【R18】利用される日々は終わりにします【完結】

迷い人

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39.その皇子を私は知らない 03

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「私は、荷物ではありません!! もう帰るので離してください!!」

「そんなに奴がいいのか?」

 顔は見えないが問いかける声は何処までも真面目で、そして……怒っているのが分かる。

「気になる匂いがあって、その匂いを追って来ただけだ。 必要が無いと判断すれば直ぐに返してやる。 落ちないように大人しくしていろ」

 そして……、なぜか、高い時計塔の屋根の上に連れていかれた。

「さ、寒いんだけど……」

 雪は降っていないが、寒い季節。
 そして私は結構な薄着をしている。

「そうか」

 そう言ってシャツを脱ぎだそうとするシグルド様。

「服を寄越せとは言ってませんわ!!」

「温かな部屋に行くのでも構わないが、連れがついてこれなくなるぞ?」

 言われてミランダの事をようやく思い出した。

「ぁっ」

「大丈夫、もう少しすれば追いつく」

 そうシグルド様が言った通り、1分もたたずして姿を確認できた。

 ミラに手を振って見せる私が時計塔の屋根の上から落ちないように、腹に腕を回し支えながらシグルド殿下は聞いてきた。

「オマエ、何者だ?」

「……秘密」

「一国の皇子にソレが許されると思っているのか? 獣臭をプンプンさせてイライラする」

「……何の事でしょう? 昨日料理した魔物の煮込み肉の匂いですか」

「料理で獣臭がうつるか!! なぜ、オマエがオークランドの者にマーキングされている? と、俺は聞いているんだ」

 私は肩を竦めた。

「私の大切な人だからよ」

 そう言い切れば、私を抱き支え触れる肌からイライラとした気配が伝わり、鳥肌がゾワリと湧き立った。

「何よ!!」

「さぁ……なぜか、イラつく……。 腹が立つ」

 肩口に顔が埋められ、大きく息が吸われた。

「オマエの匂いも……この獣の匂いも知っている。 なぜ……」

 なぜかなんて、失われた記憶の説明をしても意味が無い。 私は私の未来を決めた訳だし……。

「私は知りません。 離してください!!」

「はっん、離しても良いが、落ちるぞ?」

 思い切り屋根から下を覗き込むように、持ちなおされた。

「だ、大丈夫よ。 ミラが助けてくれるもの」

「あぁ、なぜ、オマエは何人も獣を飼っている?」

「そんな言い方やめてよ!! 大切な人なんだから」

「あら、お嬢様大切だなんて……嬉しいわ」

 追ってきたミランダが、ふざけて照れて見せたが、呼吸を乱しているところを見れば、彼女も必死だったのだろう。

「もう一度聞く、オマエは何者だ? 俺とどんな関係がある?」

「覚えてない!!」

 そう言って、思い切り身体を引きはがし、塔から自分を落とそうとした。

「ぁっ、」

 慌ててシグルド様は手を伸ばす。

 ……泣きそうな、悔しそうな、腹立たしそうな……そんななんとも言えない表情で私に手を伸ばし、私を掴み、引き寄せ、抱きしめてきた。
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