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16.未だ望んだ境地に辿り着けず

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 近隣諸国の令嬢達への牽制のため、ヨミにドレスをと言う事だったが、1日2日で準備できるようなものではなく、4公爵家の年齢、体型の近い女性達が持つ、比較的新しいものを大胆にリメイクすることで準備された。

 どうせ隣国の者にはリメイクであることなど分からないし、自国の者達は国王陛下と4公爵家に表立って何かを言える者等いないのだから、当面はそれで十分というのがヨミの判断。

 本音を言えば、自分に国費を消費することが耐えられなかっただけ。

 ヨミは、兄弟のように育った国王陛下と3人公爵家の令息達の側で、実用的、有用的な美しい装飾品として日々を過ごした。 他国の令嬢の参加する茶会へと積極的に参加し、今まで浮かべる事のなかった愛想笑いをし、人の話をよく聞き、会話を提供し、他者に気持ちよく会話してもらう等をもって牽制とした。

 結果、企画していた夜会を開くことなく令嬢達は自国へと戻って行くこととなる。 決して、ヨミが他国の令嬢達に何かした訳ではない。

 自国よりも格上の国で、国王陛下や地位のある者相手に下手をしてもらっては、国の一大事というのが送り込まれた令嬢達の立場。 なれば相応の判断が出来る人間を選び、送り込んできた。

 と、言うのは、万が一にかけて夜這いを仕掛けてきた令嬢がいた時点で褒めすぎではあるが、その行動がいかに馬鹿げた行動かを淡々と説教すれば、青ざめた顔で己を恥じたあたり、問題のある人間は少なかったと言えるだろう。



「ふぅ……終わりましたね」

 最後の一行を送り出し、ヨミは自分の肩を軽く揉む。 そんなヨミの背後に回り肩を揉みだすのは学友の中でも最年少であるプラテリア。

「そう言いますが姉様。 姉様のサイズに作り替えたドレスはまだまだありますよ?」

リアプラテリアが着ても良いですわよ」

 クスッと笑いながらヨミが言えば、

「僕は男としては可愛いらしい方ですが、流石に姉様のドレスはサイズ的に無理ですよ。 それに、僕は今の姉様が好きですよ。 とても可愛らしい」

 その言葉は、背後と言う立ち位置もあり耳もとで囁くようになされた。 側で見ていた国王陛下が、イラっとしてペンを折る。

「人の婚約者を口説くな」

「姉様は、まだ正式に陛下の婚約者ではないのですから、僕の自由ですよ。 それに婚約をしたからと言って、今までの関係性が消えて無くなる訳ではありません。 僕と姉様の仲良しは変わりませんよ。 ねぇ~、姉様」

「はいはい」

 学友の中でも末であるプラテリアには、ヨミも甘く気安い。

「とはいえ、僕も仕事があるので今日の所は撤退します。 姉様、今度美味しい菓子を出すカフェにでも一緒にでかけましょう」

 プラテリアは言いながら、ヨミの手を取りその甲に口づけた。

 もともとそういう行動をする子ではあったためヨミは気にはしていないが、陛下としてはツラツラと流れ出る誉め言葉や、デートの誘いは、気が気ではない。 側に仕える侍女達は、なぜ陛下の気持ちを理解しないのかとヒヤヒヤ、ソワソワ、しながら時間を送ることとなる。

「ヨミ、どこか行きたいところとかあるなら……その……」

「そうですね……では、資料室に書類を返しに行ってまいります」

 スタスタとプラテリアが出て行った扉が閉まり切る前にヨミは部屋を出て行った。

「いや、そうじゃなくて……その、美味しい菓子を出すカフェとか……」

「陛下、お嬢様は既にお出かけになられておりますよ」

「……お前達は……」

「はい、何も見ていません」
「聞いておりません」

 よくできた侍女達である。

「何か、ヨミが喜びそうなことはないだろうか?」

「それは……陛下がお元気でつつがなくお過ごしなさる事だと思います。 何しろ公爵家令嬢で、表立っての仕事こそなさってらっしゃいませんでしたが、経理、政務、外交等、多岐にわたって業務に携わるお嬢様は相応のお給料が支払われておりますでしょうし。 欲しいものは直ぐに自分で手に入れられるのではないでしょうか?」

「お嬢様が欲しがるモノと言えば……」

「何か、思いついたか?!」

「いえ、私ごときでは想像もつきませんね」
「ですわね」
「ヨミ様の心中を、私共ごときが分かるはずもございませんわよね」

 よく、○○がプレゼントすればなんでも嬉しいですよ。 等と言う言葉があるが、陛下がプレゼントするとなれば国費である。

「お散歩にでも、お誘いになるのは如何でしょうか?」

 口々に呟く侍女達は思っていた。 お嬢様が喜びそうなプレゼントは『休暇』だろうと……。
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