられたが、政治にかかわる事は許されなかった。 その血に驕り王族と取って代わろうとすることを防ぐため、古い時代に定められたルール。 今は……王族は失われ、王族にのみ伝えられた秘密は失われた。

 そう思われている。



 王宮に響き渡る甲高い叫び。

「それは、どういう事ですか!! アナタは、いえ、文官達は揃いも揃って私を馬鹿にしていると言う認識でよろしいのですね!!」

 王の執務室には怒りの声が途絶えた事は無かった。

 今日は、王の誕生祝賀会を求められた文官が、今は相応しい次期ではないと伝えるために訪れていたのだった。

「私は、その……かつて王宮で行われたイベント予算、そして各地から集められる情勢、それらを踏まえて……今回は控えられるべきではと判断せざるえなかったと……」

「それが文官達の総意なのかと聞いているのです……」



 文官達の顔色は青色がかった泥のように悪かった。
 各地から集まる情報は、年々悪くなる情勢しか書かれていない。

 どれほど計算を行っても、水も食料も足りず、税収が減るどころか民の命が失われる状況であった。 暴動が御子なら無いのは、今はソレゾレの領主達が、武力で押さえ、資材を売り払い民の不満を抑えているから。

 だが、それが王が豪華な誕生祝賀会をしたいと駄々をこねてはどうなる?

 王家が蓄えた財を使えば、祝賀会も開けるだろう。
 だが、ソレをしてどうなる?
 民の不満や怒りは王宮に集まるだろう。

 挙句に3年破壊され修繕を終えた建物が、壊れ始めている。 材料費、人件費、あらゆる経費をけちったのだから当然の結果であるが、日々壊れていく建物を放っておけばケガ人が、いや下手をすれば死人だって出るだろう。

 いつこの気候の異常が終わるかもわからない中で、語らなければいけないのは王の誕生祝賀会の事ではないはずだ!!

 怒り……。
 苛立ち。

 寝ずに働く文官は王を前に限界が訪れようとしていた。

「こんな使えない報告が欲しかったのではありませんよ!!」

「ですから……」

「反論は聞きたく等ない!! 合同葬儀と共に行われた継承式……私をどれほど惨めな気分にしたか分かっているのですか!!」

「今は各所から不満が上がっている時期です。 耐えて下さい」

「いつになれば不満が収まると言うのですか!! 毎年毎年返される言葉は一緒、建国祭、豊穣祭、年越し、年明け、あらゆる祝い事を控えて……お前達は私にそれほどまで不満を持っているのか!!」

「そんな事はありません!! 私共がどれほど王のために尽くしているのか!!」

 限界、限界、限界、限界!!
 あぁ、もうダメだ!!

 文官の表情が変わっていたが王は気づく事は無かった。

「それに、私が子をなさずにいれば、また王位が途絶えるのですよ?」

 今にも文官が倒れそうになるのを見て、王の相談役となったマルコムは割って入った。 国がヤバイのは分かっている。 分かっているからこそ身を削りながら仕事をする者は大切にしなければならないと……。

「ですが、大々的に夜会を開くのは体裁が悪いと言うのも事実ですぞ。 そんな事で評判を落とすと言うのは余り面白くはありません。 どうです。 貴族達の娘を王宮に出仕するよう勧めて見れば」

「だが、国の権威が!! このままでは私を馬鹿にする者も出て来るだろう!! 無能な統治者だと言ってな」

「今は贅沢を権威と言う時期ではありません。 むしろ人々は援助を必要としている時です。 それに……」

 マルコムは王の耳元に囁いた。

『ブスを何百人と集めるために金を使うよりも、美女を集めた上で賢王と呼ばれる方が良いと思われませんか?』

「なるほど……分かった」

「では、王は自身の誕生祝いを最小規模に抑え、民に施しを行ったと言う形を取らせて頂いて宜しいですかな?」

 初代王が王位につく以前、ホワイトウェイ国があった場所は、荒涼とした大地で人も住めない地だったと記録されている。 それが、初代王とその眷属の出現を境に、近隣諸国の中で最も食物生産が盛んな土地となり栄華を確立していった。

 魔法等、必要としないほどに……。

 だが、今は年々上昇する気温のせいで、川、湖、井戸、あらゆる水量は減少していた。 何百年も変わらず作っていた作物の収穫量は年々減少し、今年はどれほど励んでも一家が食べるのにやっとという量がようやく収穫できるだけで治める税は無い、むしろ、水の奪い合いで血で血を洗うような争いが起こっていると言う。

「確かに、マルコムの言うとおりだ。 だが、どこにその支援を行うべき食糧があると言うんだ。 かつて王国1位の商人であったソナタなら何処からともなく食料を準備できるのだろうな。 あぁ、そうだ。 各地に暴動が起きないよう支援品を準備するのは、オマエに任せよう!! 光栄だと思え」

 王の言葉にマルコムの頬はヒクヒクと痙攣させた。 だが、次の瞬間にはにこやかに微笑んで見せる。

「王命、お受けいたしましょう。 ですが、私は魔導師ではありません。 食料を準備するにしても、雨を降らせる魔導師を招くにしても、タダで得られるものではありません。 王宮の宝物庫の品を売却する事を許可くださいませ」

「国の財産に手を付ける等、オマエは簒奪者にでもなろうと言うのか。 かつて王国1位の、いや近隣国を含めても最強と言わせた商人としての力を見せつけてくれ」

 嫌味たらしく王は言う。

「何もない所から財を生み出せるような存在、それは神にしか出来ぬ奇跡でございます。 私は王家の血が欠片も入っては居ない下民の出でございます。 陛下に無理な事を出来ようはずがありません」

 王は舌打ちと共にソレを許可するのだった。
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