37 / 75
04
36.貴婦人達
しおりを挟む
きっちりと着飾ったミランダは、美しい男装の麗人で立ち居振る舞いも美しく……目立っていた。
「少し、離れていてくださる?」
「それだと、お守りできませんが?」
「生憎と、私は殺されるような悪い事をした覚えはありませんし、少しぐらい離れていても平気でしょう? それよりも、貴方が側にいると目立って仕方が無いわ」
「大丈夫ですよ。 皆さん、視線は私へ向かっていてお嬢様を見ている者等おりませんから」
ソレはソレでむかつく言葉だ……が、彼女の言葉は、余り事実のようには思えなかった。 舐めるような視線が彼方此方から向けられている。
人の視線から逃げるように、隠れた位置の席を目指し途中で給仕に声をかける。 以前は女性の給仕が多かったのに、今は男性の方が多い。 5年もあれば色々とあるのだろうと済ませるには、サロンの雰囲気が違い過ぎていた。
「ここは、お嬢様には相応しく無いようですわ」
雰囲気もそうだけど、それ以上に気になるのは、おかしな匂い。
「変な……煙草?」
「いいえ……、お茶に含まれているようです。 鎮静作用のある薬でしょうか?」
何故知っているのか? 等とは今は聞かない。
「なんだか……イヤね」
「残るにしても、飲み物、食べ物を口にするのは控えられた方がよろしいでしょう」
「そうね……、今日のところは帰りましょうか?」
「お帰りになりますか?」
なんて話をしているうちに、人が近寄ってきた。
「貴方、とても素敵なドレスを着ておいでですわね」
女性の声は上ずり、おっとりとした声なのに、背筋がゾクリとするような声だった。
「えぇ、ありがとうございます」
ミランダが椅子を引き、席から立ち上がるのを手伝ってくれたけれど、静かに音を控えすり足で近寄ってくる女性達は1人ではなく、5人でも6人でもない……最初の女性の動きに呼応するように女性達は周囲を囲んできた。
「ぇっ」
不安から、ミランダの服を掴めば、ミランダはすっごく嬉しそうに目を細めて微笑んで見せて……ムッとし小声でつぶやく。
「別に、貴方を信頼している訳じゃないの。 貴方を紹介したランを信頼しているだけなんだから」
「わかっておりますわ。 それで、どうしますかお嬢様?」
そう言って、手を繋いでくる。
私達のやり取りは見えているだろうし、雑音で内容まで理解できなくても、会話をしているのは分かっているだろう。 だけど、何もないかのように女性は語りかけてくる。
「そのドレスは、どのような構造をしておりますの?」
ふわふわとした声は、言葉に心が伴っていないかのような感じ。
「その髪飾りは、どこで購入されましたの? とても不思議なつくりで、素敵な色ですわ」
開き過ぎるほどに下品なほどに開いている胸元。 引き絞ったウエスト、腰から尻にかけた部分を綺麗に形作るスカート。 ドレス自身の色合いも煽情的に見える濃い色合いに、胸を大きく見せる形と陰影が作られ、そして極めつけはアンバランスな素足。
「うふふ、貴方とてもカワイイわ。 お友達になりましょう」
そろりそろりとした手つきは、ナメクジを想像させて……怖い。 ビクッと私は目を閉ざし身を引けば、私の身体はミランダで下がれなかった。 怯えたように見上げれば、ミランダの女性としては大きなゴツゴツした手が、私の鎖骨部分で交差されていた。
その手は首筋に触れる。
あぁ、と、どこか嬉しそうにミランダは息をついた。
「ミ、ラ?」
「田舎から出て来たばかりのお嬢様には、美しい皆様に気後れしてしまったようですわ」
はきはきとした声でいいながら、首元を隠すように交差した手は、左手がウエスト部分を抱き寄せ、右手はランバールがするのとよく似た様子で頭を撫でて来た。 それで、私はホッとしてしまう。
「うふふ、私共も身に覚えがありますわ。 よろしければ宮殿での身の置き方をお教えしましてよ?」
そう言って、私が1度は座った席に3人の女性が陣取り、そして残り1脚に座るようにと促す。
「どうぞ、お座りになって、上位貴族しか口にする事が出来ない特別なお茶をご馳走いたしましてよ」
私は、抱きよせてくるミランダの左手の甲に、左手を重ねトントンと叩いた。 怖くはあるけれど、お茶は飲まなければいいし。 貴族女性達にオークランドの民であるミランダが負ける事もないだろう。
問題は、私の恐怖心。
そう、私は割り切って、席についた。
私は恋するかのような恥じらいの表情を作り(作れているかは別)女性達に問いかける。
「皇子様のお話を聞けると……嬉しいわ」
モジモジしながら言えば、あらあらうふふと微笑ましいとばかりに貴婦人が笑う。 そんな事すら怖いと言えば、考えすぎと言われるかもしれないが、同席している人とは別に、周囲を囲んでいる女性まで、いっせいにあらあらとするのだから怖いのだ。
「皇子たちは、運命の恋、魂の伴侶を求めておりますの」
「ぇ……」
運命の恋など存在しないのだと、そんな青臭い、いや呪いのような思いこみを反省している私にとっては、ドン引きだった。
「少し、離れていてくださる?」
「それだと、お守りできませんが?」
「生憎と、私は殺されるような悪い事をした覚えはありませんし、少しぐらい離れていても平気でしょう? それよりも、貴方が側にいると目立って仕方が無いわ」
「大丈夫ですよ。 皆さん、視線は私へ向かっていてお嬢様を見ている者等おりませんから」
ソレはソレでむかつく言葉だ……が、彼女の言葉は、余り事実のようには思えなかった。 舐めるような視線が彼方此方から向けられている。
人の視線から逃げるように、隠れた位置の席を目指し途中で給仕に声をかける。 以前は女性の給仕が多かったのに、今は男性の方が多い。 5年もあれば色々とあるのだろうと済ませるには、サロンの雰囲気が違い過ぎていた。
「ここは、お嬢様には相応しく無いようですわ」
雰囲気もそうだけど、それ以上に気になるのは、おかしな匂い。
「変な……煙草?」
「いいえ……、お茶に含まれているようです。 鎮静作用のある薬でしょうか?」
何故知っているのか? 等とは今は聞かない。
「なんだか……イヤね」
「残るにしても、飲み物、食べ物を口にするのは控えられた方がよろしいでしょう」
「そうね……、今日のところは帰りましょうか?」
「お帰りになりますか?」
なんて話をしているうちに、人が近寄ってきた。
「貴方、とても素敵なドレスを着ておいでですわね」
女性の声は上ずり、おっとりとした声なのに、背筋がゾクリとするような声だった。
「えぇ、ありがとうございます」
ミランダが椅子を引き、席から立ち上がるのを手伝ってくれたけれど、静かに音を控えすり足で近寄ってくる女性達は1人ではなく、5人でも6人でもない……最初の女性の動きに呼応するように女性達は周囲を囲んできた。
「ぇっ」
不安から、ミランダの服を掴めば、ミランダはすっごく嬉しそうに目を細めて微笑んで見せて……ムッとし小声でつぶやく。
「別に、貴方を信頼している訳じゃないの。 貴方を紹介したランを信頼しているだけなんだから」
「わかっておりますわ。 それで、どうしますかお嬢様?」
そう言って、手を繋いでくる。
私達のやり取りは見えているだろうし、雑音で内容まで理解できなくても、会話をしているのは分かっているだろう。 だけど、何もないかのように女性は語りかけてくる。
「そのドレスは、どのような構造をしておりますの?」
ふわふわとした声は、言葉に心が伴っていないかのような感じ。
「その髪飾りは、どこで購入されましたの? とても不思議なつくりで、素敵な色ですわ」
開き過ぎるほどに下品なほどに開いている胸元。 引き絞ったウエスト、腰から尻にかけた部分を綺麗に形作るスカート。 ドレス自身の色合いも煽情的に見える濃い色合いに、胸を大きく見せる形と陰影が作られ、そして極めつけはアンバランスな素足。
「うふふ、貴方とてもカワイイわ。 お友達になりましょう」
そろりそろりとした手つきは、ナメクジを想像させて……怖い。 ビクッと私は目を閉ざし身を引けば、私の身体はミランダで下がれなかった。 怯えたように見上げれば、ミランダの女性としては大きなゴツゴツした手が、私の鎖骨部分で交差されていた。
その手は首筋に触れる。
あぁ、と、どこか嬉しそうにミランダは息をついた。
「ミ、ラ?」
「田舎から出て来たばかりのお嬢様には、美しい皆様に気後れしてしまったようですわ」
はきはきとした声でいいながら、首元を隠すように交差した手は、左手がウエスト部分を抱き寄せ、右手はランバールがするのとよく似た様子で頭を撫でて来た。 それで、私はホッとしてしまう。
「うふふ、私共も身に覚えがありますわ。 よろしければ宮殿での身の置き方をお教えしましてよ?」
そう言って、私が1度は座った席に3人の女性が陣取り、そして残り1脚に座るようにと促す。
「どうぞ、お座りになって、上位貴族しか口にする事が出来ない特別なお茶をご馳走いたしましてよ」
私は、抱きよせてくるミランダの左手の甲に、左手を重ねトントンと叩いた。 怖くはあるけれど、お茶は飲まなければいいし。 貴族女性達にオークランドの民であるミランダが負ける事もないだろう。
問題は、私の恐怖心。
そう、私は割り切って、席についた。
私は恋するかのような恥じらいの表情を作り(作れているかは別)女性達に問いかける。
「皇子様のお話を聞けると……嬉しいわ」
モジモジしながら言えば、あらあらうふふと微笑ましいとばかりに貴婦人が笑う。 そんな事すら怖いと言えば、考えすぎと言われるかもしれないが、同席している人とは別に、周囲を囲んでいる女性まで、いっせいにあらあらとするのだから怖いのだ。
「皇子たちは、運命の恋、魂の伴侶を求めておりますの」
「ぇ……」
運命の恋など存在しないのだと、そんな青臭い、いや呪いのような思いこみを反省している私にとっては、ドン引きだった。
0
お気に入りに追加
457
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
女性執事は公爵に一夜の思い出を希う
石里 唯
恋愛
ある日の深夜、フォンド公爵家で女性でありながら執事を務めるアマリーは、涙を堪えながら10年以上暮らした屋敷から出ていこうとしていた。
けれども、たどり着いた出口には立ち塞がるように佇む人影があった。
それは、アマリーが逃げ出したかった相手、フォンド公爵リチャードその人だった。
本編4話、結婚式編10話です。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
人形な美貌の王女様はイケメン騎士団長の花嫁になりたい
青空一夏
恋愛
美貌の王女は騎士団長のハミルトンにずっと恋をしていた。
ところが、父王から60歳を超える皇帝のもとに嫁がされた。
嫁がなければ戦争になると言われたミレはハミルトンに帰ってきたら妻にしてほしいと頼むのだった。
王女がハミルトンのところにもどるためにたてた作戦とは‥‥
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる