上 下
3 / 7

【第002話】呪国物語

しおりを挟む
家電、ゲーム、漫画、服、ありとあらゆるものがココには揃っている。

グレイは現在ジャンクショップを訪れていた。家電コーナーと漫画コーナーを一通り見た後、最後にゲーム―コーナーに向かう。


ジャンク品ってなんかこう、普通の中古品とは違ったわくわくがあるよな。買うよりも見て楽しんだり、パーツ目的で本体ごと買ったりさ。


そんなことを考えながら、ゲームコーナーを物色していると、ゲーム―コーナーの端に袋に入れられたゲームソフトが吊り下げられているのが目に入った。その中に、やたらと気になるゲームソフトを発見し、そのソフトを手に取り観察する。

値段は100円。形状はCDタイプ。ソフトの規格は某有名ゲーム機のようだ。傷は無い。保存状態も良さそうで掘り出し物感がある。しかし、タイトルだけが消されていて何のゲームなのか不明である。

いいじゃないか、こういうのが面白いんだよ。持って帰って起動するまで分からないこのドキドキ感、最高だぜ!!

そのゲームを手に取りウキウキしながら会計に向かった。


会計を済ませたグレイは足早に自宅に帰る。自宅といっても城に併設されている宿舎だが。ちなみに毎日、城の執務室にゲーム機を持って行っているが、隠蔽魔法で周囲にバレないようにしている。

宿舎に帰ったグレイは、ゲーム機から『魔王撲滅!!ぼこぼこ魔王叩き!!』を抜き取り、買ってきたソフトを入れ、電源ボタンを押した。


―――呪国物語———

起動した瞬間、唐突にゲームタイトルが表示される。制作会社などの表示は一切存在しない。

こんなゲームがあるのか。誰かがオリジナルで作ったのかな。こういうインパクトは好印象だ。ホラー感が高まってメチャクチャ良い!!

そんなことを考えながらスタートボタンを押す。




―――あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛




部屋に亡者のうめき声がこだまする。

グレイの目はうつろになり、TV画面は真っ暗になった。ゲーム機も起動を停止してしまい。部屋の明かりも消えてしまう。

…。
……。
………。



どのくらい時間が経過しただろうか? 何事もなかったかのようにTV画面がつく。同時に部屋に起きていた異常の全てが改善される。グレイの目にも生気が宿り、その目はTV画面を注視している。画面にはニュースが流れており、少しだけ気になるニュースだったようで、それを少しだけ見た。そのニュースが終わると、画面を切り替えてゲームを起動する。

―――魔王撲滅!!ぼこぼこ魔王叩き!!―――

ゲームが始まり画面が移り変わる。画面には大きなハンマーを持った勇者と地面に空いた穴から頭を出す魔王が表示されている。

いけね、忘れてた。

ストップボタンを押してからコントローラをおいて、立ち上がる。

冷蔵庫からコーラを、棚からポテチを取り出しテーブルの上に乗せ、何事もなかったかのようにゲームを再開する。




ゲームをしばらく楽しんだ後、風呂に入り、歯を磨き、ベッドに向かう。

ベッドに入る直前。定期連絡を思い出したグレイは、送るとすぐに消える報告書を空間魔法で取り出した。

特に悩むそぶりもなく、5秒ほどで書いて送り、眠りにつく。


その様子をじっと見つめる者がいた。







数日後。

ある男の後ろに不機嫌そうな顔をした男が腕組をしながら佇んでいる。顔には生気がなく、やつれており、目の下には大きなクマがある。彼が目線を下側に向けると、相も変わらずポテトをつまみながらコーラをがぶ飲みし、ゲームをしている人間の姿が映る。

(憑りついた直後は、憑りつく人間を間違えたかもしれんと思った。しかし、観察してみればこれほど俺におあつらえ向きな人間も……。いや、魔族もいまい。)

不敵な笑みを浮かべるが、彼がこの世にとどまっていられる時間はもう長くは無い。

(君に変わって、私が魔王様に報告してやろう。報告は嫌いだろう?)

そうして彼はグレイの体の中に入っていき、残っている全ての力を使い肉体を支配する。悪霊からの侵入を受けた体は数秒ほど痙攣すると全く動かなくなった。

今日は彼が憑りついてから2回目の定期連絡日だ。今か今かと待ち望み、ついにこの日がやってきたのである。

……
………。


しばらくして、グレイが動き出す。そして、額に手を当て天を仰ぐようなポーズをとった。

「ふふふふふ…… ふははははは!!」

その顔は、醜く歪んでいた。







「魔王様、グレイから連絡が届きました」

「……。」

「いかがいたしました?」

「いや、あいつちゃんと報告しないじゃん。毎回変なこと報告してくるか、異常なしって報告してくるかだしさ…」

面倒そうにしながらも報告書を手に取る魔王。

直後。

魔王の目は見開かれ、顔は驚きに染まった。

「え? なにこれ、スゲーぎっしり書いてあるんですけど。キモいほど書いてあるんですけど」

そこには財政状況から、城の隠し通路まで事細かく、国家機密が記されていた。

「いや、あいつ分かってる? 俺たちは人間の国滅ぼしたいんじゃないからさ、勇者が無駄に派遣されないように阻止したいだけだから。まあ勇者育成の関係上、財政は少しだけ関係するとしても、隠し通路は関係なくね? それにさ、王様の弱点とか可哀想じゃんふさふさな髪の毛が実はカツラですって、そりゃあ公表したら精神的ダメージだけどさ… ん? 城の至る所に爆弾を設置したのでいつでも起爆できます…… 城を攻める際に内部からも援護いたします…… って危なっ!! あいつ何してんの!? なんか知らんけど思想が過激になってるんですけど、怖っ!!」

やっと1ページが読み終わる。

それから、全100ページにわたる報告書を全て読んでいく魔王。全てが王国を物理的にも精神的にも破壊するための情報になっており読んでいて頭が痛くなってくる。もはや破滅の書だ。

そんな、破滅の書を読み進めていく中で重大な情報が1つだけ存在した。

―――勇者召喚について

「そうそう! こういう報告が欲しかった! で、いつなんだ?」

何回も報告書とカレンダーを見比べる魔王。

日付を確認すると明日だった。

「明日ぁ!? ま、まあ、今日この情報を知ったならしょうがないけれどさ… って!! 勇者召喚決まった日、結構前じゃねえか!!」

定期的に連絡があるので、この期間なら情報漏れはないはずなのだが。おかしなこともあるものだ。そんな中、魔王が何かに気づく。 

「あれ?この日付…… 確か前に報告受けた日だな。おい、この日付の報告書を持ってきてくれ!!」

報告書に記載された日付を確認し、通信使がファイルをめくっていく。望みの日付が見つかったようで、めくる手を止めた。

「こちらが、その日付の報告書になります。」

手渡された報告書に目を通す魔王。


———私は無事にファイナルクエスト1をクリアしました。
そして次にプレイするゲームを決めなければなりません。候補はファイナルクエスト2とドラゴンファンタジー1。
どちらにするか最後まで悩んだ末、ここはやはり同じシリーズを全部クリアしてからドラゴンファンタジーをすることに……。
ですが、ここで大事なことに気づきます。古い作品ほどグラフィックは粗く新しい作品ほど綺麗になるのです!! 危うく罠にかかるところでした。それを考えた上でドラゴンファンタジーを……。 

しかし、ここで新たな問題が発生しました。

人間界にはこれ以外にも沢山ゲームがあるのです!! その沢山のゲームから1つを選ぶことなど俺にはできない。
魔王を玉にして打ち出すピンボール!! 魔王をいっぱい並べて、そこに丸めた魔王を投げ、どれだけ破壊できたかを競うボウリング!! 人間が魔王に跨って競争する競魔!! 上からスライムが落下してきて、それをご飯の上にのせて魔王の口に投げ入れるゲームも捨てがたい!!

そして、悩みに悩んだ結果。

勇者が裸の魔王を振り回しながら宇宙人と戦い、国を守るゲームに決定しました。

―――――ps.体重が2キロ増えました。




「ああ、この報告の時か! ゲームの話しばっかり書きやがって。ps.のところにでも良いから体重と一緒に書いといてくれよ! いや、本来本文に書くべき内容だけどもさ!!」

もう穏便に勇者召喚を止める手立てはないだろう。グレイが起爆スイッチを押せば止まるかもしれないが。

「くそっ! もっと早く分かってれば何か阻止する手だてがあったかもしれないのに……。」

悔しそうに報告書を握りつぶす魔王の姿がそこにあった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

宝くじ当選を願って氏神様にお百度参りしていたら、異世界に行き来できるようになったので、交易してみた。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」と「カクヨム」にも投稿しています。 2020年11月15日「カクヨム」日間異世界ファンタジーランキング91位 2020年11月20日「カクヨム」日間異世界ファンタジーランキング84位

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

異世界神話をこの俺が!?――コンプレックスを乗り越えろ――

3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)
ファンタジー
【猫好き必見★1話辺り5分程度で読める異世界転移ものの長編です!】 【旅のお供としてたくさんの猫が出てきます。「戦闘」ではなく「猫・ネコ・ねこ」な小説です!】 父は日本人・母はイタリア人というダブルにもかかわらず、日本人100%な黒髪で黒瞳の見た目がコンプレックスな15歳の少年、遠見ルカ。ある日寝て起きたら突然異世界に飛ばされてしまっていた! 親切な人(?)に助けられ、街へと行く。やっと会えた神様に聞かされた驚くべき話とは!? 元の世界には戻れないと知らされた少年が神様のお手伝いをしながら送る、不思議世界での第2の人生とはいったい………。 神様、もっと俺に楽をさせてくれ! ★Twitterで最新話の投稿をすると毎回お知らせをしています。 良ければ利用してね(*^▽^*)/ → @blue_rose_888

最強の暗殺者は田舎でのんびり暮らしたい。邪魔するやつはぶっ倒す。

高井うしお
ファンタジー
戦う以外は不器用な主人公、過去を捨てスローライフを目指す! 組織が壊滅した元暗殺者「名無し」は生き残りの男の遺言で辺境の村を目指すことに。 そこに居たのはちょっとボケている老人ヨハンとその孫娘クロエ。クロエから父親だと誤解された名無しは「田舎でのんびり」暮らして行く事になる。が、日々平穏とは行かないようで……。 書き溜め10万字ありますのでそれが追いつくまでは毎日投稿です。 それが尽きても定期更新で完結させます。 ‪︎‬ ‪︎■お気に入り登録、感想など本当に嬉しいですありがとうございます

処理中です...