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12.特別ですか?

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 何故かシグルド皇子との勉強会は1年経過しても続いていた。

「憂鬱そうに溜息をつくのならおやめになっては如何ですか?」

「でも、頼りにされているから……」

「お嬢様にどんな利益があると言うんですか!!」

 私は黙り込み、私を心配するランバールを睨みつける。



 分かっている!!
 分かっているわよ!!

 不毛な事をしているって……。

 でも……未だに私は運命と言うものに夢を馳せてしまうのだ。



 甲斐甲斐しい知識の提供によって皇子の評価は少しずつだが高まっていた。 ホルト帝国は国土を広げる事で大国である事を維持していたが、民の生活に視線を向ければ、貧困国と言っても良いだろう。

 未だ小国の主を気取る領主達を集めシグルド殿下は、相互協力の重要性を訴え、企画書類をもって説明し、変革をもたらそうとした。 結果としては、

『生産物を切り替えるのは分かりましたが、確実に成功すると言えるのですか? 殿下は保証してくれると言うのですか?』

 当初はそう言って見下されたと言う。

 そのように語る気持ちも分からないではない。

 庶民となれば、その日、その年、自分達が生活するために必要な食料、ソレに加え家を直し、衣類を準備し、僅かな蓄えと、納税分の利益を出さなければいけない。 まともに食べる事も出来ない年だってある中で、作物1つだけを集中して作れと言われ、納得できないのも仕方がない。

 そこで、手っ取り早く収益化できそうな提案を持ちかけた。

 砂漠・荒野等の不毛地域の地質調査。
 場合によっては、岩塩、重曹等が作物育成の弊害になっている場合があったから。 実際に広大な岩塩地域、重曹地帯、魔石燃料地帯が発見された。

 これにより、海岸地域での塩づくりは停止。 貝類の養殖業実験の開始、漁業への集中、魚介類の加工へと事業転換が行われた。

 日々の生活に影響を与えないレベルでの変革は、これが限界だったのだけど。

ルドリュ伯爵領では既に特化型農耕が行われ実績を上げ、産業モデルとして殿下の押し進める改革を応援する形となっていた。

 結果として、殿下の評価は凄い勢いで高まっている。

 ソレ等知識が、精神の図書館から得たものであり、なんら利益なくソレを提供していると言う事にランバールは不満を述べているのだ。

「殿下の行いは、最終的には生活の質を向上させ、私にも利益がでてくるわ!! 不満があるならついてこなくていいから!!」

 そう言い切って私は馬車に乗り、宮殿に向かった。

 宮殿図書館の逢瀬は約束されたものではないけれど、それでもシグルド殿下を待つように通う私は、馬鹿みたいだと自分でもわかっている。

「久しぶりだな」

 精神の図書館に降りていたところ、不意に声をかけられ意識が引き戻された。

「殿下、ご無沙汰しております。 最近、殿下の人気は急上昇と伺っておりますわ。 お忙しい中、お会いできるだけでも光栄でございます」

「止めてくれ、そんな仰々しい挨拶。 そもそも、その人気の理由はお前にあるのだから。 褒美をくれてやろう。 何か欲しいものはないか?」

「いいえ、特にございませんわ」

 森の民の中には、商人に扮して珍しい各地を調査し、珍しいものを手に入れてくる者もいる。 王族内で差別を受け、必死に足掻く皇子に比べれば、私の方が余程恵まれた環境に身を置いていると言えるだろう。

「そういうな。 何か礼をさせてもらわなければ、寝覚めが悪い」

「殿下が作り出す豊かな未来で十分でございます」

「それは、なかなか大変そうだ」

 そして私達は何時もの勉強会……と言うか、シグルド殿下が欲する知識の提供を私は始めた。 一通りの質問に答えた。

「悪いな」

「そうだ……お願いですが、1つよろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「今日はとても良い天気だと思うの」

「だな」

「外でオヤツを食べるのを、ご一緒してくれませんか?」

「あ~~。 いや、外に出ると見つかってヤバイ」

「見つかるって?」

「侍女や、護衛騎士が……ウルサイ……」

 顔を歪ませてシグルド殿下は言う。

「良い場所があるんで、ご案内しますよ」

 私が椅子から立ち上がり、シグルド殿下に手を差し伸べれば、殿下は手をとってくれた。

「殿下……」

「なんだ?」

「私って、殿下の特別かな?」

 曖昧な立場が嫌で、勇気を振り絞って聞いてみた。

「当たり前だろう?」

 そう殿下笑うから、私は嬉しくて泣きそうになってしまう。 あぁ、こういうところばかり父に似て、ダメな子ね……。
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