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1章
11.侯爵夫婦と初めての社交界 01
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期待と不安があった。
ケイン・シルヴァン侯爵家当主……。
名ばかりの侯爵家。
名ばかりの当主。
初めての社交界だった。
生まれた時から、領地は無く、屋敷はボロボロうっかり床と共に落ちる事もあるから一部の部屋以外は立ち入りが禁じられている。 親(エリスの祖父母)は広い敷地を畑として有効活用し、質素に生きていた。
納得いかなかった。
『私は、貴族として正しく生きたい!!』
『ならば魔導師となるか?』
『それは……』
嫌だった。
魔導師は、嫌われるから。
魔法を使うのが怖いから。
『魔法を使う事を拒否した時から、我が家は貴族としての資格は失っているのですよ』
魔導師を3代出さなかった事で恩給は何代も前に停止された。
現当主ケインの祖父母の代には、貴族として忘れ去られた。
貴族として……王宮に来る日が来るなんて……ケインは感慨深く許される範囲の王宮見学を妻と行っていた。
妻の事は愛していた。
思った事を発言できる意思の強さ、商売への積極性、王都中央に屋敷を持ちたいと言う夢を一緒に見てそして叶えてくれた。 良い妻だ……。
「あっちにもこっちにも金になりそうなものが放置されていて、コレは貰って良いって事だと思う?」
そう声を大きく言えば、憲兵や周囲の貴族から冷ややかな視線が向けられ警戒された。
尊敬し愛していた妻を見る目が変わりそうで……ケインはたしなめた。
「そう言う事を言うものではない」
「あら、冗談じゃない。 でも、私達の税金で得たなら、私達のものも同然でしょう。 皆、王宮をもっとしるべきだわ」
妻エッダの言う皆とは、彼女が育った王都中央町の庶民達。
ケインは、良い言葉が思い浮かばず黙り込んだ。
「とても華やかじゃないか、今はそれを楽しもう」
誤魔化すようにたしなめた。
「そうね、とても素敵。 楽しまないと損だわ」
うふふと広い廊下を両手を広げて、ケインを中心に回りだすから、ケインは慌てて抱き寄せた。
「あら……」
腕にしがみ付くように照れながらエッダはケインを見つめる。
「会場に行こう」
「そうね」
ひそひそ
こそこそ
建国祭の会場に行けば2人は注目を集めた。
そして視線をそらされ、人々は覗き見るように2人を見た。
居心地が悪い……ケインは冷や汗を流す。
覗き見るように見られ、視線で馬鹿にされ、抑えた声で笑われている事にケインは気づきエッダは気づかない。
「おやおや、とても……素敵なドレスですな」
声をかけて来たのはアダ―商会の会頭だった。
エッダは嫌な顔をしたが、すぐにニッコリと笑って見せる。
「えぇ、由緒正しいシルヴァン侯爵家に伝わる品ですの!!」
得意そうにエッダが語れば、囁き笑いが大きくなった。
ケインの手の中は汗で濡れていた。
「なるほど、とても似合いですよ」
ぷーくすくすと吹き出すように笑われ、流石にエッダも気分を害した。 庶民を見下す貴族をいちいち相手してはいられない。 この世界は庶民が回していて、貴族なんて金を搾取するだけのもの知らずなのだから。
「はぁあああ?! 言いたいことがあればハッキリ言いなさいよ」
「エッダ!! 止めるんだ」
「だって、私の事を馬鹿にした!! 私を馬鹿にするって事はアナタも馬鹿にされていると言う事なのよ!! 怒りなさいよ!!」
「彼女達が笑うのは仕方がない事です。 露出を控え、細い腰をアピールし、スカートを広げ、ふんだんに使われた繊細なレースと刺繍、それは確かに現代にも通用する流行ですが、時代遅れの分厚い布地、生地が色落ちし、刺繍の糸が切れ、ソレをそのまま着て来るのですから……笑われるのも仕方がないと言うものですよ。 折角、私が王族の方に招待状を出して欲しいと願ったにもかかわらず……その機会を不意にし、自ら笑いを取りに来るとは、注目を集めたいなら他にもやりようがあったでしょう?」
「なっんて卑怯な!! 呼び出して馬鹿にするつもりだったのね!!」
「いえいえ、商売の機会を差し上げたかっただけですよ。 悪考えは良くありませんよ。 それよりも……侯爵殿。 お初にお目にかかります。 どうです? 奥様を抜きに私共と手を組みませんか? 世間は奥様の言動を下品だと嫌っておりますが、侯爵殿であれば別ですよ。 きっと良い取引ができるはずです」
ケイン・シルヴァン侯爵家当主……。
名ばかりの侯爵家。
名ばかりの当主。
初めての社交界だった。
生まれた時から、領地は無く、屋敷はボロボロうっかり床と共に落ちる事もあるから一部の部屋以外は立ち入りが禁じられている。 親(エリスの祖父母)は広い敷地を畑として有効活用し、質素に生きていた。
納得いかなかった。
『私は、貴族として正しく生きたい!!』
『ならば魔導師となるか?』
『それは……』
嫌だった。
魔導師は、嫌われるから。
魔法を使うのが怖いから。
『魔法を使う事を拒否した時から、我が家は貴族としての資格は失っているのですよ』
魔導師を3代出さなかった事で恩給は何代も前に停止された。
現当主ケインの祖父母の代には、貴族として忘れ去られた。
貴族として……王宮に来る日が来るなんて……ケインは感慨深く許される範囲の王宮見学を妻と行っていた。
妻の事は愛していた。
思った事を発言できる意思の強さ、商売への積極性、王都中央に屋敷を持ちたいと言う夢を一緒に見てそして叶えてくれた。 良い妻だ……。
「あっちにもこっちにも金になりそうなものが放置されていて、コレは貰って良いって事だと思う?」
そう声を大きく言えば、憲兵や周囲の貴族から冷ややかな視線が向けられ警戒された。
尊敬し愛していた妻を見る目が変わりそうで……ケインはたしなめた。
「そう言う事を言うものではない」
「あら、冗談じゃない。 でも、私達の税金で得たなら、私達のものも同然でしょう。 皆、王宮をもっとしるべきだわ」
妻エッダの言う皆とは、彼女が育った王都中央町の庶民達。
ケインは、良い言葉が思い浮かばず黙り込んだ。
「とても華やかじゃないか、今はそれを楽しもう」
誤魔化すようにたしなめた。
「そうね、とても素敵。 楽しまないと損だわ」
うふふと広い廊下を両手を広げて、ケインを中心に回りだすから、ケインは慌てて抱き寄せた。
「あら……」
腕にしがみ付くように照れながらエッダはケインを見つめる。
「会場に行こう」
「そうね」
ひそひそ
こそこそ
建国祭の会場に行けば2人は注目を集めた。
そして視線をそらされ、人々は覗き見るように2人を見た。
居心地が悪い……ケインは冷や汗を流す。
覗き見るように見られ、視線で馬鹿にされ、抑えた声で笑われている事にケインは気づきエッダは気づかない。
「おやおや、とても……素敵なドレスですな」
声をかけて来たのはアダ―商会の会頭だった。
エッダは嫌な顔をしたが、すぐにニッコリと笑って見せる。
「えぇ、由緒正しいシルヴァン侯爵家に伝わる品ですの!!」
得意そうにエッダが語れば、囁き笑いが大きくなった。
ケインの手の中は汗で濡れていた。
「なるほど、とても似合いですよ」
ぷーくすくすと吹き出すように笑われ、流石にエッダも気分を害した。 庶民を見下す貴族をいちいち相手してはいられない。 この世界は庶民が回していて、貴族なんて金を搾取するだけのもの知らずなのだから。
「はぁあああ?! 言いたいことがあればハッキリ言いなさいよ」
「エッダ!! 止めるんだ」
「だって、私の事を馬鹿にした!! 私を馬鹿にするって事はアナタも馬鹿にされていると言う事なのよ!! 怒りなさいよ!!」
「彼女達が笑うのは仕方がない事です。 露出を控え、細い腰をアピールし、スカートを広げ、ふんだんに使われた繊細なレースと刺繍、それは確かに現代にも通用する流行ですが、時代遅れの分厚い布地、生地が色落ちし、刺繍の糸が切れ、ソレをそのまま着て来るのですから……笑われるのも仕方がないと言うものですよ。 折角、私が王族の方に招待状を出して欲しいと願ったにもかかわらず……その機会を不意にし、自ら笑いを取りに来るとは、注目を集めたいなら他にもやりようがあったでしょう?」
「なっんて卑怯な!! 呼び出して馬鹿にするつもりだったのね!!」
「いえいえ、商売の機会を差し上げたかっただけですよ。 悪考えは良くありませんよ。 それよりも……侯爵殿。 お初にお目にかかります。 どうです? 奥様を抜きに私共と手を組みませんか? 世間は奥様の言動を下品だと嫌っておりますが、侯爵殿であれば別ですよ。 きっと良い取引ができるはずです」
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