上 下
59 / 75
06

58.変化に安堵し恐怖する 01

しおりを挟む
 頼んでおいた食事と共にランバールが戻ってきた。

「お嬢様」

「なぁに?」

「この際に言わせて頂いてよろしいでしょうか?」

 日常行動が外に出ると恥だったと聞かされた後なのだから、嫌な予感しかないと言うもの。 それでも、知らないよりは良いのでしょう。 辛いけど……。

「いいわ」

「お嬢様、年若い侍女のたわごとに耳を傾けすぎては、貴族としての品格を汚されてしまいますよ」

 ランバールが苦笑交じりに告げ、食事を並べ、そして……言い出した。

「お嬢様、お客様がいらしてます」

「あら、食事は? ラン、ランバール……あの貴族のお客様は招かざる客よ。 追い出して。 それとも、主家の者の許可なしにここの人は他所の貴族を招きいれていたの」

「お嬢様、彼等にだって間違いはあります。 ソレをどうにかするのが、お嬢様……主家の方の役割ではございませんか? ソレに彼女達は、お嬢様がお忘れになった装飾品を届けに来たのですから、礼は尽くすべきでしょう」

「忘れたと言うか、奪われたのだけどね」

 肩を竦めた。

 昨日、テーブルの上で私の両手を握った夫人が腕から抜いて行ったのだ。 ソレを忘れものと言うには、乱暴すぎる。

「とりあえず、食事の間ぐらいは時間を稼げるでしょう?」

 私は、返事も無く去っていくランバールの背を眺めて溜息をつき、犬を眺める。

「ねぇ、ワンちゃんどう思う?」

 くぅ~ん。

 そう鳴く犬の声は、呆れたかのように思え、勝手にそう思っただけなのに、同調者がいるのだと私は慰められる。

「ねぇ、食事にしましょう。 あぁ、そう言えば、言いたい事があるって言っていたわよねホリー。 何?」

「ランバール様と将来を誓ったとおっしゃっていますが、お嬢様とランバール様の関係は、その支配的です。 余り恋する者同士のようには思えませんわ」

「そう……参考にしておくわ」

 私は愛想笑いと共に返し、しぐさで床に並べられている食事を食べるようにと犬に告げた。 食事は、パンにオムライス、ベーコンにサラダ、そしてスープ。 ごくありふれたもの。 

 もし、何かがずれたような違和感を覚えていなければ、彼は私を愛していると言っているわと声を荒げたかもしれない。 コレは自分達の在り方として正しいのだと……。 幼い頃からこうしてきたのだと、将来、本当に結婚をすれば……変わるのかしら?

 知らぬ間に迷惑をかけてきた貴族を屋敷に上げ、面会をしろと彼は訴えて来たのだ。 彼は都合良く自分の立場を切り取り利用しているように思え、それがとても不満だった。

 わうわう。

「なぁに?」

 私のサラダの皿を鼻先でつつく犬。

「食べたいの?」

 そう聞けば、ふるふると首を横に振る。

「食べろと言っているの?」

 ソレも首を横に振り、鼻先で勢いよくつついて皿を裏返してしまった。

「あら、行儀が悪いわ。 これは庭でとっている新鮮な野菜なのよ」

 ムニムニと首回りを摘まんで揺らせば、犬なのに凄く表情が歪み、スープ皿にスプーンを入れようとしても邪魔をしようとした。

「コラコラ邪魔をしてはダメよ」

 この時、私は間違っていた。
 邪魔をするからシグルド様ではない。

 ではなく、

 シグルド様だろう相手が、食事の邪魔をしたと言う事が問題だったのだと……。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

氷の騎士団長様に辞表を叩きつける前にメリッサにはヤらねばならぬことがある

木村
恋愛
ロロイア王国王宮魔道士メリッサ・リラドールは平民出身の女だからと、貴族出身者で構成された王宮近衛騎士団から雑務を押し付けられている。特に『氷の騎士』と呼ばれる騎士団長ヨル・ファランに至っては鉢合わせる度に「メリッサ・リラドール、私の部下に何の用だ」と難癖をつけられ、メリッサの勤怠と精神状態はブラックを極めていた。そんなときに『騎士団長の娼館通い』というスキャンダルをもみ消せ、という業務が舞い込む。 「し、し、知ったことかぁ!!!」  徹夜続きのメリッサは退職届を片手に、ブチギレた――これはもう『わからせる』しかない、と。  社畜ヒロインが暴走し、誤解されがちなヒーローをめちゃくちゃにする、女性優位、男性受けの両片思いラブコメファンタジー。プレイ内容はハードですが、作品テイストはギャグ寄りです。 メリッサ・リラドール  ヒロイン 26歳 宮廷魔道士  平民出身 努力と才能で現在の地位についた才女  他人の思考を読み過ぎて先走る 疲れると暴走しがち ヨル・ファラン  ヒーロー 28歳 宮廷付騎士団団長  大公の長男だが嫡男ではない  銀髪、水色の瞳のハンサム  無表情で威圧感がすごい 誤解されがち

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

孕まされて捨てられた悪役令嬢ですが、ヤンデレ王子様に溺愛されてます!?

季邑 えり
恋愛
前世で楽しんでいた十八禁乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生したティーリア。婚約者の王子アーヴィンは物語だと悪役令嬢を凌辱した上で破滅させるヤンデレ男のため、ティーリアは彼が爽やかな好青年になるよう必死に誘導する。その甲斐あってか物語とは違った成長をしてヒロインにも無関心なアーヴィンながら、その分ティーリアに対してはとんでもない執着&溺愛ぶりを見せるように。そんなある日、突然敵国との戦争が起きて彼も戦地へ向かうことになってしまう。しかも後日、彼が囚われて敵国の姫と結婚するかもしれないという知らせを受けたティーリアは彼の子を妊娠していると気がついて……

処理中です...