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1章 婚約破棄したら負け

03.祖父母と私 01

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『あの人は、自分の子や孫よりも、ステニウス家の子が可愛いんですよ』

 私を育ててくれた祖母の言葉だ。

 当然ながら、異論はない。

『でも、お爺様はご当主や次期様を馬鹿だと理解していますよね』

 開け透けなく言えば、祖母は笑いながらも私をとがめた。

『これ、口が悪い。 そう言う事実は誰もが分かっている事なのですから、いちいち口にする必要等ないのですよ』

 いやいや、今思い返せば、祖母もなかなかだと思うがと、祖母と暮らした小屋で祖母を思い出し苦笑する。

「ですが、お婆様。 誰もが分かっている事実ではないと言うのが現実なようです」

 今は亡き祖母に語り掛けるように独り言をつぶやいた。

 好き放題に金を使うのを禁じても無駄だったため、当主、次期当主の買い物に対して支払いはしないと言う内容証明を、明らかに無駄遣いが見られた各方面に出した結果。

『オマエは、当主に対する敬意が無い!! 領地に帰って畑でも耕し反省していろ!!』

 そう言って、王都の屋敷を追い出されたのは半年前。

 それから今日までナターナエル様の恋人と名乗る方が8人も来たのですから。 うち3名はナターナエル様と結婚するんだ!と、家族の制しを無視したため勘当され、帰る家がないと言うから使用人として屋敷で雇っている。

 うちの台所事情を考えれば、早々に対処したいところですが、ナターナエル様の被害者だと思えば冷たくできなかった。

「お爺様も、もう少し常識というものを当主とナターナエル様に教えて下さればよかったものを……。 でなければ、あのような無能な家でなく務めがいのある家に仕えるとか。 そういえば、自分で手をかけた子は可愛いとか言っていて、自分の子より可愛いのかと盛大な夫婦喧嘩をしたとお婆様は言っていましたよね。 そこまでするなら、完全に育てろ!!爺様!!」

 なんて荒ぶってみるけどお酒は飲んでません。

 何しろ、ナターナエル様の気前の良さや、その美貌に勝手にステニウス子爵家は金持ちだと勝手に思い込んでいたものも少なく無かったと言うか、大半がそう思っていたのだから、祖父の育て方は大失敗と言えるでしょう。

 まぁ、そう言う人は排除しやすいのですけどね。 ナターナエル様は虚しくないのかしら? と思えば、また祖母の言葉を思い出した。

『失敗だからこそ、言え……心配な子だからこそ、領主家の人達を見捨てることが出来ないのかもしれないねぇ……』

「まぁ、確かに自分が生まれたばかりの赤ん坊の養育に関わっていたなら、一人前になるまでは見守ろうと考えるかもしれませんね。 だけどそんな理由で代々奴隷根性を発揮してまで執事を続けていたなら、馬鹿過ぎません?」



 私は夕食用に作っていたタップリ山の幸の団子汁をお椀によそう。 団子は腹持ちが良いし、山の幸は栄養が豊富、挙句に温かくて最高の1品だ。 まぁ……1品しかありませんが。

 でも、茸出汁で風味を効かせ、豪華に塩まで使ってある。

 この国は海に面していない分、塩は貴重だ。 料理と言えば、基本が素材の味を大切にした煮物か焼き物料理。

 宝石のような岩塩の塊を眺め私は呟く。

「岩塩ちゃん、愛しているわぁ~~~」

 なんて言ったところで思い出した。 皆が皆ナターナエル様に愛を語られた後、必ずこういわれていたことを。

『愛は永遠のものではない』

 何の約束もしていないどころか、牽制すらしているのだから、女性側はそこに罪を持ち出す事はできないだろう。 中途半端に法の抜け道をついてくるのが腹立たしい。 いっそ訴えられれば、私からでも慰謝料なしで婚約破棄にいたれる……か? 使用人は支えるべきだって言われるのでしょうか?

 う~ん、微妙。
 なんか、その姑息な様子が祖父に似ている気がします。

 何しろ祖父は、ステニウス子爵に豪華な屋敷を王都に手に入れるよう命じられ、上級貴族の使わなくなった別荘を購入し改装、家具は貴族や金持ちが破棄するものを回収し、挙句、処理費用までもらい屋敷を整えたと言う。

 そんな祖父を見て育てば、ナターナエル様が姑息なのもうなずけると言うものだ。

 ごほごほ……。

「馬鹿な人達」
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