上 下
4 / 21

04.国王陛下、お姫様になる

しおりを挟む
 国王陛下を結婚させよう会議、第二回を開催しようとしたダリオだが、主旨を聞いた者達は、ヴェント公爵が領地に戻っている状況では、婚約を勧めるための話を勧めることも出来ないだろうと却下してきた。

 とはいえ、これからどうしていいのか。 告白から、数日……全くもって何も変わらず仕事が進められている。 変わらない日々。

 お出かけしたい。
 デートしたい。
 キスしたい。

 もんもんとした気持ちがピークを迎えて、ついに叫んでしまった。

「あああぁぁぁぁぁぁぁっぁ」

 突然に叫べば、ギョッとした顔でヨミや、側にいた俺とヨミ付きの侍女が振り向く。

「陛下、どうなされたのですか!!」

 凄い勢いで近寄ってきたヨミは、熱を測り、目を見て、口を開けさせてくる。

 か、かかっかかかおが近いですよヨミさん!!

「陛下、もう一度失礼します。 お熱が上がったようですね。 今日の仕事は私に任せてお休みくださいませ!!」

 そう言って……自分よりも小柄なヨミは俺を姫抱っこして寝室まで運んでいこうとする。 両手で顔を隠し、俺は呟くしかなかった。

「辞めて……」

「大人しくなさってください」

「歩けるから」

「先ほどより熱が上がっております。 了承できません」

「大丈夫だから」

「大丈夫でない者ほど、そういうものです」

「し、仕事に戻らないと」

「私が信用できませんか?」

「だ、だから!!」

 顔が近いと文句を言おうとしたが、ダリオは首を激しく横に振り自分の考えを否定した。 いや、いや、この接近度を利用せずにどうする。 というか、ここで拒絶すれば近寄られる事がイヤなのだと判断され、明日から計ったように1m以内に近寄らないとかしかねない。

 それに嫌な訳ではない。
 ただ、恥ずかしいだけなのだ!!

 特に、周囲の視線が……。

 見てはいけないと、必死に視線を背けるが、誰もが視線の端っこでヨミに姫抱っこされるダリオを何事かと見ていた。 そして見ていたが触れてはいけないものとして処理をされる。

 それがまた痛々しい……。

 そんな中唯一声をかけてきた者がいた。

「どうした? 大変そうだな。 俺が運んでやろうか?」

 窓から赤い騎士服を手にした上半身裸の巨体の青年エルオーネ・テンペラータ公爵令息、ダリオの学友の一人が窓から顔を覗かせる。

「エルオーネ様、汗臭い恰好で陛下に近寄らないでくださいませ」

「十分に汗は流してきた。 コレは水」

 そう言いながら、器用に熱の魔法を使って水分を蒸発させ、窓を乗り越えたところでエルオーネは気付いた。 邪魔をするなと言うダリオの視線に数秒考えこみ、愛想の良い笑みを浮かべて片手をあげ去ろうとした。

「……じゃぁ、まぁ……俺はお邪魔なようなので」

「いえ、邪魔だと言うつもりは……そうですわ!! 訓練がお済でしたら、陛下の側にいて頂けるかしら? 私は、まだ仕事が残っておりますので」

「いやいや、そこは俺が、お嬢の仕事を手伝うから、看病の方はお嬢がするといい、その方が陛下も喜ぶ」

「でしょうか?」

 と、顔を見てくるから必死で頷いた。

 好きな女性の看病と天秤にかければ、当然好きな女性に決まっている。 ただ……悩むのは、何時まで俺はヨミに姫抱っこをされているのかというところだ。

「ですが、陛下がお休みになる分の仕事もありますので、2人分の仕事をエルオーネ様に押し付けるのは気が引けます。 なので、こうしましょう!」



 そして、寝室に並べられるデスク2つ。 看病らしいことは侍女達がする事でケリがつけられる。 何かが色々違う。

 デートを望んでた結果、どうしてこうなった?
 もしや、これが世間で噂のお家デートか?!

 うん、違うな……。

「あの、俺にも仕事を……」

「陛下は余り丈夫ではないのですから、無理をなさらないでください」

「それは、子供の頃の事で今は結構丈夫だからさぁ、あぁ、えっと、ここ何年かヨミは特訓を見に来ていないから知らないだろうが、エルから5本に1本はとれるようになったんだぞ」

 の言葉にエルオーネを睨むヨミ。

「……なぜ、俺を睨む……」

「私の可愛い陛下に剣を向けたのですか……」

「そんな深淵を覗いたような目で睨むな……訓練だ、傷をつけることは……たまにしかない。 な、なぁ……」

 ダリオに助けを求めるエルオーネだが、ダリオは拗ねていた。

「なぜ、俺を抜きに仲良くじゃれてんだよぉ」

「ちょ、ま、まて叩くな、叩くな!! や、辞めろ!! 俺が悪い訳じゃないだろう。 訓練だ、不可抗力だ、陛下にも自衛手段は重要だろうが!! そ、そうだ、そんなに心配なら、今度訓練を見に来てはどうだ?」

 エルオーネの提案にヨミは考え込む。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

失意の中、血塗れ国王に嫁ぎました!

恋愛
私の名前はカトリーナ・アルティス。伯爵家に生まれた私には、幼い頃からの婚約者がいた。その人の名前はローレンス・エニュオ。彼は侯爵家の跡取りで、外交官を目指す優秀な人だった。 ローレンスは留学先から帰る途中の事故で命を落とした。その知らせに大きなショックを受けている私に隣国の『血塗れ国王』から強引な縁談が届いた。 そして失意の中、私は隣国へ嫁ぐことになった。 ※はじめだけちょっぴり切ないかも ※ご都合主義/ゆるゆる設定 ※ゆっくり更新 ※感想欄のネタバレ配慮が無いです

愛するひとの幸せのためなら、涙を隠して身を引いてみせる。それが女というものでございます。殿下、後生ですから私のことを忘れないでくださいませ。

石河 翠
恋愛
プリムローズは、卒業を控えた第二王子ジョシュアに学園の七不思議について尋ねられた。 七不思議には恋愛成就のお呪い的なものも含まれている。きっと好きなひとに告白するつもりなのだ。そう推測したプリムローズは、涙を隠し調査への協力を申し出た。 しかし彼が本当に調べたかったのは、卒業パーティーで王族が婚約を破棄する理由だった。断罪劇はやり返され必ず元サヤにおさまるのに、繰り返される茶番。 実は恒例の断罪劇には、とある真実が隠されていて……。 愛するひとの幸せを望み生贄になることを笑って受け入れたヒロインと、ヒロインのために途絶えた魔術を復活させた一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25663244)をお借りしております。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。

石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。 ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。 そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。 真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

処理中です...