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07.色々都合が悪いが、第三王子は欲を優先するらしい
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満足そうに人型をしたドラゴンが、ディルク・クラインの身体に身を寄せる。
幻獣の幼体は、生まれてシバラクは魔力の塊でしかない。 明確な自我を持たず曖昧な存在の中で、魔力を与え自分を保護してくれる者を模倣することで、幻獣はようやく幻獣となる。
そのため人に育てられた幻獣の意識は、獣よりも人に近しい。
コレが稀少である竜の幼体だから、そう言えばソレまでなのだが、何もかもが規格外である。
ロイスは厳しい視線で竜の娘を眺める。
「余りじろじろと見るなよ」
皮肉気な笑みを浮かべディルクがロイスに言う。
「ソレは、本当に竜種なのですか?」
竜種は自然現象に近く、生体ともなれば気象すら操ることができるのだが、目の前の人の姿を成している幻獣が持つ魔力は、中級レベルの幼体にすら及ばない程度の魔力量であり、幼体を魔力素材として欲する魔導士ですら興味を持たないレベルの個体なのだ。
ようするに、現状何の役にも立たないと言うことだ。
「なんだ、オマエは王位につきたいのか? だが、いまの、この国は竜を所有しようと王位継承には影響を与えないぞ」
カラカウようにディルクは笑いながら言う。
ロイスの母は現国王の妹であり、長く王家に仕え国に貢献してきたマクレガン侯爵家の長子であることから、庶民の子であるディルクよりも継承順位が上とされている。
「そういう事を言っているのではありません!! ソレを懐に抱え込むことで、起こりうる騒動を想定できない訳ありませんよね?」
「大声を出すな煩い。 寝た子が起きる」
心の底から面倒そうに言われ、ロイスは溜息をついた。
「王位には興味がなかったのではございませんか?」
「古い奴だな。 今の王家は竜国としての尊厳や決まりは存在していない。 オマエの方が王位に近い事を忘れたのか?」
30年前のこの国であれば、始祖と同じ髪色を持ち、その身を覆う魔力鎧である竜鱗を持ち生まれたディルクは王位継承権1位となるはずだった。 例え彼の母が食堂で給仕をしているような娘であってもだ。
だが、この国は変わった。
古い人間たちは、こう告げる。
『全ては聖国から招いた妃が原因だ』
現国王が聖国から第二王妃を娶ったのは、西方にある聖国から戦に強いクライン王国の保護下に入りたいと乞われたのが始まりだったという。
当初は、自ら属国となりたいと言う申し出だったが、現国王は聖国で取れる豊かな作物に価値を見出し、同盟を結ぶにおさめた。 そして聖国は、同盟の証として美しい姫君をクライン国国王のものとして送り出し、国王はその姫君を正妃として迎え入れる。
それからクライン王国は少しずつ、気付かないうちに変化していったのだと言う。
最も大きな変化と言えば、信仰対象が竜から聖女へととってかわった事だろうか? その影響として本来王位を得るはずだったディルクは、庶子の子であるとされ王位継承権者の末に名を連ねているに過ぎない。
本人はその立場になんら不満はなく、気楽に過ごしているのだが……未だ竜信仰は途絶えきっておらず、かつての栄光を取り戻そうと陰ながら暗躍を行うものも存在している。
「未だ殿下が王位につくべきだと言うものは少なくはありません。 もし、アナタがソレを望むなら、多くの者が武器を手に取り玉座をアナタに捧げようとするでしょう」
「余計なお世話と言うやつだ。 俺は幻獣たちと気楽に過ごしたいだけだというのに」
ここは一応騎士団の宿舎であり、ディルクは多くの騎士を部下に持つ団長なのだがとロイスは苦笑する。
「ですが、民は彼女を見れば、アナタが王位を求めていると希望を見出すでしょう」
「だろうな」
穏やかな表情、優しい口調でディルクは返せば、ロイスは表情を歪めた。 時折、ロイスにも分からなくなるのだ。 自らが主として定めたディルクを守りたいのか、それとも竜国として栄えた頃の尊厳を取り戻したいのか。
「それに、その子は……あり得ない」
「ここにあるのにか?」
「冗談を言っている訳ではありません!」
「だから、声を荒げるなと言っている。 オマエの言わんとすることはわからんでもない」
ディルクは溜息をつきながら、視線をロイスに向けた。
幼体の幻獣は魔力の塊でしかないのだから自我など存在しない。 だが、竜の娘には存在しないはずの自我が存在している。 これは『人を殺してはいけない』等の人としてのルールを押し付ける事が難しいと言う事を意味しており、躾に時間を要するだろうとロイスは言いたいのだ。
「だが……考えて見ろ。 言葉の通じぬ獣を国の上に置きながら、腕の中で大人しく眠る愛らしい獣に怯える必要がどこにある。 それとも俺の腹心の部下はそこまで臆病者なのか?」
「えぇ、臆病にもなりますよ。 その娘の姿は王国の始祖の特徴そのものです……。 王位を取る覚悟があるというなら役にも立つでしょうが、そうでないなら……彼女はアナタの平穏を脅かす材料にしかならないでしょう」
心地よさそうに主の腕の中に納まり、ふわふわの翼と、美しい鱗を持つ尾をゆらゆら揺らす竜の娘を愛おしそうに抱きしめ、羽の1枚、鱗の1枚、まで愛おしいとばかりに指先でウットリとしながら撫でている主に厳しい視線を向けてロイスはつめ寄れば、ディルクはニヤリと笑って見せる。
「オマエが、俺を守ってくれるのだろう」
ロイスは、驚きと呆れの混ざった表情を露わにした。
そして声に出して笑う。
私はこの主には勝てないのだろう。
そして、ロイスは新たに誓う。
我が王よ……。 アナタが望まれるなら、私はアナタのささやかな望みにして、困難な望みを叶えるよう尽力いたしましょう。
誓いながらも溜息を1つついて、ロイスは苦笑交じりに話しかける。
「彼女のための洋服を作らせましょう」
ディルクは穏やかに、だが……強い声と思いで言葉を紡ぐ。
「頼む」
幻獣の幼体は、生まれてシバラクは魔力の塊でしかない。 明確な自我を持たず曖昧な存在の中で、魔力を与え自分を保護してくれる者を模倣することで、幻獣はようやく幻獣となる。
そのため人に育てられた幻獣の意識は、獣よりも人に近しい。
コレが稀少である竜の幼体だから、そう言えばソレまでなのだが、何もかもが規格外である。
ロイスは厳しい視線で竜の娘を眺める。
「余りじろじろと見るなよ」
皮肉気な笑みを浮かべディルクがロイスに言う。
「ソレは、本当に竜種なのですか?」
竜種は自然現象に近く、生体ともなれば気象すら操ることができるのだが、目の前の人の姿を成している幻獣が持つ魔力は、中級レベルの幼体にすら及ばない程度の魔力量であり、幼体を魔力素材として欲する魔導士ですら興味を持たないレベルの個体なのだ。
ようするに、現状何の役にも立たないと言うことだ。
「なんだ、オマエは王位につきたいのか? だが、いまの、この国は竜を所有しようと王位継承には影響を与えないぞ」
カラカウようにディルクは笑いながら言う。
ロイスの母は現国王の妹であり、長く王家に仕え国に貢献してきたマクレガン侯爵家の長子であることから、庶民の子であるディルクよりも継承順位が上とされている。
「そういう事を言っているのではありません!! ソレを懐に抱え込むことで、起こりうる騒動を想定できない訳ありませんよね?」
「大声を出すな煩い。 寝た子が起きる」
心の底から面倒そうに言われ、ロイスは溜息をついた。
「王位には興味がなかったのではございませんか?」
「古い奴だな。 今の王家は竜国としての尊厳や決まりは存在していない。 オマエの方が王位に近い事を忘れたのか?」
30年前のこの国であれば、始祖と同じ髪色を持ち、その身を覆う魔力鎧である竜鱗を持ち生まれたディルクは王位継承権1位となるはずだった。 例え彼の母が食堂で給仕をしているような娘であってもだ。
だが、この国は変わった。
古い人間たちは、こう告げる。
『全ては聖国から招いた妃が原因だ』
現国王が聖国から第二王妃を娶ったのは、西方にある聖国から戦に強いクライン王国の保護下に入りたいと乞われたのが始まりだったという。
当初は、自ら属国となりたいと言う申し出だったが、現国王は聖国で取れる豊かな作物に価値を見出し、同盟を結ぶにおさめた。 そして聖国は、同盟の証として美しい姫君をクライン国国王のものとして送り出し、国王はその姫君を正妃として迎え入れる。
それからクライン王国は少しずつ、気付かないうちに変化していったのだと言う。
最も大きな変化と言えば、信仰対象が竜から聖女へととってかわった事だろうか? その影響として本来王位を得るはずだったディルクは、庶子の子であるとされ王位継承権者の末に名を連ねているに過ぎない。
本人はその立場になんら不満はなく、気楽に過ごしているのだが……未だ竜信仰は途絶えきっておらず、かつての栄光を取り戻そうと陰ながら暗躍を行うものも存在している。
「未だ殿下が王位につくべきだと言うものは少なくはありません。 もし、アナタがソレを望むなら、多くの者が武器を手に取り玉座をアナタに捧げようとするでしょう」
「余計なお世話と言うやつだ。 俺は幻獣たちと気楽に過ごしたいだけだというのに」
ここは一応騎士団の宿舎であり、ディルクは多くの騎士を部下に持つ団長なのだがとロイスは苦笑する。
「ですが、民は彼女を見れば、アナタが王位を求めていると希望を見出すでしょう」
「だろうな」
穏やかな表情、優しい口調でディルクは返せば、ロイスは表情を歪めた。 時折、ロイスにも分からなくなるのだ。 自らが主として定めたディルクを守りたいのか、それとも竜国として栄えた頃の尊厳を取り戻したいのか。
「それに、その子は……あり得ない」
「ここにあるのにか?」
「冗談を言っている訳ではありません!」
「だから、声を荒げるなと言っている。 オマエの言わんとすることはわからんでもない」
ディルクは溜息をつきながら、視線をロイスに向けた。
幼体の幻獣は魔力の塊でしかないのだから自我など存在しない。 だが、竜の娘には存在しないはずの自我が存在している。 これは『人を殺してはいけない』等の人としてのルールを押し付ける事が難しいと言う事を意味しており、躾に時間を要するだろうとロイスは言いたいのだ。
「だが……考えて見ろ。 言葉の通じぬ獣を国の上に置きながら、腕の中で大人しく眠る愛らしい獣に怯える必要がどこにある。 それとも俺の腹心の部下はそこまで臆病者なのか?」
「えぇ、臆病にもなりますよ。 その娘の姿は王国の始祖の特徴そのものです……。 王位を取る覚悟があるというなら役にも立つでしょうが、そうでないなら……彼女はアナタの平穏を脅かす材料にしかならないでしょう」
心地よさそうに主の腕の中に納まり、ふわふわの翼と、美しい鱗を持つ尾をゆらゆら揺らす竜の娘を愛おしそうに抱きしめ、羽の1枚、鱗の1枚、まで愛おしいとばかりに指先でウットリとしながら撫でている主に厳しい視線を向けてロイスはつめ寄れば、ディルクはニヤリと笑って見せる。
「オマエが、俺を守ってくれるのだろう」
ロイスは、驚きと呆れの混ざった表情を露わにした。
そして声に出して笑う。
私はこの主には勝てないのだろう。
そして、ロイスは新たに誓う。
我が王よ……。 アナタが望まれるなら、私はアナタのささやかな望みにして、困難な望みを叶えるよう尽力いたしましょう。
誓いながらも溜息を1つついて、ロイスは苦笑交じりに話しかける。
「彼女のための洋服を作らせましょう」
ディルクは穏やかに、だが……強い声と思いで言葉を紡ぐ。
「頼む」
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