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28.説明と取り調べ その2
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「旦那様、ノエル様をお連れ致しました」
「入れ」
扉が開かれ、どうぞと侍女頭は私を先に行くように告げますが、扉を一歩潜ったところで私は軽く礼の形をとる。
「お風呂と、お食事、そして着替え、数々のお気遣いありがとうございます」
私は、王太子の『一の剣』の座と言う名誉を狙っていたフランに恥をかかせないよう礼儀作法、所作は教え込まれており、国王陛下の弟君、クルト公爵に対しても相応しい挨拶が出来ているはずです。
「堅苦しい挨拶は必要ない」
何処か不機嫌そうな返事に、何かあったのかしら? と思いましたが、余計な事は詮索するなと言われたばかり、私は無言のまま頭を下げれば、溜息交じりの呼吸音が聞こえたような気が……。 まぁ、気のせいですよね。
「座るがいい。 情報を共有しよう」
「失礼します」
私は一礼をし、クルト公爵の正面に位置するソファに腰を下ろすと同時に、チラリと周囲へと視線を巡らせます。 ちょっとした癖のようなものです。
その部屋は、とても広い部屋ではありますが、膨大な本がアチコチに積み重ねられ、アリ塚のようになっています。 挙句に埃が積み上げられ、絨毯やテーブルには小さな焦げ跡、灰皿があると言うことは、クルト公爵は喫煙者と言う事でしょうか?
ここまで考えて、私は余計な詮索を辞めろと言われていたのを思い出し、視線をクルト公爵の襟元へとうつし言葉を待ちました。
「レイバ辺境伯の2人の子に対する愚痴……のようなものは、昔から途絶える事はなかったが、ここ1.2カ月は頻繁に王都に訪れ、心情を吐き出すようになっていた……」
突然に語りだした内容は、お二人に良い印象を持っていない私ですら『嘘』と言いたくなるような内容でした。 フレイがどうしてクルト公爵に嫁ぐ事になったのか、と言うよりも、辺境伯に押し切られた、そうせずにはいられない状況を語られたのです。
簡単に言えばこんな感じかな? とかってに脳内で翻訳。
『報われぬ恋に苛立って娘がさぁ最近見るに堪えなくて、でも注意をしても聞く耳ないし、超頑張って怒れば、暴れだしそうなわけよ。 アイツ超強いから超大変、で、管理できる奴ってオマエぐらいだろう?
?だからよろしく!』
「まさか……フレイ様はフラン様を心から愛しておりながらそのような……いえ、それが悪いと言うのではなく、むしろ他の殿方との関係を嫌がる物だと思っておりました」
侍女達のおかげで、子供の作り方を学ぶことができ、恥をかかずに済みました。 あんな騒々しい方々でしたが感謝です。
「ノエルは、婚約者が自分を差し置いて妹と仲良くするのは、気分が悪かったのではないのか? いや、ショックを受けたのではないか?」
クルト公爵の視線が泳いでいますが、確かに聞きづらい事ですから仕方ありませんよね。
「私は、領民を生かすためにレイバ家に売られました。 奴隷ではなくフラン様の婚約者と言う地位を与えてくださった事に感謝こそあれ、そこに不満を持つつもりはありません。 辺境伯夫人としての執務に手を抜くつもりはありませんでしたし、お二人の仲に対して邪魔をしようと考えた事はございませんわ」
「情はないと言うことか?」
「私の前での2人は、嫌味は言うものの、穏やかに日向でジャレル猫のようで取り立てて嫌悪もしておりませんでした。 そうですね……むしろ長く一緒にいたのですから、多少の情はあったかもしれません。 ですが、流石に騙されて拘束され、不自由な檻に放り込まれ、罪人のように扱われては……恨みごとの1つや2つ言いたくなると言うものです」
「愚痴で良ければ聞くが?」
笑いながら言われましたが、私は微笑みを浮かべ小さく首を横に振りました。
「公爵相手に恐れ多い、お心遣いのみありがたくお受けしておきます」
そう告げた時、奇妙な違和を覚えたのは……。
「入れ」
扉が開かれ、どうぞと侍女頭は私を先に行くように告げますが、扉を一歩潜ったところで私は軽く礼の形をとる。
「お風呂と、お食事、そして着替え、数々のお気遣いありがとうございます」
私は、王太子の『一の剣』の座と言う名誉を狙っていたフランに恥をかかせないよう礼儀作法、所作は教え込まれており、国王陛下の弟君、クルト公爵に対しても相応しい挨拶が出来ているはずです。
「堅苦しい挨拶は必要ない」
何処か不機嫌そうな返事に、何かあったのかしら? と思いましたが、余計な事は詮索するなと言われたばかり、私は無言のまま頭を下げれば、溜息交じりの呼吸音が聞こえたような気が……。 まぁ、気のせいですよね。
「座るがいい。 情報を共有しよう」
「失礼します」
私は一礼をし、クルト公爵の正面に位置するソファに腰を下ろすと同時に、チラリと周囲へと視線を巡らせます。 ちょっとした癖のようなものです。
その部屋は、とても広い部屋ではありますが、膨大な本がアチコチに積み重ねられ、アリ塚のようになっています。 挙句に埃が積み上げられ、絨毯やテーブルには小さな焦げ跡、灰皿があると言うことは、クルト公爵は喫煙者と言う事でしょうか?
ここまで考えて、私は余計な詮索を辞めろと言われていたのを思い出し、視線をクルト公爵の襟元へとうつし言葉を待ちました。
「レイバ辺境伯の2人の子に対する愚痴……のようなものは、昔から途絶える事はなかったが、ここ1.2カ月は頻繁に王都に訪れ、心情を吐き出すようになっていた……」
突然に語りだした内容は、お二人に良い印象を持っていない私ですら『嘘』と言いたくなるような内容でした。 フレイがどうしてクルト公爵に嫁ぐ事になったのか、と言うよりも、辺境伯に押し切られた、そうせずにはいられない状況を語られたのです。
簡単に言えばこんな感じかな? とかってに脳内で翻訳。
『報われぬ恋に苛立って娘がさぁ最近見るに堪えなくて、でも注意をしても聞く耳ないし、超頑張って怒れば、暴れだしそうなわけよ。 アイツ超強いから超大変、で、管理できる奴ってオマエぐらいだろう?
?だからよろしく!』
「まさか……フレイ様はフラン様を心から愛しておりながらそのような……いえ、それが悪いと言うのではなく、むしろ他の殿方との関係を嫌がる物だと思っておりました」
侍女達のおかげで、子供の作り方を学ぶことができ、恥をかかずに済みました。 あんな騒々しい方々でしたが感謝です。
「ノエルは、婚約者が自分を差し置いて妹と仲良くするのは、気分が悪かったのではないのか? いや、ショックを受けたのではないか?」
クルト公爵の視線が泳いでいますが、確かに聞きづらい事ですから仕方ありませんよね。
「私は、領民を生かすためにレイバ家に売られました。 奴隷ではなくフラン様の婚約者と言う地位を与えてくださった事に感謝こそあれ、そこに不満を持つつもりはありません。 辺境伯夫人としての執務に手を抜くつもりはありませんでしたし、お二人の仲に対して邪魔をしようと考えた事はございませんわ」
「情はないと言うことか?」
「私の前での2人は、嫌味は言うものの、穏やかに日向でジャレル猫のようで取り立てて嫌悪もしておりませんでした。 そうですね……むしろ長く一緒にいたのですから、多少の情はあったかもしれません。 ですが、流石に騙されて拘束され、不自由な檻に放り込まれ、罪人のように扱われては……恨みごとの1つや2つ言いたくなると言うものです」
「愚痴で良ければ聞くが?」
笑いながら言われましたが、私は微笑みを浮かべ小さく首を横に振りました。
「公爵相手に恐れ多い、お心遣いのみありがたくお受けしておきます」
そう告げた時、奇妙な違和を覚えたのは……。
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