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第二章

機械工の活躍

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 鋳造所のなかは天井がなく、煙突が天を刺すように聳えている。上から降ってくる枯れ葉が床に積もっていて、長い間、誰も入っていないようだった。

「なるほど、徹底的に無駄をなくした鋳造所だな」

 天井まであって、燃料の木材の保管庫まで備えている帝都の鋳造所とは全然違う。

 とりあえず、中を掃除して井戸の機械を持ち運んだ。

「確かに動かないな」

 風力エアーでタービンを回しても空回りするだけだ。ポンプの役目をしている機構と繋がっていない感じがする。浮揚《レビテーション》で浮かせて、回転させながら分解していく。

「結合部品が破損してるな……」

 おそらく木の枝のようなものが、内部に入って金属が割れたのだろう。
 タービンが回ることで、圧力をかけるための仕切り板が動き、水を吸い上げるのだが、タービンの基軸と、仕切り板の棒との歯車が壊れているのだ。

「鋳造するしかないか」

 歯車は頑丈でないといけない。そのため、木製ではなく金属製のものに限る。
 運良く鉄鉱石や燃料の木材もある。それに型をとるための砂型まで。

 炉のなかを掃除して、煙突の詰まりもなくしたあと、火力ファイアで木材を一気に燃焼させた。
 炉の中に鉄鉱石を置いて、粘土で湯止めをする。鉄鉱石が溶けて液体になると中央の窪みに溜まるようになっていて、外の湯止めを壊せば鉄が流れ出てくるというわけだ。

「歯車の型はこれでいいだろう」

 溶けるまでのあいだ、砂地を歯車の形にへこませる。
 十分に鉄が溶けた頃、湯止め壊すと真っ赤な川が流れる。
 ドロドロの鉄は鍋に溜まり、それを用意していた砂型にゆっくり流し込む。

「新しい環境で作った最初の鋳物にしては、上出来だな」

 時間をかけて冷やしたあと、型からはみ出た部分や、表面をヤスリで削った。

「さて、試してみるか」

 歯車を作りたてのものに替えて、井戸に持っていく。

「ねぇ、何をしてるの? 罪人さん」

 井戸に吊るしていると、女の子が後ろから声をかけてきた。

「ああ、ポンプを修理したんだ。動くか試したくて」

 罪人? 気のせいかな、女の子に罪人と言われた気がする。

「なにか手伝おうかー?」

 暇を持て余している女の子は、俺の周りをウロウロする。

「じゃあ、水が流れるところの土を取ってくれるか?」
「うん!」

 女の子は木の枝を持ってきて、水路の土を削り始める。
 俺はゴム製のホースを機械に連結させ、井戸の底に下ろした。

「ねぇ、ほんとにお水でるのー?」
「たぶんね」

 設置は終わった。ゆっくりと風力エアーでタービンを回転させ、圧力を高める。
 ガリガリと異音がしていたが、徐々に聞こえなくなり、振動も止んだ。

 さらに回転数をあげたとき、ポンプの出口から水が流れてきた。

「わーっ! すごい! 水が出てきた!」
「おー、うまくいった」

 大量の水が水路を走り、貯水槽に集まる。思っていた以上に機械の圧力部がよくできていて、少ない回転でもかなりの水量を吸い上げることができた。

 家一軒ほどある貯水槽が半分ほど貯まるころ、大人たちが集まりだした。

「え、なんでアレが動いているんだ?」
「おい! 井戸水がここに貯まっているぞ!」

 驚く大人たちに向かって女の子が胸を張った。

「この罪人さんが、直したんだよ!」

 やっぱり罪人って言っている! ルルカが言い間違えたせいだ。いや、まあ、正解ではあるんだが。

「ああ、いや……俺は罪人じゃなくて、丘の上の屋敷に泊まっている旅人です……」
 
 近寄ってくる大人たちに抗議すると、手を取られて握手された。

「ありがとう!」
「これで毎日、飲み水を考えなくて済むぜ!」

 歓声を聞いて集落のひとが集まると、大勢から感謝された。

「ちゃんとルルカお姉ちゃんにも伝えておくからねっ!」

 俺がルルカのことを好きだと勘違いしている女の子は、意味ありげにウインクした。

***

 屋敷で夕食の席につくと、さっそく井戸の修理について、ルルカが聞いてきた。

「伐採所の近くにある井戸を直したんですってね」
「ああ、ちゃんと水が出てよかった」
「みんな感激してたわよ」

 ルルカの横に座っていたマトビアがニッコリと微笑む。

「お兄様は帝都にいるときも、色んな物を直して民から感謝されてましたのよ」
「そうなんですね、なんか私、勝手に皇子のイメージを悪い方にしか考えてなくて、すみませんでした」

 ルルカは項垂れてしょんぼりする。

「まあ、誰だって帝国から罪人と指名手配されれば疑うさ」
「お兄様が罪人という帝国の主張は誤りです。お兄様は平和のために、皇子として貢献してきました。それは私がしっかりこの目で見ています。罪人に仕立て上げようとするタカ派の陰謀です」
「……そうなんですね。なんだか私、惑わされてばかりで、一番こうなったらだめなのに……」

 余計にしょんぼりするルルカの肩をジョゼフ爺さんが叩いた。

「人を評価する時は実際に会って、まっさらな気持ちでじっくり見極めないとな」
「……はい、お爺様」
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