上 下
12 / 54
1章

11.侯爵夫婦と初めての社交界 01

しおりを挟む
 期待と不安があった。

 ケイン・シルヴァン侯爵家当主……。
 名ばかりの侯爵家。
 名ばかりの当主。

 初めての社交界だった。



 生まれた時から、領地は無く、屋敷はボロボロうっかり床と共に落ちる事もあるから一部の部屋以外は立ち入りが禁じられている。 親(エリスの祖父母)は広い敷地を畑として有効活用し、質素に生きていた。

 納得いかなかった。

『私は、貴族として正しく生きたい!!』

『ならば魔導師となるか?』

『それは……』

 嫌だった。

 魔導師は、嫌われるから。
 魔法を使うのが怖いから。

『魔法を使う事を拒否した時から、我が家は貴族としての資格は失っているのですよ』

 魔導師を3代出さなかった事で恩給は何代も前に停止された。
 現当主ケインの祖父母の代には、貴族として忘れ去られた。



 貴族として……王宮に来る日が来るなんて……ケインは感慨深く許される範囲の王宮見学を妻と行っていた。

 妻の事は愛していた。

 思った事を発言できる意思の強さ、商売への積極性、王都中央に屋敷を持ちたいと言う夢を一緒に見てそして叶えてくれた。 良い妻だ……。

「あっちにもこっちにも金になりそうなものが放置されていて、コレは貰って良いって事だと思う?」

 そう声を大きく言えば、憲兵や周囲の貴族から冷ややかな視線が向けられ警戒された。

 尊敬し愛していた妻を見る目が変わりそうで……ケインはたしなめた。

「そう言う事を言うものではない」

「あら、冗談じゃない。 でも、私達の税金で得たなら、私達のものも同然でしょう。 皆、王宮をもっとしるべきだわ」

 妻エッダの言う皆とは、彼女が育った王都中央町の庶民達。
 ケインは、良い言葉が思い浮かばず黙り込んだ。



「とても華やかじゃないか、今はそれを楽しもう」

 誤魔化すようにたしなめた。

「そうね、とても素敵。 楽しまないと損だわ」

 うふふと広い廊下を両手を広げて、ケインを中心に回りだすから、ケインは慌てて抱き寄せた。

「あら……」

 腕にしがみ付くように照れながらエッダはケインを見つめる。

「会場に行こう」

「そうね」



 ひそひそ
 こそこそ



 建国祭の会場に行けば2人は注目を集めた。
 そして視線をそらされ、人々は覗き見るように2人を見た。



 居心地が悪い……ケインは冷や汗を流す。

 覗き見るように見られ、視線で馬鹿にされ、抑えた声で笑われている事にケインは気づきエッダは気づかない。



「おやおや、とても……素敵なドレスですな」

 声をかけて来たのはアダ―商会の会頭だった。

 エッダは嫌な顔をしたが、すぐにニッコリと笑って見せる。

「えぇ、由緒正しいシルヴァン侯爵家に伝わる品ですの!!」

 得意そうにエッダが語れば、囁き笑いが大きくなった。
 ケインの手の中は汗で濡れていた。

「なるほど、とても似合いですよ」

 ぷーくすくすと吹き出すように笑われ、流石にエッダも気分を害した。 庶民を見下す貴族をいちいち相手してはいられない。 この世界は庶民が回していて、貴族なんて金を搾取するだけのもの知らずなのだから。

「はぁあああ?! 言いたいことがあればハッキリ言いなさいよ」

「エッダ!! 止めるんだ」

「だって、私の事を馬鹿にした!! 私を馬鹿にするって事はアナタも馬鹿にされていると言う事なのよ!! 怒りなさいよ!!」

「彼女達が笑うのは仕方がない事です。 露出を控え、細い腰をアピールし、スカートを広げ、ふんだんに使われた繊細なレースと刺繍、それは確かに現代にも通用する流行ですが、時代遅れの分厚い布地、生地が色落ちし、刺繍の糸が切れ、ソレをそのまま着て来るのですから……笑われるのも仕方がないと言うものですよ。 折角、私が王族の方に招待状を出して欲しいと願ったにもかかわらず……その機会を不意にし、自ら笑いを取りに来るとは、注目を集めたいなら他にもやりようがあったでしょう?」

「なっんて卑怯な!! 呼び出して馬鹿にするつもりだったのね!!」

「いえいえ、商売の機会を差し上げたかっただけですよ。 悪考えは良くありませんよ。 それよりも……侯爵殿。 お初にお目にかかります。 どうです? 奥様を抜きに私共と手を組みませんか? 世間は奥様の言動を下品だと嫌っておりますが、侯爵殿であれば別ですよ。 きっと良い取引ができるはずです」

しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

聖女の紋章 転生?少女は女神の加護と前世の知識で無双する わたしは聖女ではありません。公爵令嬢です!

幸之丞
ファンタジー
2023/11/22~11/23  女性向けホットランキング1位 2023/11/24 10:00 ファンタジーランキング1位  ありがとうございます。 「うわ~ 私を捨てないでー!」 声を出して私を捨てようとする父さんに叫ぼうとしました・・・ でも私は意識がはっきりしているけれど、体はまだ、生れて1週間くらいしか経っていないので 「ばぶ ばぶうう ばぶ だああ」 くらいにしか聞こえていないのね? と思っていたけど ササッと 捨てられてしまいました~ 誰か拾って~ 私は、陽菜。数ヶ月前まで、日本で女子高生をしていました。 将来の為に良い大学に入学しようと塾にいっています。 塾の帰り道、車の事故に巻き込まれて、気づいてみたら何故か新しいお母さんのお腹の中。隣には姉妹もいる。そう双子なの。 私達が生まれたその後、私は魔力が少ないから、伯爵の娘として恥ずかしいとかで、捨てられた・・・  ↑ここ冒頭 けれども、公爵家に拾われた。ああ 良かった・・・ そしてこれから私は捨てられないように、前世の記憶を使って知識チートで家族のため、公爵領にする人のために領地を豊かにします。 「この子ちょっとおかしいこと言ってるぞ」 と言われても、必殺 「女神様のお告げです。昨夜夢にでてきました」で大丈夫。 だって私には、愛と豊穣の女神様に愛されている証、聖女の紋章があるのです。 この物語は、魔法と剣の世界で主人公のエルーシアは魔法チートと知識チートで領地を豊かにするためにスライムや古竜と仲良くなって、お力をちょっと借りたりもします。 果たして、エルーシアは捨てられた本当の理由を知ることが出来るのか? さあ! 物語が始まります。

華都のローズマリー

みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。 新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!

隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。 ※三章からバトル多めです。

処理中です...