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第二章
自由人の仕事探し
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振り返ると籠を提げたルルカが入り口に立っていた。
「何か役立てることはないかと思って来てみたんだ」
「いえ。結構です。この町で元皇子にできるようなことはないと思いますので」
素通りしたルルカは、床にある木箱に籠の野菜を入れる。テキパキして、やるべきことが分かっている感じがする。
「ここは役場なんだろう? 誰が取り仕切っているんだ?」
「本当はお爺ちゃんですけど、毎日ここにくるのは大変なので、私が代役です」
やはり役場を取り仕切っているのはルルカのようだ。
「その箱の野菜はどうするんだ?」
「……これは、買い物にいけない人や離れの集落に配るんです」
そう言いながら、しゃがんで重そうな箱を持ち上げる。
「『浮揚』」
箱に魔法をかけると、軽くなったことに驚くルルカ。
「変わった魔法を使えるんですね」
「多少は役立てるだろ?」
荷車に箱を何個か置くと、ルルカについていっていいか尋ねる。
「お爺様がフォーロンの町を紹介してほしいとおっしゃっていたので」
「それはありがたい」
つまりルルカの好意ではなく、ジョゼフ爺さんの計らいということで、一緒に行くことになった。
ルルカが荷車を引き、うしろから俺が押す。積まれた箱には魔法をかけたので、ほぼ荷車の重さしかない。
「緑水街の海産物と、町の畑では小麦を生産しています。森の近くは伐採所と家具などを作る木工所があり、小さな集落になっています」
「ああ、アウセルポートでみた木彫りの熊だな」
ルルカはこちらを振り向くと、ぱっと明るくなる。
「知っているんですね。可愛いですよね、木彫り熊」
「……あ、ああ」
ここにもいたか。木彫り熊の愛好家。
しかしながら、ほころんだ顔は普段の冷たい表情とギャップがあってドキッとするものがある。
「でも。本物の熊は危険ですからね、可愛いーとか思って近づくと、食べられますから」
「そうだろうね」
当たり前だろ。まあそもそも熊が可愛いとは思えないから近づかない。
木彫りのリアルじゃない方も、なかなか迫力があって、俺的には怖いと思うが。
「もしかして、木彫り熊を集めてます?」
「いや、俺は買ってさえいないよ」
「そうなんですか……」
「でも、妹のマトビアが買ってたな」
「えっ……皇女様が……!」
毎回思うが、なんでマトビアだけ様がつくんだ。やっぱり、俺には高貴オーラが無いんだろうか。
まあ公式には第一皇子は罪人だし、第一印象以前の問題だからしょうがないよな……。
「ところで、あの煙突のある建屋はなんだ?」
切り開かれた森の奥に伐採所があり、その横にはレンガ造りの建屋がある。
他の建物と違って、木の高さほどある大きな煙突が突き出ていて目立っていた。
「あの建物は、マリア様が利用されていた鋳造所っていう建物らしいわよ。昔、あそこで金属の部品を作っていたらしいですけど、いまはもう全然」
「……あの鋳造所使っていいかな」
「いいんじゃないですか、でも蛇とか出るんで、咬まれても私のせいにはしないでくださいね」
「もちろん。助かるよ」
飛行船の動力部分は動かしていないので、もし部品がなければ一から鋳造しないといけない。
そのときに設備があるのとないのとでは雲泥の差がある。
伐採所では十人ぐらいの男たちが、木材を集めていた。
重労働でみな体が大きく、汗をかいている。
「水と食材をもってきました」
「おお、助かります」
ルルカの言葉で伐採所の男が誰かを呼んだ。管理人なのか、太めのおばさんが奥の家から出てきた。
その後ろを町で見かけた小さい女の子がついてくる。
「あっ、ルルカお姉ちゃん! 今日はすごく早いね!」
「まあ、後ろの人に手伝ってもらったからね」
「やあ、しばらくここにお世話になるよ」
女の子は興味津々のようで、じっと俺を見る。
「なんか、偉い人みたい。お手伝いできるなら、ずっと住んでもらったらいいんじゃない?」
おお! やっぱり子供にはわかるんだな。俺の高潔さが。
「だめよ。この人は罪人……いえ、旅人だから」
おい!
もう罪人って言い切ってるよ。言い換える前に、全部言ったらだめだろ。
「そっかあ、いたらルルカお姉ちゃんも助かるのに」
話すだけ話して、女の子はどこかに行ってしまった。
しかし俺のことを本気で罪人だと思っているのか……。詳しく知らない人はそう思ってしまうんだろうな……。どこかで訂正しなければ。
「ところで、毎日こうやって物資を運んでいるのか?」
「ええ、ほとんどね。嵐とかがこなければ」
「偉いな」
「べつに。昔からお世話になっている人たちだから」
ぐるりと伐採所を見回すと、井戸の吊り紐にどこかでみた金属製の機械が吊るされていた。
機械から滑り台がついていて、木製のプールに水が流れる仕組みになっているようだ。いまは土が詰まっていて、機械も止まって、プールには蓋がされているが……。
「あれは、なぜ使わないんだ?」
「ああ……あれは、三年ぐらい前から壊れてて使えないの。井戸水はまだあるとは思うんだけど、とても深いし、貯水槽にくみ上げるより別のところからもってきたほうが早いからね」
ちょうどいい基盤整備の仕事が見つかった。鋳造所の稼働も一緒にやってやるか。
「まあ、直せるか分からないが、勝手にいじってもいいか?」
「どうぞ、ご自由に」
俺はさっそく鋳造所に向かう。その横を忙しそうなルルカが、荷車を引いていった。
「何か役立てることはないかと思って来てみたんだ」
「いえ。結構です。この町で元皇子にできるようなことはないと思いますので」
素通りしたルルカは、床にある木箱に籠の野菜を入れる。テキパキして、やるべきことが分かっている感じがする。
「ここは役場なんだろう? 誰が取り仕切っているんだ?」
「本当はお爺ちゃんですけど、毎日ここにくるのは大変なので、私が代役です」
やはり役場を取り仕切っているのはルルカのようだ。
「その箱の野菜はどうするんだ?」
「……これは、買い物にいけない人や離れの集落に配るんです」
そう言いながら、しゃがんで重そうな箱を持ち上げる。
「『浮揚』」
箱に魔法をかけると、軽くなったことに驚くルルカ。
「変わった魔法を使えるんですね」
「多少は役立てるだろ?」
荷車に箱を何個か置くと、ルルカについていっていいか尋ねる。
「お爺様がフォーロンの町を紹介してほしいとおっしゃっていたので」
「それはありがたい」
つまりルルカの好意ではなく、ジョゼフ爺さんの計らいということで、一緒に行くことになった。
ルルカが荷車を引き、うしろから俺が押す。積まれた箱には魔法をかけたので、ほぼ荷車の重さしかない。
「緑水街の海産物と、町の畑では小麦を生産しています。森の近くは伐採所と家具などを作る木工所があり、小さな集落になっています」
「ああ、アウセルポートでみた木彫りの熊だな」
ルルカはこちらを振り向くと、ぱっと明るくなる。
「知っているんですね。可愛いですよね、木彫り熊」
「……あ、ああ」
ここにもいたか。木彫り熊の愛好家。
しかしながら、ほころんだ顔は普段の冷たい表情とギャップがあってドキッとするものがある。
「でも。本物の熊は危険ですからね、可愛いーとか思って近づくと、食べられますから」
「そうだろうね」
当たり前だろ。まあそもそも熊が可愛いとは思えないから近づかない。
木彫りのリアルじゃない方も、なかなか迫力があって、俺的には怖いと思うが。
「もしかして、木彫り熊を集めてます?」
「いや、俺は買ってさえいないよ」
「そうなんですか……」
「でも、妹のマトビアが買ってたな」
「えっ……皇女様が……!」
毎回思うが、なんでマトビアだけ様がつくんだ。やっぱり、俺には高貴オーラが無いんだろうか。
まあ公式には第一皇子は罪人だし、第一印象以前の問題だからしょうがないよな……。
「ところで、あの煙突のある建屋はなんだ?」
切り開かれた森の奥に伐採所があり、その横にはレンガ造りの建屋がある。
他の建物と違って、木の高さほどある大きな煙突が突き出ていて目立っていた。
「あの建物は、マリア様が利用されていた鋳造所っていう建物らしいわよ。昔、あそこで金属の部品を作っていたらしいですけど、いまはもう全然」
「……あの鋳造所使っていいかな」
「いいんじゃないですか、でも蛇とか出るんで、咬まれても私のせいにはしないでくださいね」
「もちろん。助かるよ」
飛行船の動力部分は動かしていないので、もし部品がなければ一から鋳造しないといけない。
そのときに設備があるのとないのとでは雲泥の差がある。
伐採所では十人ぐらいの男たちが、木材を集めていた。
重労働でみな体が大きく、汗をかいている。
「水と食材をもってきました」
「おお、助かります」
ルルカの言葉で伐採所の男が誰かを呼んだ。管理人なのか、太めのおばさんが奥の家から出てきた。
その後ろを町で見かけた小さい女の子がついてくる。
「あっ、ルルカお姉ちゃん! 今日はすごく早いね!」
「まあ、後ろの人に手伝ってもらったからね」
「やあ、しばらくここにお世話になるよ」
女の子は興味津々のようで、じっと俺を見る。
「なんか、偉い人みたい。お手伝いできるなら、ずっと住んでもらったらいいんじゃない?」
おお! やっぱり子供にはわかるんだな。俺の高潔さが。
「だめよ。この人は罪人……いえ、旅人だから」
おい!
もう罪人って言い切ってるよ。言い換える前に、全部言ったらだめだろ。
「そっかあ、いたらルルカお姉ちゃんも助かるのに」
話すだけ話して、女の子はどこかに行ってしまった。
しかし俺のことを本気で罪人だと思っているのか……。詳しく知らない人はそう思ってしまうんだろうな……。どこかで訂正しなければ。
「ところで、毎日こうやって物資を運んでいるのか?」
「ええ、ほとんどね。嵐とかがこなければ」
「偉いな」
「べつに。昔からお世話になっている人たちだから」
ぐるりと伐採所を見回すと、井戸の吊り紐にどこかでみた金属製の機械が吊るされていた。
機械から滑り台がついていて、木製のプールに水が流れる仕組みになっているようだ。いまは土が詰まっていて、機械も止まって、プールには蓋がされているが……。
「あれは、なぜ使わないんだ?」
「ああ……あれは、三年ぐらい前から壊れてて使えないの。井戸水はまだあるとは思うんだけど、とても深いし、貯水槽にくみ上げるより別のところからもってきたほうが早いからね」
ちょうどいい基盤整備の仕事が見つかった。鋳造所の稼働も一緒にやってやるか。
「まあ、直せるか分からないが、勝手にいじってもいいか?」
「どうぞ、ご自由に」
俺はさっそく鋳造所に向かう。その横を忙しそうなルルカが、荷車を引いていった。
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