【R18】彼等は狂気に囚われている

迷い人

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18.神隠し 01

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 明るい声と共に片手をあげる女子生徒は、通称ミケ。 みんなそう呼んでいるから本名は知らない。

 パパ教授と克己は民族学の教授で、フィールドワークを愛してやまない。 結果として、お洒落よりも行動力にウェイトを置いている生徒が多く集まっている。 そして、何より……妖、異界、神、宗教、言語、祭り、そんなもののオタクだ。

 明るすぎるテンションに時折ついていけなくなるけれど、流行に疎い私を馬鹿にせず仲良くしてくれるのだから、貴重な人達と言えるだろう。

「はい、皆様もお元気そうで」

「え~~、全然元気じゃないよ~。 論文に再テスト、もう、いやになる~。 勉強しないとなぁ~」

 ミケが座りテーブルの上に伸びた。
 想像以上に良く伸びる。

「どうせなら、テスト前に勉強すればいいでしょう」

 カバンを伸びたミケの上に置いた沙織は、邪魔とミケに払われ笑っていた。

「何か、飲みます?」

「うんうん、お昼食べるからお茶が欲しい。 こう熱い奴がいいなぁ~」

 ミケが、目を細めて言う。

「ならほうじ茶、番茶、ウーロン茶がありますけど?」

「ウーロン茶!!」

 葛城ゼミの面々は、研究に関しては頑固だけど、飲食に関してはまとまりがある。 というか、余り手間をかけさせないようにと気を使ってくれる人達が多く、最初の一人が言えば自然と全員がそのお茶を飲む事になる。

「色々揚げ物にしてもってきたんですけど片付けを手伝ってもらえますか?」

「手伝う、手伝う~~!!」

「お礼にミケのデザートを進呈しましよう」

「えぇえええええ、私のぉおおお」

「アンタは何時も世話になっているんだから、お礼ぐらいしておきなさいよ。 そうやって恩返しをしておけば、再テストの勉強も教えてくれるかもしれないじゃない」

「あ~、なるほど」

 そう言いながら教科書を差し出してきた。 民俗学の分野に関しては、皎一さんが勉強しておくほうがいいと幼い頃から学ばされていた。

 民俗学・文化人類学コースは、儀礼、信仰、社会、経済等を伝承資料に基づき学ぶもの。 座学は勉強してきたけれど、実際にはフィールドワークが絞めるポイントが多い。 テストとなると、伝承の特性や問題点を見出し、自らの考える力を養う事を目的とするわけで……。

「ミケちゃんの場合、好奇心が多岐に渡るのが問題なんですよね。 そこをどう対処するかが課題……とりあえず課題レポートの数をこなして、慣れるしかないんじゃないですか?」

「雫さんは、年下……ですよね?」

 いつの間にか教授室に来ていた影の薄い上田が苦笑交じりに聞いて来た。

「ですよ~。 ただ、ママも民俗学に興味を持っていた人ですから」

 人様にママを語る場合の、ママ像は私の保護者である時塔皎一さんの事を想像しながら言っている。 知ったら凄いしかめっ面で溜息をつきそうだなと考えてしまう。 以前なら、そういう時は叱られた気分になって落ち込んだのに、今の私は想像すると笑ってしまいそうになるのがとても不思議。

「英才教育かぁ~」

「そりゃぁ~、学生の不甲斐なさを見ていればパソコンの使い方も教えておこうと思うもんだよね」

 なんて雑談と共に、弁当を広げてパパ教授と克己の分を確保して、皆で食べましょうと言う体裁でテーブルの中央にオカズを置きお茶を入れる。

「あぁああああ、もうやだ!! 折角テストが終わったんだから、もっと楽しい話をしようよ~~!!」

「そう言えばさ、雫ちゃん知ってる? この大学内に伝わる神隠し伝説」

 ミケが口をω風にしながら聞いてき。

「神隠し伝説ですか? その場合、周囲と言うか家族の反応はどうなんでしょう?」

 お茶を出して席に座りながら聞けば、ミケはブーブーと不満を述べる。

「もう少し情緒的に考えようよ。 雫ちゃん」


【ミケ】

 私も、地元である『柑子市』側から見れば神隠しにあった風に見えるのかもしれない。 情緒的ではないかもだけど、これでも気持ちはちょっとテンション高めなんですけどね。

「えっと、毎年誰かが調べているんだけど。 大抵はあの子かぁ~、あの子なら逃げてもオカシクないよねって言うのが、友達とか同級生の感想なんだって」

 説明する沙織にと吠えるミケ。

「ネタばらし禁止!!」

「毎年調べてって……」

「葛城ゼミとしては、調べないとでしょう。 本当に神隠しが隠れているかもしれないし」

「まぁ、調べない方がロマンがあるかもだけど。 そういうのを調べるって面白そうじゃない? で、代々調べてはいるらしいの。 大抵はバイトに明け暮れて出席日数が無くなり実家に戻っているってパターンなんだけどね」

「でもでも、実家にも戻ってない人もいるじゃない」

「まぁね。 在学時代は、顏よし、頭よし、気前よし、面倒見よし、そんな感じで好かれているんだけど、いざ消えるとさぁ……余り良い噂を聞かないのよね。 パパ活をしていて事件に巻き込まれたとか、訴えられて慰謝料に売られたとか」

「でもさぁ……一定の割合で、親子関係に問題ありって人が出てくるんだよねぇ……。 だから、行方不明のふりをして毒親から逃げただけって話もあるよね」

 なんて感じで、大抵は人為的な理由で処理できると言う。 だけど……もし、その中に本当に妖怪、神、悪魔が関わっていたとしても、ソレは証明できるものではないよね。

「まぁ、でもさ。 そういうのって本人が出てくるまでは、物理学的実在の量子力学的記述の不完全性と同じだよね」

「……そう難しく言わなくても、シュレーディンガーの猫で良くない?」

 そう言って笑いだす。

 結局、妖や神等は存在しないのだと、民俗学ゼミとしては如何なものかと言う結論に陥った時……窓も開けていないのに室内に激しい風が吹きあがった。

 部屋中に散らばるのは黒い鳥の羽根。
 それが大気に溶け……中から人が出て来た2人ほど。

 1人は全裸で……。
 もう一人は、雫にとって良く知った男だった。

 人は実際に驚くと声も出なくなるのかもしれない。 誰もがこのあり得ない状況に息をのみ突然に出現した2人をマジマジと眺めていたのだ。

 そして……第一声はボソリとした沙織の声だった。

「あら、ごりっぱ」
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