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2章 新しい生活の始まり

12.私の葬式と解放

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 私には人脈はない。
 どこにもない。
 祖父はソレを作らせなかった。

 だから、ステニウス子爵家が望んだ貴族の参列者はなかった。
 派遣使用人組合に登録もしていないから互助費用もなければ、参列者もない。



 前執事の時。
 前日に派遣使用人組合から、人が挨拶に来た。

『葬儀で手伝う事はありませんか?』

 と、そして分からぬ事を神殿と共に調整してくれた。



「なぜ、今回は来ない!! 直ぐに連絡をとり、人を寄越せと伝えろ!!」

 ステニウス子爵が文句を言い、使用人が派遣使用人組合へと出向けば、前執事の葬儀の時にも来た派手な容貌の男が顔をだした。

「なぜ、誰も来ない!! 若い娘の死を哀れだと思わないのか!!」

「戦争のときには、多くの若い者が死にました」

 子爵の無謀な指揮は多くの命を奪ったが、彼は全く心にないらしく、勝手に叫び続ける。

「彼女は、ローグ・レームの孫娘だぞ」

「ですが、知らない人間です。 故人の祖父が誰にも紹介をしなかった。 その程度の娘なのでしょう」

 葬式に不似合いな愛想の良さで、ヴァルツ・ケセルはステニウス子爵にいったそうだ。

「なっ!!」

 子爵は言葉を思い浮かばなかった。
 彼自身、地味で無能な娘と言っていたのだから。



 王都新聞で次期子爵の悲劇を売りに宣伝した。
 おかげで見知らぬ若い娘達ばかりが集まっている。

 金にならない。
 見れば分かる。
 返しをするだけマイナスだ。

「くそっ!! 何が悪かったのか!!」

 子爵がボソリと、だが強く言えばヴァルツ・ケセルは笑った。

「何がオカシイ!!」

「いえいえ、なぜ彼女の祖父と彼女が同格だと思ったのかと」

 ジッと見据えれば、ひぃっと子爵は顔を恐怖でゆがめた。 殺すようにと命じたのは子爵ではなく息子ナターナエルの方。

「だから、私は何も知らない!!」

 そう言って逃げるように席を外したと言う。



 きゃぁきゃぁと次期子爵を囲んでいる若い娘達。
 その様子は、葬儀とは到底見えない。

 ヴァルツ・ケセルは気配を消し通り過ぎる。

 若い娘達は、次期子爵を慰める事で、次期子爵夫人の座につけるのでは? と考えたらしい。 何しろナターナエルは、何の地位ももたぬ庶民の娘を婚約者とし、そして、その死を嘆いたから。

 ナターナエルと言う人間は、庶民の娘を愛せるのだと、庶民の娘は集まった。

 王都新聞はおもわくどおり、ロマンチックな嘘の物語をベストセラーとして売り出し成功する。



 そして、子爵家は?



 これは2人の配慮で、かなり後になるまで私に知らされる事のなかった事実。

 ステニウス子爵家は、祖父の葬儀の際に集まった金銭で借金を返し1年の私の強制的節制の後からの半年の間で、前以上の散財を行ったと言う事でした。

 子爵も、奥様も、ナターナエル様も、散財は好きですが基本的には安物買いの銭失い、目利きとしての能力は低く、人の賞賛にとても弱い方々。



 もし、お爺様であれば……。



 どうしたのでしょうね?



 彼等は、

 詐欺にあったと言える。
 利用されたと言える。

「きっと、お爺様なら哀れと思ったのでしょう」

 彼等の末路を聞いた時、そう私が言えば、

「マイのお爺様は、ステニウス家の当主は自分だと言う気持ちがあったそうだよ」

 そうルシッカ伯爵は言い、ケセルさんは続けた。

「だから、子爵家が立派であるよう努めるのは、当たり前なんだと。 ただ、流石に孫娘にまで背負わせるものだとは考えなかったらしいがな」

 彼等との縁もまた、私に残された財産だったのだと思う。 もし、金品であればステニウス家が奪うだろうと、だから私には金品以外のものをと。

「彼等はどうなったの?」

「爵位、領地は国に返された。 そう言う意味では金を貸した奴等も大損をしたと言える」

 ステニウス子爵家がダメになるだろうことは、既に報告済だった。 国の手を逃れて売買を行う事は出来ないようにされていた。

 想定外の国の行動、回収不能の財産、それに腹を立てた金貸しは、腹立ちのためだけに元子爵夫婦を殺したらしい。

 そして見た目は良いナターナエル様は愛玩奴隷として他国に売られたそうだ。 元々口の上手い方だ……屈辱にまみれつつも上手く生き抜いていくだろうとのことだった。



 そうしてステニウス子爵家は終わりを迎えた事を知ると同時に、私は完全に開放されたことを知った。
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