生命の樹

迷い人

文字の大きさ
上 下
22 / 25

21.彼女は無邪気に狂っている 02

しおりを挟む
 匂い、執拗に責められる耳、冷えた細い指のように蔦が身体を撫で責める。 触れられた事の無い部分が触れられ、あり得ない、恐怖を感じて当然の状況でありながら、俺は興奮していた。

 嫌悪を快感が押し退け始めたのだ。
 倒錯的な快感……。

 こんなもの受け入れる訳にはいかないのに……。

 その興奮が伝染するかのように美也子の締まりの良い肢体が、熱を帯び、汗がにじみ、汗と共に甘い匂いが香り始める。

 ぴちょ ぬちゅ

 美也子の冷えた舌も熱を持ち、耳の形を辿りながらも奥へと進み、濡れた唇が耳たぶの裏に触れ撫で、唾液に塗れた耳が吸い上げられ舌で弄ばれた。

 執拗な攻めに、声を漏らしそうになるのを必死に抑えた。 そんな痴態は……プライドや人としての常識に縋りつこうとすれば、耳に強く歯があてられた。 まるで、サメの歯のような尖った痛み。

「ぅぁっ?!」

 痛みに顔をゆがめれば、耳を含む唇が開き、浅く舌でねぶりながら、いたずらっ子のように笑いだす。

 支配される悦びのような……
 被虐的とでも言うような……

 身を任せれば、楽になる。
 得も言われぬ悦びを味わえる。

 そんな風に思いながらも必死に、心は抗う。
 いや、ぎりぎりのラインを耐えているに過ぎない。

「私が怖いのね、んふっ、可愛い人。 いいのよ、全て許してあげる」

 ちゅっ、ちゅぷ、ぢゅぷ、

 唾液で濡れた耳への愛撫がフェラのような水音を立はじめ、脳が刺激される。 身体の感覚が曖昧になりなるからこそ、全ての快楽が一転に集中したかのように感じた。

 触れられた事の無い場所。
 快楽に感じるには、未熟。
 性感帯として認識していない部分が弱みとなる。

 抗うほどに快楽に落とそうと、屈辱に膝をつかせようと、そんな意志をもって蔦が身体を触れて来る。

 ずるりずるりとまさぐる。

 滑らかとは遠い歪な感触が、肌に引っかかり、ぬるりとした甘い樹液で身体を濡らし、身体を守りながら、甘い攻撃を繰り返す。

 屈辱が快楽へと裏返りそうになり、俺は必死に耐えていた。

 こんなもの……許せるはずがない。
 気持ちいいはずがない。

 不気味な化け物め!!

 人外……いや、元は人だった。
 異界との接触で、人以外の者となった可哀そうな……ただの人。

 いや違う、彼女は化け物。

「あはっ」

 捕らえて離さないと、しゅるしゅると身体を擦り蔓が巡る。 膨張した一物は鈴口から快楽の液を吐き出し捏ねられる。

 重量のある柔らかな胸が押し付けられ、頭に痺れを覚えるが、それでも……俺は俺である事を捨てる事は無かった。 捨てずに済んでいた。 ギリギリ保っている人としての尊厳。

 本当にギリギリなのだ。
 俺が俺としているために落ちる訳にはいかない。

 そんな俺を落とそうと、触れ合いは熱を持ち、貪欲に混ざっていく。 気遣いは深く短く荒くなる。

 化け物の部分では落とす事が出来ない……それを知ってか知らずか、美也子の両の足が俺の足を挟み込み、柔らかく温かな生々しい肉の感触が擦り合わせられる。

 美也子の手で弄ばれていた一物は、柔らかな足の感触に触れ擦られ、挿入への欲求を煽って行く……はちきれんばかりに膨張し、脈うつ淫茎を指先で撫で、美也子は溜息のような甘い吐息を吐き出した。

 はぁ……。

 肉を擦り合わせ、快楽の奥が貪られ蹂躙される事を想像し、美也子の内側は熱く燃え、だらだらとぬめる液体を吐き出し続け、彼女の足と俺の足を濡らしてくる。

 与えられる手淫の感覚。
 蔦の痛みと快楽の隙間。

 うっとりと見つめられる山羊の瞳、空を行く鳥の翼を模しながら、木々を覆う葉の質感を見せる黒い翼。

 恐怖を食らい。
 欲に溺れない。

 必死なあがき、俺が俺であると言う事を守らねばと思えば……快楽を不快へと裏返し、欲望の度合いを示すだろう竿の猛りから硬度が失われていく。

 苛立ちを美也子の表情に見つければ、まるで勝利したかのような気分になり、俺はヘラリとした笑みを見せつけた。

 そんな余裕も無い癖に。

 怒りを買う意味はあるのか? と、言われれば馬鹿だと言われるかもしれないが……なけなしのプライドがそうさせたのだ。



 凛



 怒りに髪が震えた。

 してやったりと言う気分になったのも僅か。

 蔓が引き戻され、リンリンと音を鳴らし花が開き、花粉が膨らみ、破裂し……それを吸い込んだ。 次々に花を開き、花粉が破裂し、何か……自分以外の何かが芽吹こうとする不安に囚われた。

 俺が俺であるための何かが切り取られたような……。

「どうして……」

 そう美也子が捨てられた幼子のような表情を見せた。

「どうして……私が、世界になるのに……どうして、拒絶するの? 光栄に、思いなさいよ!!」

 殴られるかと思った。

 だが、実際に襲い掛かってきたのは、快楽から外れた快楽。

 膝裏や臍裏、大胸筋の血が下腹部に集い、ふらふらとギリギリのラインで意識を保ちつつも、怒張がそり立つ異常。

 何が……。

「ふふ、やったわ……」

 この上ない悦びを露わに美也子は笑い、俺の怒張を撫でてくる。

 這うように
 撫でるように
 擽るように

 竿に触れ、亀頭に触れ、指先にカウパーを絡め指に馴染ませ、膨張し腫れた亀頭にこすりつけられた。



「っ!!」



 快楽と言うよりも……それは痛みだった。

 それでも美也子は俺の反応を快楽だと思い込み、疑う事無く、彼女は人差し指の腹で先走りを亀頭にまぶし、円を描いて刺激し始める。

 鈴口を避け、弄る指先は不本意な快楽を促す。



「ねっ、気持ちいいでしょう? 私の事、好きになるでしょう?」



 俺の顔を至近距離で見上げ無邪気に言葉を待つ。

 小振りな顔。

 絶妙なバランスで作り上げた美貌は、どこか作り物めいていた。 人外を主張する山羊の瞳と、快楽そのもののように唾液に濡れた赤い唇が笑う。

「ねぇ、早く……」

 囁くように促すのは、愛の言葉。

 指が陰嚢を鷲掴み、亀頭を刺激していた指先があろうことか雁首に這い寄る。 指の腹がもっとも鋭敏な笠の裏をなぞり、そして……手を止める。

「いきたいのでしょ? さぁ、早く」

 指先が撫で焦らす。

 ギュッと目を閉ざし、ただ……耐えた。
 何時終わるかもない逃げ場のない空間。
 いずれ……屈するだろうと思いながらも……必死で耐えていた。



「ふぅ……」



 刺激する全てから解放され、安堵を覚える心と……解放する機会を失った身体の切なさ。

 これでいいと必死に自分に言い聞かせたが……。



 鈍く濡れた音と、甘い喘ぎが聞こえた。

「ぁ……んっ」

 それは美也子が、自らを潤し、全てを受け入れ受け止めるための準備。

 ぐちゅぐちゅと濡れた熱い音を響かせ、美也子の呼吸が熱く乱れだす。

「ぁっ……」

 逃げるなら今だ……と、頭の何処かで囁いている。
 だけど、俺の目は美也子から反らす事は出来なかった。

「ぁ……ん、ん……」

 床も壁も天井も無い。
 上も下も右も左も無い。
 どこまでも白い世界。

 そんな場所で、蔦に支えられるように立ち尽くし、快楽を与えられていた身体が自由を取り戻し、広く何処までも広がる白い床に倒れるように座り込んだ。

 美也子は俺の上にまたがり、自らの恥部を刺激する。
 ちゅく、ちゅ、という淫裂を探る音が、終わりの無い世界に響く。
 真新しい透明の汁が俺の肉竿の上に落ち……俺は彼女の快楽に濡れた。



 熱い吐息を吐く、赤い唇が切なく寄せられる。
 花の香りが広がり触れる。

 ゆっくりと押し付けられる唇は、ぬるりと柔らかく触れあう。
 俺の唇と、彼女の唇の境界が曖昧に溶け合うほどのディープキス。

 唇を舐め、舌を舐る。
 お互い食い合うように口内を貪る。

 むせかえるような花の匂いが……甘く……



 気持ち悪い。


 
 唇を重ねたまま彼女は熱い吐息を漏らす。



「は、ぁ、ぁ、ぁ……」



 徐々に声が切羽詰まったかと思うと、美也子の肉がぐいと俺に押し付けられる。

 じゅぶり

 濡れた熱い音を立て、熱く濡れた肉襞が俺の怒張を深く飲み込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味がわかると怖い話

邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き 基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。 ※完結としますが、追加次第随時更新※ YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*) お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕 https://youtube.com/@yuachanRio

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

サクッと読める♪短めの意味がわかると怖い話

レオン
ホラー
サクッとお手軽に読めちゃう意味がわかると怖い話集です! 前作オリジナル!(な、はず!) 思い付いたらどんどん更新します!

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

生きている壺

川喜多アンヌ
ホラー
買い取り専門店に勤める大輔に、ある老婦人が壺を置いて行った。どう見てもただの壺。誰も欲しがらない。どうせ売れないからと倉庫に追いやられていたその壺。台風の日、その倉庫で店長が死んだ……。倉庫で大輔が見たものは。

【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし

響ぴあの
ホラー
【1分読書】 意味が分かるとこわいおとぎ話。 意外な事実や知らなかった裏話。 浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。 どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。

処理中です...