元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん

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第三章

新しい拠点

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 拠点で朝を迎えて、背伸びをすると鈍い痛みが走った。

「全然寝れないな……」

 薄い木綿の布の上で初めて寝た。
 船には備えつけのベッドがあったし、安い宿でもベッドがないということはなかった。

「ストーンはすごいな」

 俺の横で熟睡し続けている。元冒険者の経験値というのか、このまま寝れない日が続くと、深刻な状況になるのではないか。
 すぐにでもホーンに行って、ベッドなどの家具を揃えないと。

 ストーンが起きると、俺たち二人でテーブルを囲い朝食をとる。
 パンとスープだけ。少ないがないよりはましだ。拠点に移ることを優先していたので、食材などもない。
 これもすぐに揃えないとな。

「それで、フェアはどうするんだ?」
「えっ?」
「ミーナが息子のお前を俺のもとに送ったということは、ミーナは俺のことを責めていないし、ちゃんと認めていることが分かった。俺も踏ん切りがついたし、再びモンスター退治をするつもりだ」

 ストーンは前に進むことを決めたのか……。
 俺はどうなんだろう。
 母は平和のために戦ってほしいと思っているだろうな。だが、ホーンにいると、どこもかしこも平和に思えた。
 モンスター退治をすることにそれほど興味はない。
 なにせ、俺には武器もないし、攻撃魔法もほとんどない。

「まあ……とりあえずは、拠点の基盤整備をしようかなと」
「き、きば……きばせいび……」
「そうですね、水もでないみたいですし、キッチンもかなりひどい状況みたいですから」
「んー。そういうことか。たしかに、だいぶんガタがきちまってるからな……」

 ストーンをギルドに送り出して、俺はとりあえず全部の家具を浮揚レビテーションで外に出し、風力エアー水力ウォーターで床やら壁やらを全て綺麗にする。

「うわー……めちゃくちゃ汚いな」

 そういえば、女性専用エリアはどうなっているのだろう。
 気になるが、スピカがいるからきっと大丈夫か。
 
 汚れを外に出すと、床のタイルも綺麗に磨かれて新品同様になった。

「さて、ホーンに買い物に行くか」

 金貨袋を持って、拠点を出る。
 拠点には高さのある門があり、錠前もかなり立派なものだ。

「『開錠アンロック』が効かないな」

 鍵と回転盤の二重錠になっているので、俺の魔法でさえ開錠できないようになっていた。アーシャがマトビアのために事前に強化していたらしい。

 拠点の丘をおりて、ホーンに着くとさっさと家具やら食料を買い込んだ。もちろん、フードを被って顔が分からないようにした。
 買い物も即決でどんどん買って、なるべく店主と目を合わせないようにする。

 議長のバカ息子の一件があるからな……。俺がバレると、マトビアにも迷惑がかかるし。

 すべて荷車に入れて浮揚レビテーションをかけて軽くし、拠点の門に戻った。

 俺は渡された鍵と暗証番号を使って門を開けると、施設に家具を並べて行った。

「あとは水だな」

 枯れた井戸が施設の裏にあったので、水力ウォーターで水脈を探る。

「よしよし、……手ごたえがあるぞ」

 ぐっと、魔力を集中させると間欠泉のように水が井戸から飛び出てきた。

「おおっ……!」

 土砂を押し上げた圧力で水が噴き出てしまった。
 魔力を弱めて井戸を復活させ、とりあえず生活用水として使えるように、大桶へ水をためた。

「いずれタービンを使って自動化をしたいな」

 施設には母が使っていた道具もあるので、それを使えばできるかもしれない。

 もう日が暮れ始めたので、施設に戻るとスピカがキッチンに立っていた。

「朝はすみません。なかなかマトビア様に起きていただけず……」
「いや、スピカはマトビアの付き人なんだから、俺のことは気にしなくていい」
「いえいえ、そんなわけには……。しかし、キッチンが綺麗になりましたね!」
「そうなんだよ。食材も買って来たし」
「私も買って来たので、今日の夜は豪華にしましょう!」

 スピカはそう言って、腕まくりをした。

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