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67.血濡れ 02
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正気ではなかった。
言い訳になるだろうか?
大勢の死を目にして、この子は大丈夫だろうか?
彼女は冷静でいてくれている。
いや、だが、違う……平気な訳がない!!
見つめた先のヴェルディは、虚ろだった。
はぁ……と、深くつく呼吸。
疲れたように虚ろな瞳。
僅かに開いた口元。
明らかにおかしかった。
『大丈夫か?』
「うん、きっとお腹がすいているだけ」
そう答えるヴェルディが、痛々しくすら思った。
両手を伸ばしてくる。 彼女の白く細い腕が伸ばされる先は、血に濡れていない場所を探す方が難しい俺の身体。
ここに運ぶまでは仕方が無かったし、その時は興奮状態にあって考えていなかった。 彼女に触れれば、彼女も血に濡れると言うことを。
それでも、ヴェルディは言うのだ。
甘い声で、囁くように……。
「シグルド様、来て」
胸が痛い……。
戦闘の熱が冷めきっていない中、その甘い声が、性的欲求を刺激する。
『いや、その……色々と問題があってな』
「よく、分からないわ」
不思議そうに首を傾げ、片手を伸ばすヴェルディがソファから滑り落ちそうになっていた。 身体に力が入らないのだとようやく気付いた。 身体を支えるように前に進めば、黒い毛並みに含んだ血が、ヴェルディの纏う白い布地を赤く染めあげる。 それは、とても生々しく狂乱を思い出さえてしまうのではないかと、怖がられてしまっても仕方がないと思いながらもシグルドは息を飲む。
触れた瞬間。
白い光が、血を浄化するように巡り、血がジワリと光に溶けていく。
『これは』
「浄化と洗浄魔法の複合でしょうか? 血の汚れは落ちにくいですから。 あぁ、そうだ建物の方も安心してください。 足跡がついた部分は竜巻で破壊して、燃えやすくしますし、火はやがて雨を呼ぶのでダメージもそれほど大きくならないうちに消えるでしょうから」
何処までが魔法で、何処までが自然現象か分からない言い方だが、そこを深く質問するつもりはなかった。
『そう、だな。 助かる。 それより大丈夫か?』
ボンヤリしている割に、妙に饒舌だったから心配だった。
血の汚れが落ちて安心した俺は、ヴェルディの顔を覗き込むように前足をソファに乗せれば、細く弱弱しそうな腕が巻きついて来た。
もう血の匂いはなく、森の匂いがする。
心地よい感触を、静かに受け止めていれば、
ヴェルディの身体を覆っていたシーツがスルリと落ちた。
『だから、そうたやすく肌を出すなと言って……』
獣の姿だと思えば、その行為をどう思えばいいのか分からなかったが……唇が触れた瞬間……俺は……。
何故か、泣きたくなった……。
言い訳になるだろうか?
大勢の死を目にして、この子は大丈夫だろうか?
彼女は冷静でいてくれている。
いや、だが、違う……平気な訳がない!!
見つめた先のヴェルディは、虚ろだった。
はぁ……と、深くつく呼吸。
疲れたように虚ろな瞳。
僅かに開いた口元。
明らかにおかしかった。
『大丈夫か?』
「うん、きっとお腹がすいているだけ」
そう答えるヴェルディが、痛々しくすら思った。
両手を伸ばしてくる。 彼女の白く細い腕が伸ばされる先は、血に濡れていない場所を探す方が難しい俺の身体。
ここに運ぶまでは仕方が無かったし、その時は興奮状態にあって考えていなかった。 彼女に触れれば、彼女も血に濡れると言うことを。
それでも、ヴェルディは言うのだ。
甘い声で、囁くように……。
「シグルド様、来て」
胸が痛い……。
戦闘の熱が冷めきっていない中、その甘い声が、性的欲求を刺激する。
『いや、その……色々と問題があってな』
「よく、分からないわ」
不思議そうに首を傾げ、片手を伸ばすヴェルディがソファから滑り落ちそうになっていた。 身体に力が入らないのだとようやく気付いた。 身体を支えるように前に進めば、黒い毛並みに含んだ血が、ヴェルディの纏う白い布地を赤く染めあげる。 それは、とても生々しく狂乱を思い出さえてしまうのではないかと、怖がられてしまっても仕方がないと思いながらもシグルドは息を飲む。
触れた瞬間。
白い光が、血を浄化するように巡り、血がジワリと光に溶けていく。
『これは』
「浄化と洗浄魔法の複合でしょうか? 血の汚れは落ちにくいですから。 あぁ、そうだ建物の方も安心してください。 足跡がついた部分は竜巻で破壊して、燃えやすくしますし、火はやがて雨を呼ぶのでダメージもそれほど大きくならないうちに消えるでしょうから」
何処までが魔法で、何処までが自然現象か分からない言い方だが、そこを深く質問するつもりはなかった。
『そう、だな。 助かる。 それより大丈夫か?』
ボンヤリしている割に、妙に饒舌だったから心配だった。
血の汚れが落ちて安心した俺は、ヴェルディの顔を覗き込むように前足をソファに乗せれば、細く弱弱しそうな腕が巻きついて来た。
もう血の匂いはなく、森の匂いがする。
心地よい感触を、静かに受け止めていれば、
ヴェルディの身体を覆っていたシーツがスルリと落ちた。
『だから、そうたやすく肌を出すなと言って……』
獣の姿だと思えば、その行為をどう思えばいいのか分からなかったが……唇が触れた瞬間……俺は……。
何故か、泣きたくなった……。
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