振り込め詐欺

戒=かい

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振り込め詐欺

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「ちょっとよろしいですか」

 突然呼び止められる。後ろを向くと男が立っていた。ラフな格好をした、若い男だった。

「はい?」

「私、こういうものでして……」

 男の手には黒い手帳があった。

「……はぁ」

 返事をするとそのまま、日陰まで連れて行かれた。そこにはもう一人の男がボードを持って立っていた。
 夏の暑い日、二時過ぎのことだった。

「……すみませんね。実は最近、この辺りで振り込め詐欺が多発しておりまして。この時間にスーツで歩かれていたので、ちょっと声をかけさせていただきまして」

「……この時間なら、営業の人とかいませんか?僕はたまたま今日早帰りだったんですけど」

 ーー正直、早く帰りたい。

 連勤明けで今日は珍しく早帰りなのだ。昨日から暑さが一気に増したため、さっさとシャワーを浴びて一眠りしたかった。

「そうだったんですね。ご苦労様です」
 
 一人がメモを取りながら、一人がにこやかに話す。その笑顔から汗が一筋流れた。
 この警官を名乗る男たちも、本当だったらこの暑い中、こんな聞き込みなんてしたくないだろう。
 正直、不審者と思われてこえをかけられてるのは不快だった。けれど、協力すれば疑いも晴れるだろうし、さっさと帰れるだろう。そう思うことにした。

 それから、マスク外せと言われ、身分証明書を出せと言われ、指示に従い免許証を出した。
 携帯の番号を控えられ、住んでるのはどのあたりかと質問された。それを一つ一つ答えていく。 
 そろそろ解放してほしいと思った時に、警官はこう質問をしてきた。

「えっと、実家の方はどちらですか」

「千葉の方ですね、しばらく帰れてませんが」

「最近、家族に連絡は入れてますか」

「いえ、特には。連絡することも特にないので」

「そうですか。たまに連絡入れてくださいね。振り込め詐欺ってそういうところを狙うので」

「はぁ」

 そういえば、振り込め詐欺の調査をしてるんだったと思い出した。

「ご協力ありがとうございました。お帰りお気をつけて」

「あ、はい。では」

 警官達は深々とお辞儀をして、その場を去っていった。また聞き込みの続きをするのだろう。
 太陽の日差しはまだまだ強かった。

「大変だなぁ……」

 そう呟いて僕は家へと歩いていった。


 あれから数ヶ月後、振込め詐欺の犯人が見つかったそうだ。
 犯人の顔はお昼のワイドショーで公開された。それは少し前に僕が見た二人組だった。
 実家の被害が何もなかったのが救いだった。
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