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05.そして私は馬車に詰め込まれた

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 フレイが強い視線を向けてきた。
 強いまっすぐな視線。

「お断りします」

「やっぱり、兄を愛していらっしゃるのね」

「いいえ、現実的な問題です。 レイバ領のことを考えればフレイ様の御懐妊は、めでたいこと。 いくらフラン様がソレを気に入らないと……」

 私は黙りこんでしまった。

 フランは、何よりも体裁を気にする。 それは、次期領主としての責任感の強さだけでは語られない程のもの。 だけど、自分と同じ顔をしたフレイの体型の変化に耐えられるだろうか? というところが……。

「兄は、きっと、私を殺します。 私の腹が大きくなり、そして私の持つ力が生まれてくる子へと引き継がれてしまえば、大変なことになりかねないからと。 兄は、私に子を産むことを許して等いないのですから。 だから、だから……お願いします」

「フラン様……ですね」

「ぇ?」

 訳が分からないと言う表情が返された。

「なぜ、このような茶番をなさるのですか……」

 違和感はあった。 だけど、流石に自分の婚約者がドレスを着て妹の振りをして現れるなんて、想像もしていなかった。

「やっぱり、愛だね」

 ドレスは着たままだが、それでも言葉遣いを変えてカツラを取ればフランだった。 そしてそのままドレスも抜いていく。

「いえ、それは帰ってから着替えてください」

「何? 恥ずかしいの? でもねぇ、このままってわけにはいかないんだ。 君からの愛情は嬉しかったけれど、逃げると言ってくれれば、乱暴をしなくてすんだのに。 残念だよ」

 その後、強烈な腹部の痛みと共に私は意識を失った。

 次に目を覚ました時。

 そこは、猛獣を運ぶための檻の中。
 首輪に手錠、足環。
 全てに呪術が刻まれていた。

 呪術の内容を見る限り、私用ではなくフレイ専用だと言う事が予測できた。 檻の中には、パン、干し肉、チーズ、水筒が馬車の揺れとともに移動する。 檻の片隅には、床の一部が開閉式となっており、多分、そこで用を足せと言うことなのでしょう。

 最悪だ……。

 食事は多分1日1回小窓から投げ入れられ、話しかける人もいない。 せめて現状を説明してくれる人が欲しいが、首輪には声を出せなくするための呪術が刻まれていた。

 今までレイバ家、いえ……フラン、フレイの双子が、目の前でいちゃつこうと、本来私に与えられる装飾品やドレスがフレイの物になろうと。 古い建物に1人追いやられようと、ソレをツライと思ったことも無ければ、恨んだことも無かった。

 まぁ、あえてツライとするなら、双子の茶番に付き合うときぐらい。

 状況が分からないまま罪人扱い。
 不安や、苛立ちがない訳がない。

 だけど……暴れようと言う気にもならなかった。 静かに体調を整え、脱出のチャンスを待つ方が、前向きであろうと思ったのだ。

 私がフレイの代わりとしている以上、最悪と言う扱いだけは避けるだろう……と、ただソレだけが唯一の心の支えだった。





 時は豊穣祭の前にさかのぼる。

 フランは当主である父から呼び出され、何度も繰り返された言葉を聞き流していた。

「ノエルが成人を迎え、そろそろ婚姻も本格的に考える時期が来ているのだが、その良すぎる兄妹仲というのはどうかならないのかな? 婚約者であるノエルが気の毒だと私に訴えてくる者も多い」

「もう少し、世間の目に注意を払うことにします」

「違うだろう……。 私が言っているのはノエルを蔑ろにするなと言っているんだ」

「決して蔑ろになどしておりませんよ。 父上。 ノエルが、それで良いと言っているんです。 自分よりもフレイを優先して欲しいと」

「女性の言う、私はいいの。 を、真に受けてはいけないよ」

「ノエルは、勿体ぶるようなことをしませんよ」

「なら、それは、オマエを欠片も愛していないと言うことだ」

「いいえ、ノエルは、私だけでなくフレイも共に愛してくれる。 そんな心の広い女性なんですよ」

「オマエは、よく、そんな都合の良い言葉がスラスラと出てくるものだ」

 当主は呆れた様子で告げ、そして言葉を続けた。

「まぁ、いい。 なら、そんな心の広い女性を、オマエは、いやオマエ達は受け入れるべきではないかな? 彼女は成人を迎え、フレイと違い領民とも良い関係を築いている。 礼儀もあり教養もある。 むしろ知識を得すぎではないかと言うほどだ」

「それは……僕も思っていました。 女性はフレイのように物を知らない方が可愛いと言うものです」

「オマエは……」

「なんですか父上」

「オマエぐらいだろう。 アレを可愛いと言うのは」

「そうでしょうね。 それでいいと思いますよ。 父上だって、困るでしょうあの力が他に持ち出されるのは、そもそもフレイは僕がいなければダメな子ですからね」

 当主は黙り、そして溜息をつき話を戻した。

「それでだ……結婚式だが、いつぐらいまでにフレイを大人しく御せそうだ?」

 そう告げれば、鍵をかけたはずの扉がぶち壊され、燃え上がった。

「ダメ!! ダメよ!! フランは私のなんだから!!」

 感情を抑えきれないフレイを見て、当主は溜息と共にフランに言った。

「新年までには、フレイを説得するように」

 そんな出来事を切っ掛けに、フレイは当てつけとばかりに、手あたり次第に男性と肌を合わせ、甘い声を漏らすようになっていた。

 それはノエルの知らない場での出来事。

 そして、当てつけに見せられる同じ顔をしているフランにとっては、見るに堪えない出来事だった。
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