23 / 62
第二章
機械工の活躍
しおりを挟む
鋳造所のなかは天井がなく、煙突が天を刺すように聳えている。上から降ってくる枯れ葉が床に積もっていて、長い間、誰も入っていないようだった。
「なるほど、徹底的に無駄をなくした鋳造所だな」
天井まであって、燃料の木材の保管庫まで備えている帝都の鋳造所とは全然違う。
とりあえず、中を掃除して井戸の機械を持ち運んだ。
「確かに動かないな」
風力でタービンを回しても空回りするだけだ。ポンプの役目をしている機構と繋がっていない感じがする。浮揚《レビテーション》で浮かせて、回転させながら分解していく。
「結合部品が破損してるな……」
おそらく木の枝のようなものが、内部に入って金属が割れたのだろう。
タービンが回ることで、圧力をかけるための仕切り板が動き、水を吸い上げるのだが、タービンの基軸と、仕切り板の棒との歯車が壊れているのだ。
「鋳造するしかないか」
歯車は頑丈でないといけない。そのため、木製ではなく金属製のものに限る。
運良く鉄鉱石や燃料の木材もある。それに型をとるための砂型まで。
炉のなかを掃除して、煙突の詰まりもなくしたあと、火力で木材を一気に燃焼させた。
炉の中に鉄鉱石を置いて、粘土で湯止めをする。鉄鉱石が溶けて液体になると中央の窪みに溜まるようになっていて、外の湯止めを壊せば鉄が流れ出てくるというわけだ。
「歯車の型はこれでいいだろう」
溶けるまでのあいだ、砂地を歯車の形にへこませる。
十分に鉄が溶けた頃、湯止め壊すと真っ赤な川が流れる。
ドロドロの鉄は鍋に溜まり、それを用意していた砂型にゆっくり流し込む。
「新しい環境で作った最初の鋳物にしては、上出来だな」
時間をかけて冷やしたあと、型からはみ出た部分や、表面をヤスリで削った。
「さて、試してみるか」
歯車を作りたてのものに替えて、井戸に持っていく。
「ねぇ、何をしてるの? 罪人さん」
井戸に吊るしていると、女の子が後ろから声をかけてきた。
「ああ、ポンプを修理したんだ。動くか試したくて」
罪人? 気のせいかな、女の子に罪人と言われた気がする。
「なにか手伝おうかー?」
暇を持て余している女の子は、俺の周りをウロウロする。
「じゃあ、水が流れるところの土を取ってくれるか?」
「うん!」
女の子は木の枝を持ってきて、水路の土を削り始める。
俺はゴム製のホースを機械に連結させ、井戸の底に下ろした。
「ねぇ、ほんとにお水でるのー?」
「たぶんね」
設置は終わった。ゆっくりと風力でタービンを回転させ、圧力を高める。
ガリガリと異音がしていたが、徐々に聞こえなくなり、振動も止んだ。
さらに回転数をあげたとき、ポンプの出口から水が流れてきた。
「わーっ! すごい! 水が出てきた!」
「おー、うまくいった」
大量の水が水路を走り、貯水槽に集まる。思っていた以上に機械の圧力部がよくできていて、少ない回転でもかなりの水量を吸い上げることができた。
家一軒ほどある貯水槽が半分ほど貯まるころ、大人たちが集まりだした。
「え、なんでアレが動いているんだ?」
「おい! 井戸水がここに貯まっているぞ!」
驚く大人たちに向かって女の子が胸を張った。
「この罪人さんが、直したんだよ!」
やっぱり罪人って言っている! ルルカが言い間違えたせいだ。いや、まあ、正解ではあるんだが。
「ああ、いや……俺は罪人じゃなくて、丘の上の屋敷に泊まっている旅人です……」
近寄ってくる大人たちに抗議すると、手を取られて握手された。
「ありがとう!」
「これで毎日、飲み水を考えなくて済むぜ!」
歓声を聞いて集落のひとが集まると、大勢から感謝された。
「ちゃんとルルカお姉ちゃんにも伝えておくからねっ!」
俺がルルカのことを好きだと勘違いしている女の子は、意味ありげにウインクした。
***
屋敷で夕食の席につくと、さっそく井戸の修理について、ルルカが聞いてきた。
「伐採所の近くにある井戸を直したんですってね」
「ああ、ちゃんと水が出てよかった」
「みんな感激してたわよ」
ルルカの横に座っていたマトビアがニッコリと微笑む。
「お兄様は帝都にいるときも、色んな物を直して民から感謝されてましたのよ」
「そうなんですね、なんか私、勝手に皇子のイメージを悪い方にしか考えてなくて、すみませんでした」
ルルカは項垂れてしょんぼりする。
「まあ、誰だって帝国から罪人と指名手配されれば疑うさ」
「お兄様が罪人という帝国の主張は誤りです。お兄様は平和のために、皇子として貢献してきました。それは私がしっかりこの目で見ています。罪人に仕立て上げようとするタカ派の陰謀です」
「……そうなんですね。なんだか私、惑わされてばかりで、一番こうなったらだめなのに……」
余計にしょんぼりするルルカの肩をジョゼフ爺さんが叩いた。
「人を評価する時は実際に会って、まっさらな気持ちでじっくり見極めないとな」
「……はい、お爺様」
「なるほど、徹底的に無駄をなくした鋳造所だな」
天井まであって、燃料の木材の保管庫まで備えている帝都の鋳造所とは全然違う。
とりあえず、中を掃除して井戸の機械を持ち運んだ。
「確かに動かないな」
風力でタービンを回しても空回りするだけだ。ポンプの役目をしている機構と繋がっていない感じがする。浮揚《レビテーション》で浮かせて、回転させながら分解していく。
「結合部品が破損してるな……」
おそらく木の枝のようなものが、内部に入って金属が割れたのだろう。
タービンが回ることで、圧力をかけるための仕切り板が動き、水を吸い上げるのだが、タービンの基軸と、仕切り板の棒との歯車が壊れているのだ。
「鋳造するしかないか」
歯車は頑丈でないといけない。そのため、木製ではなく金属製のものに限る。
運良く鉄鉱石や燃料の木材もある。それに型をとるための砂型まで。
炉のなかを掃除して、煙突の詰まりもなくしたあと、火力で木材を一気に燃焼させた。
炉の中に鉄鉱石を置いて、粘土で湯止めをする。鉄鉱石が溶けて液体になると中央の窪みに溜まるようになっていて、外の湯止めを壊せば鉄が流れ出てくるというわけだ。
「歯車の型はこれでいいだろう」
溶けるまでのあいだ、砂地を歯車の形にへこませる。
十分に鉄が溶けた頃、湯止め壊すと真っ赤な川が流れる。
ドロドロの鉄は鍋に溜まり、それを用意していた砂型にゆっくり流し込む。
「新しい環境で作った最初の鋳物にしては、上出来だな」
時間をかけて冷やしたあと、型からはみ出た部分や、表面をヤスリで削った。
「さて、試してみるか」
歯車を作りたてのものに替えて、井戸に持っていく。
「ねぇ、何をしてるの? 罪人さん」
井戸に吊るしていると、女の子が後ろから声をかけてきた。
「ああ、ポンプを修理したんだ。動くか試したくて」
罪人? 気のせいかな、女の子に罪人と言われた気がする。
「なにか手伝おうかー?」
暇を持て余している女の子は、俺の周りをウロウロする。
「じゃあ、水が流れるところの土を取ってくれるか?」
「うん!」
女の子は木の枝を持ってきて、水路の土を削り始める。
俺はゴム製のホースを機械に連結させ、井戸の底に下ろした。
「ねぇ、ほんとにお水でるのー?」
「たぶんね」
設置は終わった。ゆっくりと風力でタービンを回転させ、圧力を高める。
ガリガリと異音がしていたが、徐々に聞こえなくなり、振動も止んだ。
さらに回転数をあげたとき、ポンプの出口から水が流れてきた。
「わーっ! すごい! 水が出てきた!」
「おー、うまくいった」
大量の水が水路を走り、貯水槽に集まる。思っていた以上に機械の圧力部がよくできていて、少ない回転でもかなりの水量を吸い上げることができた。
家一軒ほどある貯水槽が半分ほど貯まるころ、大人たちが集まりだした。
「え、なんでアレが動いているんだ?」
「おい! 井戸水がここに貯まっているぞ!」
驚く大人たちに向かって女の子が胸を張った。
「この罪人さんが、直したんだよ!」
やっぱり罪人って言っている! ルルカが言い間違えたせいだ。いや、まあ、正解ではあるんだが。
「ああ、いや……俺は罪人じゃなくて、丘の上の屋敷に泊まっている旅人です……」
近寄ってくる大人たちに抗議すると、手を取られて握手された。
「ありがとう!」
「これで毎日、飲み水を考えなくて済むぜ!」
歓声を聞いて集落のひとが集まると、大勢から感謝された。
「ちゃんとルルカお姉ちゃんにも伝えておくからねっ!」
俺がルルカのことを好きだと勘違いしている女の子は、意味ありげにウインクした。
***
屋敷で夕食の席につくと、さっそく井戸の修理について、ルルカが聞いてきた。
「伐採所の近くにある井戸を直したんですってね」
「ああ、ちゃんと水が出てよかった」
「みんな感激してたわよ」
ルルカの横に座っていたマトビアがニッコリと微笑む。
「お兄様は帝都にいるときも、色んな物を直して民から感謝されてましたのよ」
「そうなんですね、なんか私、勝手に皇子のイメージを悪い方にしか考えてなくて、すみませんでした」
ルルカは項垂れてしょんぼりする。
「まあ、誰だって帝国から罪人と指名手配されれば疑うさ」
「お兄様が罪人という帝国の主張は誤りです。お兄様は平和のために、皇子として貢献してきました。それは私がしっかりこの目で見ています。罪人に仕立て上げようとするタカ派の陰謀です」
「……そうなんですね。なんだか私、惑わされてばかりで、一番こうなったらだめなのに……」
余計にしょんぼりするルルカの肩をジョゼフ爺さんが叩いた。
「人を評価する時は実際に会って、まっさらな気持ちでじっくり見極めないとな」
「……はい、お爺様」
0
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。
町島航太
ファンタジー
かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。
しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。
失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。
だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?
桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」
その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。
影響するステータスは『運』。
聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。
第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。
すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。
より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!
真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。
【簡単な流れ】
勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ
【原題】
『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
元勇者は魔力無限の闇属性使い ~世界の中心に理想郷を作り上げて無双します~
桜井正宗
ファンタジー
魔王を倒した(和解)した元勇者・ユメは、平和になった異世界を満喫していた。しかしある日、風の帝王に呼び出されるといきなり『追放』を言い渡された。絶望したユメは、魔法使い、聖女、超初心者の仲間と共に、理想郷を作ることを決意。
帝国に負けない【防衛値】を極めることにした。
信頼できる仲間と共に守備を固めていれば、どんなモンスターに襲われてもビクともしないほどに国は盤石となった。
そうしてある日、今度は魔神が復活。各地で暴れまわり、その魔の手は帝国にも襲い掛かった。すると、帝王から帝国防衛に戻れと言われた。だが、もう遅い。
すでに理想郷を築き上げたユメは、自分の国を守ることだけに全力を尽くしていく。
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる