29 / 42
29.説明と取り調べ その3
しおりを挟む
「そうかでは、次は質問をさせてもらおう」
クルト公爵は、熱の無い冷ややかな声色で尋ねてきました。
例え公爵の声色が業務的で、やや威圧的になっていたとしても……。 私自身は全てが受動的であり、何ら重要な返答が出来るとは思えません。 それに、クルト公爵が望まぬ相手と誓いの契約を交わしたと言う意味では、私であってもフレイであっても変わらないはず。 質問も簡単に終わると思っていました。
ですが、想像もしていなかった質問がなされたのです。
「はい」
「君は聖女の素質を持っているのか?」
「誕生時に、簡易的な検査球で調べた時は、そのような結果だったと両親から聞いております」
「なぜ、その後、正式に神殿で素質を調べる事無く、無許可で医療行為を行った?」
「素質における検査義務はないと記憶しておりますが?」
「そもそも各属性の素質は、血統を重ねて作られたものを除き滅多に発現しない。 その中でも破壊に属さない聖人・聖女の素質は、血統で作ることも出来ない稀少なものであり、平和な時代においても必要とされる素質であるため、その申告には義務が発生する」
淡々と話してはいるが、ジッと見つめてくる視線は……緊張を促します。
「それは……存じませんでした」
そう言えば、少しばかり嫌味っぽい溜息がつかれた。
「ノエルが知らずとも、家族は知っていただろう。 一応領地を預かる貴族なのだから」
一応……確かに、小さな村3つ分の貧乏領主など、一応ぐらいの貴族ですわよね……。
「私が簡易検査を受けたのは、レイバ家に売り払う際の査定としておこなわれたと聞いています。 その価値に応じた資金援助を受けるためのものでした。 神殿に申告するのは約定をたがえる。 両親はそう考えたのではないでしょうか」
「……両親に不満を持ったことはないのか」
「領民を飢えさせるわけにはいきません」
「だが、神殿に申告をしても、聖女の素質を持っているとなれば莫大な支度金が提供される」
「私の誕生以前に、レイバ辺境伯には両親が命を救われております」
「なるほど……、それで治療に関する魔術は何処で学んだ?」
「聖人に至らなかった方を、辺境伯は講師として招いてくださりました」
素質はあくまでも素質。 特に出現しにくい聖人、聖女の素質が、実際に聖人や聖女に至る場合は決して多くはなく、実行できずともその技を知るものは少なくはない。
「重大な法的違反を幾つおかしているのか分かっているのか……」
「その……法的に認められていないと言うのは、どのあたりでしょうか?」
キュッと心臓が握られるような声色だった。 乾いた喉のままで私は尋ね返しました。
「稀な素質を確認されながら神殿に報告を怠り、正式な検査を行わなかった事。 神殿の許可なく奇跡の技を学んだこと。 聖女の奇跡を独占したこと。 無許可での奇跡の使用。 例え講師から学び、失態が無かったと言っても、それは結果論だ。 もし、教えられた奇跡技が間違っていたら? もし、その技が失敗したら、どうするつもりだったんだ」
決して声を荒げる事はないが、だからこそ余計に事の重大さが伝わってくる。
「申し訳ありませんでした」
「俺に謝っても意味がない」
「私はどのような罰を受けるのでしょうか?」
「それら全ては、レイバ辺境伯が聖女の奇跡を独占するために行った事で、罰を受けるのはレイバ辺境伯となる」
私は考える。
ですが、公爵と辺境伯は御友人ですよね? と……。 結局は、私一人が責任を負う事になるだろう。 ですが『どうせ、私に罪を着せ終わらせるのですよね?』等と言う言葉は、はばかられた。
「その罪、私が背負う場合、どのような罪となり罰を与えられるのでしょうか?」
「レイバ辺境伯への罰を背負うと?」
「辺境伯の責任とするだけの材料は持ち合わせておりませんので……」
ドンっと、激しくテーブルが叩かれ、私は驚きクルト公爵へと視線を向けた。
「俺に助けを求めはしないのか?」
クルト公爵は、熱の無い冷ややかな声色で尋ねてきました。
例え公爵の声色が業務的で、やや威圧的になっていたとしても……。 私自身は全てが受動的であり、何ら重要な返答が出来るとは思えません。 それに、クルト公爵が望まぬ相手と誓いの契約を交わしたと言う意味では、私であってもフレイであっても変わらないはず。 質問も簡単に終わると思っていました。
ですが、想像もしていなかった質問がなされたのです。
「はい」
「君は聖女の素質を持っているのか?」
「誕生時に、簡易的な検査球で調べた時は、そのような結果だったと両親から聞いております」
「なぜ、その後、正式に神殿で素質を調べる事無く、無許可で医療行為を行った?」
「素質における検査義務はないと記憶しておりますが?」
「そもそも各属性の素質は、血統を重ねて作られたものを除き滅多に発現しない。 その中でも破壊に属さない聖人・聖女の素質は、血統で作ることも出来ない稀少なものであり、平和な時代においても必要とされる素質であるため、その申告には義務が発生する」
淡々と話してはいるが、ジッと見つめてくる視線は……緊張を促します。
「それは……存じませんでした」
そう言えば、少しばかり嫌味っぽい溜息がつかれた。
「ノエルが知らずとも、家族は知っていただろう。 一応領地を預かる貴族なのだから」
一応……確かに、小さな村3つ分の貧乏領主など、一応ぐらいの貴族ですわよね……。
「私が簡易検査を受けたのは、レイバ家に売り払う際の査定としておこなわれたと聞いています。 その価値に応じた資金援助を受けるためのものでした。 神殿に申告するのは約定をたがえる。 両親はそう考えたのではないでしょうか」
「……両親に不満を持ったことはないのか」
「領民を飢えさせるわけにはいきません」
「だが、神殿に申告をしても、聖女の素質を持っているとなれば莫大な支度金が提供される」
「私の誕生以前に、レイバ辺境伯には両親が命を救われております」
「なるほど……、それで治療に関する魔術は何処で学んだ?」
「聖人に至らなかった方を、辺境伯は講師として招いてくださりました」
素質はあくまでも素質。 特に出現しにくい聖人、聖女の素質が、実際に聖人や聖女に至る場合は決して多くはなく、実行できずともその技を知るものは少なくはない。
「重大な法的違反を幾つおかしているのか分かっているのか……」
「その……法的に認められていないと言うのは、どのあたりでしょうか?」
キュッと心臓が握られるような声色だった。 乾いた喉のままで私は尋ね返しました。
「稀な素質を確認されながら神殿に報告を怠り、正式な検査を行わなかった事。 神殿の許可なく奇跡の技を学んだこと。 聖女の奇跡を独占したこと。 無許可での奇跡の使用。 例え講師から学び、失態が無かったと言っても、それは結果論だ。 もし、教えられた奇跡技が間違っていたら? もし、その技が失敗したら、どうするつもりだったんだ」
決して声を荒げる事はないが、だからこそ余計に事の重大さが伝わってくる。
「申し訳ありませんでした」
「俺に謝っても意味がない」
「私はどのような罰を受けるのでしょうか?」
「それら全ては、レイバ辺境伯が聖女の奇跡を独占するために行った事で、罰を受けるのはレイバ辺境伯となる」
私は考える。
ですが、公爵と辺境伯は御友人ですよね? と……。 結局は、私一人が責任を負う事になるだろう。 ですが『どうせ、私に罪を着せ終わらせるのですよね?』等と言う言葉は、はばかられた。
「その罪、私が背負う場合、どのような罪となり罰を与えられるのでしょうか?」
「レイバ辺境伯への罰を背負うと?」
「辺境伯の責任とするだけの材料は持ち合わせておりませんので……」
ドンっと、激しくテーブルが叩かれ、私は驚きクルト公爵へと視線を向けた。
「俺に助けを求めはしないのか?」
0
お気に入りに追加
1,297
あなたにおすすめの小説
精霊の愛し子が濡れ衣を着せられ、婚約破棄された結果
あーもんど
恋愛
「アリス!私は真実の愛に目覚めたんだ!君との婚約を白紙に戻して欲しい!」
ある日の朝、突然家に押し掛けてきた婚約者───ノア・アレクサンダー公爵令息に婚約解消を申し込まれたアリス・ベネット伯爵令嬢。
婚約解消に同意したアリスだったが、ノアに『解消理由をそちらに非があるように偽装して欲しい』と頼まれる。
当然ながら、アリスはそれを拒否。
他に女を作って、婚約解消を申し込まれただけでも屈辱なのに、そのうえ解消理由を偽装するなど有り得ない。
『そこをなんとか······』と食い下がるノアをアリスは叱咤し、屋敷から追い出した。
その数日後、アカデミーの卒業パーティーへ出席したアリスはノアと再会する。
彼の隣には想い人と思われる女性の姿が·····。
『まだ正式に婚約解消した訳でもないのに、他の女とパーティーに出席するだなんて·····』と呆れ返るアリスに、ノアは大声で叫んだ。
「アリス・ベネット伯爵令嬢!君との婚約を破棄させてもらう!婚約者が居ながら、他の男と寝た君とは結婚出来ない!」
濡れ衣を着せられたアリスはノアを冷めた目で見つめる。
······もう我慢の限界です。この男にはほとほと愛想が尽きました。
復讐を誓ったアリスは────精霊王の名を呼んだ。
※本作を読んでご気分を害される可能性がありますので、閲覧注意です(詳しくは感想欄の方をご参照してください)
※息抜き作品です。クオリティはそこまで高くありません。
※本作のざまぁは物理です。社会的制裁などは特にありません。
※hotランキング一位ありがとうございます(2020/12/01)
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星河由乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
親友、婚約者、乳姉、信じていた人達に裏切られて自殺を図りましたが、運命の人に助けられました。
克全
恋愛
「15話3万8026字で完結済みです」ロッシ侯爵家の令嬢アリア、毒を盛られて5年間眠り続けていた。5年後に目を覚ますと、婚約者だった王太子のマッティーアは、同じ家門の親友ヴィットーリアと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、乳姉のマルティナだと、助けてくれた叡智の精霊ソフィアに聞かされるた。更に追い討ちをかけるように、全てを仕組んだのは家門の代表だった父が最も信頼していたヴィットーリアの父親モレッティ伯爵だった。親友のヴィットーリアも乳姉のマルティナも婚約者のマッティーアも、全員ぐるになってアリアに毒を盛ったのだと言う。真実を聞かされて絶望したアリアは、叡智の精霊ソフィアに助けてもらった事を余計なお世話だと思ってしまった。生きていてもしかたがないと思い込んでしまったアリアは、衝動的に家を飛び出して川に飛び込もうとしたのだが……
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる