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40.その皇子を私は知らない 04

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「何をしてんだ!! 田舎者が!!」

 シグルド様が叫ぶ。

いえ、確かに田舎者ですけど……。

「どならなくても……良いと思うわ」

「怒鳴るだろう、死ぬつもりか!!」

 だけれど抱きしめる手は温かく大きく、そして優しくて、それがとても奇妙だと思った。 胡坐をかいて傾斜する屋根で座り込むシグルド様は、そのまま膝の上に私を乗せて転げ落ちないようにウエストに腕を回し固定してくる。

 これは、変よ。

 運命だと思っていた頃は、手を触れるのも特別だったのに……あぁ、そう言えば……。 エッチな事をする相手を探しているとか、下心持って近寄っても利益ないから止めろとか、そんな話をしていたなぁ……。

 女性慣れしているんだ。

「なんだよ。 言いたい事があるなら言えばいいだろうが」

「……うちに帰る。 ミラっ、抱っこ!!」

「はいはい」

 私が両手を差し出されれば、ミランダはホッとしたように笑みを浮かべていた。 だが、割って入るシグルドの言葉にミランダは凍り付いたように制止する。

「はぁ? 簡単に帰すなら持ってくるかよ!!」

 ミランダは『えっと、どうしましょう?』と言う感じに戸惑い交じりの苦笑を私に向けてくる。 そしてミランダは一度シグルド様を見た。

「問題を起こさず、屋敷にお連れするのは難しそうですわ」

 ミランダが肩を竦めて首を左右に振って見せる。

「私は、荷物ですか!!」

「荷物の方がマシだ!! 勝手に転がり落ちたりしないからな」

「転がってなんかいないです!!」

「立ち上がるな。 また落ちるぞ!!」

「落ちてないし、ぁっ」

 グラリとバランスを崩せば、私もミランダもソレをチャンスと考える。 ミランダは落ちてくるだろう私を受け止める準備をするため屋根から降りていき、私は屋根を蹴り勢いをつけようとした。

「本当!! 止めろよな!! いや、もう、場所を変えて話そう」

「いやぁあああ、うちに帰る~」

「なんだよ。 あいつの時はそこまで嫌がらなかった癖に!!」

 顔が近い……。
 息が触れる。

 ぇ?

 温く、乾いた唇が触れた。

「ん~~~っ、むっ、やめえぇ」

 叫べば、口の中に舌が入り込んできる。 舌に舌が絡め取られ、ぬるりとした温かな感触が絡み合い、混ざり合う唾液が口から零れ、唇を濡らしていく。

 言いようのない苛立ちの感情は分かるけど、何時、どうして怒らせたのか、私には分からないし、私の方が怒っているのだと、腕の中で暴れてみせるが……ビクリともしない。

 溢れる唾液が舐められ、水音が響く。

 くちゅくちゅと熱く、厚い舌先が絡んで、追い詰めてくる。

「んっふっ、く、いやぁ」

 背筋や耳の後ろがぞわぞわしてきた。
 
 声を発しようとするが、言葉は完全にふさがれ、開かれ口内をぴちゃぴちゃと舐め進められ、息が出来ずに唾液ばかりが溢れてくる。

 辛いのだと、胸元をったけば触れる唇が位置を変え、触れたままの唇でシグルド様は言う。

「オマエの鼻はなんのためについている」

「やめっ……んっ、ふぅ」

 そんな事をしなくても止めてくれればいいのだと伝えようとしたが、再開される口づけに阻まれた。


 頭を撫でるように首から髪の中に指が入れられ、絡めとられ、軽く引かれれば触れ合う唇の位置がまた変えられる。 深く深く、内側が乱暴に触れて、奪い取る。 なのに、舌の感触は甘く優しく思えてしまう……。

 唇が離れた。

 唾液が零れ、唇を濡らし、ボンヤリと痺れたような頭の中、時間がとまったように見つめあう。

「どう、して……」

 抱き寄せられ、頬と頬が触れ合う。

「イラつくんだよ」

 知るか!! と、言いたいが……。

「もう、うちに帰る」

 抱きしめる腕が緩められ、見つめてくる瞳が許されない事を告げていて、屋根の上から見下ろす位置にいるミランダにシグルド様が言う。

「オマエ」

「はい」

「コイツは預かる。 家の者に伝えておけ」

「お嬢様は?」

「何度も言わせるな。 俺が預かる」

「本当、勘弁してよ……。 信頼を取り戻すチャンスだったのにさぁ」

 あぁあっと、声を押さえながらも少しだけヒステリックにミランダが言っていたが、私の意識には残らなかった。

「同族で殺し合いたいなら、奪って見ればいい」

 低く、底冷えするようなシグルドの声が脅せば、周囲から殺気がミランダに向けられていた。

「やっ、ちょっ、冗談はやめていただけます?」

「行け」

 そして、私は……置いていかれてしまった。
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