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54.夢の中
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ヴェルはアッサリと俺を受け入れ、まるでどうでも良いかのようにアッサリと眠りにつかれて拍子抜けした。
がうっ……
切ない。
顎をベッドの上方向に伸ばし、視線だけで横に眠る未だ幼さを残した女の顔を眺め見る。
可愛いと言う気持ちはある。
愛おしいとも思う。
目を閉ざし、彼女を見つけた時の事を思い出した。
遠くからでもわかった。
自分の特別が近づいて来ていることが……。
見た瞬間、胸の奥が熱くなり、状況を理解することを、判断することを放り出し駆け付けた。 見てしまえば、ずっと会いたいと思っていた相手なのだろうと確信できた。
なのに、自分の中に怯えがある。
今も……。
寝返りをうてば布団を跳ねのけ、肌の色が透けて見えるかのような薄布で出来た寝巻が露わになる。 いそいそと布団を口で銜えてかけなおせばもう一度跳ね除けられ、細い腕が抱き着いてきた。
うげっ
「うふふふふ」
ご機嫌そうに笑っていて……逃げ出す気にもならなかった。
はふぅ……。
犬らしくない溜息をつけば、静かに出入りを繰り返す使用人がビクッと怯えていた。 こんなに人が出入りをしているのに、起きないのかと思えば、その不用心さが心配になってくる。
懐かしいのに……怖い……。
心が、注意を呼び掛けている。
期待してはいけない……。
やがて、規則正しい寝息と、温かな体温、眠りに誘われる。
ダメだ……。
尻尾がパサリと落ちた。
初めて出会ったのは……彼女が生まれたばかりの頃。
その当時の俺は呪いのせいで獣の姿をしていた。
夢の中でも思い出せぬ子の顔は、落書きを消したように乱雑に墨で塗りつぶされて見る事が出来ない。
『小さい……』
『この子は、貴方のために生まれた子。 貴方のものです』
そう語った母の顔は見えるが、母の後ろに控えた人々の姿は目を凝らしても見えない。
『僕の……特別……』
身を乗り出して甘い匂いを嗅げば、毛並みに伸ばされる小さな手。
あうぅう。
小さな小さな手が、母によって払い退けられそうになった。
強く早い母の手を遮る事は、自分には出来ない。
間に合わない。
壊される!!
そう思った瞬間、幼い子が泣いて風が渦巻き遮ってきた。
『生意気なのよ!!』
生まれて間もない赤ん坊に大人げない。
僕の特別を傷つけようとした!!
母に敵意を抱いたのは、この時が初めてで始まりだった。
オークランドと言う国はとても厳しい国であり、その国の住民は獣の因子を持っている。 いや、未だ1度も行った事の無いその国は、生きていくのに厳しい国だと言う。 だから、その地に生きる民は、一定の年齢までの成長が早い。
もし、俺が年相応の幼さを持ち合わせていれば、母との隔絶は無かったのだろうか? 特別のためなら母との隔絶に後悔を覚える事は無かった。 だけれど、覚えていない子を巡って生まれた敵意が、憎いと言う気持ちが、いつの間にか俺の中で有耶無耶となった。
理由を失った敵意は継続等出来る訳もない。
和解をした俺と母の関係は、母の俺に対する執着を強め、国外追放となったが、それによって得た利益も大きい。 この国で数人しかいなかった味方、信用できるものが1人しかいない状況から変化をもたらした。 母の意志を組み、直接の配下として人が送り込まれたのだ。
この子は……俺の特別。
夢の中、手を伸ばそうとすれば、場面は変わった。
母の暴走を恐れ、少しだけ距離を置く事にした。 だから次にあったのはあの子が少し大きくなった頃だった。 コチラから近寄ろうとしなければ、向こうから無理に近寄る事はなかった。
それでも、甘く好意的な感情が香れば、クラクラと眩暈がしそうになった。 愛おしさに触れそうになれば、向けられる瞳、匂いにあるのは、好意と、絶対的な憧れ。
俺を見ながら、俺ではない何かを見ている匂い。
少しだけ寂しかった。
寂しかったんだ……。
がうっ……
切ない。
顎をベッドの上方向に伸ばし、視線だけで横に眠る未だ幼さを残した女の顔を眺め見る。
可愛いと言う気持ちはある。
愛おしいとも思う。
目を閉ざし、彼女を見つけた時の事を思い出した。
遠くからでもわかった。
自分の特別が近づいて来ていることが……。
見た瞬間、胸の奥が熱くなり、状況を理解することを、判断することを放り出し駆け付けた。 見てしまえば、ずっと会いたいと思っていた相手なのだろうと確信できた。
なのに、自分の中に怯えがある。
今も……。
寝返りをうてば布団を跳ねのけ、肌の色が透けて見えるかのような薄布で出来た寝巻が露わになる。 いそいそと布団を口で銜えてかけなおせばもう一度跳ね除けられ、細い腕が抱き着いてきた。
うげっ
「うふふふふ」
ご機嫌そうに笑っていて……逃げ出す気にもならなかった。
はふぅ……。
犬らしくない溜息をつけば、静かに出入りを繰り返す使用人がビクッと怯えていた。 こんなに人が出入りをしているのに、起きないのかと思えば、その不用心さが心配になってくる。
懐かしいのに……怖い……。
心が、注意を呼び掛けている。
期待してはいけない……。
やがて、規則正しい寝息と、温かな体温、眠りに誘われる。
ダメだ……。
尻尾がパサリと落ちた。
初めて出会ったのは……彼女が生まれたばかりの頃。
その当時の俺は呪いのせいで獣の姿をしていた。
夢の中でも思い出せぬ子の顔は、落書きを消したように乱雑に墨で塗りつぶされて見る事が出来ない。
『小さい……』
『この子は、貴方のために生まれた子。 貴方のものです』
そう語った母の顔は見えるが、母の後ろに控えた人々の姿は目を凝らしても見えない。
『僕の……特別……』
身を乗り出して甘い匂いを嗅げば、毛並みに伸ばされる小さな手。
あうぅう。
小さな小さな手が、母によって払い退けられそうになった。
強く早い母の手を遮る事は、自分には出来ない。
間に合わない。
壊される!!
そう思った瞬間、幼い子が泣いて風が渦巻き遮ってきた。
『生意気なのよ!!』
生まれて間もない赤ん坊に大人げない。
僕の特別を傷つけようとした!!
母に敵意を抱いたのは、この時が初めてで始まりだった。
オークランドと言う国はとても厳しい国であり、その国の住民は獣の因子を持っている。 いや、未だ1度も行った事の無いその国は、生きていくのに厳しい国だと言う。 だから、その地に生きる民は、一定の年齢までの成長が早い。
もし、俺が年相応の幼さを持ち合わせていれば、母との隔絶は無かったのだろうか? 特別のためなら母との隔絶に後悔を覚える事は無かった。 だけれど、覚えていない子を巡って生まれた敵意が、憎いと言う気持ちが、いつの間にか俺の中で有耶無耶となった。
理由を失った敵意は継続等出来る訳もない。
和解をした俺と母の関係は、母の俺に対する執着を強め、国外追放となったが、それによって得た利益も大きい。 この国で数人しかいなかった味方、信用できるものが1人しかいない状況から変化をもたらした。 母の意志を組み、直接の配下として人が送り込まれたのだ。
この子は……俺の特別。
夢の中、手を伸ばそうとすれば、場面は変わった。
母の暴走を恐れ、少しだけ距離を置く事にした。 だから次にあったのはあの子が少し大きくなった頃だった。 コチラから近寄ろうとしなければ、向こうから無理に近寄る事はなかった。
それでも、甘く好意的な感情が香れば、クラクラと眩暈がしそうになった。 愛おしさに触れそうになれば、向けられる瞳、匂いにあるのは、好意と、絶対的な憧れ。
俺を見ながら、俺ではない何かを見ている匂い。
少しだけ寂しかった。
寂しかったんだ……。
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