上 下
6 / 54
1章

06.観光馬車で王宮入り。 静止されないってオカシイよね?

しおりを挟む
 馬鹿馬鹿しい……。

 私は古いベッドに身体を投げ出した。
 古い部屋の床は、小さな私が歩くだけでもギシギシと音を立てるような部屋だけど、見た目と違いマッドレスは心地よい物に改造した。 コロンと転がり、天井間際の壁の穴から零れる日の光を眺める。

 地下は快適だけど、日の光が入らないと言う欠点があって、私は久々の日の光に直ぐにウトウトしてしまった。

 ウトウトする中、能天気にハシャグ両親の顔が脳裏をよぎってイラっとした。

いえ……父の長話に疲れたからと言う方が正しいのかな?

 両親の地に足のつかない思考に……。
 毎回振り回され言われるままになる私に……。
 何故か泣きたい気分になっていた。

 それでも感情のままに泣いてしまえば、両親は怒り出す事は……過去の経験から分かっているから、私は夢の中に落ちていく。

 父も、母も……嫌いだ。

 両親には、アダ―商会に出荷していた美容用品以外に作り出す力がある事は秘密にしている。 親相手に秘密に出来るのか? そう思うかもしれない。

 だけど『夢渡り』によって年不相応な言動をする私を両親は気持ち悪がっていたから……。プライドの高い両親は、私に便利で使える力がある事を受け入れたくないと思っているから……。 だから……両親は私の力を確認していない。 交流を持とうなどと欠片もしない。

 先祖の遺産は大事だけど……。
 私も他の兄弟のように祖父母の元に行きたくなる……。
 自分で選んだ事なのに。

 親が馬鹿って辛いなぁ~~。



 建国祭の日、両親は随分と古びた衣装を着ていた。 シルヴァン侯爵家が栄華を極めていた時代の年代物だけど、超一流の品だ。 型は古いけれど、布地もよく、レースも細かな刺繍、縫い付けた小さな宝石、骨董と呼ばれるだろう衣装だった。

 これは一周回って、認められるだろう物を選んできていた事に、少し驚いた。 そして、私には流行りの子供用のワンピースを準備し、髪を整えてくれた……。

 お母様……。

 私を着飾る母にほだされる気には慣れなかった。 幼女好きな王族に私を譲った対価として商売の後ろ盾を得ようとしているのだから……。

 夢渡りを使っていなかったら……もっと幸せを感じる事ができたのでしょうか? 無ければ生き抜く事すら難しかっただろうけど、考えずにはいられない。

「それで、王族の方々への土産は準備したのか?」

 心配なら事前確認ぐらいすればいいのに、直前までこの夫婦は私を無視していた。

 計画性が無い……。
 呆れる。

「隣の部屋に……」

 バスグッズのギフトセット、ボディソープ、シャンプー、コンディショナー、花形の石鹸、香りは数種類準備してある。 ポイントはソレだけで価値のある美しいガラスの入れ物。 王族の人ともなれば自分で身体を洗わないかもしれない。 だけど、香りとガラス瓶の美しさには価値を見出すはず。

 1セットを可愛らしい籠に入れ枯れない花で飾りつけ、ソレを箱に入れてある。 そして大きな箱で100セット準備した。 何しろ数百年前や異世界の知識は夢渡りで得る事が出来るけれど、今の情報を得る手段がないから、貴族様がどれぐらいいるか想像つかないのですよね?

「なんて、素敵。 どうして、これを最初から出さないのよ!! コレがあればアダ―商会や、貴族の小娘からあのような扱いを受ける事等無かったでしょうに!!」

 素敵と言いつつ母は怒り出す。

「止めるんだ……出し惜しんだからこそ、王族との関係構築に仕えると言うものだ」

 両親は勝ち誇った顔をしていた。



 荷馬車しかない我が家は、王都観光用の貸し切り馬車を借り、父が御者を務め王宮へと向かった。

 古いし大きいし……色々不便だけど、ホロがついただけのうちの荷馬車よりは良いでしょう。 いかにも観光に参ります的な馬車で王宮に訪れるのは不向きなハズだった。 追い出されるだろうぐらいに思っていた。 だけど、警備の者に止められるだろうと思っていたのにすんなりと通れた。

 アレ??

 夜会には社交界デビューを終えた15歳以上の子でないと参加できない。 礼儀の無い子供を招く事で過去に大きな騒ぎとなった事があると言う事で、かなり厳しく取り締まられているはずなのに?

 だから窓にカーテンをつける程度で誤魔化せるなんて思わなかった。

 マジで変態な王族を……。
 勘弁して欲しい!!
 叫びたくなるのを必死に我慢し、これからどう誤魔化すかばかりを考える。

 馬車列をカーテンの隙間から見れば、私達が乗っているような大きな荷馬車めいた馬車も多く並んでいた。

 なんだろう?

 そう思うけど……浮かれた母に声をかけるのは気が引け、それに社交界に初めて招かれる……両親が理由を知る訳がないと思っていた。 凄く凄く数が多くて、中にはうちの馬車よりも酷く古いものがあって、気になって仕方が無かったけど、来てはいけない場所に来ている私には問いかけ疑問の答えを求める相手もいない……。

 両親には聞いても無駄ですし?
 何故?
 建国祭ってこんな感じなの?

 脳裏に巡る疑問。

「何を不機嫌そうな顔をしているのよ。 そんな事で王族の方の興味を引けると思っているの? この日のため、アナタにだけは新しいドレスを容易したと言うのに。 私だって!!」

 ガタンッと馬車が止まり、王宮の入り口である門をくぐった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

【完結】やり直しの人形姫、二度目は自由に生きていいですか?

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「俺の愛する女性を虐げたお前に、生きる道などない! 死んで贖え」  これが婚約者にもらった最後の言葉でした。  ジュベール国王太子アンドリューの婚約者、フォンテーヌ公爵令嬢コンスタンティナは冤罪で首を刎ねられた。  国王夫妻が知らぬ場で行われた断罪、王太子の浮気、公爵令嬢にかけられた冤罪。すべてが白日の元に晒されたとき、人々の祈りは女神に届いた。  やり直し――与えられた機会を最大限に活かすため、それぞれが独自に動き出す。  この場にいた王侯貴族すべてが記憶を持ったまま、時間を逆行した。人々はどんな未来を望むのか。互いの思惑と利害が入り混じる混沌の中、人形姫は幸せを掴む。  ※ハッピーエンド確定  ※多少、残酷なシーンがあります 2022/10/01 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2021/07/07 アルファポリス、HOT3位 2021/10/11 エブリスタ、ファンタジートレンド1位 2021/10/11 小説家になろう、ハイファンタジー日間28位 【表紙イラスト】伊藤知実さま(coconala.com/users/2630676) 【完結】2021/10/10 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

『絶対に許さないわ』 嵌められた公爵令嬢は自らの力を使って陰湿に復讐を遂げる

黒木  鳴
ファンタジー
タイトルそのまんまです。殿下の婚約者だった公爵令嬢がありがち展開で冤罪での断罪を受けたところからお話しスタート。将来王族の一員となる者として清く正しく生きてきたのに悪役令嬢呼ばわりされ、復讐を決意して行動した結果悲劇の令嬢扱いされるお話し。

「お前は魔女にでもなるつもりか」と蔑まれ国を追放された王女だけど、精霊たちに愛されて幸せです

四馬㋟
ファンタジー
妹に婚約者を奪われた挙句、第二王女暗殺未遂の濡れ衣を着せられ、王国を追放されてしまった第一王女メアリ。しかし精霊に愛された彼女は、人を寄せ付けない<魔の森>で悠々自適なスローライフを送る。はずだったのだが、帝国の皇子の命を救ったことで、正体がバレてしまい……

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

処理中です...