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15.第一皇妃と第二皇妃
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第二皇妃の生まれたゼーマン公爵家は帝国となる以前、ホルト帝国が小国であった頃から良く皇族に仕えている一族だ。
その縁もあり、公爵令嬢は皇帝と幼馴染として過ごしただけでなく、物心ついた頃には恋仲となっていた。
そんな公爵令嬢が第一皇妃ではなく、第二皇妃となった事には理由がある。
まだ公爵令嬢と呼ばれていた頃、現第二皇妃は連合国家を名乗る集団に誘拐された。 それは奇襲であり、数の暴力であり、虐殺であり、惨殺。 令嬢以外の命は全て奪われた。
連合国家……その正体はわからないが、名だけを見れば複数の国家が手を組み、敵対する様子が予測された訳だ。
用心が必要である……。
様子を見る必要がある。
まずは、情報を集めなければ。
そんな言葉に苛立った皇帝は1人動いてしまったのだ。
オークランド国に救いを求めに……。
オークランド国国王は、娘であるルイーズを第一皇妃として帝国に迎える事、そしてオークランド国との同盟を条件にだし承諾を受け、誘拐された公爵令嬢を救出す。
そして『鬼』の一族の姫君と言われたルイーズ様は第一皇妃となった。
その地位と権力は確保されてはいたが、皇帝に愛される事はなく蔑ろにされ、人との交流を得意とはしないルイーズは味方を作る事が出来ないまま今に至る。
ようするに、公務のほとんどを第二皇妃が務めているのだ。
これらの出来事が長く、シグルド殿下の地位を脅かしていた。
過去形である。
今までは皇妃同士の立場が、皇子達の立場を決めていたが、今は、皇妃の力の差異よりも、皇帝の資格を持つ者達が評価されるようになっている。 そして、個人の力を評価するあまり、現皇帝よりもシグルド殿下を皇帝位につけるべきでは? 等と語る者まで出ている。
そんな噂をランバールは私に聞かせた。
「ようするに分不相応だと言いたい訳?」
「そこは言葉を控えさせていただきます」
「でも、シグルド殿下の評価は当然よね」
私は調理場で、クッキー生地をこね回しながら返事をする。
料理に関しては、精神の図書館はなかなか有能なのだ。 材料の指定を行えば、その材料を使うレシピが手に入る。 最近は皇子との軽食に少しばかり、張り切っているのだ。
まぁ……ただの打ち合わせが、軽食付きの打ち合わせに変わっただけなんだけど……。
「妬けますね」
「ぇ? 焦げちゃう?」
ボソリとしたランバールの呟きに私が慌てれば、物凄く大きくてわざとらしい溜息がつかれた。
「違いますよ……」
「分かっているわ、貴方そういう趣味があったとは知らなかったわ」
「そういう趣味とは……?」
「殿下ともっとお近づきになりたい」
「……どうしてそうなるんですか……」
「だって、私とランバールはもう仲良しでしょう?」
シグルド殿下を救うために、生贄として連れてこられたランバールは、そのまま受け取られ私のために生きている。 これも生贄の正しい使い方と言えるかもしれない。
「はぁ……まぁ、そうですね。 その通りですよ。 私もクッキーづくりを手伝いますよ」
「それは助かるわ。 料理って結構体力仕事なのよ」
そして協力を願い出てくれた事を幸いと、私はメレンゲ作りをランバールに押し付けるのだった。
その縁もあり、公爵令嬢は皇帝と幼馴染として過ごしただけでなく、物心ついた頃には恋仲となっていた。
そんな公爵令嬢が第一皇妃ではなく、第二皇妃となった事には理由がある。
まだ公爵令嬢と呼ばれていた頃、現第二皇妃は連合国家を名乗る集団に誘拐された。 それは奇襲であり、数の暴力であり、虐殺であり、惨殺。 令嬢以外の命は全て奪われた。
連合国家……その正体はわからないが、名だけを見れば複数の国家が手を組み、敵対する様子が予測された訳だ。
用心が必要である……。
様子を見る必要がある。
まずは、情報を集めなければ。
そんな言葉に苛立った皇帝は1人動いてしまったのだ。
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オークランド国国王は、娘であるルイーズを第一皇妃として帝国に迎える事、そしてオークランド国との同盟を条件にだし承諾を受け、誘拐された公爵令嬢を救出す。
そして『鬼』の一族の姫君と言われたルイーズ様は第一皇妃となった。
その地位と権力は確保されてはいたが、皇帝に愛される事はなく蔑ろにされ、人との交流を得意とはしないルイーズは味方を作る事が出来ないまま今に至る。
ようするに、公務のほとんどを第二皇妃が務めているのだ。
これらの出来事が長く、シグルド殿下の地位を脅かしていた。
過去形である。
今までは皇妃同士の立場が、皇子達の立場を決めていたが、今は、皇妃の力の差異よりも、皇帝の資格を持つ者達が評価されるようになっている。 そして、個人の力を評価するあまり、現皇帝よりもシグルド殿下を皇帝位につけるべきでは? 等と語る者まで出ている。
そんな噂をランバールは私に聞かせた。
「ようするに分不相応だと言いたい訳?」
「そこは言葉を控えさせていただきます」
「でも、シグルド殿下の評価は当然よね」
私は調理場で、クッキー生地をこね回しながら返事をする。
料理に関しては、精神の図書館はなかなか有能なのだ。 材料の指定を行えば、その材料を使うレシピが手に入る。 最近は皇子との軽食に少しばかり、張り切っているのだ。
まぁ……ただの打ち合わせが、軽食付きの打ち合わせに変わっただけなんだけど……。
「妬けますね」
「ぇ? 焦げちゃう?」
ボソリとしたランバールの呟きに私が慌てれば、物凄く大きくてわざとらしい溜息がつかれた。
「違いますよ……」
「分かっているわ、貴方そういう趣味があったとは知らなかったわ」
「そういう趣味とは……?」
「殿下ともっとお近づきになりたい」
「……どうしてそうなるんですか……」
「だって、私とランバールはもう仲良しでしょう?」
シグルド殿下を救うために、生贄として連れてこられたランバールは、そのまま受け取られ私のために生きている。 これも生贄の正しい使い方と言えるかもしれない。
「はぁ……まぁ、そうですね。 その通りですよ。 私もクッキーづくりを手伝いますよ」
「それは助かるわ。 料理って結構体力仕事なのよ」
そして協力を願い出てくれた事を幸いと、私はメレンゲ作りをランバールに押し付けるのだった。
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