43 / 75
05
42.大人の隠れ家
しおりを挟む
連れていかれた先は、通路を歩いては辿り着けない古い建物。
宮殿の建て増しで生まれた空間と空間の間に放置された建築物。
結構広い。
魔法も使わず、これだけの空間を隠し生み出すなんて……。
そう思えば、その建物は誰かが意図的に作り出したかのように思えた。 入口も無いと言うのに。
「こんな所に住んでいるの? 誰も来られないような場所に?」
人を招く仕事場ではない。
個人の権威を見せつける意図もない。
建築物の中からは、いくつも人の気配がしていた。
「誰も来られない訳ではないか……」
気配へと視線を向けて、独り言のように告げる。
「存在を隠し仕えてくれるものがいる。 厄介なだけと思っていた母も、オークランドに戻ってからは色々と役に立ってくれている」
私にとっては、狂気と怒号の印象しかない相手。 居ない事は分かっていたし、ソレが安堵に繋がったのも確かだが、シグルド様から肯定的な言葉が発せられれば自然と表情が歪んでしまった。
「そう、ですか」
「どうかしたか?」
「……色々な噂を聞いていたので……」
オークランドの民は怖いわぁ~。 と、怯えたふりで逃げられないのは、既にミランダが見られている。
「昔は、母と、私しかオークランドの民が居なかった。 なぜ、オマエはアレを受け入れ使っている」
「別に受け入れていないわよ。 クロード様に本来の側仕えが見られているから、代理を募集しただけ……。 何しろ、宮殿はとても危険なところだから」
「その割には、余り役立っていなかったな」
「皇子が出てこなければ問題なかったわ。 もともと人と関わるつもりはなかったもの。 私はただ、ゼーレン公爵のパーティに出席する時のトラブルを回避するため、今の貴族の情報が欲しかっただけだし」
「今の宮殿の状況、貴族の状況、そんなものぐらい幾らでも教えてやる。 だが、ゼーレン公爵のパーティには参加するな」
「一応、うちの一族、領地の都合がありますの」
「まぁ、あるだろうな。 俺がその都合をつけてやる。 どこの領地だ」
領地改革の切っ掛け、方法、知識、情報を教えたのは私なのに、生意気!! とは思っても、ソレを口に出来ないのだから、私は感情的な様子を演じ、ソッポを向いて見せるのだった。
「それで、ソロソロ中に入らないか? 寒いと言っていただろう?」
「そうね……。 まだ、髪が乾ききってないようですし」
「俺は別にいい……もしかして、廃屋に見えて怖いのか?」
「違うわよ!!」
「外観の見た目はアレだが、内部はちゃんと住めるように改造してあるから安心しろ」
「別に怖いなんて言ってないんだから!!」
「まぁ、俺がいる安心しろ」
何故か嬉しそうに言いながら、少し高めに抱き上げて頬を摺り寄せてくる。 昔を思い出せば積極過剰も良いところ……頭でもぶつけてオカシクなったのだろうか? と、不安になってくるが、確かめる術はないし、聞く訳にも行かないのが残念だった。
「それより、私は……どういう扱いになるのですか? 捕らえられるような事は、した覚えはないのですが? やはり幽閉とか?」
「確かに1人でこの空間から出入りは難しいだろうが、扱いに関してはクロードに任せる予定だった。 アレが招待したいと望んだ女性だしな」
「客だと言う割には、随分な扱いでしたが?」
「ソレを言ったら、どさくさに紛れて薬を飲ませ連れ帰る奴等よりは全然マシだろう」
「比べる相手のレベルが低すぎてお話にならないわ。 それに、私はゼーマン公爵家のパーティに招待され帝都に出てきているんですよ。 機嫌を損ねて大変な事になったら、どうしてくれるんですか!!」
「大変な事? 何が必要か分からないが、ゼーマン公爵家から得られるものぐらい何とかしてやる。 だから、ゼーマン公爵家に近づかないでくれ」
「私だけが決めた事でも、決める事でもありません。 私が帝都に来たのは一族の総意なんです!!」
「どうしても嫌だと言うなら、強引な手段を使わなければいけなくなるんだが?」
等と言いながら、建物の外で言い合いをしてしまえば、窓が開けられて一見真面目そうに見える、癖の茶色髪が幼い印象を作り出している細身の男が声をかけてきた。
「お茶の準備は出来ている。 早く入ってきなよ」
「クロード様。 私に用事があると伺いましたが、どのようなご用件でしょうか?」
「説明は、後にして、まずはお茶にしよう。 君らしき人がサロンに顔を出したって聞いて、帝都でも有名な菓子店で人気の菓子を買ってきて貰ったんだから。 入って入って」
そんな感じで招待を受ける事になる。
宮殿の建て増しで生まれた空間と空間の間に放置された建築物。
結構広い。
魔法も使わず、これだけの空間を隠し生み出すなんて……。
そう思えば、その建物は誰かが意図的に作り出したかのように思えた。 入口も無いと言うのに。
「こんな所に住んでいるの? 誰も来られないような場所に?」
人を招く仕事場ではない。
個人の権威を見せつける意図もない。
建築物の中からは、いくつも人の気配がしていた。
「誰も来られない訳ではないか……」
気配へと視線を向けて、独り言のように告げる。
「存在を隠し仕えてくれるものがいる。 厄介なだけと思っていた母も、オークランドに戻ってからは色々と役に立ってくれている」
私にとっては、狂気と怒号の印象しかない相手。 居ない事は分かっていたし、ソレが安堵に繋がったのも確かだが、シグルド様から肯定的な言葉が発せられれば自然と表情が歪んでしまった。
「そう、ですか」
「どうかしたか?」
「……色々な噂を聞いていたので……」
オークランドの民は怖いわぁ~。 と、怯えたふりで逃げられないのは、既にミランダが見られている。
「昔は、母と、私しかオークランドの民が居なかった。 なぜ、オマエはアレを受け入れ使っている」
「別に受け入れていないわよ。 クロード様に本来の側仕えが見られているから、代理を募集しただけ……。 何しろ、宮殿はとても危険なところだから」
「その割には、余り役立っていなかったな」
「皇子が出てこなければ問題なかったわ。 もともと人と関わるつもりはなかったもの。 私はただ、ゼーレン公爵のパーティに出席する時のトラブルを回避するため、今の貴族の情報が欲しかっただけだし」
「今の宮殿の状況、貴族の状況、そんなものぐらい幾らでも教えてやる。 だが、ゼーレン公爵のパーティには参加するな」
「一応、うちの一族、領地の都合がありますの」
「まぁ、あるだろうな。 俺がその都合をつけてやる。 どこの領地だ」
領地改革の切っ掛け、方法、知識、情報を教えたのは私なのに、生意気!! とは思っても、ソレを口に出来ないのだから、私は感情的な様子を演じ、ソッポを向いて見せるのだった。
「それで、ソロソロ中に入らないか? 寒いと言っていただろう?」
「そうね……。 まだ、髪が乾ききってないようですし」
「俺は別にいい……もしかして、廃屋に見えて怖いのか?」
「違うわよ!!」
「外観の見た目はアレだが、内部はちゃんと住めるように改造してあるから安心しろ」
「別に怖いなんて言ってないんだから!!」
「まぁ、俺がいる安心しろ」
何故か嬉しそうに言いながら、少し高めに抱き上げて頬を摺り寄せてくる。 昔を思い出せば積極過剰も良いところ……頭でもぶつけてオカシクなったのだろうか? と、不安になってくるが、確かめる術はないし、聞く訳にも行かないのが残念だった。
「それより、私は……どういう扱いになるのですか? 捕らえられるような事は、した覚えはないのですが? やはり幽閉とか?」
「確かに1人でこの空間から出入りは難しいだろうが、扱いに関してはクロードに任せる予定だった。 アレが招待したいと望んだ女性だしな」
「客だと言う割には、随分な扱いでしたが?」
「ソレを言ったら、どさくさに紛れて薬を飲ませ連れ帰る奴等よりは全然マシだろう」
「比べる相手のレベルが低すぎてお話にならないわ。 それに、私はゼーマン公爵家のパーティに招待され帝都に出てきているんですよ。 機嫌を損ねて大変な事になったら、どうしてくれるんですか!!」
「大変な事? 何が必要か分からないが、ゼーマン公爵家から得られるものぐらい何とかしてやる。 だから、ゼーマン公爵家に近づかないでくれ」
「私だけが決めた事でも、決める事でもありません。 私が帝都に来たのは一族の総意なんです!!」
「どうしても嫌だと言うなら、強引な手段を使わなければいけなくなるんだが?」
等と言いながら、建物の外で言い合いをしてしまえば、窓が開けられて一見真面目そうに見える、癖の茶色髪が幼い印象を作り出している細身の男が声をかけてきた。
「お茶の準備は出来ている。 早く入ってきなよ」
「クロード様。 私に用事があると伺いましたが、どのようなご用件でしょうか?」
「説明は、後にして、まずはお茶にしよう。 君らしき人がサロンに顔を出したって聞いて、帝都でも有名な菓子店で人気の菓子を買ってきて貰ったんだから。 入って入って」
そんな感じで招待を受ける事になる。
0
お気に入りに追加
457
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない
ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。
既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。
未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。
後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。
欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。
* 作り話です
* そんなに長くしない予定です
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる