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【第11話】冒険者と決着
しおりを挟む俺は、しがない冒険者だ。
最近ギルドで見かける荷物持ちの坊やが、クランメンバーからひどい扱いを受けているので、助けたいと思っていた。同じような考えの冒険者は多かったようで、近々ギルドを通して、どこかのクランに移籍させようという計画が上がっていた。
そんな時、何か事件が起きて、急遽イノセントロンドが引き取ったようだ。
あのクランなら安心だな。それでだ、今日はクエストをこなす予定だったんだが、急遽用事が入ったメンバーがいて解散になった。
暇になったんで、ふらふら街を歩いていたら何やら剣術道場に人だかりができているじゃないか、なにをやってるのか覗いてみると、なんと、あの坊やが戦うところだった。おいおい、大丈夫かよ。と思ったんだが前見たときと様子が違う、少し体がガッチリしてるし顔も大人びたような、この短期間で何があった?
それで試合が始まるもんなら、またもやびっくりだ、すごい速さで動いて速攻で試合を決めちまった。速さなら俺と同等ぐらい出てるなあれは、まあ魔法を使ってない場合の話だがな、それでも短期間にこんなに成長するとはな、能力を隠していたか?いやそれはないな、ここまで隠すメリットがないし。
そんなことを考えていたら、次の試合が始まった、おっと、砂で素早く動けなくされたな、これじゃあ魔法の的だ、さっきの試合を見る限り、やはり魔法は苦手のままなのか、魔法を使用した形跡はない。
どうやら坊やは【気】を使っているようだが【気】でダメージを与えるなら接近しないとダメだしな、もう終わりかと思った。
その時だ。
よくわからないが、坊やが相手に何かしたようだ、相手が目をこすっている。何の魔法を使ったんだ? いや魔法を使った感じはなかった、もしかして【気】か?
いやいや、それこそありえん【気】は習得に時間がかかると聞く、特に飛ばせるようになるためには、莫大な時間がかかる、だから皆魔法を習得するんだ。分からんが、面白い坊やだ。俺たちのクランに欲しかったな。さてと、そろそろ行くかね、見たところ相手側には、強そうなのが居なさそうだ。これは、坊やが勝って終わりだな。
(まずい、まずいぞ)
右往左往するゲビルド、顔色も悪い。
(まさか、あのヒョロガリがここまでやるとは思わなかった。情報では、まだ気道を初めて1か月程度だろ? 何で、こんなに強いんだ!! それにさっきの試合は何をしたのかさえ分からなった…)
「なんか面白そうなことしてるね。どうしたんだい? そんなに焦って」
そんな時、ゲビルドに後ろから声をかける者がいた。
「ああ? 今忙しいんだよ!! あっち行ってくれ」
どう考えても負けが濃厚なこの試合を打開すべく頭を回転させている。
そのため、相手を一切見ることなく、つっけんどんな返しをする。
「つめてえな、俺のこと忘れたのか?」
「勝者ヒュー!!」
そんな中、試合は大将戦まで進んでいた。
「次の試合、大将前へ!!」
「ちょっと待った!! 選手交代だ!!」
ゲビルドが交代を言い渡す。
(誰を出す気だ? あいつの道場にヒューに勝てるほど強い奴がいるとは思えんが)
訝しげにゲビルドを見るマチ。だが、ゲビルドの隣にいる人物が目に入り、顔色が変わる。
(ま、まさかあいつは)
「選手、ヘンに変わってバルスだ!!」
さっきまでの焦りは嘘のように消え、鼻の穴を広げて勝利を確信するゲビルド。
「あ、マチの嬢ちゃん。久しぶりだね。こっちのチームが劣勢なんで助太刀させてもらうよ」
ひょうひょうとした雰囲気でマチにも挨拶するバルス。目は完全に智也の事を捉えている。表情は柔らかいが、彼の目からは色々な感情が見て取れた。
こいつがバルスか、厄介なのが助っ人に来たもんだ。
智也は激戦になることを予想し気合を入れ直す。
「両者揃ったようなので、試合開始!!」
「お手柔らかに頼むよ」
「ああ、そうするよ」
そう言いながら、開始と同時に足に気を集め、バルスに突撃する智也。
バルスの右側に回り込み後頭部に蹴りを放った。
もらった!!
「ふー早い早い。けど、甘いねぇ」
そう言って左手で簡単に受け流すバルス。
ちっ、さすがに簡単にはとらせてもらえないか。簡単に受け止めやがる。
「俺からも行くよ」
そう言いながら右手で突きを放ってくる。
足に気を集中した智也はそれを難なく躱した。
「へー、やるねえ」
互いに距離を取る両者。
「何で離れたのかな? 君、遠距離だとまともに攻撃出来ないでしょ?」
「なぜそう思う?」
「うーん、魔力の大きさって言うのかな、君から何も感じないんだよね」
「なるほどな」
「でも何かしら、隠してる能力はあるよね? 例えば、さっきの試合の砂のやつとか」
「見えてたのか」
「風か何かで砂を飛ばしてたように見えたかな、早くて見づらかったけど」
こいつ目がいいな、いや上位の者ならそのぐらい分かるか。
その後も互いに、一進一退の攻防が続く。が、バルスに大きな動きがみられた。
「そろそろ本気で行くよ」
次の瞬間、智也の近くで爆発が起こる。
あぶねぇ、今のは火魔法か?
その爆発を、ぎりぎりで回避する。
が、しかし。
「甘いね」
バルスは、あらかじめ回避する方向に回り込んでいた。魔法を纏わせて放った拳が、智也の顔面にクリーンヒットする。
爆発を回避したことで、体制が崩れておりガードも回避も間に合わなかった智也、その勢いで、後方に10メートル近く吹っ飛び、その後2メートルほど地面を転がって停止した。
「ヒュー!!」
マチが心配そうに叫ぶ。
「いやー、久々に面白い試合だったよ、俺に魔法まで使わせたんだから」
勝利を確信し、審判のもとに寄るバルスだったが。
「ふぅ、さすがに少し痛いな」
首と肩を鳴らしながら起き上がる智也。
「なに!? バカな!! 完璧に入ったはずだ」
さすがのバルスも、これには信じられない表情を浮かべている。
「ああ、いいもんもらったぜ、代わりにいいもん返してやるよ」
そう言って手を拳銃の形にし指先をバルスに向ける。
観客を含めた全員が何をしてるんだ? という顔になっている最中。
「バン!!」
智也が口で発声したが、特に何かが起こった形跡はない。
そう思われた。
「ば、ばかな、魔力は微かに感じたが…… それ以外はかんじ… なかっ… た… のに……。」
バルスが膝をついた後に、驚きの表情を浮かべ完全に倒れた。
「戦闘不能により、勝者ヒュー!! よってこの試合、気道チームの勝利!!」
会場は盛大な盛り上がりを見せ、ヒューを讃える声が至る所で上がっている。
「ヒュー!! ヒュー!!」
決してカップルを煽っているのではない、マチが興奮しながら智也に抱き着いているのだ。
「苦しい、胸を顔に押し付けるな、色々な意味でやばい」
「ん? 色々とはなんだ? 言ってみろ」
少し言いよどんだ後。
「まあ、男には色々あるんだよ」
そんなやり取りをしていると観客の中からヒューに近づいてきた人達がいた。
「ヒュー君すごかったじゃない」
「ヒューはすごい」
「ああ」
「すごかったぞ、ヒュー」
試合を観戦していたエレナ、セイレン、ボッカス、ゼルバだ。
「ありがとうございます」
「それで、そっちの女の子は? ヒュー君のお友達?」
マチを見ながら微笑むエレナ。
「ああ、ヒューとは仲良くさせてもらってる、名前をマチという」
「私はエレナ。よろしくね」
そう言って右手を差し出すエレナ
(なっ、こいつがエレナか)
マチも右手を差し出す
その際、互いに相手の胸が至近距離で視界に入る。
(……大きいな)
(……大きいわね)
「それよりも、ヒューに色々と聞きたい」
セイレンが興味津々といった感じでヒューに迫る。
「近いですって、ええと、ここでは話しづらいんで、クランハウスに帰ってからでいいですか?」
「うん、それでいい」
「私も聞きたい」
「ああ」
「俺も聞きたい」
「時間は、夜で良いですかね?」
「大丈夫よ、ハウスで待ってるわねー」
そう言い残し、4人は去っていった。
「久々に話し方の硬いヒューを見たぞ」
マチが、にやにやしながら語りかける。
「あの4人には、ずっと敬語だから今更変えるのもな。それに、俺がくだけた話し方で接するやつは、お前ぐらいだよ」
「そ、そうか? 私だけ? ふふふ」
「あー、男はいたな、魔法道場の奴とかに関しては全員ため口でいってた気がする」
「男はどうでもいい」
「なぜ!?」
そんなやり取りをしていると、ゲビルドがこちらに向かってきた。
「む、無効だ!! ずるだ!! 罠か何かを仕掛けていたんだろ? ずるいぞ!!」
「え? 仕掛けてないけど」
「じゃなけりゃバルスが負けるなんてありえねえ!!」
地団太を踏むゲビルド、まるで大きな子供だ。
すると向こうから、今回審判を務めてくれた、剣術道場の師範であるシバがやって来る。
「何か不備がありましたか?」
無表情でゲビルドを見ながら言う
「ああ、罠があったんじゃねえかと思ってよ、あんたしっかり確認したか?」
「ええ、確認いたしました」
「でも実際、罠がなけりゃありえないんだよ!!」
「そう言われても、こちらも困ってしまいますね」
「罠じゃないよ」
するとここに、騒ぎを聞いてバルスがやって来る。どうやら復活したようだ。
「あ? なんで罠じゃねえって言い切れるんだ?」
「うーん、仮に罠でもこんな完璧な罠なら、証拠なんて出ないから負けだし。そんな罠を作れる人間なんだったら、かなり魔法に精通してるだろうし、実力もあると思うんだよね」
「ぐぬぬ」
悔しそうな顔で俯いているゲビルド。
どうしても負けを認めたくないみたいだな。さっきに引き続き、まるで大きな子供だ。
「はぁ、もう反論は無いか? おい、大きな子供、約束は覚えているな?」
茶化すように智也が問いかける。
「誰が大きな子供だこら!!」
「うるさい、喚くな」
「でもどうせ、お前らが俺の道場を手に入れたところで使う当てがないだろ? 魔法道場は魔法を学んでる奴しかいねえんだ、お前が魔法を教えるのか?」
「それについては、考えがある」
無言でバルスに近づく智也。
「お前が今日から師範だ、頑張れよ」
「えー、めんどくさいよ、嫌だ」
「こちとら、あんたが敵側について、結構面倒くさかったんだ、迷惑料と思え」
「それは暴論だよ」
「それか、あんたが代わりの人間を見つけて来い」
「うーん、それならいいかな」
「ヒューあいつはどうする?」
マチはゲビルドを指さしながら、智也に決断を仰いだ。
「いや、お前が決めろよ、俺はいらん」
「私もだ」
「おーい!! ふざけるなよ!! なんだお前ら!!」
なんだかんだ相性が良いゲビルドと智也達だった。
一方その頃。
気道道場の師範であるゼブラは用事で違う街に出かけていた。ゼブラが今回の騒動を知るのは、まだ先の話だ。
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