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31.皇太子殿下と公爵の妥協点

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 大切な何かを忘れた日から5年の月日が流れている。

 その間に、領地改革のために教わった知識の大半は思い出すことができた。 だが、その計画の提案者がどんな人間だったか未だ思い出せない。

 ゼーマン公爵が、公爵令嬢との婚約を持ちかけるたびにイライラしているのは……思い出す声が、余りにも無邪気に甘く心地よいから。

『この6貴族に一度に声をかけるのが、バランスが良くて利益も大きくなりますよ。 接触を図って下さい。 シグルド殿下ならできますよね?』

 挑発ともとれる言葉だが、その声も瞳も、余りにもキラキラしていて、疑いの欠片も抱いていない事を覚えている。 無理だなんて言えるわけもなく……ただ期待に応えたいと頑張った。

 なのに……どうしてもソレを言った人間が思い出せないんだ!!

 ドンッと衝動のままに会議用のテーブルを叩けば、真っ二つに折れる。

「で、殿下……な、何か」

 この国の皇帝すら手玉に取るような男だが、ただコレだけの行動で血の気が失せていた。

「いや……」

 すまないと謝りそうになったが、公爵の押しの強さに苛立ちが酷くなったのも事実だ。

「あぁ、驚かせてしまったようだな。 俺にも好いた相手ぐらいいる。 余り無理を強いてくれるな」

 ソレは初めての反抗だった。

 テーブルを折った事に驚いたものの低姿勢なシグルドの言葉に気を良くしたゼーマン公爵は、強気に出た。

「そうおっしゃいますが、私の娘はもう何年を殿下のお返事をお待ちしているのですぞ!!」

「人が大人しく頼んでいるうちに引いてくれると、俺も助かるんだが?!」

 ギロリとシグルドが視線を向ければ、公爵はヒッと声を上げて怯える。

 公爵がシグルドに怯え始めたのは、最初の改革案を提示するために貴族を集めた時だった。 意気揚々と国家反逆を企てる謀反人を捕まえようと二十人を超える騎士を伴い会議室にやってこようとしっところ……。

 ルイーザ皇妃に

『私の息子を虐めるつもりか』

 と、コテンパンに痛めつけられた。 逆上するルイーザに地位や権力等意味が無い、彼方此方骨をボキボキと折られた者達(公爵含む)は、少しばかり暴力を振りかざせば簡単に怯えるようになっている。

 ただ……余り追いたて過ぎたルイーザ皇妃は、故郷に返されてしまったが……。

 怒るシグルドは引っ込みがつかず。
 怯えるゼーマン公爵は立場が無い。

 間に入ったのはクロードだった。

「まぁ、でも、そろそろお披露目もいいんじゃないのか? 君、パーティには出たことないでしょう? 公爵家のパーティに参加させてもらうと言う事で、色々と折り合いつけてもらうって言うのはどうかな?」

「はぁ?! 冗談じゃ(ない)」

「うん、真面目な話だよ。 君だって何時までも子供じゃないんだし。 ホルト帝国もさ、最初の改革から6年、随分と地盤が固まってきたわけだし。 新しく味方を得る事も考える必要がある時期だろう? どう思います公爵。 お願い聞いてくれますよね?」

「あぁ、とてもいい話だ。 ぜひ、我が家のパーティに出てくれ」

 そして、不満そうなシグルドを横に、折り合いをつけたと言う形でゼーマン公爵は去っていくのだった。
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