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 季節は巡る。
 そして、人は、人の関係は変化する。

 教師曰く、庶民入学の者が必死に勉強に励む中、交流中心に学生生活を送る貴族。 庶民は学業を通じて様々な成果を残す。

 4年にもなれば、卒業後の就職先……その多くは王宮勤務へと決まり、残り2年はより専門性の高い勉学に励むこととなる。 

 これが大きな問題となった。

 貴族の子達が

『オマエは4年間の間何をやっていたのだ!!』

 そう言われ出す時期なのだと先生たちは語った。 毎年の事なら何とか対策をしてくださいよ!! と、言ってみれば、既に対策として教室を離してあると言われた。 逃げても追いかけて来るのだから、困ったものだ……。





「オマエ達が庶民に生まれた理由を教えてやろう」

 突然に目の前に現れた貴族達が道を塞ぐ。

 コソコソと逃げていく庶民出身の生徒。 触らぬ神に祟りなし……私だって自分に関係の無い成績優秀者がイジメにあっていても関係ないと逃げるだろう。 残念ながら、それが世の中と言うものだ。

 うんうん……。

「何を頷いてやがる!!」

 基本的何をやっても気に入らない貴族の人達だ……簡単に怒るのが面白い。 とは言え……一応言いたい事の半分も言語化していないのだから、神様も許してくれるだろう。

「あなたが教えてやろうといい、私が頷いた。 そこに何の問題が?」

「ぇ?」

 この程度なのだから、気を病むだけ無駄と言うものだ。

「おぃ!! ぇ、じゃなくて……。 庶民の癖に、話を聞く態度がなってないんだ!!」

「なるほど、ではどうか、お話しくださいませ。 用が無ければ失礼します。 結構忙しいのですよ」

 来た道を引き返そうとすれば、慌てて道を塞ごうとしてくるが……私は見事回避し逃げ去ろうとした。 これでも私は身軽なのだ。

「では、失礼します!!」

 そんなところに、エドウィンが走り寄ってくる。

「ニーィニャァアアアア」

 ドン、ガシッ!!

 まるで猫を呼ぶように彼が叫べば、エドウィンが駆ける道が開かれ……そして、ジャンプと共に抱き着いて来た。 流石に最近となればこのはた迷惑な生き物に対して“なんてカワイイ生物”なんて思う訳等ない。 と言うか、にっこり微笑み見上げて来る表情を邪悪にすら感じてしまう。

「なぁに、何しているの?」

「何もしていません。 していないからこそ、ここから去ろうとしていた所です。 離してもらえますか?」

「ぇ、嫌だよ。 折角会えたのに……」

 まるで恋をしているかような言葉だけど、もう、騙される気になるか!! と、言う程度の事は繰り返されていた。

「あぁ、流石猊下です。 この悪魔が逃げようとしていた所を捕らえてくれるなんて」

「悪魔?」

 その言い分は私も初耳でエドウィンと共に貴族の方を見た。

「そう、悪魔なのです!!」

「へぇ、面白いね。 ねっ、そう思うよね。 ニーニャ」

 私に抱き着いたまま……少女のような外見からは想像もつかない力で私を拘束しながら、微笑みと共に聞いて来た。

「何処に面白い要素があるんですか」

 騒げば負け、私は淡々と答えた。

「そう? 僕は面白いと思うのに……君は違うの?」

 違う事がオカシイとでも言うように彼は言い、私は私を掴む両腕を引きはがそうとしたが……小さい癖に腕力は強い。

「自分の可能性を狭めるのは良く無い事だよ。 それに話を少し聞くぐらいいいじゃない? それで、君の意見を聞かせてもらえるかな?」

 ニッコリとエドウィンが微笑めば、頬を赤らめる。 決して私ではなく、エドウィンの出現から棒立ちになっている貴族がだ。 そして、貴族は叫ぶように言うのだ。

「有難うございます猊下!! 彼女は独善的で身勝手、おのが利益ばかりを考え……そして、まともな教育を受けた訳でもないのに特待生の立場にあるのは、彼女が悪魔だからです。 そこから導きだされるのは、庶民として生まれると言う事は魂がケガレていると言う事なのです!!」

「へぇ、面白い仮説だねぇ~」

「彼女達は俺達貴族と違って魂が汚れている。 だから地位も名誉も無い庶民に生まれた!!」

「地位と名誉……そこに金を含めなかったのは、あなた方貧乏なんですね?」

 イラっとした勢いで言えば……エドウィンに抱きつかれ固定されていた私は、抵抗する余地など与え荒れず殴られ……そして……殴り返した。

「なっ、にをするんだ下民の分際で!! いや、これが悪魔ゆえか……恐るべし」

「すみませんね。 魂が汚れていますので。 衝動的に生きているんですよ」

「庶民の癖に生意気だ!!」

「今の言葉の何処が生意気なのか、そんなんだから劣等感に苛まれる事になるんですよ」

 声高に声があげられる私を囲む貴族の周囲には、巻き込まれまいとしながらも人が集まり眺めていた。 そして中には私に同情的な者もいたらしく……その人は私にとっての慈悲であり自制であり救世主を連れてきてくれた。

「退きなさい」

 淡々と静かな言葉だが、貴族は飛びのいた。

 ブラッドの何が、彼を学年1位としているのか? 何を研究しているのか? 実は長い付き合いだが私も良く分かっていない。 色々と特技が多過ぎると言うのもまた大変……大変なのかなぁ?

 ブラッドを前に貴族が飛びのいたが、それは個人的な弱みを握られているからと言う話だが問題はそこではない。 貴族達の多くが学園内で堂々と違法薬物を使っており、ソレを通報するだけで結構大変な事になると言う事実を学生の大半が知っている。 重要なのは情報の使い方と言う奴なのだろう。

 ブラッドは、私に抱き着くエドウィンを引きはがして、私の額をコツンと軽く小突いたブラッドは言う。

「貧乏だとか、低能とか、低俗とか、そんな図星を語ればプライドの高い貴族様はガラスの心が脆くも傷つくと言うものです。 敵を作らないためにも控えた方が良いですよ」

「は~い」

 割と何時ものごとく通常運用。

 そしてブラッドはエドウィンとニコニコと視線を合わせた。

「そのような教義、聞いた事はありませんが? 聖典の何章でしょうか?」

 問いかけるのはブラッド。

「そのような攻撃的な態度が……彼等の純粋な魂を邪に染めるのと怯えられているのではありませんか?」

 エドウィンがブラッドの質問に答える事無くウフッっとお茶目を気取って笑う。

「流石に庶民の魂は汚れていると言うのは、教皇猊下の趣旨として不味いのではありませんか?」

 そっとエドウィンの手の届かぬように、背の後ろに隠してくれた。

「そうかな? 面白いと思うよ。 僕ならうまく使いこなせる」

 気づけば物騒な会話をしているし……。

「教皇猊下を庶民の味方に据える事で、王族の強硬な政策を推し進めると言うのが、この国の方針。 それが、オマエ達は汚れている!! なんて、やってしまっては国としてのバランスが崩れてしまうと言うものです。 あのような馬鹿げた事は、止めさせた方が良いですよ」

 私は、チラリとブラッドとエドウィンを交互に見た。

「ここにいた貴族の方々は、酒と薬を一緒に乱用した事で混乱されているようですね。 ご迷惑をおかけしました」

 そう微笑みながら、ぴょこんとエドウィンはお辞儀をする。

「さぁ、君達行くよ」

「大丈夫ですか?」

「えぇ……不気味だっただけで特に害はありません」

 それで大人しくなってくれれば良かったのだけど……嫌がらせは、より幼稚なものへと進化していったのだから質が悪いと言うものです。
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