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08.幻獣騎士団

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 人としての生を終えて、幻獣として生まれなおし10日、私は人でなくなったと言うのに、人として幸福な時間を送っている。

 人として。

 ディルクと言うこの国の第三王子の秘書兼恋人として。

 人と子竜、全く異なる大きさ、姿へと変化できるのだから、翼、尾、角を消すぐらいできるだろうとロイス副団長に言われたのですが、角だけはどうしても消すことが出来ず。 髪と装飾品で隠すことになった。

 おかしなものですよね。

「可愛い角なのに隠すなんてもったいない」

 そう言いながら、書類整理に励む私の髪をほどこうとしてくる。

「折角、上手に隠したんだから辞めて下さい」

「大丈夫、部屋から出る時には姿隠しの魔法を部分的にかけてやる。 俺はね、この角も緩く流れるこの髪も好きなんだ」

 チュッと髪を一房掴んで、愛おしそうに口づけてくる。 ここでの生活はズイブンと慣れたと思う。 秒単位で仕事をこなさなければ、寝る暇も作れなかったような以前と違いヌルイ生活にすら感じる。

 だけど……食事だけは慣れないんですよねぇ~。

「どうした? 腹が減ったのか?」

「ち、が、い、ます!!」

「照れるなよ」

「仕事してください!」

「はいはい。 せっかく俺の幻獣を手に入れたのに、どうしてこう冷たいのかねぇ……」

 自分のディスクに座り、手紙のチェックをし始める。

「ソレは、なぜか1年以上手つかずの収支報告書が目の前にあるからですよ」

「ソレがなくなれば、デートしてくれる?」

 穏やかな微笑みにカラカイが混ざっている。

「わかりましたよ」

「身体に触っていい?」

「……ドラゴンの方で宜しければ」

「まぁ、それでも十分に構わないけれど、……人間の……年頃の娘のようだな」

「何か問題でも?」

「問題、問題ねぇ……。 もっとこうイチャイチャできるというか、ベタベタ甘えてくると思っていたからなぁ……。 まぁいい……俺が食事を与え続ければ、その堅苦しい考え方も少しずつ変わっていくだろう」

「それは……なんか嫌です……」

 心のそこからゲンナリしていえば、笑われてしまった。 仕事をしていても彼は私を見つめてくる。 愛おしそうに嬉しそうに……。

 もっと仲良くしよう。 イチャイチャしよう。 甘えていいんだよと彼は言う。 本当に幻獣が好きらしい。 無条件に当たられる愛情は嬉しいのに、もしかすると自分でなくてもいいのかな? なんて思えば切なくなってしまうのです。

「どうした? 変な顔をしている」

「幻獣の表情が分かるのですか?」

 嫌味交じりに告げれば、小さく笑われてしまいました。

「わかるよ」





 この私がお世話になっている場所は、世間では『幻獣騎士団』と呼ばれています。 入隊資格は幻獣に好かれる者で、老若男女問わないと言うのが特徴でしょうか?

 昨今の騎士団は、どこも来るもの拒まずだと……、アレ? そんな愚痴を聞いたのはどれぐらい前でしょうか? アレは……記憶を失う以前。 竜の娘として讃えられていた頃。

 ずいぶんと集まっていた人達は怒っていた。

 誰もが騎士となれる時代の到来。 その騎士の仕事は、道路工事に治水工事、仕事がない時は農作業の応援。 騎士の大半が剣を持たず鍬を持つ。 それは民の生活支援にほかならず、民は国を……その政策を打ち立てた王妃を、聖王国の慈悲を、神の奇跡を支持し始めたのだと言う。

 自らを真竜と呼ぶ人達は、人々は騙されていると怒っていたんですよね……。 なんて、事を思い出していた。

 今の騎士団は自由度が高い。

 民のためになれば、割とどんな仕事も引き受けると耳にしましたが、ここの自由度にはかなわないのではないでしょうか?

 衣装部門、装飾部門と幻獣専用の職員が作業をしています。 既に騎士団と言っていいのか……、そこではパートナーとなる幻獣自身も仲良く働いていたりするんですよね。 衣装部門では双子のアラクネのアラさんとクネさん。 ディルク団長はネーミングセンスが壊滅的と知ったのは『ドラ』と言う名前をつけられそうになった時でした。 ロイス副団長が名前は自分でつけなさいと言ってくださったので『ティア』と名乗る事にしました。

「まぁ、なんとなく、お揃いのようだから不満はないよ」

 そうディルク団長はおっしゃってはいましたが、悲しそうな表情をなさっていたのは気付かないことにします。 ドラはなんか嫌ですし……。

 現在子育て中のラミアのミアさんは、諜報活動を得意とされており、お子さんはパートナーである人間の男性との間にできた子だと言います。 人を好きになった幻獣は人型からかけ離れた姿を持っていても力技で人型ととり恋愛関係に持ち込むそうで、保育用の私設まで存在している徹底ぶりです。

 まぁ、そんな特殊な騎士団ですので、騎士団の団舎は王都の郊外の森の中にあり、迷いの魔法までかけられ徹底的に一般人が排除されているとのことです。 魔物と幻獣の差は、その狂暴性ぐらいしかありませんから、確かに世間に知れたら大騒ぎになりますよね。



 この10日の間、この騎士団の者達との交流を行いながら、10年に渡る書類をひたすら眺め続けていた。

「できそうですか?」

 そうロイス副団長が尋ねた。

「問題ないと思います」

 目の前に重ねられたのは、膨大な書類の山。 その大半が、幻獣素材の売買契約書類。

「お伺いして宜しいでしょうか?」

「なんだい?」

「この騎士団は、国に所属しているのですか?」

 そう問うのは書類の多くが、金銭取引の記録だったから。

 幻獣素材、情報の売買。

 爪や毛、羽毛、グリフォン種であればその抜けた翼は風耐性の属性を持ち、サラマンダーの脱皮した抜け殻であれば鱗1枚分の所有であっても火耐性が得られる。 ソレを鉄等と共に生成すれば属性付きの武器が作ることができる。

 それらは明らかに国のための仕事ではなく、そして国からの資金援助を受け取っていない。

「どうだろうな?」

 軽く肩をすくめ笑うディルク団長とは違い、ロイス副団長は苛立ちを露わにしていた。

「プライドが高いと苦労するな」

 喉の奥でディルク団長が笑っていた。

 国をどうするつもりですか?

 そう聞きたかった。 目の前に積み重ねられた紙の束を見る限り、この国は終わりだ……。 貴重な幻獣素材も情報の売却先も、この国の者達ではなく、彼等が戦っていたと世間が思っている北方の国なのだから。

「デートをしようか?」

 ディルク団長が、クスッと笑いながらいう。

「これでも幻獣の表情を読むのは上手いんだ」
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