上 下
19 / 38

【第19話】怪物 vs 怪物

しおりを挟む
右翼の冒険者達は、キングオーク目がけて突き進んでいく。
しかし、キング周辺のオークは咆哮により狂暴性が大幅に強化されているため、近寄ることが、出来ないでいた。

それでも着実に、オークの数を減らしていった。そしてついに、キングオークの姿を捉える。


やっと手が届くと、誰もがそう思ったその時。


キングオークの隣を見て、皆が驚愕の顔を浮かべる。なぜなら、そこにはクイーンオークが存在していたからだ。

クイーン自体の戦闘能力はキングほど高くないが、その特性が厄介である。クイーンはキングと交わる事で、子供を生むことができるが、その際に生まれてくるオークが、厄介なのである。生まれてくるオークにはキングほどの力は無い。しかし、その種類は多く、成長能力が早い。

クイーンとキングの周りには、バトルオーク、マジシャンオーク、ロックオークが存在していた。数も、50以上は居るだろう。バトルオークは攻撃力が高く、マジシャンオークは魔法主体、ロックオークは岩のように硬いため防御力が高い。

これは、まずいんじゃないか。
ヒューが内心、そんなことを思っていた時。

「諦めてはなりませんわ。他の戦場の冒険者達は、私たちがキングを倒すのを待っているのですから」
リタが冒険者達を鼓舞する。

「そうだよな」

「ああ、やってやる!」

「冒険者魂、見せたるぜ!!」

「おなかすいた」

冒険者達のやる気も少しだけ戻ったようだ。

そして、全員が奮闘した結果、何とか、キング目前まで辿り着く。ついに、キングとの対決かと思われた、その時。

「伝令!! 左翼が壊滅!! 多数のオークがこちらにも向かっています!!」

強化されたオークたちに、BランクとCランクのクランがやられてしまい、左翼の陣形は崩壊した。Aランククランの【グリムリッパ―】でもさすがに全てを受け止めることは出来ず、撤退し中央に合流したのだ。

その知らせを受け絶望に染まる冒険者達の顔。



そんな中、突然。

【シャンドゥシャス】のリーダーであるガノンが、敵陣に向かい歩いていく。

「おい!! なにしてるんだ」
慌てる周りの冒険者たち。

「来る前に、キングを殺す」

それだけを言って、一人で突っ込んで行く。

こうなることを見越していたのか、体力を温存していたようだ。バトルオークの群れに突っ込んだガノンは、人の背丈ほどある、二振りの大きな斧を双剣のように扱いながら進む。

その斧は、切れ味が鈍く、近づいたオークを粉々に粉砕しながら、吹き飛ばしていく。まるで、竜巻のようだ。

なんだ、あの化け物は。これじゃ、どちらがモンスターか分かったもんじゃない。

驚愕の表情でそんなことを考えるヒューだが。

まあ、その考えには賛成だけどな。

ガノンの後を追い、敵陣に突っ込んで行った。

それを見ていた冒険者達に、やる気が蘇る。

「おれも行くぞ」

「ああ、やってやるぜ」

「おれ、生きて帰ったら告白するんだ」

「「おい、やめろ!! 妙なフラグ立てるな!!」」



「あの二人だけで、大丈夫でしょうか?」
リタが、イワンに問いかける。

「大丈夫だろう、詳しくは知らないが、ヒューもなかなかやるらしい」

「そうなんですの?」

「ああ。それじゃあ俺らは、あいつらの所に余計なオークが行かないよう、サポートに回りますか」

「そうですね」


そして、キングの元に辿り着いたガノン。まずは、クイーンに狙いを定める。クイーンの首を狙い右の斧を振るう。が、キングに斧で受け止められる。そして、クイーンから反撃が来る。

魔力を纏った拳でガノンの顔面を狙うクイーン。ガノンはその拳を、もう1つの斧で切り払う。キングは斧を使用し、クイーンは魔法を主体に戦うようだ。

何度か、同じようなやり取りが繰り返された。

その時、クイーン目がけて何かが飛んでくる。それを右手で受け止めるクイーン。受け止めた右手が粉々に吹き飛んだ。しかし、ものの数秒で再生する。

「思ったよりも再生能力が高い。厄介だな」
そう言いながら、ヒューがこちらに向かってくる。

新たな敵の参入に、キングは唸る。

「ガノンさんよ、共闘といかないか?」

共闘を持ちかけるヒューに対し、少しだけ悩むそぶりを見せたが。

「ああ」

どうやら、納得したようだ。

キング側もヒュー側も、1人が防御して、もう1人が攻めてを繰り返す。

だが次第に、共闘する2人の力によって、劣勢になっていくキング達。そしてついにクイーンが力尽きた。

よし。

後はキングを倒して終わりかに思われたが

「まだだ」
ガノンが低い声で、呟いた。

力尽きたクイーンを捕食するキング、そこに攻撃を仕掛けるヒューとガノンだったが、とてつもない力で弾き飛ばされる。クイーンを食べたことで大幅にパワーがアップしたようだ。

クソ、終わったと思って油断した結果がこれだ。

オーラアーマーを張っていたが、貫通して大きなダメージを負った。敵の強さに、改めて気を引き締め直すヒュー。

その後、2対1で戦闘を行うが、決め手に欠けて、なかなか決着がつかない。

これじゃ決着がつく前に、中央の冒険者達が、くたばっちまう。

焦りだしたヒュー。そこに、ガノンが耳打ちする。
「おい、あの時の力はまだ使えるか?」

「あの時? さっき戦場で使ったあれか、やっぱり見られてたんだな。今の状態で使うと、多分動けなくなるが使うことはできる」

「ならば、キングを何とか止めておくから、そこに撃ち込め」

「おい、それは」

「やれ」

「分かったよ、やればいいんだろ、死ぬなよ?」

「心配するな、頑丈だ」

そう言い残し、突撃するガノン。キングは、それを迎え撃つように大きく斧を振りかぶる。ガノンは、あえて避けずに、両斧を交差させて受け止め、その場に踏みとどまる。そして、わざと力を抜いてキングを前のめりにさせた。この体勢から逃げることは不可能だろう。

「今だ、やれ!!」

ヒューは残った全ての力を使ってオーラボールを放つ。

その瞬間、すさまじい衝撃波を起こし、辺りは何も見えなくなった。
しばらくして、視界がクリアになる。

そこに残っていたのは

大きな2本の斧と。キングの斧だけだった。

その後、キングを失ったオーク達は弱体化し、冒険者によって討伐されていく。



大きな2つの斧を、引きずるようにして運ぶヒュー。その顔からは、勝った喜びを、微塵も感じなかった。



しばらくして、ゼルバたちの元にたどり着いたヒュー。そして、みんなに話しかけられる。

「お前が、キングオークを討伐したんだろ? すごいな」

「すごいわね」

「すごい」

「いや、俺だけの力じゃない」

そう言って、斧に視線を落とす。

「お、ガノンの斧じゃないか、ちょっと待ってろ」

ゼルバがその場を後にする。



そして。

ゼルバの肩に捕まりながら、姿を見せたガノン。それを見て驚くヒュー。

「ガノン、あんた生きてたのか」

「頑丈さだけが取り柄だ」

ヒューが拳を前に突き出す、それを見て一瞬驚いたが、拳を前に出すガノン。

拳を合わせ、互いに笑った。

「「おつかれ」」




「はぁ、はぁ、はぁ」
そんな中、森を走るハゲが1人。【シャンドゥシャス】のベンだ。

(まさか、ここまでだとは思わなかった、あいつからは『魔物を呼び寄せる効果しか無いから、どのぐらい集まるのか実験してくれ』としか言われてなかったのに)

今回のスタンピードの背後には、ある団体の陰謀が渦巻いていた。
その団体メンバーの1人が、ベンに「金をやるから、簡単な実験をしてくれ」と渡してきたのが、謎の液体だった。ベンは、その液体をジースに渡したが、ただの魔物寄せの液体では無かったようだ。

各地で、同じようなことが起こり、自分と同じ立場の者が、口封じのために殺されていった。それを知り合いから聞いたベンは、殺される前に隣国へ、逃走を図っていた。乱戦中の今なら、怪しまれずに逃げられると踏んだのだ。

(入国は、金さえ払えば何とかなるだろ、行ってみてから考えよう)

そんな時だった。

「どこに逃げる気だ?」

音もなく、目の前に現れたのは、白い仮面を付けた謎の男。

「おまえは誰だ?」
ベンは仮面の男を訝しげに見る。

だが、質問には答えず、更に問う仮面の男。

「ここまでの事をしておいて、今更怖気づいたのか?」

「な、なんで、俺は何も知らなかった何もやってない!!」

震えながら答えるベンだが、相手の正体に気づき、さらに恐怖する。

「まさかお前、組織の」

「眠れ」

その場に崩れ落ちるベン。その様子を確認した男は、通信の魔法具を取り出した。



……
………。


「状況はどうかね?」

「スタンピードを起こす所までは上手くいった。しかし、キングオークが討伐された」

「ほう、我々も少し侮っていたようだ、しかし問題はない。我々の悲願が達成される時は近い」

「そうだな、報告も今回で最後か」

「では、また【彼の地】で」

「「”ダーヴァネス”」」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

異世界へ全てを持っていく少年- 快適なモンスターハントのはずが、いつの間にか勇者に取り込まれそうな感じです。この先どうなるの?

初老の妄想
ファンタジー
17歳で死んだ俺は、神と名乗るものから「なんでも願いを一つかなえてやる」そして「望む世界に行かせてやる」と言われた。 俺の願いはシンプルだった『現世の全てを入れたストレージをくれ』、タダそれだけだ。 神は喜んで(?)俺の願いをかなえてくれた。 希望した世界は魔法があるモンスターだらけの異世界だ。 そう、俺の夢は銃でモンスターを狩ることだったから。 俺の旅は始まったところだが、この異世界には希望通り魔法とモンスターが溢れていた。 予定通り、バンバン撃ちまくっている・・・ だが、俺の希望とは違って勇者もいるらしい、それに魔竜というやつも・・・ いつの間にか、おれは魔竜退治と言うものに取り込まれているようだ。 神にそんな事を頼んだ覚えは無いが、勇者は要らないと言っていなかった俺のミスだろう。 それでも、一緒に居るちっこい美少女や、美人エルフとの旅は楽しくなって来ていた。 この先も何が起こるかはわからないのだが、楽しくやれそうな気もしている。 なんと言っても、おれはこの世の全てを持って来たのだからな。 きっと、楽しくなるだろう。 ※異世界で物語が展開します。現世の常識は適用されません。 ※残酷なシーンが普通に出てきます。 ※魔法はありますが、主人公以外にスキル(?)は出てきません。 ※ステータス画面とLvも出てきません。 ※現代兵器なども妄想で書いていますのでスペックは想像です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...