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3章 ルシッカ伯爵領 中央都市
29.プロポーズ 01
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「まだ、起きていたんですか? 伯爵」
月明かりが入り込む窓を眺め黄昏座る白い背中。 広く力強い背のはずなのに何故か弱々しく感じ手を伸ばし、手を左右に動かし柔らかな毛並みを撫でた。
「呼び方が戻っていますよ」
その声に違和を覚えた。 いつもの甘く優しい声でなく、どこか素っ気ない声だった。伯爵……いえ、ヴァイス様らしく思えない。
「ごめんなさい。 寝ぼけていて……」
這うようにヴァイス様の背に近づこうとすれば、尻尾がそっと身体を撫で抱き寄せるように身体に回される。 その何時もの様子にホッとした。
「それで、ヴァイス様は眠らないのですか?」
もふっと、首元に顔を埋めながら聞こうとすれば、振り返り唇がザラリとした舌で舐められ、くすぐったかった。
「どうなさったのですか?」
笑い聞きながら、私はヴァイス様の薄い唇にチュッと唇を軽くあわせ、ベッドを降りようと足を延ばせば、
「どこに行くのですか?」
不安そうな声。
「眠れないようですから、ミルクでも温めてきますよ」
何が気に入らないのかと、何かしてしまっただろうか? と、考えるけれど、身に覚えはありすぎるような、ないような。
「私は、必要としていません」
喉がつまったかのような、切羽詰まった声。
「どうかしたんですか?」
ヴァイスは大きく息を吸い、そして大きな声で訴えてきた。
「ぁ、いえ……その、重要な話がありまして……、お時間宜しいでしょうか?」
お時間というのもおかしな話で、こんな物言いをするヴァイス様は珍しく、私はコクリとうなずいてみせた。
「実は、その、アナタを実家に連れて帰ると、両親が期待をするだろうなと、とても喜んでしまうだろうなと思うんです」
「それは、お留守番しているようにという事ですか? 寂しくはありますが、まぁ何とかなるはずですし、大丈夫ですよ」
「いえ、そうではなくて……、婚約者に殺されかけたアナタに、このような事をいうのは、えっと、もっと、時間が必要だとは思うのですが……あの、その、私と結婚してください!!」
婚約者に殺されかけた事がトラウマになっているかと心配しての、一足飛び? 私は少しばかり考えこめば、ヴァイス様の視線がソワソワと不安そうに動いて、やがて髭が下がって、尻尾がしょぼんとした。
「すみません。 少しびっくりしただけで。 ただ、その、私はヴァイス様やルツに保証はしてもらってはいますが、現状は何処の馬の骨ともわからない娘。 ヴァイス様のご両親も私が妻ではご心配なさるでしょう。 例えソレが振りであっても」
「そ、そんなことはない!! 絶対、絶対に喜んでくれる。 むしろマイがドン引きしないかぐらいに、関係性を問い詰めてくるだろうと思う……だから……ぁ、いえ、そうではなくて……。 その少し待ってもらえますか?」
その言い方では私がプロポーズをしたかのようじゃないかと……。 不満はあったけれど、何時も穏やかで優しいヴァイス様の動揺を責める気に等なれなかった。
ヴぁいすは白い大きな身体で上掛けの中に潜り込む。 珍しい行動だと思えば、
と思えば、珍しく布団の中にモゾモゾと潜りだし。 なんだろう? 外見とは違いロマンチックなヴァイス様の事、結婚しようと言うからには花の一輪、指輪でも布団の中に隠していたのかもしれない。 そう、おもったのだけど……。
モソリと上掛けが動き、どこか恥ずかしそうな声が聞こえた。
「えっと、ですね」
声の主は上体を起こせば、肩に引っかかっていた上掛けがするりと落ち、私は月明かりに浮かぶ全裸の男を目にすることとなった。
はい、私、大絶叫。
月明かりが入り込む窓を眺め黄昏座る白い背中。 広く力強い背のはずなのに何故か弱々しく感じ手を伸ばし、手を左右に動かし柔らかな毛並みを撫でた。
「呼び方が戻っていますよ」
その声に違和を覚えた。 いつもの甘く優しい声でなく、どこか素っ気ない声だった。伯爵……いえ、ヴァイス様らしく思えない。
「ごめんなさい。 寝ぼけていて……」
這うようにヴァイス様の背に近づこうとすれば、尻尾がそっと身体を撫で抱き寄せるように身体に回される。 その何時もの様子にホッとした。
「それで、ヴァイス様は眠らないのですか?」
もふっと、首元に顔を埋めながら聞こうとすれば、振り返り唇がザラリとした舌で舐められ、くすぐったかった。
「どうなさったのですか?」
笑い聞きながら、私はヴァイス様の薄い唇にチュッと唇を軽くあわせ、ベッドを降りようと足を延ばせば、
「どこに行くのですか?」
不安そうな声。
「眠れないようですから、ミルクでも温めてきますよ」
何が気に入らないのかと、何かしてしまっただろうか? と、考えるけれど、身に覚えはありすぎるような、ないような。
「私は、必要としていません」
喉がつまったかのような、切羽詰まった声。
「どうかしたんですか?」
ヴァイスは大きく息を吸い、そして大きな声で訴えてきた。
「ぁ、いえ……その、重要な話がありまして……、お時間宜しいでしょうか?」
お時間というのもおかしな話で、こんな物言いをするヴァイス様は珍しく、私はコクリとうなずいてみせた。
「実は、その、アナタを実家に連れて帰ると、両親が期待をするだろうなと、とても喜んでしまうだろうなと思うんです」
「それは、お留守番しているようにという事ですか? 寂しくはありますが、まぁ何とかなるはずですし、大丈夫ですよ」
「いえ、そうではなくて……、婚約者に殺されかけたアナタに、このような事をいうのは、えっと、もっと、時間が必要だとは思うのですが……あの、その、私と結婚してください!!」
婚約者に殺されかけた事がトラウマになっているかと心配しての、一足飛び? 私は少しばかり考えこめば、ヴァイス様の視線がソワソワと不安そうに動いて、やがて髭が下がって、尻尾がしょぼんとした。
「すみません。 少しびっくりしただけで。 ただ、その、私はヴァイス様やルツに保証はしてもらってはいますが、現状は何処の馬の骨ともわからない娘。 ヴァイス様のご両親も私が妻ではご心配なさるでしょう。 例えソレが振りであっても」
「そ、そんなことはない!! 絶対、絶対に喜んでくれる。 むしろマイがドン引きしないかぐらいに、関係性を問い詰めてくるだろうと思う……だから……ぁ、いえ、そうではなくて……。 その少し待ってもらえますか?」
その言い方では私がプロポーズをしたかのようじゃないかと……。 不満はあったけれど、何時も穏やかで優しいヴァイス様の動揺を責める気に等なれなかった。
ヴぁいすは白い大きな身体で上掛けの中に潜り込む。 珍しい行動だと思えば、
と思えば、珍しく布団の中にモゾモゾと潜りだし。 なんだろう? 外見とは違いロマンチックなヴァイス様の事、結婚しようと言うからには花の一輪、指輪でも布団の中に隠していたのかもしれない。 そう、おもったのだけど……。
モソリと上掛けが動き、どこか恥ずかしそうな声が聞こえた。
「えっと、ですね」
声の主は上体を起こせば、肩に引っかかっていた上掛けがするりと落ち、私は月明かりに浮かぶ全裸の男を目にすることとなった。
はい、私、大絶叫。
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